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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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20.茶室のひととき

 魔王様の一声にて、数日で私用おやつ部屋が出来ました。……アホか。やっぱり、魔王様はアホなのか。どんだけ私を甘やかすんだ。しかも、突貫工事させた割に、すんごい内装凝ってるし。まぁ、ベースが悪魔城だから、やっぱりホラーハウステイストなんだけどさ。

 そして誰かが作ったのか、もしくはどこから取り寄せたのか、この部屋も骸骨さんで満ちてる。もう何か慣れた。頭蓋骨の中に蝋燭入ってるのも慣れた。


 ベーゼアから話を貰って、私は今日もおやつ部屋に来てる。初日はエミリエンヌとノエ、ミスカ、翌日はホラー同好会三人組、昨日はアロイジアさんと再びのノエ、ミスカコンビが来てくれた。

 ちなみに、エミリエンヌ、ノエ、ミスカのちびっ子トリオは初日に呼び捨ててくれって迫られた。まぁ、私より年下みたく見えるし、ベーゼアにも言われてるしで呼び捨てることにした。ホラー同好会は何かもう、ハチャメチャだった。常識人フェンデルさんがいてくれてよかった、と心から感謝したよ。


 そうそう。この部屋のテーブルは五人掛けだ。それもあって、ちゃんと魔神同士で来る人数を調整してくれてるらしい。


 んで、今日来てるのは、実は私が待ってた人でもある。


「さあさあ!ケーキを食べるがいいですよ、イネスさん!」


「は、はい、奥方様……!」


「カナエって呼んで下さい、イネスさん!」


「しっ、しかしっ……!お、お待ち下さい、奥……カナエ様!給仕ならばあたしがっ……」


「ここは私のおやつ部屋です!部屋の主が、お客さんをもてなすのは常識ですよ!」


 ああ、イネスさんがぷるぷるしてる。かわいい……。


「ほら、座って!紅茶がいいですか?コーヒーがいいですか?」


「ううう……!べ、ベーゼア……!」


 自分じゃ私を止められないと思ったのか、イネスさんが部屋の壁モードのベーゼアに助けを求めた。でもベーゼアは、ついっと視線を逸らした。

 ふふふ、甘いな、イネスさん!ベーゼアには既にお願い済みなのだよ!私がイネスさんに構ってる間、見ない・聞かない・言わないでいてちょうだいって。んっふっふ、私はベーゼアと仲良しなのだ!


「ね、紅茶?コーヒー?それともジュース持ってきましょうか?」


「うううう……!こ、紅茶……、で、……お願いします…………」


 イネスさんがポットに手を伸ばそうとするけど、私が持っちゃってるから奪うに奪えない。私を押さえつけて奪う、ってなると、私に触らなきゃいけないからだ。アホ魔王が出した、私に触るなって命令も、変なところで役に立つものだ。


「はーい!」


 カップに紅茶を注ぐ私を、唖然呆然と見ているのはナッジョさんとグステルフさんだ。うん、悪いね二人とも。私は今、イネスさんいじりに忙しいのだ。二人はベーゼアに注いでもらうといいよ。


「どうぞ、イネスさん」


「あ、あああ……、あたしは、奥方様に、何という……!」


 イネスさんが頭を抱えて絶望し始めてる。面白いなぁ。にまにま笑いながらイネスさんを眺めていたら、ベーゼアが苦笑い混じりに近付いてきた。


「カナエ様、その辺りでお許し下さいませ」


「えー、もう?」


「私はよいのですが、グステルフとナッジョも驚いておりますでしょう?これ以上は、こちらの二人が止めに入りかねません」


「うん、じゃあ、また今度だね」


「はい」


 にっこり笑うベーゼアに、私も笑って頷く。ベーゼア、最初の頃と違って、だいぶ柔軟になってきたな。うむ、いい傾向だ。

 ベーゼアは私に紅茶を、強面さんたちにはコーヒーを淹れてから、自分用に紅茶を用意した。座るのは私の隣だ。おやつ部屋に来た当初はずっと立とうとしてたけど、私のおやつ部屋ではそれは許さない。一緒におやつを食べるのだ。


「え、ええと、奥方様……」


 一段落して最初に声を上げたのは、海坊主のナッジョさんだった。強面にケーキの図、ってシュールだな、うん。


「はい、なんでしょうか、ナッジョさん?」


「その……、イネスには、どうしてそのような扱いを……?」


 恐る恐る聞いてくるナッジョさんに、私は満面の笑みで答える。


「可愛いからです」


 言い切った私に、ナッジョさんもグステルフさんもきょとん顔だ。そういう表情を常にしていれば、怖くないのにねぇ。そして、視界の隅で真っ赤になって縮こまってるイネスさん。これが可愛いのだよ、強面二人組。


「そうそう、このおやつ部屋では無礼講なのです。畏まられても、私が疲れちゃいます。あんまりにも酷かったら、陛下にチクリます」


「「!」」


「カナエ様はとても臨機応変な方でいらっしゃいます。外ではきちんと奥方様として振舞われるのでご安心下さいませ」


 私の隣で、ベーゼアが付け加えてくれる。必要ならば、魔王の后の演技を頑張ります。けど、おやつ食べながらそんなことしてたら、ろくにケーキの味も分からないじゃないか。元より悪魔は貴族と違う、硬くなる必要はないぞって魔王様も言ってくれたもんね。


「というわけで、無礼講でどうぞ」


「……と、おっしゃられましても……」


 グステルフさんが、困ったように眉間に皺を寄せた。おお、殺人鬼さんのレベルが上がっていく……!顔面だけで、無差別大量殺人犯だ。


「徐々に慣れていってもらえれば嬉しいです。無礼講の見本としては、私がイネスさんを構う様子を参考にして下さい」


 えぇ!?とイネスさんがこっちを向いたが、これは無視だ。決定事項だもの。


「ね、ベーゼア」


「はい、カナエ様」


 頷きあう私たちに、ナッジョさんはひくひくと頬っぺたをひくつかせてる。習うより慣れろだよ、ナッジョさん。大丈夫、君なら出来る。


「そういえば、このおやつタイムの人選ってどうやって決まってるんですか?」


 私はチョコレートケーキをフォークで切りながら、三人に聞いてみた。頷いたのはグステルフさんだ。


「我々魔神のうち、執務の間で都合のつく者同士で話し合っております」


「んー、10点です」


「……は、」


「堅苦しいです。100点満点中、10点です」


「!」


 んもー、グステルフさんは融通が利かないな。にこやかで爽やかに話せ、なんて無理難題は言ってないのに。


「そうですかー。話し合いで魔神さんたちが来てるってことは、ノエとミスカ、強そうだね」


「そうですね。あの二人が駄々をこねたら長いですから。もう二回も参りましたでしょう?」


 ベーゼアが苦笑い混じりに答えた。確かに、あの双子は駄々っ子になりそうだ。その姿が簡単に想像できて笑ってしまった。


「一日三人まで、と狭き門ですから。皆、必死ですわ」


「ふふ、魔神さんたちとゆっくり話せるのは嬉しいけどね。それに、ケーキもみんなで食べる方が美味しいし」


 今日のチョコレートケーキも非常に美味だ。甘すぎず、くどすぎず、それでいて芳醇なカカオの香りが口いっぱいに広がる。うまうま。


「イネスさんも、食べて食べて」


「は、はい。頂きます」


 イネスさんってば、ガッチガチに緊張してる。ワタシ、コワクナイヨー?


「んもう、イネスさん。そんなに緊張しないでくださいよ。ちょっといじめすぎちゃったかなぁ?」


「そ、そのようなことはっ……」


 ぷるぷると首を振るイネスさんはもう、涙目だ。気弱なゴールデンレトリバーが脳内に浮かぶ。抱っこすると、おっかなびっくりで腰が引けちゃう感じの子。でも、無理矢理振りほどけずにわふわふ困った顔しちゃうような、そんなワンコだ。


「ちなみに、イネスさんっていつもこんな感じでぷるぷるしてますか?」


 強面二人組に聞くと、二人揃って首を振った。やっぱり原因は私か。ぷるぷるイネスさんも可愛いけど、もうちょっと耐性をつけてもらわないとね。いじめたいわけでも泣かせたいわけでもないし。


「あ、あの、奥方様……」


「カナエです」


「かっ、カナエ様……。あたしは、カナエ様がおっしゃるほど、可愛くはありません……。馬鹿力で、愛嬌もないですし……」


 徐々に俯きながら言うイネスさんの手を、私は横から握った。イネスさんの肩が、びっくぅ、とものすごい跳ねた。


「いいですか、イネスさん。イネスさんの可愛さは、そんなモンじゃないんですよ」


 分からないかな、この感覚。見た目はアマゾネスで、強面二人組と行動を共に出来るほど肝も据わってるのに、女の子扱いされると照れちゃうっていうこの、萌え。フリフリのドレスとか着せられて照れてモジモジしちゃう、このギャップ。


「いいでしょう。三人には、少々お勉強をしてもらいましょうか」


 ぎゅ、とイネスさんの手を握り締めて私は頷いた。今日のおやつタイムはお勉強のお時間だ。

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