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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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19.奥様の午睡

 宴を開いてもらった翌日、ジラルダークは早速、茶室の用意をさせていた。いや、昼過ぎに、だけども。今の今まで魔王様、寝室にいたけども。さっきまで、スッポンポンだったけども。そして、私は精根尽き果ててベッドに倒れてるけども。

 うん、酔ってた……、とは思う。でもね、一応、魔王様に抱っこされて、大広間を出たところまでは覚えてるんだよ。そこから先の記憶がない、んだよねぇ。


 朝起きてジラルダークに聞いたら、抱っこされたまま寝ちゃってたらしい。んでもって、ジラルダークは私が起きるのを待ってたらしい。そのまま抵抗する間もなく組み敷かれてしまった。

 そうだね、ここのところ、何もしないで寝るってことはなかったもんね。必ず一回はしてたもんね。……一日ぐらい我慢できないものか、魔王様。というか、寝ろ。何、悶々と徹夜してるんだ。お前は男子中学生か。


 そんなこんなで、私が活動できるようになったのは、お昼を随分と過ぎてからだった。疲れた。腰がだるい。


「昨日の宴でお疲れになってしまわれましたか?」


 紅茶を注いでくれてるベーゼアが、心配そうに尋ねてくる。私は、苦笑いで首を振った。これは昨日じゃなくて今日の疲れだ。犯人は魔王様だ。


「ううん。楽しかったから、中々寝付けなくて」


 紅茶を受け取って、ベーゼアに微笑む。今日のベーゼアは、いつものボンデージスタイルだ。ドレスも可愛かったけど、こうして矢印尻尾が見えるのもいい。ふわふわとご機嫌に揺れる尻尾は、いつ見ても可愛い。


「私たち魔神も楽しませて頂きましたわ。きっとお茶室が出来ましたら、皆、カナエ様の下へ通いますでしょうね」


「わ、私はそんな、大層なもんじゃないよ……?」


 若干引き気味に答えると、ベーゼアがくすくすと笑った。うんうん、美人さんだね。癒されるね。


「皆、カナエ様と仲良くなりたくてうずうずしておりますから」


「えぇー」


 幽霊さんとか殺人鬼さんがうずうずしてるようなら、全力でお断りしたい。エミリエンヌさんやイネスさんみたく、可愛いオナゴならばいつでもウエルカムだけど。


「主に、ノエとミスカでしょうか」


「ああ、ノエさんとミスカさんか」


 そういえば、また遊びに来るよ、って前に言ったもんね。あんまり邪魔しちゃ悪いかなって思って、あれ以降、鍛錬場には顔を出してないもんなぁ。


「カナエ様、我々魔神に敬称は不要ですよ。特にノエとミスカなど、呼び捨てて頂いて構いませんわ」


「んー、確かに見た目は年下だけど、実年齢は年上だからねぇ」


「ですが、エミリエンヌと違って、二人の精神年齢は子供のままですから」


「ああ、そうだね。100歳超えてるようには見えないね」


「むしろ、エミリエンヌが特殊なのです。あまり意識はしていませんが、私も老婆を超えた感覚かと問われれば、そうではないと思いますので」


「おお、そういうものなのね」


 それもそうか。じゃないと、ジラルダークは超おじいちゃんってことになってしまう。あんだけ元気なおじいちゃんっていうのも、違和感あるもんね。


「じゃあ、見た目の年齢が上っぽい魔神さんだけ、さん付けにする」


「ふふっ、きっと皆から迫られますわ。私やノエ、ミスカを呼び捨てているようなら自分も、と」


 悪戯っぽく笑ってから、ベーゼアは小首を傾げた。私はベーゼアに微笑み返したまま同じように首を傾げる。どうしたんだろう?


「お疲れのようですね。何か甘いものを用意させましょうか」


「えへへ、そうだね。あると嬉しいかも」


「畏まりました。すぐにお持ちいたします」


 ベーゼアはぺこりと頭を下げた後、扉の方に行ってしまった。私は、ほどよく冷めた紅茶を飲みながら、ほっと一息をつく。

 こういう紅茶とか料理って、誰が作ってるんだろう?メイドさんとか給仕さんは見たことあるけど、コックさんって見たことないな。今度、ジラルダークに聞いてみよう。いつも出されるケーキ美味しいし、お礼が言いたいもんね。


 のんびりと紅茶を飲みながら、ちらりと扉の方を窺う。ベーゼア、走っていったのかな?途中でドジッ子メイドみたくお皿をぶちまけないように気をつけてね。


「ふわぁ……」


 紅茶を飲み終えて、私はあくびをした。昨夜はぐっすりしっかり寝たのに、今朝の運動でお疲れ度MAXだ。んー、眠い。


 ベーゼアが戻ってくるまで、ちょっとお昼寝しようかな……。



◆◇◆◇◆◇



【ジラルダーク】


 カナエ用の茶室を作るよう指示を出して、俺は執務室に戻った。領地もまもなく本格的な冬を迎える。極端に天候が悪化する地域には、魔法で天候を調整するためにトゥオモかダニエラを派遣しなければならない。場合によっては、俺が直々に出向かなければならなくなる。

 カナエにはいずれ領地を案内しようと思っているが、春が訪れてからの方がいいだろう。元々、不毛の地であった悪魔の地は、寒暖の差が激しい地でもある。真冬など、立っているだけで凍死しそうな場所だ。女性の身には辛かろう。


「陛下、失礼致します」


 報告書を精査してると、ベーゼアが執務室の戸を叩いた。入れ、と告げれば、ベーゼアが困惑した表情で入ってきた。


「何事か」


 ベーゼアがここに来るということは、カナエに何かあったのだろうか。俺がそう思って遠視の魔法を発動する前に、ベーゼアが口を開いた。


「奥方様が午睡を楽しまれていらっしゃるのですが、場所が場所でございまして……」


 その言葉に、俺は魔法を発動した。覗いて見れば、カナエは茶を飲んでいたらしい、が、飲み終えてそのままテーブルに突っ伏している。


「私が抱き上げてよいものか、と思いまして、ご確認に参りました」


 成程、カナエには触れるな、と命令してあるからな。今回は確認しに来たというわけか。仕方あるまい。これに免じて、以前カナエの手に触れたこと、水に流してやろう。


「分かった。ベーゼア、お前はこのまま鍛錬に向かうといい」


「は。畏まりました」


 残りの報告書を抱えて、俺は席を立った。急ぎのものは既に済ませてあるから、滞ることもあるまい。


「それと、鍛錬が済んだら一度部屋に来い。お前の魔力量を見る。領地の天候によっては派遣することもある故、覚えておけ。内容はダニエラかトゥオモに確認しろ」


「は」


 ベーゼアは跪いて頷く。伝えるべきことは伝えたか。……さて。カナエのもとへ向かうか。廊下を足早に歩いて、私室へと向かう。少し奥にある部屋は、俺とベーゼア、それに数人の使用人のみが入れる区画だ。


 部屋に入ると、一部屋挟んだところにカナエはいた。窓辺に近い猫足のテーブルは、カナエに合わせて誂えたものだ。気に入っているようで嬉しい。カナエは、魔法で覗いた時と変わらず、テーブルに伏して寝ていた。今朝は無理をさせてしまった自覚はある。つい、な。


 寝ているカナエの背と膝裏に腕を入れて、なるべく揺らさぬように彼女の体を抱き上げた。ん、とカナエの口から声が漏れたが、起きるほどではなかったらしい。また規則正しい寝息に変わった。

 軽く額に口付けて、カナエを寝室へ運ぶ。ベッドに下ろすと、カナエは自然と寝やすい体勢に動いた。もぞもぞと動く姿がおかしくて、俺は喉を鳴らして笑う。顔に流れてしまった髪を梳いてやれば、カナエのやわらかな頬が覗いた。昨夜、一晩中眺めていた寝顔だが、いくら見ていても飽きないな。


「んー……」


 ころん、とカナエが寝返りを打った。俺のいる方へ体を向けたのは、偶然だろうか。悪戯心を擽られて、緩く閉じられているカナエの手に指を入れてみる。すると、彼女の手はオジギソウのように反応して、俺の指を握った。やわらかいカナエの手の感触に、俺はごくりと唾を飲んだ。


「……カナエ」


 あまり午睡を取りすぎても、夜に眠れなくなってしまうかもしれない。そろそろ起こして、適度に運動させてやらないとな。……と、自分に言い訳をしておく。


 俺はすやすやと眠るカナエに覆い被さって、彼女の唇を塞いだ。抵抗も無く重なったやわらかな唇に、舌をねじ込む。急に口内へ訪れた感触に驚いたのか、俺の指を握っていたカナエの手が震えた。


「ん……、っ!?」


 ゆっくりと動いた瞼が、一気に開かれる。俺の指を掴んでいた手も離れてしまった。代わりに、こぶしを作った手で胸元を叩かれる。名残惜しく思いながら口を離すと、カナエは大きく呼吸を繰り返した。


「な、な、何事?!」


「おはよう、カナエ」


 慌てるカナエの額に唇を落としながら、そのしなやかな腰を撫でる。俺の下で身じろいだカナエは、頬を染めて俺を睨みつけた。潤んだ瞳に、ぞくりと腰が震える。


「おはよ、って、私、テーブルでおやつ食べてたはずなんだけど」


「そうだな。そのまま昼寝をしていたから、こちらに運んだ」


「ありがとう。で、何でこの体勢?」


「俺も間食にしようと思ってな」


「間食って私か!私を食べようってことか、魔王様!」


「左様。甘んじて魔王に食されるがいい」


 ふざけて笑いながら言うと、カナエが唇を尖らせる。俺は指通りのいい髪を撫でて、カナエの目元に口付けた。カナエは俺の腕を軽く叩きながら視線を左右に走らせる。状況を確認したところで、逃がしてはやらんがな。


「ジル、仕事は?」


「残るのは瑣末なものだけだ。急ぎは済ませてきた」


 カナエが纏っている服の肩紐に指を掛けながら、こめかみから頬へと唇を滑らせる。息を飲んだカナエの微かな声が、耳元を擽った。抵抗されることなく、白い肌が曝け出されていく。カナエは観念したように俺の髪を撫でた。その手に唇を寄せると、困ったように笑う。俺へだけ向けられる笑顔に、この上ない愉悦を感じた。せり上がる欲望のままに、俺はカナエの腰を深く抱く。


「もう……、ばか……」


 囁かれた声は、俺の脳を甘く溶かした。

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