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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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17.祝福の宴2

 席に着いた私たちを待って、今度はチャラ男さんが目の前にグラスを置いてくれた。チャラ男さんが正装すると、尚更チャラくなるね。アロイジアさんはどう足掻いてもチャラ男だね。


「奥方様もお酒を嗜まれると聞き及んでおりますが、お注ぎしても宜しいでしょうか?」


 お前はホストか。前職はホストなのか。心の中でアロイジアさんに突っ込みながら、私は軽く頷いた。


「ありがとうございます、アロイジアさん。あの、私、あまりお酒には強くはないのですけれど……」


「畏まりました。では、甘い口触りのものをご用意させて頂きます」


 そう言うと、ノエさんとミスカさんがそれぞれにお酒の瓶を抱えてこっちに来た。二人とも、おめかししてて可愛い。親戚の子供が結婚式に参列したら、こんな感じなのかもしれない。ちびっ子タキシードは無敵だ。


「魔王様、ワインです!」

「お后様、ワインです!」


 どっちもワインかい!あ、いや、嫌いじゃないんだよ、別に。それぞれ持ってきたから、違う種類かと思っただけだ。

 えーと、私の方に来たのは、うん、垂れ目っぽい子の方だ。


「ありがとう、ノエさん」


「「!」」


「お后様が僕のこと分かりました!」

「お后様、ちゃんと覚えててくれました!」


「え?ええ……」


 そりゃあ、一回会ったもんね。強烈だもんね、魔神さんのキャラ。忘れる方が難しいよ。……ん?あれ?よく見ると、ノエさんって呼んだ方、ホクロが右目じゃなくて左目の下にある!あれれ?おっかしいぞー?この前見た時は、ノエさんが右目ホクロじゃなかったっけ?でも、垂れ目なのはノエさんだったような?


「よく分かったな、カナエ」


「ええと……、もしかして、ノエさんとミスカさんって、ホクロの位置変えて悪戯したりするのかしら?」


 感心したように言うジラルダークに聞くと、こくんと頷かれた。うっわ、なんてややこしい双子なんだ。これからは、目の垂れ具合で判断だな。


「流石は奥方様でございます。お恥ずかしながら、ノエとミスカの見分けは我々魔神でも間違えることがございまして……」


 アロイジアさんがワインのコルクを抜きながら笑う。こういう仕草が似合う人だなぁ。


「いえ、私も偶々ですわ。ふふっ、当たってよかったです」


 側にいたノエさんの頭を撫でながら、私はくすくす笑う。ノエさんの髪の毛、見た目通りにふわっふわだ。うん、いい手触り。えへへ、と嬉しそうに笑うノエさんに、私のハートはキュンキュンしっぱなしだ。可愛いは正義だね。


 アロイジアさんが注いでくれたワインを手に取って、ジラルダークへ視線を向ける。ジラルダークは穏やかに微笑んで、グラスをこっちに向けた。軽くグラスを掲げて乾杯すると、まずはジラルダークが口を付けた。それを確認して、私もワインに口を付ける。ふわりとぶどうのいい香りが鼻腔に広がる。追って、アルコールの熱が喉を流れていった。


 おー、久々のアルコール。ああ、でもアロイジアさんの言ってた通り、甘くて美味しいな、このワイン。


「良い出来だ」


「ええ、とても美味しいですわ」


 私たちの言葉に、アロイジアさんは微笑んで頭を垂れた。もう、礼の仕方一つとってもホストにしか見えない。安定のチャラ男だ。


 私たちがワインを口にしたのを合図に、次々と料理が運び込まれてくる。運んできてるのは、トゥオモさんと、フェンデルさんのホラー同好会組だ。


「さあさあ!陛下、奥方様!どんどんお召し上がり下さいませ!」


「あ、ありがとうございます、トゥオモさん」


「これ、トゥオモ。奥方様にそうせっつくでない」


 メインディッシュなのだろう、大きなお肉の塊をズイッと差し出していたトゥオモさんをフェンデルさんがたしなめる。


「しかしだね、フェン!今日はとてもおめでたい祝いの席なのだよ!そして、食事は楽しむものなのさ!」


 相変わらずテンションたっかいな、吸血鬼さん。そして、イガグリ頭さんが意外と常識人だ。ホラー同好会の会員なのに常識人とは、これいかに。


「ふふっ、お気遣いありがとうございます、トゥオモさん、フェンデルさん。頂かせてもらいますわ」


 ジラルダークの分と私の分とを受け取りながら、私は吸血鬼さんとイガグリ頭さんに微笑む。そうでしょうそうでしょう、と満足げな吸血鬼さんに、イガグリ頭さんは苦笑いだ。うん、苦労性だね、イガグリ頭さん。


 宴、というからには、きっと魔神さんたちも食べるんだろう。というか、衆人環視の中で魔王様と二人だけで食事とか、羞恥プレイ過ぎて死ねる。でも、魔神の誰も席に着かないしなぁ……。むしろ、今、私たちが着いてるテーブルは丸テーブルで、十二人も座れない大きさだ。え、これ、羞恥プレイ確定?


 そんなことを考えていたら、いつの間にかグステルフさんとナッジョさんが近付いてきていた。ちょ、迫力パネェんですけど。圧迫感凄まじいんですけど。


「陛下、奥方様。此度の宴にて、我々魔神より祝いの意を込めて余興を行なわせて頂ければと存じます」


「ほう?」


 余興とな?しかも、殺人鬼さんと海坊主さんが?ジラルダークも、ちょっと不思議そうだ。

 何をするんだろう?殺人鬼さんの殺人ショーとかだったら、吐ける自信があるぞ。私は魔王様の奥様だけど、戦争どころか殴り合いの喧嘩すらろくに見たことがないパンピーだ。海坊主さんの海洋パニックショーぐらいだったら、映画感覚で楽しめるかもしれない。見る分には、ってなるけど。


「よかろう。許す」


「はっ。御前を失礼致します」


 一礼して、グステルフさんとナッジョさんがテーブルの前に立った。心なしか、二人の顔面凶悪度が増してる気がする。殺人鬼さんは連続猟奇殺人上等、って顔してるし、海坊主さんは豪華客船ごと丸呑みにしてやるぜ、って顔してる。かなり怖い。

 そっと隣の魔王様に擦り寄ったら、魔王様が肩を抱いてくれた。ありがとう、魔王様。そしてアナタの部下の顔面教育を徹底して下さい。


「では、祝賀の舞をご覧あれ!」


 気合を入れて、グステルフさんが剣を抜いた。ナッジョさんも、合わせて剣を抜く。私はジラルダークに擦り寄ったまま、二人の演舞を呆然と眺めた。



◆◇◆◇◆◇



 結論から言おう。


 グステルフさんとナッジョさんの舞は、凄まじかった。何というかもう、凄まじすぎた。大剣と曲剣が宙を舞い、色とりどりのカラーボールがお手玉よろしく宙を舞い、ついでに二人も宙を舞った。カラーボールはお手玉の途中で二人の剣に弾かれ、室内の装飾に当てられていた。ピンクの骸骨が緑になったり赤になったり金になったり、舞台照明でも使ってるのかってくらい鮮やかで綺麗だった。

 最初はグステルフさんとナッジョさんの顔の迫力に気圧されてたけど、途中からはカラーボールショーに見入ってしまった。いやー、すごいね。魔神さんって多芸なのね。


 頭を垂れる二人にパチパチと笑顔で拍手を贈った。全力で賞賛したい。強面二人組、立派なショーだったよ!


「凄いですわ!思わず見入ってしまいました!」


「は、ありがたき幸せ」


「うむ。見事だった。妻もかように喜んでおる」


 満面の笑みで拍手を贈る私を見て、魔王様はほっこり微笑んでる。グステルフさんとナッジョさんは、どこか安心したように跪いた。

 私たちの側にいたアロイジアさんが、青く光るワインの瓶を手に微笑む。そのワインにもカラーボールが当たったのか。


「お気に召して頂けましたでしょうか、奥方様」


「ええ、とっても!」


「それはようございました」


 雑技団に入れるよ、殺人鬼さん、海坊主さん!それか、筋肉の博物館に就職できるね!素晴らしいね!こんな特技があるなら、きっと顔が怖いだけで悪い人じゃないんだね!顔が怖いってところでだいぶ損してるね!


「よくやった、グステルフ、ナッジョ。褒めて遣わす」


 ジラルダークが、はしゃぐ私の頭を撫でながら言う。グステルフさんとナッジョさんは跪いたまま頭を垂れた。


「それと、アロイジア。余興とは、いい考えであったな」


 口元を吊り上げて言う魔王様に、アロイジアさんは苦笑いを浮かべる。あれ、何でアロイジアさん?


「ご存知でいらっしゃいましたか」


「我が気付かぬと思うたか。お前の差し金であろう?」


 おお、何ということだ。このカラーボールショーはアロイジアさんの提案だったのか。流石はホスト。人を楽しませる、喜ばせるコツを知ってるね。


「左様でございましたか!では、アロイジアさんにもお礼を申し上げねばなりませんね。ありがとうございます、アロイジアさん!」


 お礼を言うと、アロイジアさんが恭しく一礼をした。


「お喜び頂けたようで、幸いにございます。陛下と奥方様を祝福させて頂きたいというのは、我々魔神の総意にございますゆえ。無い知恵を絞らせて頂きました」


「そう謙遜せずともよい。お前の手腕を、我は買っているのだ」


「光栄にございます」


 ふむふむ。アロイジアさんは、こういう余興の企画が得意なのか。魔王様も認めるコーディネート力とは凄いね。


「お待たせ致しましたわ。陛下、奥方様、イネスを飾って参りました」


 と、タイミングを計ったかのように、エミリエンヌさんが大広間の中に入ってきた。ベーゼアとダニエラさんもいる。うんうん、圧倒されるくらいの美人さんたちだね。ダニエラさんは頭が蛇でうにょうにょだけど、顔立ち自体は凛とした美人さんだ。ナイスバディーだしね。


「さあ、奥方様にお見せなさい、イネス」


 ダニエラさんが背後に促すと、おずおずと人影が動いた。私は期待を込めて、身を乗り出す。


 あえて言おう。…………恥らう乙女は愛らしい、と。

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