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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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27.悪魔の民

 今日は、私がパンピーの村人してた時にお世話になってたサリューとアマドさんをおやつ部屋に招いてる。少ししたら、もう一組のお客さんを連れてジラルダークも来るって言ってた。私は、ジラルダークが来るまでサリューとアマドさんをもてなす係だ。

 改めて思うと、村から出てもう一ヶ月以上経ってるんだ。いやぁ、久しぶりだなぁ。悪魔城に来てから色んなことがありすぎて、日付の感覚が無くなっちゃってたよ。


 しかし、うん。


「アマドさんのスイーツは安定して美味しい」


「はは、それはよかった」


 お客さんとして招いたはずなんだけど、アマドさんはお手製のケーキを持ってきてくれた。もちろん、即行でお茶請けになっているとも。私が我慢できるとでも?ちなみに、今日のお菓子は村の茶畑で取れた茶葉を使ったお茶のケーキだ。

 サリューは、会って早々にアップリケのことで怒られた。サリューもアマドさんもジラルダークの事情を知ってたって言うんだから酷いよね。ある意味では、まさしく生贄だったわけだ。


「どうだい、カナ。陛下との生活は?」


「うん、楽しいよ。ジル面白いし、イケメンだし」


「陛下に見初められたって聞いた時は驚いたよ。上手くいってるようならよかった」


 サリューは紅茶を飲みながら、どこか安心したように笑う。姉御なサリューは、出来の悪い妹を心配してたらしい。


「サリューもアマドさんも元気そうでよかったよ」


「もう知ってると思うけど、僕たちはこう見えてこの世界に来てからかなりの年数が経ってるからね。カナちゃんが娶られたこと以外は、いつものことだったんだよ」


「ほう。ちなみに、お二人はおいくつで?」


 聞くと、サリューは首を傾げた。あ、数えてないっぽい。そういうの面倒くさがりそうだもんね。何歳だろうが、変わらないんだったら必要ないだろう、とか言いそう。


「サリューはこちらに来てから86年、僕は149年だよ」


「おお、さすが村長さん」


「細かいからねぇ、アマドは」


「サリューは豪快だもんね。二日酔いは大丈夫?」


「昨日は飲んでないよ。君に会えるのに二日酔いじゃ、格好がつかないじゃないか」


「それはそれでサリューらしいけどね」


 けらけらと笑いあうと、まるであの村に帰ったかのような感覚になる。あの頃は、まさか私が魔王城で暮らすようになるなんて思ってなかった。それが今じゃ……。


「失礼致します。奥方様、ベーゼア様、お客様がご到着なさいました」


 お付きの人、みたいのがいるんだもんなぁ。壁際に立っていたベーゼアはメイド悪魔さんに、御通しするよう指示を出して私の後ろに控えた。今日はお客さんがいるから、いつもみたいに隣に座ってくれないのだ。


 私は椅子から立ち上ると、お客様を迎えるためにテーブルから離れた。サリューとアマドさんには、ちょっとだけ待っててもらおう。多分、ここにサリューとアマドさんを招いた上で更に招き入れるってことだから、そんなに御后様然としなくてもいいと思うんだけど、念の為だ。礼を失するよりはマシだろう。


 少しして、ジラルダークがやってきた。今日も素敵な魔王服だ。


「待たせたな、カナエ」


「いいえ。お気遣いありがとうございます、陛下」


 どんな種類のお客様なんだろう。御后様らしく振舞いながら、ジラルダークの後ろへ視線を向ける。


「ダイスケ、入るといい。我が妻を紹介しよう」


 ジラルダークに言われて入ってきたの、は、───はあ!?


「お初にお目にかかりまする、御台様。拙者、不肖ながらも領を任されております東堂大介にございまする」


 アイエエエエ、サムライ!?サムライ、ナンデ!?ちょ、ちょんまげ!?袴!?刀!?え、何時代のお武家様!?


 私が、東堂さんの格好に目を白黒させてたら、隣でジラルダークがくすくすと笑った。思わず見上げると、悪戯が成功した子供のような顔で私を見てる。


「ヘイセイのニホンから来た者は、こいつの姿を見て必ず驚くんだ。やはりカナエも驚いたな」


「お、驚いたな、ってそんな……!」


 ここは色んな世界から人が飛んでくる世界だ。もしかして、時代とかもバラバラなんだろうか。そうだよね。ここの悪魔たちは歳をとらない。ってことは、室町時代辺りから飛んできたとしても、そのまま生きてるってことだ。


「ええと……、東堂様は、御武家様でいらっしゃるんですか?」


「いえ、拙者は時代劇フリークの日本人でござる。生まれは平成の二桁でござりまするゆえ」


「って、私より若いじゃないですか!」


 東堂さんは、見た目高校生くらいの男の人だ。頭ちょんまげにしてるから年齢が分かりにくい。まんま、時代劇村で役者さんしてそうな格好だ。


「折角の異世界、日本文化を広めるも一興と心得ますれば」


「と、東堂さんの領地に、ものすごい不安を覚えますわ……」


「ちなみに、拙者の領地の名はジャパンと申すでござるよ」


 だ、ダメだこの領主……!早く何とかしないと……!とりあえず、自己紹介をしよう。一応、名乗ってもらったから、ね。


「じ、自己紹介が遅れました。私は、野々村夏苗と申します」


「夏苗殿でござるな。以後、お見知り置き下さる様、宜しくお願い致すでござる」


 ぺこりと頭を下げあうと、ふと、東堂さんの後ろから煌びやかな人が入ってきた。羽が付いた扇で口元を隠したチョコレート色の髪の毛の美人さんだ。長い髪をさらりと揺らして優雅にお辞儀された。背が高いから、普通のお辞儀がものすごく映える。


「ご機嫌麗しゅう、陛下、奥方様」


「遅かったな」


「申し訳ございません。どこぞの阿呆領主の尻拭いをしておりましたの」


 美人のお姉さんは、流し目で東堂さんのことを睨みつける。そんな仕草も美しい。綺麗な人だわー。


「奥方様、お初にお目にかかりますわ。わたくし、この似非サムライ領主の補佐をしております、ボータレイと申します」


「ボータレイさんですね。私は野々村夏苗と申しますわ」


「どうぞ、レイとお呼び下さいましな、奥方様」


 口元の扇を退けて、ボータレイさんは穏やかに微笑む。ああ、きっと東堂さんの補佐って大変だろうなぁ。こんな美人のお姉さんに補佐してもらえてよかったね、東堂さん。


「ちなみに、ボータレイは男だぞ、カナエ」


「へぇ、男…………、男ぉ!?」


 男とな!?この美人さんが!?


「あらヤダ、陛下。アタシのことはレイって呼んで頂戴まし」


 んふ、としなを作って、ボータレイさんがジラルダークに擦り寄る。ジラルダークは慣れたことのようで、軽く避けていた。うわーお。この人、お姉さんじゃなくてオネエさんか。


「よろしくお願いしますわ、奥方様」


「こ、こちらこそです、ええと、レイさん?」


「ウフフフ」


 ボータレイさんをレイさんって呼んだら、嬉しそうに頬っぺたに手を当てて微笑んでくれた。み、見た目だけだと、長身の美人なお姉さんなんだけどなぁ。オネエさんなんだよなぁ。


「ありがとうございますわ、陛下。アタシ、奥方様とお話してみたかったのよ」


 ダイスケと同郷なんでしょ、とボータレイさんは苦笑いを浮かべる。どんなことになってるんだ、領地ジャパン。ここは、ボータレイさんがストッパーになっててくれてることを祈るしかない。

 領主がサムライもどきなんだとしたら、フジヤマ、スシ、ゲイシャとかもありそう。下手したら、ニンジャもいるよ。ニンジャ=サンいるよ、これ。


「拙者のことは東堂ではなくスケさんと呼ぶでござる」


「水戸か!ご老公か!んもー、変な日本広めないで下さい、東堂さん!」


「拙者、名前がダイスケであるからして、呼び名はスケさんでも問題ござらぬ」


「あるわ!大有りだわ!異世界だからって、日本人がいないわけじゃないのに、何でこんなことに……!」


 頭を抱えて嘆くと、スケさんこと東堂さんがにやりと笑って顎を撫でた。


「それは、拙者がジラルダークの友人だからでござるよ、御台様」


「え!?ジル、友達は選んだほうがいいと思うよ!」


「ふふ、そうだな」


 慌てる私に、ジラルダークはただ笑って見てるだけだ。笑ってる場合と違うわ、アホ魔王様。私の言葉に頷いてくれてるのはボータレイさんだ。おお、オネエさま、仲間!


「レイさん、ほんっとーにご苦労様です。心より応援しますよ」


「アリガト、カナエちゃん。アタシたち、いい友人になれそうね」


「はい!」


 ボータレイさんと手を取り合って、頷きあう。話の分かるオネエさんだ。ジャパン領のことは任せたよ、オネエさん。私はあなたに日本の未来を託す。


 その後、サリューとアマドさんのいる部屋に戻って、全員でアマドさんのお菓子を堪能した。ジラルダークと東堂さんが友人というのは意外だわ。ケーキ食べてる時も、特に会話らしい会話もないし。むしろ、私とボータレイさんとサリューで盛り上がってしまった。

 東堂さんは日本人だから魔法が使えないけど、ボータレイさんは魔法が使えるらしい。今度はアタシ一人で飛んでくるわね、って言ってた。なるほど、東堂さんの移動手段はボータレイさんの魔法なのか。


 そんなこんなで盛り上がってたら今日は遅くなっちゃったから、城に泊まっていくといいって魔王様が許可を出してくれた。よっし!久々にサリューと一緒にお風呂入ろうっと!

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