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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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29.二人目の領主

 ジラルダークに東堂さんとボータレイさんを任せて、私はサリューと一緒にお風呂に入った。サリューは相変わらずのナイスバディーさんだった。お風呂から上がると、サリューはアマドさんを探しに行った。だもんで、私はジラルダークのいる部屋に向かっている。魔王様は今、旧友と酒盛りしてらっしゃるのだ。

 まぁ、私は邪魔しちゃいけないからね。おやすみなさいのご挨拶をしたら、さっさと引き上げよう。うん、今日はゆっくり寝れそうだ。


 ジラルダークのいる応接間の扉をノックすると、ジラルダークが出迎えてくれた。魔神さんたちと会う時と違って、ラフな格好をしてる。どことなく、表情もやわらかだ。やっぱり、東堂さんやボータレイさんは昔からの友達なんだなぁ。


「ゆっくり温まったか?」


 ジラルダークは羽織っていたガウンを私の肩にかけてくれた。今の今までジラルダークが着てたから、ほんのり温かい。湯冷めしないように気を遣ってくれてるんだ。


「うん。ありがと、ジル。寒くない?」


「大丈夫だ。俺は酒を飲んでいるからな、暑いくらいだ」


「ふふ、今夜はお酒も美味しいでしょ?」


「ああ、そうだな」


 穏やかに頷いて、ジラルダークは私の頭を撫でた。ちょっと酔っぱらってるのかな?普段よりもジラルダークの手が温かい。

 ちらりと部屋の中を見ると、テーブルの上には開封済みと思われるワインの瓶が所狭しと乗っかっていた。酒豪だなー。……ん?あれ?あのワインをラッパ飲みしてるメガネかけた七三分けの人は誰だ?


「カナエ、一人紹介したい者がいる。……トパッティオ」


 ジラルダークが呼ぶと、七三分けの人はきびきびとした動作でこちらに来た。ぎ、銀行マンみたいな人が真っ黒な服着てるから、全く堅気には見えない。七三分けの人は、軽く会釈をしてから銀フレームのメガネを中指で押し上げた。


「初めまして、カナエ様。私はトパッティオと申します。陛下に領主を任ぜられております。どうぞお見知り置きを」


「こんにちは、トパッティオ様。野々村夏苗です」


「はい、堅苦しい挨拶はこの程度にしましょうか」


「えっ!?」


「ここにいる者は、陛下が魔王になる前からの付き合いの者です。しかも今は酒の席。堅苦しくする必要などないでしょう」


 そ、そりゃあ、確かにさっきまでアナタ、ワインをラッパ飲みしてましたもんね。無礼講もいいところですよね。


「御后様に、陛下の素顔を教えて差し上げましょう。さ、どうぞ中へ。お酒は飲めますね?」


 何……だと……!?って顔をしてるジラルダークを横目に、私はトパッティオさんに導かれるまま、東堂さんとボータレイさんのいるテーブルに着いていた。隣に座ったトパッティオさんは、ちゃっちゃか新しいグラスを用意して私の分のワインを注いでる。おう、逃げ道失ったー。この接待テクニック……!やるな、銀行マン!


「おい、トパッティオ。カナエに妙なことを吹き込むな」


「いいじゃありませんか。第一、執務中に私を呼んだのは貴方でしょう?自業自得ですよ」


 メガネを中指で押し上げながら言うトパッティオさんは、薄く笑ってる。うわ、この人、ただの銀行マンじゃない!鬼畜メガネだ!


「改めまして、カナエさん。私は、この魔王もどきの配下のトパッティオです。ティオ、とでもお呼び下さい」


「は、はぁ……」


「ティオってば、無理矢理連れてきたの、まだ怒ってるのねぇ。ウフフ、怖がらなくていいのよ、カナエちゃん」


 鬼畜メガネさんが右隣で、左隣にはオネエさんことボータレイさん。正面には東堂さんがいる。ジラルダークは、不服そうに東堂さんの隣に腰を下ろした。


「ホラ、飲んで飲んで。サリューとアマドも、後で呼んでこようかしら」


「あまり騒ぐのはよくないでござるよ。魔神は、手前共を陛下に最も早く忠誠を誓った配下と認識しているでござる」


 侍の東堂さんが、お猪口に口を付けながら言う。……え、お猪口?


「あれ、東堂さん、そのお酒って……?」


「おお、そうであった。これは日本酒にござる」


「日本酒、ってことは!」


 まさか……!まさか、愛しのアレがあるの!?


「左様。米を作っているでござるよ。今度、城へ献上させるでござる」


「いいんですか!?」


「無論にござる。日本人といえば、主食は米でござろう。拙者もこちらの世界で真っ先に耕作を試みたでござるよ」


「うわあ!ありがとうございます!」


 やったー!お米キター!


「ニホンの子って、お米好きよねぇ。うちの領地にはニホンの子が多いじゃない?だから、食事処にもお米料理が多いのよ」


 今度食べにいらっしゃいな、とボータレイさんが頭を撫でてくれた。行ってもいいの?ぜひ、お米料理が食べたい。日本人用に作ってるなら、きっと味噌汁とかもあるはず。むしろ、定食を期待してしまってもいいかもしれない。


「ウフフ、それとも、お姉さんが攫ってってあげちゃおうかしら?」


「ボータレイ」


 咎めるようなジラルダークの声に、ボータレイさんは肩をすくめた。冗談よぉ、とでも言いたそうだ。しかし、ジラルダークは眉間に皺を寄せたままだ。どうしよう、魔王様が不機嫌でござる。


「ジル、日本食って食べたことあるの?」


「ああ、ダイスケの領地に赴いた時には、偶にな」


「そっか。じゃあ、今度時間があったら連れてってほしいな。お米食べたい」


 勿論だ、と頷いたジラルダークの眉間は、ちょっと平たくなった……ように見える。トパッティオさんは、どこか物珍しそうにジラルダークと私を交互に見てる。それから、にやりと口元を吊り上げた。眼鏡がキラッと光ったように見えたのは気のせいだろう。


「失礼、ダーク。貴方はこちら側に座った方がよさそうだ」


 トパッティオさんは私の隣からどいて、ジラルダークに席を譲った。ていうか、魔王様って友達にダークって呼ばれてるのか。ジラルダーク、なんて日本にはいない名前だったから適当にジルってあだ名付けちゃったけど、正しくはダークだったのね。

 そして、私の隣に来たジラルダークを、トパッティオさんが薄笑いで見ている。さっきからどうした、鬼畜メガネ。何か面白いことがあったのか?


「魔王陛下は貴女が可愛くて仕方ないようですね」


「えっ?」


「さ、どうぞ、カナエさん」


「あ、はい」


 勧められて、私はワインを口にする。魔王様と鬼畜メガネは赤ワインを飲んでるみたいだけど、私に注がれているのはロゼだ。うん、甘くて美味しい。

 そして、目の前ではトパッティオさんが再びラッパ飲みを開始してる。東堂さんも、手酌でガンガン日本酒を飲んでる。ボータレイさんまで、ワインのラッパ飲みを開始しちゃったわ。


「す、すごい酒豪揃いなのね、ジル」


「というよりは、酔うだけ酔って、魔法で打ち消すからな」


「そうなのよぉ。で、陛下のトコのお酒ってイイ物ばっかりじゃない?折角だから飲まなきゃね」


「あー、なるほど」


 便利だなぁ。好きなだけお酒飲めるっていいね。悪魔城のお酒は、魔王様に献上されるものだからどれも美味しいもんね。


「無理して飲む必要は無いぞ、カナエ。適度に楽しめばいい」


「うん、そうする」


 流石に、ワインの一気飲みは無理だ。魔法で酔いを消せるとしても、消す前にワインさんが出戻りしてしまいそうだ。というか、ワインってそう楽しむものじゃないんじゃなかろうか。


「カナエも米が好きなのか?」


「んー、向こうにいた時にはあんまり意識しなかったんだけど。食べられないって分かると、無性に欲しくなるのよね。日本では主食だったし」


 うん。異世界に来て気付く、お米の恋しさだね。日本人であることを再認識させられるね。

 そうか、と頷いたジラルダークは、大きな手で私の頭を撫でた。ジラルダークって頭撫でるの好きだなぁ。私も撫でられるの好きだからいいけど。もっと撫でてとばかりにジラルダークに体を寄せると、彼は当然のようにたくさん撫でてくれた。


「あらヤダ、ご馳走サマ」


「うむ、仲良き事は美しき哉」


「ダークにも春が来ましたか」


 ジラルダークと私を見ながら、三人がうむうむ頷いてる。おお、恥ずかしいですぜ、魔王様。これでも私、彼氏いない歴26年でしたから。人前でのイチャラブは、心の中で舌打ちすることはあっても自分でやったことはないのだよ。


「飲みましょ。アタシもイケメンのカレが欲しいわぁ」


「寄るなでござる。拙者、男色の気は皆無でござる」


 擦り寄るボータレイさんを、東堂さんが足蹴にしてる。トパッティオさんは、既にワインの空瓶で器用にバリケードを作ってる。そんなに嫌なのか。美人さんなのにね、ボータレイさん。オネエさんではあるけれどもさ。


 領主二人と補佐官一人というジラルダークのお友達と飲み始めること数時間。彼らほどお酒に強くない私はすぐに酔っ払って寝てしまった。悪酔いではなさそうだから、と魔王様も私に魔法をかけず、そのまま寝かせてくれた。


 だから、その先の話は知らなかったんだ。聞いてたとしても、私に止められたとは思えない。それでも、もし知っていたら、聞いてれば、と考えずにはいられないんだ。

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