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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
純白の花嫁編
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71.領主の苦悩

【ダイスケ】


 精霊の道から戻ってきたのは、ノエとトゥオモ、それにジラルダークだった。憔悴していたものの、トゥオモにもジラルダークにも目立った外傷はない。……だが。


「エミリが、エミリが……!」


 泣き崩れるノエに、ミスカが寄り添う。大広間には、トパッティオ、リータ、アロイジア、ノエにミスカ、それと意識を失ったままのジラルダークとトゥオモがいる。二人は寝かせているが、意識が戻り次第こちらとすり合わせもしたいからな。

 夏苗ちゃんは別室で、ベーゼアをつけてある。暫くは寝かせるよう言ってあるから、あっちは大丈夫だろう。


「精霊王の蘇りに、エミリが依り代として体を差し出したのか」


「魔王様の魔力を食べて生き返るって、あいつが……」

「精霊王の生き返りに、魔王様が死んじゃうから……」


 いつ精霊王が復活するか分からない今、エミリエンヌが取った手段は最善だろう。オレたちは、魔王を失うわけにはいかない。まず真っ先に取るべきは、ジラルダークの安全の確保だ。

 ノエの話では、その上位精霊とやらは話し合いに応じる風でもなさそうだ。何より、ニンゲンに対してブチ切れてる。精霊王を転生させて初めて、交渉なり話し合いなりが成立する雰囲気だ。


「アーロ、一番精霊の減少が激しいのはフェンチスだったか?」


「はい。やはり、フェンチス帝国で間違いありませんね」


「トゥオモの見た研究以上のものは見つかったか?」


「いえ、……ただ一つ、周辺の状況が動きました」


 何だ、と聞けば、アロイジアは険しい表情のまま続けた。


「先日落城したアサギナの、王家に連なる者は軒並み処刑されたとの話です。唯一、嫡子の生死は確認できませんでした」


「アサギナの王家が……」


「このタイミングで、ですか」


 落城だけでなく、王家も皆殺しにされたか。確かに、タイミングが良すぎる。というか、そこが今回の精霊のごたごたと関わってそうだな。


「アサギナも、フェンチス帝国ほどとは言いませんが獣人由来の戦力を持っていたはずです。先日、いきなりアサギナの城が落ちたのは、精霊王が関わっているかもしれませんね」


 トパッティオの言葉に、オレも頷く。池に落とされたあの日、ジラルダークは落城したアサギナ周辺の情報を集めるよう指示していたが、まさかここで繋がるとはな。

 不意に感じた違和感にちらりと視線を向けて、オレは溜め息を吐いた。ものすごい殺気だ。


「……状況を説明しろ、ダイスケ」


 地を這うような声ってこれのことだよなぁ、と他人ごとのように思う。


「へいへい、仰せの通りに、魔王陛下」


 結婚式を邪魔されたことか、夏苗ちゃんを危険にさらしたことか、精霊にしてやられたことか、今の今まで寝こけてたことか。その全部にいら立ってそうなジラルダークに、オレは現状を説明した。

 もちろん、夏苗ちゃんの無事を真っ先に伝えるのは忘れない。ただ、あまりもたついてる場合でもない。


「お前の代わりに、今、エミリが掴まってる。精霊の口ぶり的に、精霊王は転生するようだが、その時期が分からねぇ」


「……ノエ、ミスカ。エミリは何か口にしていたか?」


「精霊の道に入る前に、緑色の何かを飲んでました」

「入ってからは、何も……」


「自動修復薬か、それも長くはもつまい」


 その言葉に、ジラルダークは眉を寄せた。自動修復薬、ねぇ。あいつ、フェンデルたちの研究を隠れ蓑にしてとんでもないモノ作りやがるからな。


「トゥオモ」


「はっ」


 ジラルダークの呼びかけに、いつの間にか目覚めてたトゥオモが魔王様の足元で跪いている。いいね、時代劇フリークとしては羨ましい部下だ。風車的なものを感じるぜ。


「眷属はいくつ置いてきた」


「十と少し程でございます」


「エミリエンヌに半数を割け」


「かしこまりました」


「乗り込むにしろ、精霊王の動向を把握せねばなるまい。上位精霊に気取られぬよう、張り付かせろ」


「仰せのままに」


 ジラルダークの言葉にトゥオモが答えていく。ジラルダークが直々に選んだ十二魔神の中でも、エミリエンヌがジラルダークの左腕、トゥオモがジラルダークの右腕ってところか。


「…………」


 ジラルダークは珍しく、一瞬、口を開いて何かを言い淀んだ。有事の際にもさくさくと指示を飛ばすこいつにしては珍しい。


「すまない、カナエの件、暫くはお前たちに任せる」


「……いいのか?」


「精霊王の所在を探る。捕らわれているようであれば、転生前に解放してエミリエンヌを取り戻す」


「お断りだわ」


 ぴしゃり、と襖を開けたのは、これもまた珍しく本気で怒っているボータレイだった。ボータレイはエミリエンヌを見届けた後、カルロッタの軍の編成を手伝わせていたんだが、戻ってきていたらしい。

 恐らくは、夏苗ちゃんの様子を見に来たのだろう。ベーゼアを付けているとはいえ、不測の事態もあり得る。


「アンタを救うために、エミリは身を捧げたのよ。またアンタが掴まったらどうするの。精霊王の力はどれだけのものか分からないのよ。アンタの代わりはいないの」


「…………」


「アサギナとフェンチスの件は、私とノエ、ミスカで引き受けるわ。今までのようにアンタが矢面に立って、国ごと危険に晒す必要はもう無いのよ」


 ボータレイの言うことにも一理ある。確かに、この国で一番力があるのはジラルダークだ。だが、かといっていつまでもジラルダークが矢面に立っているようじゃ、こっちが安心できない。国としても、危険極まりない。


「ダークの気持ちは分かるわ。なまじ力がある分、どうにかできてしまっていたところもあるもの。けれど、この国の要はアンタなの」


「ニンゲンの国と、ここは違う」


 絞り出すようなジラルダークの声に、ボータレイはそっと瞼を伏せた。そのまま、ボータレイはジラルダークの足元に跪く。


「ご命令を、陛下」


「…………」


「ご命令を」


 賭け、か。ジラルダークには、悪魔を、オレたちをひっくるめて守るだけの力がある。だから今まではこいつが矢面に立つことを止めはしなかった。抑えつけてしまえば、ジラルダークの精神が持たないと、そう判断したからだ。

 だが、今ならば。一つ、ジラルダークの中に確かな支えができた、今ならば、あるいは。


「ボータレイ、ノエ、ミスカ。精霊王を……探れ」


「……かしこまりました」


 ぎり、とジラルダークが握り締めた拳の音がオレのところまで聞こえてきた。そりゃ、つらいだろう。これまでは避けてきた、死にに行け、という命令を下さなければならなくなるんだ。この世界では、そんな国にしたくない、そんな王でありたくない、って気張ってきたんだもんな。


 ったく、しょうがねぇな。


「ダーク、ここの指揮は任せるぞ。オレじゃあ連絡がしづらくて敵わねぇ」


「……ああ、すまなかったな、ダイスケ」


「いらねぇよ。何年お前のダチやってると思ってんだ」


 軽くジラルダークの胸を叩いて、オレは大広間を出る。直前にリータに目配せして、ついてこいと指示をした。


「領主殿、陛下は……」


 あ、しまった。すっかりいつもの侍スタイルにするの忘れてたぜ。恰好は紋付袴のまんまだったんだけどな。


「暫くはブルリア領主殿に任せるでござるよ。こちらはこちらでできるお節介をするでござる」


「……その口調、まだ続けておられたのか」


 きりっとした目元に睨まれて、オレは口元を吊り上げる。


「キャラは大事にせねばならぬでござるよ」


 そうそう。オレのキャラはふざけたジャパン領のふざけた領主。そんでもって、好奇心旺盛な、日本の男子高校生って奴だ。


 ふんふんと鼻歌を歌いながら廊下を歩くオレに、半歩後ろのリータは溜め息をついたようだった。

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