小話4.魔王の深意
20時、二回目の投稿です。
★俺の嫁が可愛すぎて生きるのがつらい件について
【ジラルダーク】
何度も何度もその肢体を味わって、俺の痕を刻んで、果てて果てさせて、気付けば夜もだいぶ深い時間になっていた。先程まで俺の下で可愛らしい悲鳴を上げていたカナエは、くったりと俺の体にもたれて荒い呼吸を繰り返している。
明日は式があるというのに、求めすぎてしまった自覚はある。いやしかし、カナエが愛らしすぎて、止まるものも止まらなかったのだ。
桜色の唇でか細く俺の名を呼んで、急かされてもみろ。止まるなど無理だ。無理に決まっている。むしろ、何故止まらねばならない。
「ん……、じぅ……」
呼吸が落ち着いてきたのか、カナエが俺の腕を枕にしたままこちらへ身を寄せてきた。数えきれないほど口付けを交わして、そのやわらかで甘い舌を弄んだからか、上手く発音できないようだ。ぼんやりと視線を動かして、カナエが俺を見上げてくる。
熱の引かないその視線に、弱い。まだ、もっと、と求めたくなる。ふわふわと揺れる唇に嚙みついて、強引に喰らいたくなってしまう。求めればきっと、カナエは応えてくれる。
……だが、さすがに、これ以上はまずい。いくら魔法で回復させるとはいえ、一瞬でもつらい思いをさせたくはないのだ。俺は、この腕の中の愛しい存在を、物のように扱いたいわけではない。壊れなければいいというものでもないからな。壊すような一切の行動を、したくはない。
散り散りになっていた理性を必死に掻き集めて、俺はカナエの髪を撫でた。眠りを誘うように、ゆるやかにやわらかく、彼女のしなやかな髪を指先で撫でる。俺が髪を撫ぜれば、それはもう寝てもいいのだ、とカナエは判断しているようだった。
「…………、……」
小さな、本当に小さな声で、カナエがおやすみ、と言う。こんな状態にさせられても、それでも彼女は俺に告げてくれる。それが、どれほどに嬉しいか。
「ああ、おやすみ」
囁くように答えて、俺はカナエに睡眠の魔法をかける。すぐに安らかな呼吸音が聞こえてきて、俺はなるべく振動を与えないように体を起こした。見下ろしたカナエの体は、汗やら何やらでどろどろに汚れている。俺は浄化の魔法をかけて、お互いの体を清めた。
目にかすめるのは、カナエの白い肌に散った赤い痕跡。俺の刻んだ、無数の痕だ。普段であれば、これは残したままカナエに回復の魔法を軽くかけている。軽く、というのも俺の我儘だ。何もなかったことにしたくない。少しでも、俺をカナエの中に残しておきたい。カナエを壊したくないと思いながら、それでも、すべて消し去りたくない、ただの我儘な独占欲だ。
全回復の魔法を、俺はカナエにかける。肌の痕も、情事の後の気だるさも、すべて消えてしまう。この魔法を条件に、カナエは俺の暴挙を許したのだ。中途半端にかけることなどできなかった。これで、今宵の痕跡は何も残らない。付けたばかりの痕も、綺麗に消えた。
少しばかりの寂しさを飲み下して、俺は再び身を横たえる。カナエの体を深く抱きしめて、腹の奥に残るもやもやとした感情に蓋をした。これ以上考えぬよう、自身にも睡眠の魔法をかける。すとんと落ちる意識に身を委ねて、俺も眠りについた。
まさか、翌朝に最大級の誘惑されるなど、考えもせずに。




