21.女子の時間
昨日、ギャップ萌え講義を行ったところ、三人とはちょっと打ち解けられた……気がする。ナッジョさんの口調から、少しだけだけど堅苦しさが抜けた。グステルフさんは終始難しい顔してたけど。イネスさんは私に色々言われて結局涙目になってた。
で。今日のおやつタイムには、エミリエンヌ、イネスさん、ダニエラさんが来てる。魔神の女子がおやつ部屋に集結した形だ。
「んふー、女子だけのお茶会って、すごく女子力高いような気がするよ」
「魔神には女性が少ないですからね」
人数分の紅茶とケーキを用意しながら、ベーゼアが笑った。元々の作りが美人さんだから、笑うと破壊力抜群なのだ。最近、よく笑ってくれるもんね。少しでも気を許してくれたなら嬉しい。あ、今日はベイクドチーズケーキだ。美味しそう。
私の隣にはベーゼアとエミリエンヌ、向かいにダニエラさんとイネスさんがいる配置だ。今日のイネスさんはまだぷるぷるしてない。ダニエラさんは凛と背筋を伸ばして座ってた。ベーゼアが薔薇のような美人だとすれば、ダニエラさんは百合のような美人だ。
「女子だけ集まるのって難しくなかった?」
「うふふ、そうでもありませんわ。双子さえ抑えられれば後は簡単ですの」
「なるほどー」
隣のエミリエンヌが、可愛らしく笑いながら言う。私はケーキを食べながら頷く。正面のダニエラさんは、どこか不服そうにエミリエンヌを見ていた。
「私の世界ではね、こういうのを女子会っていうんだよ」
「あら。楽しそうな集まりですわね。殿方の前では出来ないお話をするんですの?」
「そうそう。後は愚痴ね」
「うふふ、では、カナエ様の愚痴をお聞きしましょうか。殿方の前ではお話出来ないような愚痴」
くすくすとさえずるように笑いながら、エミリエンヌが意味深な視線を向けてくる。見た目に反して大人な幼女さんだ。
「えー。私としては、魔神女子の恋模様が知りたい。エミリは好きな人いないの?」
「魔神の男性陣では物足りませんわ。どなたも子供過ぎますの」
「わあ。エミリは大人だね。気になる人もいない感じ?」
「そうですわね……、強いて言うならば、ヴィーでしょうか」
ゆ、幽霊さんか。肌の白さ的には釣り合いが取れてなくもないけども。エミリエンヌの好みってああいう系か。浮世離れ、してるのが好きなのかな?私は勘弁願いたい。
「ほ、ほう……。ベーゼアは?」
逆隣に聞くと、ベーゼアは苦笑い混じりに紅茶を口にした。悪魔の矢印尻尾は風にでも揺れるようにふわふわしてる。ご機嫌はいいみたいだ。
「私は……、考えたこともなかったですね」
「こう、いいなー、とか、尊敬するなー、とか思う人は?」
「カナエ様ですわ」
わーお。美人さんから告白されちまったぜい。……って、ベーゼアは天然か。気になる男子を教えろ、男子を。私は一応女子だ。
「ベーゼアったら。私は男じゃないよ」
「尊敬する方を、とのお話でしたので、つい」
「うふふ、ベーゼアはカナエ様にべったりですものね」
エミリエンヌは微笑ましそうに笑ってる。ベーゼアも冗談を言えるようになったか。ちょっとずつ仲良しになれて嬉しいな。
ベーゼアは他に誰がいますかとばかりに首を傾げてるので、私は正面に視線を向けた。
「じゃあ、ダニエラさんは誰か好きな人いますか?」
背筋ピンとしてるダニエラさんに話を振ってみる。私にとってのダニエラさんって、髪の毛が奇抜なだけの美人なおねいさんという認識だ。面と向かってお話するのはこれが二回目だしね。
ダニエラさんは、驚いたように目を見開いた後、呼吸を整えるようにゆっくりと息を吸った。
「妾は……」
わらわとな!?そ、そうか、ダニエラさんの一人称はわらわ、なのか。古風だなぁ。
「そのような浮ついた考えなど持ち得ませぬ」
「おお」
一蹴されてしまった。優等生タイプなのか、ダニエラさん。こういう話題は嫌いなのね。ごめんよ、振ってしまって。
「あら、つまらないですわ。折角の女子会なのですから、お答えなさいな。ダニエラだと、アーロ辺りかしら?」
「え、アロイジアさん?」
チャラ男と優等生、か。むう。まぁ、王道の組み合わせではあるよね。真面目な委員長キャラを横からいじるチャラ男……、気に喰わないと思っていたお互いが、いつの間にか気になる存在に、ってヤツ。
「何を馬鹿げたことを……。妾は、あやつを認めたことはございませぬ」
「ふむふむ。まだツン期、ということですな」
「ええ、デレ期が楽しみですわね」
エミリエンヌには、ツンデレが伝わった。他三人はツンキ?デレキ?と首を傾げてる。さすが、博識だなぁ、エミリエンヌ。
「で、イネスさんは?」
「……あたしは、そのっ」
昨日の洗脳、もとい、教育の賜物か、イネスさんがだいぶ私に慣れてくれた。けども、話題が話題だからか、イネスさんの視線は泳ぎっぱなしだ。
「グスティを、尊敬してます……」
「おお!ついに来た!甘酸っぱい恋バナ来たよ、エミリ!」
「待ち侘びましたわ」
小さくなってもぞもぞと呟いたイネスさんに、私は目を輝かせる。やっぱりね!女子会といえば、愚痴と恋バナ!これに限るね!
「んふふ、グステルフさんかぁ。なら、尚更イネスさんの魅力を分かってもらわないとだね!」
「あ、あたしはそんな!た、ただ尊敬しているというだけで……!」
「恋は女を変えますわ。うふふ、私も協力致しましてよ、イネス」
「となりますと、まずはグスティの好みを知らねばなりませんね」
ベーゼアも乗り気なようで、にっこり笑いながら言った。ダニエラさんはちょっと驚いたようにベーゼアを見てる。
「意外だな。ベーゼアもそちら側か」
「ええ。私はカナエ様をお慕い致しておりますから」
満面の美人スマイルを向けられてしまった。いやぁ、照れるね。
「うふふ、私もカナエ様のことをお慕い申し上げておりますわ」
「ありがと、ベーゼア、エミリ」
美人さんとカワイコちゃんに挟まれて告白される日が来るなんて、日本にいた頃には考えもしなかったなぁ。というか、旦那様が魔王様ってこと自体、想像なんて出来なかったけどね。
「では、最後にカナエ様の番ですわ」
「私?」
エミリエンヌに言われて、私は首を傾げる。
「私はだって、魔王様いるよ?」
「のろけでも愚痴でも構いませんわ。魔神には既婚者がおりませんもの。恋愛というものが分からないものもおりますわ」
「ふーむ」
ジラルダークののろけか愚痴、か……。うーん……。
「そうだねぇ……、魔王様には訳も分からないうちに拉致られてお嫁さんにされたからね。結婚生活っていう感覚はあんまり無いかも」
「それは……、そうかもしれませんわね」
エミリエンヌは白い頬っぺたに小さな手を当てて、困ったように微笑む。
「でも、魔王様のことは、ちゃんと好きだよ。強引に娶られてから相手を知って好きになる、っていうのも、恋愛としてはあんまり参考にならなそうだけどね」
恋愛、というか、既に結婚してしまっている私の話は一般的とは言えないと思う。彼氏彼女すっ飛ばして、お見合いも何も無くお嫁さんになってるもんなぁ。強いて言うなら、今が恋愛期間かな。
それに、私とジラルダークだとスタート地点が違うもんね。魔王様、ストーキングしてたから、私のことは知ってたんだもんね。今更感はあるけども、どこまで覗かれてたのか、魔王様に聞いてみた方がいいのかもしれない。
「……ただ、魔王様方式はあまり成功確率が高くないと思うよ」
「まあ。何故ですの?」
「ものっすごい要約すると、ストーカーが被害者拉致監禁して無理矢理結婚した、ってことだから」
「「…………」」
言葉にしてみると、かなり酷い。文字通りの魔王様だったら、勇者とかが助けに来ちゃいそうなシチュエーションだ。いや、私は別に被害者とは思ってないけども。ちゃんと魔王様のことが好きだよって前置きしたもんね。
絶句してる四人のうち、復活が早かったのはエミリだ。さすが、年の功。
「改めて言われますとそれは……、犯罪ですわね」
「人によってはねぇ。私はここに来れてよかったって思ってるから、問題ないけどさ」
「……ご不安やご不満が少しでもおありでしたら、我々に遠慮なくお話下さいませ、奥方様」
やけに真剣な表情でダニエラさんが言う。どうした、ダニエラさん。ベーゼアもイネスさんも隣でこくこく頷いてる。
「う、うん、分かった」
あまりに真剣な表情だったから、頷いておいた。不安も不満もないけどね。みんな優しいし。ジラルダークも、最初の拉致が強引だっただけで、後は至って紳士的だ。文句言ったら罰が当たるね。
女子会、というにはちょっと方向がおかしかったかもしれないけど、やっぱり女同士のおしゃべりって楽しいな。
また今度、ベーゼアにお願いして女子会開いてもらおうっと。