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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
純白の花嫁編
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63.日本人の回想2

【ダイスケ】


 ボータレイに保護されて、数日。オレはあの日追いかけてきたこの世界の住人の姿を思い出しつつ、この世界の住人と同じような服を作っていた。ボータレイが元々服飾系の仕事についていたお陰で、少ないながらも材料はあった。見た目に関しては、かなり再現度の高いものが出来た……と思う。


「うん、こんな感じだった」


 一瞬でもオレの目に映れば、後で何度でも思い出すことが出来る。今まで、散々振り回されてきた能力が、こんなところで役に立つなんてな。


「記憶力いいのねェ」


「まあな」


 見た物を忘れられないだけだ。いいことも、悪いことも、くだらないことも、全部。この世界の住人と同じような服に着替えて、オレは肩をすくめた。


 ボータレイがねぐらにしているここは、この世界の住人に見つからないような森の中にある。コイツが使う魔法は、木を切り出して簡易的な小屋を作ったり、食料となるトウモロコシやら山菜やらを育てたり、オレの思い描いていた魔法とは違う次元にあるものだった。試しに呪文も教えてもらったけど、やっぱりオレに魔法は使えなかった。


「なぁ、ボータレイはテレポートみたいな空間移動系の魔法って使えるのか?」


「ええ、実在する場所ならね」


「元の世界へは?」


「何度か試してみたけれど、ダメだったわ。自宅だけじゃなくて、職場や行きつけのお店も指定してみたのだけれど、ね」


 ってことは、現状だとやっぱりこの世界で生きてくしかねぇってことか。何を条件にしてこの世界に飛んだのかは、オレとボータレイの経験だけじゃ何とも言えない。もし、この世界に他にも飛ばされてるヤツがいるのならば、早めに合流したいところだな。


「移動先に、人物って指定できるのか?」


「人を?例えば、どんな人かしら」


「この世界にいるかもしれない、オレらと同じようなトリッパーのところ、とかな」


「曖昧ね……」


 魔法に関しては、オレは空想のものしか知らない。無茶苦茶だろうが、やれそうなことを繰り返して少しでも現状を改善するしかないだろう。


「飛ぶ指定先が曖昧だとどうなるんだ?」


「下手すれば、存在ごと消えるわ」


 ああ、いしのなかにいる、ってやつか。こっちの残機は常にゼロだ。命を脅かさない範囲でやらなきゃな。……となると。


「なあ、ちょっとこれに文字書いてみてくれ。こんにちは、とか」


「いいわよ」


 突拍子も無いオレの提案にも、ボータレイは面倒がることもなく応じてくれる。オレのほうがだいぶ年下だと思うんだが、意見はきちんと受け取ってくれるやつだ。見た目はアレだけど、いいやつだよな。


「はい、どうぞ」


 差し出された生徒手帳には、綺麗な文字で「こんにちは」と書かれていた。よし。


「言葉だったら、文字にしても全部翻訳されるらしいな。オレの世界の文字で見える」


「あら、そうなの?」


 首を傾げるボータレイに、今度はオレが手帳に「こんにちは、コンニチハ、今日は」と書いてみる。オレの目にはどちらも日本語に映ってるが、恐らくボータレイにはボータレイの世界の言葉が見えるだろう。


「この三つのこんにちは、全部違う文字で書いてるんだ」


「アタシには、同じ“こんにちは”が三回書かれただけに見えるわ」


「なら、オレの推測は正しそうだな」


 日本語でよかった。まさか、こんな使い方をするとは思わなかったけどさ。


 となると、まずは文字を使いつつ仲間集めをした方がよさそうだな。もしかしたら、オレたち以上に状況を把握しているヤツらがいるかもしれないし。それに、ボータレイと同じように魔法が使えるヤツもいるかもしれない。

 この世界の原住民がオレたちを殺そうとして動いてくる原因は分からないけど、顔を見せたら殺される、という認識の下動いたほうがいい。服装をこっちの世界のものに似せたのは気休めだ。万が一見つかって、格好で悪魔かどうか判断されてるならば生き延びられる確率が上がる、ってくらいのもんだ。


 あー……、もうちっと真面目に学校の授業受けときゃよかった。そうすりゃ、こんなラノベの常套手段とゲームのシナリオ展開を思考のベースにして自分の命を張る、なんて博打しなくて済んだかもしれないのにな。


「飛ぶ先が曖昧な状態で生身のまま飛ぶのが危険なら、これを送ってほしい」


「手紙ね」


 手紙っつっても、生徒手帳のメモ欄をちぎった紙に、今の状況を簡素に書いただけのものだ。トリップした異世界人だ、こっちは仲間が一人、原住民は命を狙ってくる、生き延びるために協力したい、こっちの居場所が分かるか?ってくらいだ。これ以上は、紙の都合上書けない。そもそも、そんなに大きな紙でもないからな。


「ああ。もし、送った先にも魔法使えるヤツがいるなら飛んでくるかもしれない。確率は高くないけど、まぁ、今のところ他の手段が思いつきそうに無いからな。思いついたモン全部やってやる」


 諦め半分で言うと、ボータレイは楽しそうに笑い声を上げた。オレの書いた手紙を受け取って、それに唇の先を触らせる。


「いいわよ。とことん付き合うわ」


 瞬間、一枚の紙がボータレイの指の先で膨張した。……じゃねぇ、枚数増やしたんだ。いいな、魔法で紙ごとコピーもできんのか。物理法則完全無視だな。つうか、その理論があったオレの世界じゃ魔法なんざなかったんだから、そりゃそうか。


「便利だな」


「コピー元があれば、大体は複製できるのよ。こんなところでも役に立つなら、魔法を使えてよかったと思えるわ」


 地球じゃ、魔法使いなんていなかったからな。使えるだけでもスゲェって思っちまうが、魔法が当たり前のようにある世界では違うらしい。まあ、何があったかなんざ、突っ込んで聞こうとは思わないが。


「魔力を持ってる人は大体の位置が分かるのだけれどねぇ」


「この世界だとどうだ?」


「多分、ってくらいかしら。魔力の質自体がアタシの世界と違うかもしれないから、断言は出来ないけれどね」


「それでもいい。魔法が使えるヤツは、多いほうがいいしな。恐らくだけど、この世界の奴らは魔法が使えないはずだ」


「そうね。アイツら、アタシが逃げるときも別に攻撃魔法打ってくるわけでもなかったし、移動魔法も使えないみたいだったわ」


 そうなんだよな。追いかけてくる割に、攻撃は石投げか弓だった。魔法どころか、銃もないようだ。銃に関しては、日本と同じで民間人が携帯できないだけってのもある。可能性としてもう一つありそうなのは、魔法使いが希少な世界だってくらいか。となると、ボータレイに紙をばら撒いてもらうと、この世界の魔法使いが敵意もってお出ましの可能性もあるわけだ。


「なあ、攻撃魔法って使えんの?」


「アタシ?……そうね。使えるけれど、本職には負けるわ」


「そっか……」


 本職ってのがどんだけ強いのかってのは、正直言って分からねぇ。つうか、魔法での攻撃ってファイアボールとかウインドカッターとかそういう認識でいいんだよな?

 疑問に思ってボータレイに尋ねると、攻撃魔法はオレが日本でゲームやら漫画やらから仕入れたモンと大差なかった。下手すりゃ、核系の魔法は日本の創作のほうがやばそうだ。安易に試せる魔法でもないし、そんなんで失敗して死んじまっちゃあしょうがないから、どんな魔法だったかだけをボータレイに説明しただけだけどな。


「この世界でオレたちは悪魔……、要は忌み嫌われる魔物として認識されてる。オレが試してもらいたいこの手紙をばらまく方法も、下手したら敵を呼び込むだけかもしれない」


 しかし、これも恐らくにはなるが、その可能性は低い、と思う。ボータレイは魔力を追跡できると言っていた。この場所で、ボータレイは特に制限もなく魔法を使っている。つまりは、魔力ダダ漏れ状態ということだ。魔力が追えるならば、もう、その本職の攻撃魔法使いが来ていてもおかしくない。地の利があるのは、どうしたってこの世界の住人だ。オレたちが魔力を追って動けないのは、敵か味方か分からない以上に、どこに飛ばされるか不明確すぎて危険すぎる、ってのが大きい。この地域の地理があるならば、オレたちの目の前に飛んでくる必要はないにしろ、少し離れたところに飛んできて攻撃してくるくらいはしてくる、と思う。

 この仮定も、悪魔というのはこの世界の人間にとって脅威、もしくはかなり高レベルの排除対象である、ってことが前提になるんだがな。見つけた瞬間追い立てまわされた身としては、まあ、かなり忌み嫌われてる存在であることは間違いなさそうではあるが……。


 それともう一つの懸念材料は、この世界に飛ばされてきた同じ境遇の奴らが協力的かどうかってことなんだよな。飛ばされて気が狂ってる奴がいないとも限らない。オレやボータレイはもう少し人数を増やしてこの世界に関する知識や知恵を共有したいところだが、こればっかりはどうしようもない。この紙を配る先、魔力を持つヤツが話の通じるヤツであることを祈るばかりだ。


「鬼が出るか蛇が出るか……、悪いが、かなり分が悪い賭けになるぜ」


「それでも……、このまま何も分からないまま、ここで朽ちて死ぬのだけは嫌よ。アタシでは浮かばなかったアイディアなんだから、試してから考えましょ」


「そうだな。ま、どうせ死ぬなら、行動してっから、だな」


 ボータレイと顔を見合わせて、お互いに諦めにも似た笑みを浮かべる。ボータレイが言ったように、何もしなければここでじりじりと死を待つだ。次、原住民に襲撃されて無事に逃げ延びられるとも限らない。


「んじゃあ頼むぜ、姐さん」


「レイって呼びなさい」


 べちん、とオレの額をいい音立てて叩きながら、ボータレイは手の中の紙を空中に並べる。なんだこりゃ、手品かよ。

 空中に横一列に並んだその紙は、淡く光りながら端から順に消えていった。ボータレイの、男の割には繊細な指先が紙の列をなぞる。まるで、飛べと命令しているかのようだ。オレにはよく聞こえないが、奴の口元がもぞもぞと動いている。呪文か……。羨ましい限りだぜ。オレも使いてぇよ、エターナルフォースブリザード。


 すべての紙を送り終わって、オレとボータレイは何とはなしに顔を見合わせる。来るか、来ないか。殺されるか、逃げ切れるか。


 息が詰まる沈黙を、二つの足音が破る。


「このようなところがあったのか」


「はあ、不用心すぎやしませんかね?」


 そうして出会ったのが、あの天然大魔王と、いけ好かない眼鏡野郎だった。

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