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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
愛憎の魔女編
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小話3.魔王の寵愛

★人様のお家でできないならば

【ジラルダーク】


 トパッティオの屋敷の一室で、俺はいつものようにカナエを愛でていた。カナエは、こちらの地方の特産である芋をこねた菓子を頬張って、幸せそうに笑っている。感情の赴くままに口付けると、カナエは困ったように俺を見上げた。


「今日は駄目だよ、ジル」


 膝の上に乗せたカナエが、駄目、と言いながら俺の肩を押す。何が駄目なのかは、言われずとも分かる。これ以上、睦みあうなということだ。

 何故だ、とカナエの瞳を覗き込むと、その大きな瞳で俺を見上げてくる。その視線だけで箍が外れそうになるのだと、お前は知っているのだろうか。


「ここはトパッティオさんのお屋敷でしょ。人様のお家では駄目だよ」


 可愛らしく首を振るカナエに、俺は二の句が告げず黙り込んでしまった。このまま無理矢理抱くことも出来なくはない。だが、それを実行に移した場合、カナエは泣いてしまうのではないだろうか。下手をすれば、嫌われてしまう。それだけは耐えられない。カナエに嫌われるなど、許せるはずがない。


「声を聞かれるかもしれないからか?」


「ううん、それもあるけど……」


 俺の膝の上で、もぞもぞとカナエが体勢を変えた。腰を抱いていた手を下へ滑らせれば、手の甲を抓られてしまった。


「けど?」


 尋ねた俺に、カナエは俯いてしまう。俺の魔法で尖らせた耳は、先端まで赤く染まっていた。


「その……、汚しちゃうかも、しれないし……」


 小さく呟かれた言葉は、かなりの破壊力を持っていた。俺の理性を粉々に砕く、抜群の兵器だ。


 どうすればいい。強引に事を運ぶことは却下として、このまま一夜を明かすなど、拷問に近い。カナエは、この館でするのが嫌だと言っている。


 ……ならば。


「戻ろう」


「え?」


「魔法で城まで飛べばいい」


「ええっ?!」


 俺はそう告げると、カナエの体を抱き上げてソファから立ち上がる。カナエが驚いて固まっているうちに、俺は館から城へ魔法で移動した。城の寝室へ直で飛んできたが、当然のごとく人の気配はない。


「しゅ、瞬間移動……?テレポート、したの……?」


「ああ。これならば、誰に気兼ねすることもないだろう?」


 普段は魔神たちに俺の所在を明らかにするため、あまり瞬間移動はしない。だが、今回は別だ。一応、念のためにベーゼアには移動した旨を告げておく。

 俺に抱かれたまま唖然としているカナエを、使い慣れたベッドに下ろした。逃げられる前に、と圧し掛かると、カナエの手が俺の胸に添えられる。抵抗と呼ぶには余りにも頼りない力で押し返しながら、カナエは頬を膨らませた。


「もーっ!一日くらい我慢しなさい!」


「無理な相談だ」


「こらっ、駄目だって……!」


 胸元の抵抗をものともせずに引き寄せて白い首筋に舌を這わせると、耳元でカナエの甘い声が聞こえる。吐き出される息は、普段よりも色めいていた。追い討ちをかけるようにやわらかな耳たぶに噛み付けば、ひ、と小さな声が上がる。

 カナエの繰り出す可愛らしい抵抗の言葉は、徐々に鳴りを潜めていった。労わるように服の上から彼女の体を撫でると、噛み殺した吐息が口の端から漏れて聞こえてくる。


「……っ、ジル……」


 小さく呼ばれて、俺はカナエに口付ける。


 いつからか、互いの名を呼ぶことが口付けの合図となっていた。そんな、些細な積み重ねがこの上なく嬉しい。


「ん、……ちょっとは忍耐力つけないと……」


 囁く声は甘く溶け始めている。カナエの服を肌蹴させながら、俺は苦笑いを零した。


 ここ数ヶ月で、大分我慢強くなったと思うぞ。理性で押さえつけなければ、今頃はきっとカナエをどこかへ閉じ込めて、誰にも触れさせなかっただろう。俺だけを映し、俺だけが触れられればいい。いたずらに怖がらせたくはないから、カナエには言わないが。


「魔王が我慢強いとでも?」


 悟られぬよう、ふざけた物言いで返す。カナエは俺の言葉に、仕方ないなぁ、と小さく笑った。するりと衣擦れの音を立てながら、カナエの腕が俺の背に回される。組み敷いたまま、俺もカナエの腰を抱いた。


「朝にはあちらに戻る。ニホンでは、枕が替わると寝られぬのだろう?」


「何、その限定的な知識は。私、どこでもぐっすり寝れるよ。ここに来た時もぐっすりだったもん」


 俺の肩に額を摺り寄せながら、カナエが忍び笑う。そういえばそうだったな。連れてきた当初は、逆に俺のほうが悶々として眠れていなかった。やわらかな頬に唇で触れると、カナエはくすぐったそうに身を捩った。今はこうして自由に触れられる。


「まだ、眠るには早いからな」


「寝る気なんてないくせに」


 唇を尖らせるカナエに俺は口元を吊り上げた。


 言葉では答えずに彼女の首筋に噛み付くと、カナエは笑いながら俺の背に回した腕へ力を込めた。引き寄せられるまま体を絡めて、俺は本格的にカナエを喰らい始めるのだった。

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