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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
純白の花嫁編
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小話5.魔王の忘憂

20時、二回目の更新です。


★奥様に内緒で激闘してました

 カナエに攻撃方法を学ばせる、という名目で、俺は精霊の王と対峙していた。カナエは心配そうに見守っているが……、すまないな。ここのところの鬱憤を晴らさせてもらうとしよう。久しぶりに加減をせずに戦えるとなれば、自然と気分が高揚した。隷属の契約をしている精霊は、契約主の命がある限り消えはしないからな。


「じゃあ、よろしくお願いします。───!」


 精霊の王の名を、カナエの唇が象った。その声を受けて、精霊の王が微笑む。本来ならば、隷属の契約なのだから呼ばれずとも力を行使できるだろうに。


「ええ、任せて愛されし子。いくわよ、悪魔の王」


『どうせ、加減などしないのでしょうけれど』


 直接、精霊の王が脳内に語りかけてきた。全くもってその通りだ。俺は口元を吊り上げて応える。


「望むところだ、精霊の王」


『ただの憂さ晴らしに、まかり間違っても死んでくれるなよ』


 魔力を解放させて、お互いに牽制しあう。カナエの目では追えない程度の速さで、俺の剣と精霊の王の手刀がぶつかった。本気ではなかろうが、速さはこの程度か。ニンゲン相手ならば問題ないが、悪魔相手であれば防がれる速さだ。肉弾戦には不向きだな。

 地面を蹴って、カナエに見える程度の速さで剣を振る。速さの代わりに力を込めた一太刀を、精霊の王は宙へ浮いて避けた。逃げる精霊の王へ、即座に追撃する。もう一度、速さのみの斬撃を仕掛けると、精霊の王は剣が交じり生み出した火花を利用して雷撃の玉を浮かばせた。これは囮か。


 俺は雷撃の玉を大地の魔法で覆って、体勢を整える。俺の背後に回った精霊の王へ向かいなおして、同じように魔法を纏わせた双剣を薙いだ。弾けぬように魔法で覆った玉を切り裂いて、その勢いのままに精霊の王を蹴り飛ばす。

 後ろに逃げたようだ、手応えは薄かった。風の魔法で二度、三度と追撃して精霊の王を遠ざける。精霊の王は衝撃を吸収しながら、次の攻撃へと移った。俺は軽く双剣を握りなおして、剣に注ぐ魔法を変える。


『まさしく悪魔の王ね。あなたに比べると、わたしの知っている人は赤子のようだわ』


『ニンゲンなどと比べるな。気分が悪い』


『あら、ごめんなさい』


 精霊の王は魔王を皮肉るように、風と聖を混合させた竜巻を起こした。その隙間から、精霊の王の容赦ない剣戟の雨が降る。その場から動かず双剣で受け流しながら、俺は剣に風と闇を纏わせた。

 突風を強引に両断すれば、精霊の王が呆れたように肩を竦める。まあ、風属性の魔法にもっと大きな風をぶつけただけだからな。


「ひえぇ……」


 いささか強引が過ぎただろうか。カナエが体を震わせてこちらを見ていた。後でそれらしく説明せねばな。


『余裕ぶっていていいのかしら?』


 精霊の王は、俺の脳内で笑いながら毒の魔法で俺を拘束する。隙ありとばかりに飛び込んできた精霊の王を、片足で受け止めた。膝下に風の魔法を纏わせて、もう片方の足で精霊の王を蹴り飛ばした。


『足癖が悪いのね』


『貴様は節操がないな』


 一度体内に毒を取り込んでから、対称の毒を生み出して相殺する。鬱陶しい拘束を引きちぎって、俺は双剣を構えなおした。即座に魔法を絡めた剣戟を浴びせる。

 精霊の王は、俺が繰り出す剣圧の嵐から逃げながら、炎の魔法を呼び出した。燃え上がる火の柱が、俺を取り囲む。見た目は派手だが、全く捻りのない魔法だ。


『子供騙しか』


『愛されし子には分かりやすいでしょう?』


 確かに、いきなり複数の属性を持つ魔法を説明するわけにもいかないな。そう考えながら、俺は火柱を飲み込む大きさで水の渦を起こす。これ以上続けても仕方あるまい。激情のままに精霊の王を真っ二つにすれば、カナエが驚いてしまうだろう。


 俺は水流を利用して精霊の王の背後に飛び出ると、先程よりも数段上の速さと力を乗せた、そこそこ加減のない一撃を叩き込んだ。防ぎきれずにまともに喰らった精霊の王は、顔を歪めて地面に落ちる。即座に追って、その首元に切っ先を向けた。


『これが、本気、ってことね……』


『さてな』


 とぼけた俺に、精霊の王は呆れたように息を吐く。それから、平静を装って精霊の王は口を開いた。


「……属性魔法でわたしを抑え込むなんて、悪魔の王は規格外ね」


「加減をしておいて、よくも言う」


「お互いさまでしょう」


 見えたものだけでも充分に困惑させているようだ。カナエが首を傾げながら手元のメモ帳を見ている。ペンが動く様子はなかった。どうやらメモ帳には何も書き込めなかったらしい。

 剣を収めた俺と、ダメージを押し隠した精霊の王の下にカナエが駆け寄ってきた。王の意地といったところか。


「二人とも、大丈夫?」


「ああ、問題ない」


「平気よ、愛されし子」


 心配するカナエを普段のように抱き上げて、俺は口元を緩めた。精霊の王は、俺の腕の中のカナエに名を呼ぶよう催促する。カナエが精霊の王の名を口にすると、精霊の王は嬉しそうに笑んだ。

 ふと、カナエが俺を見上げてくる。カナエは、少し不満そうに頬を膨らませていた。そんな表情も愛らしい。


「ジル、強すぎ。参考にしようにも、ジルがすごい強いってことぐらいしか分からなかったよ」


「そうね。今のわたしと悪魔の王の戦いで分かることは、力で押し切れば勝てる、ってことよ」


 だろうな。お互いに然程本気ではなかったとはいえ、わざわざ相殺させずとも押し切れたところは多い。ちくりと精霊の王に指摘されて、俺は視線を逸らした。カナエに知れぬように戦っていたこともあってか、ばつが悪い。カナエに頬を摘ままれて、俺はその指先を軽く食んだ。


「ふふふ、悪魔の王によく教えてもらうといいわ。またね、愛されし子」


 うるさい、余計なことを言うな。そう睨みつけた俺に、精霊の王はしてやったりと笑むと、ひらりと宙へ舞った。精霊の道へと消える精霊の王を確認して、俺は腕の中のカナエに視線を戻す。


 精霊王への鬱憤をぶつけたからか、幾分か気は晴れた。あとは、愛しい后に先程の魔法をじっくり教えてやらねばな。


 俺は、自分でも苦笑するほどに軽い足取りで、寝室へと向かうのだった。

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