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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
愛憎の魔女編
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42.村人の僻見

【???】


 この世界に来て分かったことがある。


 ここは旧世代向けのRPGみたいな世界で、俺は選ばれた人間で、そして世界を救う勇者だったってことだ。

 前に俺がいたくだらない世界は、こうしてここに召喚されるための布石だったのだ。そう、よくある王道のストーリーだ。幼少期は不遇な扱いを受けている主人公が、その才能を見出されて成り上がっていく。世界を救う勇者となり、皆に崇められる。あっちの世界で俺が認められなかったのも当然のことだ。俺は、この世界に必要とされているんだからな。


 この世界に来た当初は、俺もまだまだ甘かった。RPGならと、すぐにでもレベル上げに行こうとして、村人に止められてしまったのだ。村の外には危険な魔物もいる、村を出てはいけないって、壊れたレコードのように繰り返す奴らだ。ただのモブだと気付いた今なら笑い話だが、来たばかりの頃は人間だと思っていた。話せば分かってくれるってな。全く無駄な労力を使わせやがって。

 だが、状況が整理できた今なら分かる。俺が村を出るには、まだ条件が整っていないらしい。RPGでいうところの、魔王の復活みたいなフラグが立たなければならないようだ。歯がゆいが、仕方ない。そういうストーリーなのだ。


 フラグが立つまでの間、俺は装備を整えることに専念した。村には武器屋はおろか、防具屋や道具屋もない。この世界は、装備や回復薬を自分で用意するタイプのRPGらしい。初期装備としては心許ないが、木を削って作った剣と、銅版で作った鎧が今の俺に出来る精一杯だった。鍛冶にもレベルがあるのだろう。しかし、村の奴らが鍛冶も回復薬の調合も出来ないとは。魔物がいるってのに、どれだけ平和ボケしてやがるんだ。

 調合に関しては、素材がないせいで何も作れていない。村を出れば、素材の調達も出来るようになっているはずだ。少しは経験値を稼いでおきたかったが……。これも仕方がないことだ。


 この世界に来てから半年以上が経った。来た当初こそ村人と衝突してしまったが、モブだと理解してからはそれもない。村人から要求されるお使い系クエストを淡々とこなしただけだ。村人にも好感度が設定されているのだろう、随分と受け答えがフレンドリーになった。


 そんなある日、だ。


「中央の街で、魔王陛下の御后様がお披露目されるらしい」


 魔王!


 ついに待ちわびた日が来た!村人が俺に話したのだ。この世界は、魔王が治めていると。ようやく、俺のストーリーが始まったんだ。

 立ち話に興じていた村人たちは誰がお披露目の儀を見に行くかと相談し始めた。このイベントを逃してまたフラグを待つのもごめんだ。念のため、話に加わってフラグをきっちり立てておくか。


「それ、俺も行ってみたい」


「ああ、コパルは陛下を見たことがなかったか。うーん、どうしようかなぁ」


 チッ、面倒くさいジジイだ。俺を連れて行かなくてどうするんだよ。こんな田舎に生まれたお前らと違って、俺は世界を超えて召喚されたんだぞ。すぐに、お前らが平伏す存在になるんだ。口の利き方に気をつけておけよ。


「村の外に出てみたいんだ。なぁ、いいだろ?」


「そうだな……。最近はコパルに色々手伝ってもらってるし、なぁ」


「陛下に無礼な真似を働かないと約束するなら、連れて行ってやるよ」


 村一番の力持ち、とでも呼ばれてそうな男(名前は聞いたが忘れた)が、偉そうに俺に言う。緑色の肌のジジイが、そうだなと隣で頷いてやがる。

 下手に出りゃあつけあがりやがって。俺が世界を救った暁には、でかい態度をとったことを泣いて詫びさせてやる。


「コパルもいくのか?オイラもいくんだ!」


 寄り付いてきたのは、小汚い犬だ。コイツの名前も前に聞いた気がするが忘れた。どうせすぐに出て行く村だ。パーティに入れてもいいと思える奴もこの村にはいない。


「なら、俺と爺さん、コパルとニコで行こうか」


 村人が、俺と子犬に言う。


 ……ああ、ようやく俺の物語が始まった。



◆◇◆◇◆◇



 村を旅立って、一週間が過ぎただろうか。魔物の襲撃もなく、俺たちの旅は順調そのものだった。レベル上げが出来ていないのが気掛かりだが、贅沢も言っていられない。そう、ストーリーによっては、負けイベントが入る場合もあるからな。備えは万全であるべきだが、勝てる見込みのない敵に立ち向かう必要もない。そこは、トリッパーの知恵を駆使して臨機応変に行うべきだ。


 俺は、街に向かう荷馬車の中で装備品を確認する。武器である剣は、俺が木材から作った三本がある。防具は不安だが、モブの村人が着ている布の服よりも、俺が以前の世界を参考にして作った銅の装備の方がいいだろう。防御力は多少なりとも上がっているはずだ。回復用の薬草は未だに無いが、魔王が来る街まではまだ距離がある。採取するなり、ドロップ品を奪うなりできるはずだ。アクセサリーは、通りかかった村の女に貰った銀の腕輪がある。旅の無事を願って、と言っていたから、守護の効果でもあればいいが。

 馬車から覗く風景は、この世のものとは思えない程におどろおどろしくなっている。魔王の城が近いのかと聞けば、そうではないらしい。しかし、魔王から絶対の信頼を得ている領主が直に治めている街だと言っていた。その領主は、俺たちの村の領主でもあるらしい。俺は既に魔王の膝元にいたのか。


「今日はここで野宿だな。順調に行けば、あと三日もすれば着くだろう」


 筋肉男が、馬を荷台から外しながら言う。俺と子犬は荷台から降りて、夕食のための薪拾いを始めた。


「まおうって、そんなにわるいヤツなのか?」


 子犬が俺のそばで薪になりそうな小枝を集めながら首を傾げる。ここまでの道中、馬車の中で俺が魔王の所業について話していたのだが、子犬以外の村人二人は否定しやがった。何を言うんだ、魔王様はとても慈悲深い方だ、ってそんなわけないのにな。長く魔王の地にいると洗脳状態になるのだろう。俺も気をつけなければなるまい。


「ああ。とてつもない悪党さ」


 通りかかった村の女も、后を無理矢理、魔王に宛がったと言っていた。そう、その后を助けるために、俺が呼ばれたと言っても過言ではない。


「后を無理矢理攫って、縛り付けてるんだ」


「おきさきさまを?」


「ああ。村の連中は気付いてない。洗脳されているからな。お前もそうだ。魔王が慈悲深い?そんなはずないだろう。そもそも、慈悲深い奴が、魔王なんて呼ばれるはずがない」


 俺は集めた小枝を無造作に背中の籠に突っ込んで、歯を食いしばる。伝えたくとも伝わらないもどかしさが、これほどまでとは思わなかった。村人は慈悲深いというその口で、そいつを魔王と呼ぶのだ。魔の王が、どこをどうして慈悲深いのだ。矛盾もいいところだ。それに気づかせない、魔力。俺の敵は強大だ。


「あくまの、おうさま、なんだよな?オイラ、きいたことあるぞ」


 ちまちまと集めていた小枝を俺の背中の籠に入れながら、犬が頷く。


「そうだ、奴は悪魔の王なんだ。俺たちの王じゃない」


「……?」


 首を傾げた犬に、俺は懇切丁寧に説明してやった。これからどんなストーリーが展開されるのかは分からないが、コイツがキーパーソンになる可能性もある。これだけ俺に絡んでくるんだ。これから組むパーティーの誰かに関わるのかもしれないからな。


「じゃあ、オイラたちとおきさきさまは、まおうにいじめられてるのか?」


「そうだ。俺たちは人間だ。悪魔じゃない。悪魔の王は、俺たち人間を支配して悪魔のための世界を作ろうとしている。俺たちは気付かないまま、奴隷にされているんだ」


「おきさきさまも……?」


「俺は人間の王に会ったことはないが、恐らく人質だろう。人間が悪魔の言うことを聞くように、姫を人質に取ってるんだ」


 犬は、俺の言葉に大きく目を見開いた。どうやら、俺の言葉を理解したらしい。魔王が、村人を洗脳して操っているというこの現実を。

 これで、俺のパーティーのフラグが立ったはずだ。この子犬の関係者が、俺の下に来て、俺と共に魔王を打ち倒す旅に出るのだ。




 …………だというのに。


「ありがとうございます、小さな勇者様」


 漆黒の魔王に囚われた姫は、悲痛な笑みを犬に向ける。


「ご心配頂かなくて大丈夫ですよ。私が望んで陛下の隣におりますからね」


 嘘だ。


 そう叫べばよかった。だけど、声は俺の喉の奥に張り付いて、音にならない。犬は呆けたように姫に質問を繰り返す。自らが魔王の后の座を望んだのか、と。魔王が怖くないか、姫は悲しみに暮れていないかと。


 子犬の質問に、姫は気丈に微笑んで頷いた。


 ああ、なんて気高い姫なのだろうか。俺たちが助かる為ならば、自分の身は厭わないと微笑むのだ。自身の命よりも、俺たちの身を案じてくれているのだ。彼女はやはり、俺……、勇者が救うに値する姫だ。

 どうすればいい。今の俺に、仲間はいない。それに、姫や魔王に関する情報が圧倒的に足りていない。距離的には接近しているが、今立ち向かって敵うものだと考えるのは余りに楽観過ぎるだろう。


 それでも、このまま見過ごすには余りにも姫が不憫で、俺は物陰に隠れながら魔王たちの動向を探った。魔王は領地の視察を行なうようだ。その隣には、囚われの姫の姿もある。しかし、常に魔王とその配下が姫の周囲を固めているせいで、ろくに彼女の姿を確認できない。


 くそ、せめて姫に希望を持たせることができれば……。


 勇者はここにいる。貴女を救い出そうとしているから、どうか気を強く持っていてくれと、そう伝えたいのに……!


 賑やかな市場を歩く魔王たちを、俺は気取られないように細心の注意を払いながら尾行する。魔王の護衛は二人だ。ここの領主だという男と、侍女の様な女。人間なのだろうか。あいつらを寝返らせて、仲間に引き込むストーリーかもしれない。姫は魔王から逃げられずに付き従いながら、街を歩いている。時折周囲を気にしているから、逃げる隙は無いか窺っているんだろう。その度に、魔王が逃がさないとばかりに姫の視線を遮っていた。逃がしてやりたい。素朴なものが好きだと微笑む姫を、どうにかして逃がさなければ。


「それにしたって、どうすりゃいいんだ……?」


 姫は魔王に抱え上げられて、店の中へ連れ込まれてしまった。俺は店の裏手に回りこんで様子を窺う。護衛の奴らも店の中に引っ込んでしまったのは痛いな。魔王のいないところで話ができればいいのだが……。


「館に忍び込むよりはこっちのほうが手薄か。だが、装備も心もとない状態でいけるか……?」


「いけませんねぇ。まぁ、そのような事態にすら持ち込ませる気はありませんが」


 不意に背後から聞こえた男の声に、俺は目を見開く。


「記憶喪失、幽閉、それとも、調教がお好みですか?」


「差し出がましい申し出にはございますが、二度と奥方様を斯様な目で見ることの無い様にして戴きたく存じます。叶わぬのでしたら、どうぞ、わたくしめに刑戮の許可を」


「おやおや、随分と怒り心頭のようですね」


 抑揚の無い、冷えた女の声に、楽しげに笑う男の声が重なる。背後にいる、そう分かっているのに、俺は振り向けなかった。


「殺してはいけませんよ。これはこれで、使いようによってはあの女を炙り出す駒になりますからね。もう少し、スマートに泳がせましょうか」


 最後に聞こえた男の声は、笑っているのに笑っていなかった。

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