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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
純白の花嫁編
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60.魔王の休息

 ドレスを決めて、式場の下見をして、進行を打ち合わせしつつ、遊園地で遊んでみたりして。ジャパン領に来てから、四日目の朝だ。

 今日は特に予定を入れていないから、まだ横になってる魔王様の胸に顎を乗せて私も寛ぎモードだ。時たま頭を撫でてくるジラルダークの手にうとうとしつつ、部屋から見える庭園を眺める。うん、このまったり感といい景色といい、温泉旅館にでも泊まってるみたいだ。着てる寝間着が浴衣っていうのも、ね。魔王様は今日もイケメンだ。浴衣似合うね。


 ふわ、とあくびを漏らしたら、ジラルダークが喉を鳴らして笑う。彼の胸の上に顎を乗せてるから、ダイレクトに振動が伝わってきた。


「こうしてゆったりと過ごすのも悪くないな」


「魔王様は年中無休だもんね。お疲れ様」


「今は魔神がいる。然程きついものでもないぞ」


 穏やかに笑ったジラルダークは、指の背で私の頬っぺたを撫でる。触れるか触れないかの撫で方は絶妙にくすぐったくて、私は抵抗の意味を込めてジラルダークの指をぱくりと食べた。ジラルダークの長い指は、されるがまま私の口の中に納まる。んー、お腹空いたなぁ。朝ご飯、何だろう。久々に卵かけご飯が食べたいなぁ。


「我が后はまだ物足りないと見ゆる」


「むが、違うよ。お腹空いたの」


「ふふ、分かった。用意させよう」


 くわえてた指を離して、私は布団から起き上がった。寝転がったままのジラルダークは、肌蹴た浴衣と相まって、いちごもびっくり色気1000%増しだ。浴衣の衿から覗く鎖骨とか胸筋がエロイのって何でだろう。昨夜、欲望の赴くままひん剥いたら魔王様のあらゆるストッパーが外れたので、理性を総動員して見て見ぬふりを貫く。夏苗さんは学習するのだよ。それにしても、うん。鍛えてる人って浴衣似合うよねぇ。


「朝食を用意するまで暫し時間があるようだ」


 テレパシーだか何だかで連絡を取ったらしい魔王様がのしかかってきた。折角起き上ったのに、再び布団に逆戻りだ。とはいえ、そんなに時間は無いようで、ジラルダークはじゃれるように私の肩に顔を摺り寄せてくるだけだった。うん、朝からハードな運動は避けたいからね。

 もふもふとジラルダークの髪を撫でると、応えるようにジラルダークが私の鎖骨に唇を落とした。


 おっと、いけない。


「痕、付けちゃ駄目だからね」


「ん……」


 どのドレスを選んだかは教えてないけど、ボータレイさんがデザインしたドレスはほとんどがデコルテを出すようなデザインのものだった。ファンデーションで少しは隠せるとはいえ、あんまりにもたくさんキスマークがあるのも恥ずかしい。メイクはボータレイさんがしてくれるって言ってたもんね。

 ちょっと不服そうに顔を上げたジラルダークの頭を、よしよしと撫でた。結婚式終わるまでの我慢だよ、魔王様。


「今日はどこ行こうか?遊園地も行ったし、城下町とセンター街も行ったもんね。今日はお城の中、のんびり散歩する?」


「ああ、それはいい案だ。ダイスケに呼ばれる時は越後屋ばかりで、あまり城を見たことはなかったからな」


「庭もちゃんと造ってるみたいだし、散歩にはちょうどよさそうだもんね」


 今日の予定を決めたところで、控えめに呼ぶ声が聞こえた。朝ご飯の準備が出来たらしい。乗っかったままのジラルダークを促して、私たちは朝ご飯が用意されている茶の間へと向かった。


 日本人の心情をよく理解してらっしゃるというか、東堂さんチョイスの朝ご飯メニューは、卵かけご飯とアジの開き、赤味噌のお味噌汁とナスやキュウリの漬物、そして最強のサイドメニューこと味付け海苔だった。全部、日本人が恋しくなるようなラインナップだ。というか、もしかして東堂さん、自分がトリップした後に食べたくなった物を出してくれてるんじゃなかろうか。

 味噌汁に使う味噌の種類が違うとか、糠漬けか浅漬けかの差とか、中々日本人じゃないと分からないもんね。ああ、TKGうまし……!醤油の味も完璧だ!


 生卵に抵抗がないらしいジラルダークも私を真似して卵かけご飯を作って、私と同じように感動していた。お米の可能性は無限大だからね!あ、ちなみにTKGを味付け海苔で巻いて食べても美味しいんだよ、ジラルダーク。


 そんなこんなで堪能しまくった朝食の後、私たちはのんびりと城内を散策しながら、たまにじゃれたりして、のんびりまったりと過ごしていた。今は縁側に腰掛けて枯山水の庭園を見つつ、侍女さんの用意してくれた抹茶を飲んでいる。


「休息、というのはこういうものを言うのだろうな」


 ふと、隣に腰かけたジラルダークが呟いた。見上げた表情は穏やかで、言われずとも寛いでるのが分かる。


「ジル、いつもはお休みとかとってたの?」


 少なくとも、私が嫁いでから、魔王様が丸一日休んでいた記憶はない。むしろ、夜もあんなにハードなのによく体がもつな、と感心してたくらいだ。私は大体、夜中の内に意識飛ばして、ぽやぽやと魔王様見送って、遅い朝ご飯食べて、魔神さんたちとお茶会したり悪魔城を散歩してるくらいだもんね。何というぐうたら。ちょっと罪悪感だ。せめて、掃除とか何か仕事したいなぁ。


「そうだな……。完全な休日は、必要なかったからとってはいなかった。週の幾時間かを自分の時間として使えれば満足だったからな」


「趣味の時間?」


「そのようなものだ。カナエが来てからは、カナエと過ごす時間が俺にとっての休息だ」


 そう言うと、横からむぎゅっと抱きしめられてしまった。私は抹茶入った茶碗を持った状態で、されるがままジラルダークに身を任せる。


「じゃあ、私と会うまでは何してたの?」


 頭上にあるジラルダークの顔を見上げると、彼は苦笑いのような何とも言えない表情を浮かべていた。おや?いけない趣味をお持ちなのか、魔王様?


「寝ていただけだ」


「へ?」


 ぽそっと呟かれた言葉に、私は目を丸くする。ジラルダークは、どこかばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。


「元々、趣味もなかったんだ。かといって、特にすることもないから寝ていた」


「そ、それは趣味の時間というより、単なる仮眠のための休憩時間ではございませんかね、魔王様?」


 そうだろうか、と小首を傾げるジラルダークに、思わずこぼれかけた盛大な溜め息を飲み込む。多分、魔神さんたちもそれが趣味の時間とは思ってないんじゃないかな。むしろ、とんだワーカホリックだよ。王様に休む時間はないとはいえ、偶に昼寝するくらいの休憩だけを数百年続けてきたっていうんじゃ、そりゃ周りも心配するはずだ。エミリエンヌやフェンデルさんが、魔王様が一時期危なかったってたまにこぼすけど、それって働きづめでちょっと鬱になってたんじゃないかな。


「今は、こうしてカナエと過ごせる。とても有意義な時間だ」


「それは光栄ですけども……、って、お尻撫でないの」


 隙あらばセクハラしてくるジラルダークの手を叩き落として、私は残りの抹茶に口を付けた。

 今日は領主邸であるお城から出ない予定だったから、私もジラルダークも東堂さんセレクトの着物を着ている。ジラルダークは黒に彼岸花を描いた着流しで、私は白に紫陽花を描いた浴衣だ。いいよね、着物。


「今は魔神の体制も整っている。余程のことがない限りは、俺も気を張り詰めずにいられるからな。正直、国を立ち上げてからの百年が厳しかった」


「そっか……。国を創るなんて、私には想像もつかないよ」


 どれだけ苦しんだのだろう。悪魔はこの世界のニンゲンから迫害され、不毛の地に根を下ろさざるをえなかった。生きるための場を整えつつ、定期的に飛ばされてくる悪魔を保護し、尚且つ攻めてくるニンゲンを撃退する。魔法が使えるとはいえ、それだけでアドバンテージを得られるようには思えなかった。悪魔の中には、私のようなただのパンピーが多いのだ。いつ訪れるともしれない襲撃から守りながら、ニンゲンが放棄するほど荒れた土地を開拓して、糧を得る。考えるだけでも、何その無理ゲーと匙を投げたくなるような事態だ。

 保護されてる立場の私には何も言えないけど、ありがとうとお疲れ様の意味を込めてジラルダークの頭を撫でる。どこか遠い目をしていた彼は、私の手に擦り寄って目を細めた。


「こうしてカナエの隣にあれるならば、それでいい」


「ジルが国を造って、たくさん頑張ってくれたお陰だよ」


 そう告げると、ジラルダークは嬉しそうに微笑んだ。くいっと顎を掬われて、そのまま口付けられる。下唇をやわらかく食まれて口を開くと、当然のようにジラルダークの舌が口の中に入ってきた。

 ううっ……、もう何十回とされてるけど、未だにこれは慣れない。毎度毎度、膝が笑って、腰が抜けそうになるのだ。今は座ってるからいつもよりもマシだけども、上半身がぐらつきそうになる。支えがほしいのに、私の手の中にはお茶碗があるからそれは叶わなかった。


「んぅ、はぁっ……、」


 途中で息継ぎをしたら、ジラルダークの腕が背中に回って体ごと引き寄せられる。手の中のお茶碗は、ジラルダークに取り上げられてしまった。膝の上に抱き上げられて、私はちょうどいい位置にきたジラルダークの肩に掴まる。

 そのまま暫く口の中を蹂躙されて、ようやく唇が開放された頃には息も絶え絶えになってしまっていた。く、くそう。いつかは私だって、魔王様を骨抜きのへろへろにしてやるんだからね。これからたっぷり時間はあるんだ。やれば出来るさ!


 密かに決意しつつ、私はジラルダークの肩に顎を乗せたまま息を整えていた。ジラルダークは私を膝の上で抱っこしながら、あやすように背中を撫でてくれる。私はジラルダークの肩に回していた腕に力を込めて、彼に抱きついた。


「カナエ」


「だーめ。今日は一日のんびりまったりするの」


「……拷問か?」


 違います。っていうか、どんだけ絶倫なんですか、魔王様。私を抱っこしたままジラルダークは、つらいとか、苦行だとかぼやいてる。

 ジラルダークの肩から頭を持ち上げて彼の顔を覗き込むと、捨てられた子犬のような目で見つめられた。尖がり耳が垂れ気味なのは気のせいじゃあるまい。


「カナエ……」


 ううっ……!甘やかす、ダメ、ゼッタイ。エミリエンヌもあんまり甘やかすなって言ってたし。……だけど……!


「……カナエ……」


 ううううぅ……!


「なぁ、カナエ、……いいだろう?」


 切ない声で囁かれて、結局、私は頷いてしまう。魔王様に敵うはずがないんだ。数百年の時を経て、やっと休暇を満喫できてるジラルダークのわがままを聞いてあげたいって思っちゃうんだもの。


 帰ったらエミリエンヌに相談しよう。そうしよう。


 私を抱き上げて意気揚々と離れに向かう魔王様の横顔を見ながら、私はがっくりと肩を落とした。

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