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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
純白の花嫁編
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68.婚礼の儀式

 化粧とドレスが崩れるからお触り禁止!と魔王様に告げて、私は控室で魔神さんたちと雑談していた。ジラルダークは少し不服そうではあったけれど、今は威厳たっぷりに腕を組んで私の隣に座っている。

 ジラルダークが明るい色の服装着るのって見たことなかったけど、シルバーグレーも意外と似合うなぁ。肌の色が濃いから、黒とか白とか振り切ってる色合いが似合うのかな。逆にパステル系はあんまり合わなそうだわ。パステルピンクよりショッキングピンクの方が似合いそうだわ、魔王様。


「そろそろお式が始まりますので、参列者の方はこちらへご移動願います」


 侍女さんが呼びに来て、魔神さんたちは名残惜しそうに部屋を後にした。もうそんな時間かぁ。

 魔神さんたちがいなくなったからか、手を出してこようとするジラルダークをかわしつつじゃれ合っていたら、今度は魔王様が新郎として呼ばれていった。ぽつん、と控室に残される。


 朝から今までバタバタしてたから意識してなかったけど、改めて一人になるとこう……、じわじわと緊張してきた。一応、一通りの流れは教わったけれど、ちゃんとできるかな……。


「なんだい、カナ。そんなに緊張しちゃって」


 くすくすと笑いながら掛けられた声に、私は驚いて振り向く。そこには、あの日と同じように、小麦色の肌のお姉さんが立っていた。


「サリュー!来てくれたの?!」


 勢いよく飛びついた私を、あの日と違ってサリューは笑顔で受け止めてくれる。


「当たり前じゃないか。ああ、すごくきれいだね、カナ。よく似合ってるよ」


 サリューはやわらかく微笑んで、私を一度抱きしめた。それから、ゆっくりと解放してくれる。


「君の世界の式だと、バージンロードを身内が付き添うんだろう?カナは、私にとって妹みたいなものだからね。私が付き添わせてもらうよ」


「サリューが一緒に歩いてくれるんだ、嬉しい」


 そういえばそうだった。バージンロードって、普通お父さんと歩くもんだよね。てっきり一人で歩くもんだと思ってたわ。


「さあ行こう、カナ。みんな、礼拝堂の方で待ってるよ」


「うん!」


 サリューに手を引かれて、私たちは教会の方へ向かう。しっかし、ドレスって歩きにくいなぁ。一歩一歩、スカートの前部分を蹴るように歩かないと、いつかつんのめって転んでしまいそうだ。

 控室から出ると、侍女さんが待っていた。失礼いたします、式場までお送りいたしますね、と手をかざされる。え、と思った瞬間、目の前には重厚な扉があった。


「て、テレポートか……」


「領主殿の館からは少し離れてるからね」


 びっくりしたぁ。そうか、侍女さんでも魔法使える人がいるのか。着物着てたから、すっかり魔法使いって意識がなかったよ。

 扉が開いたら本番だ。ジラルダークは先に聖壇前で待っている、はず。私も、結婚式は友人のに一回参列しただけだから、どっきどきだ。


「お時間でございます」


「行こうか、カナ。陛下の元までお送りするよ」


「うん、よろしくお願いね、サリュー」


 扉が開かれて、私たちは礼拝堂の中に入る。教わった通りに入り口付近でサリューに向かい合うと、少し膝を曲げてベールを下してもらった。これ、友達の結婚式の時には無かったなぁ。大介くんの知ってる流れとちょっと違うのかもしれない。世代も違うしねぇ、としみじみ思った。


 ベールを通して、そっと会場を窺う。白いバージンロードの先、ジラルダークがこっちを見ていた。穴が開きそうなくらい、こっちを見てる。恥ずかしくなって、私は俯いた。一歩ずつ進むサリューに導かれるまま、私も真っ白な道を歩く。流れるパイプオルガンの音が、澄んだ空気に厳かに響いていた。

 あ、アマドさんたちも来てくれたんだ。それと、魔神さんたちと、領主さんたち、それと、この前挨拶したちょい悪親父のカルロッタさんの隣にいるイケメンと中華娘は誰だろう?


 俯きつつも、起立している参列者を横目で観察していたら、いつの間にか、サリューが足を止めていた。

 視界に、シルバーグレーのズボンが見える。そっと、目線を持ち上げると、随分近くにジラルダークがいた。こう、魔王様ルックしてないと、本当に目の毒だわ、ジラルダーク。イケメンすぎる。

 手を差し伸べてきたジラルダークに、サリューが私の手を渡した。恭しく包むように受け取って、今度はジラルダークにエスコートされる。

 

 どうしてこう、仕草一つ一つが絵になるんだろうか、この魔王様は。魔王様でしょうよ、ラスボスでしょうよ。何で、乙女ゲーの一枚絵みたいなことになってるんですか。


 祭壇の前で、私たちは歩みを止めた。牧師様は、眼鏡の奥でにっこりと微笑んでくれる。牧師様の声で、みんなが讃美歌を歌う。って、ジラルダークも歌えるの?私は何となく知ってたけど……覚えてくれたのかな。嬉しいな。

 歌い終わると、牧師様が新約聖書の一説を教えてくれる。ほうほう、と聞いていると、牧師様は少し悪戯に微笑んだ。


「この世界はとても特殊です。私はよく、結婚式はゴールではないと皆さんにお話をして参りました。特に、この世界では私たちの人生は永いものです」


 こくり、と頷くと、牧師様はやわらかく目を細める。


「結婚は、どちらかが天に召されるまで……、この世界では殆ど永遠に続きます。愛は決して絶えることはありませんと先程お話を致しましたが、それはお二人で、永い時を紡いでいくものです」


 お二人の結婚生活が祝福されますように、と牧師様が言う。私は、何とも言えないむず痒いような、幸せなような、泣きたい気持ちになって俯いた。


 それから、定番のあのセリフが続く。汝、健やかなる時も病める時も、ってあれだ。ジラルダークは、ああ誓おう、と力強く答えた。真剣に答えるジラルダークがちょっとおかしくて、私はもう、泣きたいのか笑いたいのかよく分からなくなっていた。

 私も、はい誓いますとジラルダークと同じように頷いて、自分の声が震えていることに気付いた。お、落ち着け、私。


 促されるまま指輪の交換をして、ああ、そうだ、この次はお約束その2の誓いのキスだ。ジラルダークが、私の顔にかかっていたベールを上げて、少し驚いたように目を瞬かせる。きっとそれは、正面で見ていた私にしか分からない表情だった。


 誓いのキスを、との牧師様の声に、ジラルダークが体を屈める。


「今日は泣かせてばかりだな」


 とても小さな声でジラルダークが囁いて、そのまま唇が重なった。普段はあまりされない重ねるだけのキスをして、ジラルダークが離れていく。

 私だって分からん。今日は何でこんなに泣き虫なんだ、私。目を擦ることもできないから、今度はひたすら涙を我慢する。のに、一粒、二粒と頬を流れる感触がした。


「今、この両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり。神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事能わず」


 牧師様が宣言されて、結婚証書へジラルダークと私、それにサリューが署名する。しかし、署名してる間も、涙腺崩壊だ。どうしようこれ。は、ハンカチを……と思ったら、隣の魔王様が胸元のハンケチーフをさっと取って私の目元に当ててくれる。そのままジラルダークを見上げると、そっと目元にキスをされた。ってオイこら、まだ式中ですよ魔王様。目尻に溜まった涙を舐めとられて私はびくんと体を震わせる。


 こ、こんなところで何すんの魔王様ーっ!は、は、恥ずかしいぃ!


 コホン、と咳払いした牧師様が、閉式を告げた。私は恥ずかしくて下を向いたままジラルダークに腕を絡めて、バージンロードを退場する。式場を出ると、すぐさま魔王様に横抱きに持ち上げられた。


「ひゃっ?!」


「少々休憩して、今度は領を回る。……というか、これ以上お前を皆の目に留めたくない」


「ちょちょっ……」


「お待ちおバカ魔王。化粧直ししなきゃでしょ、カナエちゃん」


 どこかに連れ去ろうとしてた魔王様を、魔法で追ってきたのだろう、ボータレイさんが止める。


「ムードも何もありゃしないんだから。領地は馬車で回るとはいえ、花嫁は綺麗でなきゃね」


「お、お手数おかけします」


「いいのよ。結婚式なんだもの。色々と胸に来るものがあったでしょう?」


「はい……」


 雰囲気に飲まれたってこういう感じなんだろうか。ていうか、あれよ。朝泣かされたから、今日は涙腺が緩いんだ、うん。


「ほら、カナエちゃんを渡しなさいな」


「断る。化粧を直すだけならば、俺がいても問題ないだろう」


「全く……」


 呆れたように溜め息をつくボータレイさんに、私は苦笑いを浮かべる。何というか、私を抱くジラルダークの腕が、いつも以上に頑なだ。


「構いませんよ、レイさん。あの、レイさんが大丈夫だったら、ですけど……」


「カナエちゃんたら、甘いんだから。じゃあ、館の控室に飛んで頂戴、陛下」


 ボータレイさんの指示に、ジラルダークは私を抱えたまま瞬間移動する。ジラルダークの首に抱き着いて彼の顔を見ると、心配そうに顔を覗き込まれた。


 ああ、そうか。そうだよねぇ。私、こっちに来てから泣いたことなかったもんね。朝、驚いて泣いちゃったときも焦ってたし、さっき泣いちゃったのも焦らせちゃったんだね。どっちも悲しくて泣いてたわけじゃないから、そんなに心配することないのに。

 くすくすと笑ってジラルダークの頭を撫でると、魔王様は不思議そうに首を傾げた。


「大丈夫だよ、悲しくて泣いたわけじゃないの。感動しちゃってね」


「そうか」


 あからさまにホッとしたジラルダークに、私はおかしくなって笑ってしまう。笑いながらジラルダークの頬っぺたに軽くキスをした。


「ありがと、ジル」


「カナエ……」


「はいはい、化粧直すからって、ディープキスは駄目よダーク」


 ばしっとジラルダークの背中を叩いて、ボータレイさんが部屋の中へ現れた。睨む魔王様に、カナエちゃんはこっちに下して頂戴、とボータレイさんは素知らぬ顔で言う。ジラルダークは言われるまま鏡の前に私を座らせて、すぐそばの椅子に腰を下ろした。


 座って正面の鏡を覗き込むのと同時に、ジラルダークが私の手を取る。ぎゅっと握って、特にそれ以上何もされなかった。……手、繋いでたいってことですか。何ですかこの可愛い生き物は。

 ゴチソウサマ、と呆れたボータレイさんの声が頭上から降ってきて、私は振りほどくこともできずにただただ赤面するのだった。

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