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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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2.奥様のお披露目

 あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ。私は村で平和に農業していたと思ったら、魔王に攫われて魔王の配下の巨乳美人に着せ替え人形にさせられていた。な、何を言っているのか分からねーと思うが以下略。


 結局、私は用意されたドレスの中で一番際どくないものを選んだ。肩はフルオープンだけども。これが一番まともってどうよ。そして、ジラルダークが待ってる部屋に案内される間、ベーゼアさんはご機嫌だった。矢印尻尾がひよひよ揺れてるから、ご機嫌なんだろう、多分。なにこれ可愛い。掴んでみたい。


「陛下、奥方様のお支度が整いました」


 ベーゼアさんが声をかけるが早いか、部屋のドアが勢いよく開いた。飛び出てきたのは魔王様だ。


「おお、カナエ!待ちわびたぞ!」


「っひぇ!?」


 駆け寄るや否や抱き上げられて、部屋の中に連れ込まれた。私はしがないパンピーです。急な振動、衝撃に弱いので、取り扱いにはご注意あそばせ、魔王様。


「ああ、やはりお前は愛らしい……。先程の素朴な出で立ちも堪らなく可愛らしかったが、こうして飾れば尚引き立つな」


「ちょ、褒めすぎだよ、ジラルダーク。恥ずかしい」


「ふふ、照れることはあるまい」


 言いながら、ジラルダークはまたもや髪の毛やら額やらに口付けてきた。この色ボケ魔王め。私はパンピーなんだぞ。どっかのお姫様じゃない。麗しくもなければ、褒め言葉耐性もあるわけがないじゃないか。

 照れ隠しに唇を尖らせていると、傍に控えていたベーゼアさんが、陛下、と声を上げた。


「ああ、集まったか。魔神たちにカナエを披露せねばな」


「まじん?」


 ジラルダークに抱っこされたまま尋ねると、イケメン全開の魔王スマイルが返ってくる。やめてください、眩しいです。


「そうだ。ベーゼアを含む、我が配下の実力者たちだ」


「おお、ベーゼアさんもなんだ。すごいね」


 魔神、かぁ。魔王軍っぽいね。ベーゼアさんも実力でのし上がった人なのか。というか、もしかしたら魔王様の配下で実力者っていうなら、人間界でも有名なんじゃなかろうか。ほら、魔王と人間って戦うものだし。

 そういえば、私、魔王様のことについて何も知らないな。村でも特に話題にはならなかったけど、もしかしたらあんまりにも常識すぎて教える項目に入ってなかったのかな。この世界に関するあれやこれやはたくさん教えてもらったもんね。村のみんな、魔王様が現れて戦々恐々としてたし……。


「私、世間知らずだ……。知らないことばっかりで面倒だよね。ごめんね、ジラルダーク」


「何を……。俺の知っていることならば全てカナエに教えよう」


 慰める、つもりなのか。魔王様は私の額に頬っぺたを摺り寄せてきた。ちょ、化粧が剥げる!MPが削られる!ベーゼアさんも、ほっこり見てないで止めてくれ!


「参りましょう、陛下」


「ああ、行こう」


 意気揚々と歩き出した魔王様に、ベーゼアさんが音もなくついてくる。え、私?魔王様に抱っこされたままだよ!たまに尻の辺りを撫でてくる魔王様の手をつねったり叩き落としたりしてるだけだよ!セクハラ反対!


 到着したのは、これまたどこのラストステージですかと問いただしたくなるような、悪魔召喚の間、もとい、謁見の間だった。

 頭蓋骨に蝋燭はデフォルトとして、骨で作られた玉座からは血のような赤い絨毯が続いている。その先に、跪いてる方々が複数いらっしゃった。どちら様も、カタギには見えない。ホラー耐性があってよかったわ。じゃないと、絶叫系お化け屋敷だ、ここは。


 ベーゼアさんは、跪いてる方々の傍に行くと、同じように跪いて頭を垂れた。こういう光景を見ると、このアホ魔王様が本当に魔王様なんだなと実感するわ。


「皆、面を上げよ」


 玉座に腰を下ろして、ジラルダークが重々しく声をかける。許しを得た魔神さんたちは、機敏な動作で顔を上げた。うお、顔が殺人鬼みたいな人から子供まで、多種多様だな。ベーゼアさんは美形だったんだね。

 十二人いる魔神さんたちは、なんと、とか、あれが奥方様、とかどよめいてる。ごめんなさいね、パンピーの村人で。しかも魔王様の膝の上からこんにちはでございますからね。


「お前たちを呼び出したのは他でもない。我が妻、カナエ・ノノムラを周知せんが為である」


「おお……!」


「お后様……!」


ざわっ、ざわっ。


 ってあれ、これって私も挨拶したほうがいいのかな?えーと、成り行きのまま魔王様に嫁ぐことになりました村人です、ってか?

 そう思って私を抱えているジラルダークを見上げる。私の視線に気付いたジラルダークは、魔王様としての強面を解除して微笑んだ。おい、魔神さんたちが更にどよめいたのは何故だ。


「カナエ、彼等が十二の魔神、俺の配下だ」


 こくりと頷くと、ジラルダークが私の頭を撫でた。大きな手だなぁ。……って、何故、魔王様が何かするたびにどよめくんだ、魔神さんよ。もしかして、魔王様って配下に向ける態度と私への態度が180度違うのか?


「カナエの側仕えはベーゼアとする。異存はあるか」


「陛下、発言のお許しを頂きたく存じます」


「許す」


 鋭く返したジラルダークは、確かにさっきまでとは別人だ。威風堂々としている、のはいいんだけど、私を膝に抱っこしたままだから違和感が凄まじい。

 発言を許されたのは、オールバックの殺人鬼みたいな顔したおじさんだ。年齢は分からないけど、見た目が殺人鬼すぎる。


「奥方様の護衛は如何致しましょう。ベーゼアだけでは、些か力不足では」


「ッ……!」


 殺人鬼さんの発言に、ベーゼアさんがびくりと肩を揺らした。憎々しげに殺人鬼さんを睨んでる。あの凶悪顔を睨みつけられるなんて、さすが魔王軍。

 ていうか、左端のイガグリ頭のオジサン、杖の先の水晶に手をかざして何してるんですか。怪しげな光が漏れてますが大丈夫ですか。


「ね、ねぇねぇ」


 努めて小声でジラルダークに話しかけると、聞きやすいようにちょっと体を曲げて耳を寄せてくれた。ついでだから耳元に手を置いて、内緒話みたく話してみる。


「あの左端の人は何してるの?水晶みたいの光らせてるよ」


 私の言葉に、ジラルダークはゆっくりと指先をイガグリ頭さんのほうへ向けた。爪伸びてるなぁ、魔王様。黒いマニキュア塗ってあるし。


 とかってのほほんと眺めてたら、何か魔王様の指先から光線が出たー!!キュンって変な音したー!!イガグリ頭さんの足元が弾けて崩れたー!!びびび、びっくりした!びっくりしすぎて、魔王様に思いっきり抱き着いちゃったじゃないか!


「すまない、驚かせたな」


 ぽんぽん、と魔王様の手が私の背中を叩く。抱き着いちゃった腕を解くと、こめかみにキスされてしまった。


「フェンデル、我の前で何を見ていた」


「も、申し訳ございませぬ!」


「何を見ていた、と問うておる」


「は、奥方様の、お力を少々……」


 フェンデル、と呼ばれたイガグリ頭さんに、ジラルダークはもう一度光線を放った。ひ、と声を上げてフェンデルさんが仰け反る。


「今後、我の許可なく王妃に触れること、覗くことを禁ず。例外はない」


「は、申し訳ございませぬ!」


 怒りを含んだジラルダークの言葉に、フェンデルさんは慌てて土下座した。他の魔神さんたちも、魔王様の怒りの光線に驚いたのか土下座しちゃってる。


「それと、カナエの護衛であったか。ベーゼア、付ける者はお前に一任する」


「はっ。有り難き幸せ」


「グステルフ、必要があれば鍛えさせよ」


「かしこまりました」


 みんな、平伏したまま応える。確かに、この威圧感は逆らえないわ。私も土下座してしまいそうだ。


「他にあるか」


 尋ねても、誰からも質問は上がらなかった。むしろ、上げられない雰囲気だったと言うべきか。魔王様、パネェ。


「……以上である」


 重々しく言い放って、魔王様は私を抱っこしたまま立ち上がった。平伏する魔神たちを尻目に、さっさと退室してしまう。

 大丈夫かな、イガグリ頭さん。二撃目はかなりぎりぎりのところに当たってたような。


 スタスタと歩いてきた魔王様は、最初に案内された部屋まで戻ると私を床に降ろした。おう、久々の地面さんこんにちは。


「急ですまなかった。驚かせてしまったな。怖かったろう」


「ううん、びっくりしたけど大丈夫」


「そうか」


 どこか安心したように、ジラルダークは微笑んだ。魔神さんたちに怒ってた魔王様とのギャップが激しい。アホ魔王なんて思ってごめんなさい。


「やはり見ていたとおりだな、カナエは」


「え?」


 見ていた、ってどゆこと?


「ここへ招いたのも説明不足だった。どうも急いてしまってな」


「た、確かに急だったね」


「ああ。……そうだな、茶を用意させよう。長くなる」


 ジラルダークはそう言うと、テーブルの隅に置かれていた……骨?のベルを鳴らした。コツンコツン、って、それあんまり響かなくない?


「お呼びでございましょうか」


「茶を。それと、何か菓子を持て」


「承りまして」


 き、聞こえるんだ、あれで。やってきた小悪魔メイドさんにお茶とお菓子を頼んだ魔王様は、私を椅子に座るように促した。

 いちいちインテリアが骨っぽいけど、この椅子は木製らしい。そう思いたい。


 すぐに運び込まれたお茶とお菓子は、私の知ってるお茶とお菓子に見える。お茶の色は紅茶っぽい茶色だし、お菓子も焼き菓子特有の香ばしい匂いがしてる。


「俺たちは悪魔と呼ばれているが、別にニンゲンを喰らうわけではない。それも、ニンゲンの茶と菓子だ」


 おっかなびっくりしてるのが分かったのだろうか、ジラルダークが説明してくれた。そうか、悪魔って人間食べないんだ。

 お茶に口を付けた私を見て、ジラルダークはゆったりと背もたれに体を預ける。


「さて、どこから説明したものか……」


 続く話は、私に大きな衝撃を与えるものだった。

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