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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
純白の花嫁編
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58.日本人の領地3

 威厳溢れる魔王様からただのイケメンに成り上がったジラルダークを引き連れて、私は江戸村もどきを満喫した。で、で、でで、デートって考えなきゃいいもんね!射的屋でジラルダークの腕前に驚嘆したり、忍者屋敷の密室でセクハラされたり、貸衣装屋でイケメン武士が出来上がったり、思った以上に本格的な歌舞伎見たり、東堂さんがドヤ顔しそうなくらい満喫した。


 とまあ、思いっきり楽しんだらお腹も空くわけでして。


 私たちは、東堂さんのお墨付きの定食屋さんに入ることにした。昔ながらの食堂風で、本当に日本に帰ってきたかのような気分になる。お昼時よりもだいぶ過ぎた時間帯だからか、待たされることなく席に着けた。


「どれにする?」


 メニュー表を私へ向けながら、ジラルダークが尋ねてきた。さすが、定食屋。A定食はフライ、B定食は焼き魚ね。それ以外だと、────!


「さばの、味噌煮、定食……!」


「ほう?それが好きなのか?」


「うん、大好き!小さい頃から好きだったんだ」


 ならば俺もそれを、と給仕さんに注文して、ジラルダークはメニュー表を畳んだ。んふふ、楽しみー!お米にあうんだよね、ちょっと濃い目の味噌とふっくらした魚のほのかな甘味が……!想像しただけでよだれが!ああ、早くこないかなぁ!


「そうも心を傾けられると、予想はしていても妬けてしまうな」


「ふっふっふ、日本人はお米をソウルフードとしているのですよ。ちょっとやそっとじゃ揺らがないのです。そんでもって、さばの味噌煮は私がチビの頃からの大好物なのです」


 私の言葉に、目の前のイケメンが困ったように笑う。俺はどれに嫉妬すればいいんだ、って食べ物に妬くでないよ、魔王様。


「ちなみに、ジルは日本食だと何が好き?」


「そうだな。以前に食べた貝の酒蒸しは美味かった。あと、ナットウか」


「おお、意外とチャレンジャーね、ジル」


 納豆なんて、日本人でも嫌いな人いるのにね。


「アレに勧められたんだ。食べてみたら、少々食べづらくはあるものの、独特の旨みがあっていい。トロロや卵と合わせるのが好きだな。ネギもいいが、匂いが多少気になる」


「お、おお、意外としっかりがっつり食べてらっしゃる」


「アレに俺が食えるかどうか、毎回試されるからな」


 魔王様が一貫してアレって呼んでるのは、東堂さんで間違いない。まぁ、身分を隠して観光してるから、領主の名前を気軽に呼んだらまずいもんねぇ。


 他にも、生卵は最初食べるのに抵抗があったとか、ここの領主、つまり東堂さんは意地でカップ麺を作り上げたとか、色々話してる間にお待ちかねのお時間がやってきた。


「はーい、お待ち遠さん」


「ありがとうございまーす!」


 運んできてくれた給仕のお姉さんから、定食の乗ったトレイを受け取る。ジラルダークも同じように受け取って、テーブルに置いた。


 ああ……、このほんわりと香る味噌の甘くて香ばしい匂い……!お米の湯気とお味噌汁の湯気の芳しい香り……!


「ふふ、では、いただきます」


「いただきます!」


 ジラルダークと一緒に日本式の挨拶をして、早速私はお箸を手に取った。まずは、お味噌汁。……ん!お味噌の香りと温もりがたまらない!そして、白米。……んん!お米の甘味と後を引く食感がたまらない!さあ、次はメインのさば!

 箸を入れるとほろりと解れる白身に、ほどよくとろみを帯びた味噌だれを絡める。湯気の立つそれを慎重に口の中へ放り込んだ。


「……んんんー!」


 美味しい!あああ、美味しい!これ、この味!日本人の求める味噌煮定食の味よ!お米に合う!ものすごく美味しい!


「くっ……」


 私が一心不乱にさばの味噌煮定食を堪能していたら、向かいのジラルダークが口元を押さえて肩を震わせ始めた。あれ?まさか、お口に合わなかったとか?


「くっくっく……!」


 あ、違う。この魔王様、大爆笑を堪えてやがる。ふんだ。久々の好物に沸き立つ乙女心など理解できまいて。


「好物を食べられてよかったな」


 笑いを堪えて涙目になりながらそんなこと言われても嬉しくありませんぜ、魔王様。



◆◇◆◇◆◇



 定食屋でご飯食べて、今度はセンター街もどきに遊びに行った。さっきまでの時代劇風な街並みから一変、高さこそ10階建てくらいなものの、商業ビルが密集した近代的な街並みが目の前に広がっている。ブランド店やカフェにまぎれて、黄色のM字看板やチキンおじさん人形が突っ立っているのはもう、驚きを通り越して呆れた。脱力するほどに呆れた。

 というか、電気通ってるのね、ここ。発電システムを整えたのか、はたまた魔法の力を使っているのかは分からないけれど、ここまで日本を再現されると心の中で諦めてしまった。こりゃ、矯正不可能だ、と。


「アレは出来ることならば全ての時代、全ての国を再現したい、と言っていた。アレはカナエと似たような時代や国から飛ばされているが、アレが好むサムライの時代から飛ばされてくる者もいれば、同じ時代の別の国の者もいるからな」


「ちょっと待った、本物の侍がいるの」


「ああ。そのサムライに教わって、カタナ鍛冶を育成したり、道場を開いたりしているぞ」


 うわぁ。結構ランダムに飛ばされてきてるんだなぁ。てんでばらばらな世界から、種族どころか時代もてんでばらばらに飛ばされてきてるわけだ。


「ニホンの者は手先も器用で、何よりこだわりの強い者が多い。アレだけではここまで再現することは出来なかっただろうな」


 つまりは、日本人が集団で悪ノリした結果、こんな具合になったと。ジャパン領でちらほら見かける金髪美女や筋骨隆々としたイケメンは、もしかして海外の方だったりするのか?


「アレの屋敷周辺はニホンという地域だが、少し離れたところにアメリカやインド、ヨーロッパという地域もあるぞ。ここまで雑多なのは、この地域特有だがな」


「領主様が日本人なのが幸いしたのか災いしたのか。特に好き勝手したのがこの地域ってことなのね」


「そういうことだ。どの領地も、領地内をある程度の区画で区切り名称を与えている。カナエの国で言う市や町、村のようなものだ」


「ということは、アマドさんみたいに村を纏める人もいる、と」


「ああ。区長という形で幾人か置いている」


 賑やかな商店街を歩きながら、ジラルダークの説明に耳を傾ける。


 お昼ご飯の時、ジラルダークに爆笑されてから、変な緊張は吹っ飛んだ。見てくれは違うけど、隣にいるのはいつもの魔王様だ。こうして手を引いて、私がはぐれないように大切に守ってくれる魔王様のままだ。

 そう思ったら、変な緊張感は抜けていた。今はジラルダークの手を自分から掴んで、だいぶ高い位置にある彼の顔を見る。ようやく慣れた私に気付いたのか、ジラルダークは穏やかに微笑んだ。


「ここの区画は広いからな。ある程度散策したら、屋敷に戻ろう」


「うん」


「今度は、フジヤマの遊園地に行ってみるか?」


「確かに、かなり気になるね。行ってみたい」


 フジヤマの麓の遊園地、といえば、アレだろう。東堂さんは記憶力がいいって言ってたから、もしかしなくてもあの遊園地も完コピされてるんじゃなかろうか。


「ああ、明日は衣装合わせをしなければな」


「う」


 そういえばそうだった。一週間後に結婚式があるんだった。自分の結婚式なのに全くその自覚がないぞ。なんてったって、今日初めて知ったからね。


「ドレスはどのタイプがいいだろうか。エンパイアラインも似合うが、ベルラインも捨てがたいな。ふふ、楽しみだ」


 魔王様はいたくご機嫌であらせられるようだ。にこにこ笑いながら私の手を引いている。そもそも、ね。ボータレイさん、何着用意しちゃってるんですか。挙式で着るドレス、一着だけですよね?……ね?


「ジル、楽しみは取っておきたいタイプ?」


「ん?ああ、まあ、そうだな」


 頷いたジラルダークに、私はにっこり笑った。よし。言質はとったぞ。ふっふっふ!結婚式を秘密にされた意趣返しをしてやろうではないか。


「じゃあ、明日は別行動だね。どのドレスを着るかは当日のお楽しみってことで」


「!」


 何……だと……?って顔してるジラルダークに、私は有無を言わさぬよう彼の手を引く。


「おあずけだよ、ジル。結婚式のこと隠してたんだもん、私もドレス秘密にしていいでしょ?」


 唇を尖らせて、何がいけないの、とばかりに首を傾げた。うん、こんな仕草が似合わないのは百も承知だ。ちょっとやってみたかっただけなんだ。出来心ってヤツだ。


「っ……」


「ジル?」


「…………限界だ」


 ジラルダークがぼそっと呟いた。と同時に、私を抱き上げた。その瞬間、センター街が私の視界から消えた。


「ひゃっ?!」


 何だ何だ!?あ、違う。これは街が消えたんじゃない。私たちがその場から消えたんだ。魔王様が瞬間移動しやがったんだ。

 ええと……、どこだここ?私は今、どうなってる?あれ、何でジラルダークの髪が私にかかってんの?え、その後ろに見える木目は、天井?背中に感じるのは、布団……?


「ちょちょちょ!ジル!?どこここ!?」


「ダイスケの屋敷の離れだ。基本、俺が呼ばねば誰も来ない。安心していいぞ」


「そ、そこ安心できるポイントと違う!むしろ、冷や汗が出てきたよ!」


 あらゆる意味で臨戦態勢のジラルダークに、私は何とか抜け出そうともがいてみた。が、そこは歴戦の魔王様。パンピーの村人Aが敵うはずもなく。


「うう……、デートのお決まりコースとして、夜景の見えるオシャンティーなレストランで、君の瞳にカンパイ☆ってしてみたかったのに……」


「俺がか?」


「いや、私が」


 そうか、と笑った魔王様は、枕に顔を埋めて拗ねる私のうなじにキスを落とした。仕返しに顔の横に置いてあったジラルダークの腕に噛み付くと、更なる仕返しをされたのは言うまでもない。

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