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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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小話2.魔王の葛藤

★エミリエンヌからの忠告と、宴の許可

【ジラルダーク】


 カナエを魔神たちに紹介したが、どうも気が晴れない。彼等は俺の自慢の部下だ。俺への忠誠だけでなく、各々の能力も目を見張るものがある。

 だが、彼等がカナエを見る目が、俺を狂わせる。カナエは愛らしいし、人当たりもいい。魔王の后を演じようと必死になっている様も、見ていて微笑ましいものだ。


 それを、魔神たちが同じように感じるのが気に食わない。カナエを知るのは、俺だけでいい。万が一、魔神がカナエに惹かれてしまったら……。そして、カナエもそれに応えてしまったら……。


 その先を考えるだけで、俺はこの国を焼き尽くす自信がある。


「陛下」


 執務室で領内各地の報告書に目を通していると、エミリエンヌが入ってきた。室内には、俺とエミリエンヌのみ。他の悪魔は、俺の怒気を感じ取ってか、早々にいなくなっていた。


「陛下……、ダーク」


「……何だ?」


 書類から視線を上げると、腰に手を当ててこちらを睨んでいるエミリエンヌがいた。普段装っているビスクドールの面影はない。眉を吊り上げて口を曲げる、年相応の少女がいるだけだ。


「何だ、じゃないですわ。カナエ様のこと、お分かりになっておりますの?」


「カナエの?」


「溺愛し過ぎ、束縛し過ぎ、それから、カナエ様に負担をかけ過ぎですわ」


 エミリエンヌはそう言って、座っている俺を下から睨みつける。600年以上前に会った時から変わらない小さな体は、いっそ哀れだった。


「どういう意味だ、エミリエンヌ」


「そのままですわ。魔王陛下はカナエ様を潰したいんですの?」


「何だと!」


 机を叩いて立ち上がる。しかし、派手な音を立てた机にも眉一つ動かさず、エミリエンヌは俺を睨んでいた。


「カナエ様はまだ、あちらの世界の人間のままの感覚でいますのよ。ニホンという国は、戦争も捕虜も奴隷もない、とても穏やかで自由な国ですわ。私や、ダークの世界とは違って」


 それは知っている。悪魔の中にも、ニホンという国から来た悪魔が何人もいる。俺の友人の一人もそうだ。そして、あちらの世界の情報や知識は、全て俺のところまで上がるようになっている。知識として、俺はニホンがどのような国かは分かっているのだ。しかし、それでは足りないらしい。エミリエンヌは更に表情を歪めた。


「そのカナエ様を日がな一日部屋に閉じ込めて、魔神にもろくに合わせないとは……。潰したいとしか受け取れませんわ。大の大人が、ワガママも大概になさいまし」


「っ……!」


「ダークが、この680年間、恋愛どころじゃなかったのは存じておりますわ。ですから、私からアドバイスを差し上げます」


 見た目に騙されがちだが、この身体年齢5歳児の人形女は、俺と同等の精神年齢だ。ノエやミスカは身体年齢のまま精神年齢も止まってしまっているようだが。

 俺以上に怒っているらしいエミリエンヌは、俺の膝を小さな足で蹴り飛ばした。痛くはないが、それだけ怒っているという意思表示だろう。


「束縛は程々に、嫉妬したならそう本人に告げること、いちゃつくのは場所を弁えること、誰かがカナエ様に優しくしても邪推しないこと」


 エミリエンヌの小さな指が次々伸ばされていく。エミリエンヌの剣幕に、俺はただ頷いた。


「そして、私たち魔神に宴を開くことを許可すること」


「ああ……、あ?」


 最後の一つ、今、エミリエンヌは何と言った?


 エミリエンヌを見れば、してやったりとばかりに笑んでいる。……やられた。本題はそちらか。エミリエンヌは何の宴の許可を取った?


「言質は取りましたわ。魔王陛下に二言はございませんわよね?」


「はぁ……、お前には敵わん」


「まあ。その私を従わせているのは貴方様ですわよ」


「どうだろうな」


 感情の振れ幅が大きかったせいだろうか。どっと疲れた。倒れこむように椅子に戻った俺に、エミリエンヌはいつものようなビスクドールの表情に戻る。ここから変わらなければ、コイツも少しは可愛げがあるものを。


「よい、好きにせよ。後に報告を上げれば、正式に許可を出す」


「うふふ、光栄にございますわ」


 これが、600年と少し前、この世界に絶望して泣き暮れていた少女とは思えんな。随分と逞しく育ってくれたものだ。


「では、もう少々詰めてから、陛下へご報告に参りますわね」


 エミリエンヌは畏まった動作で礼をして、ふと思いついたように目を瞬かせる。


「そうそう、先程申し上げましたアドバイスに、嘘偽りはございませんわ。どうぞ、ご参考になさってくださいまし」


「……ああ、そうさせてもらう」


「それでは親愛なる魔王陛下、御機嫌よう」


 エミリエンヌを見送って、俺は深く息を吐いた。何故だろうか。エミリエンヌとカナエが同じ女だとは思えぬ。ああ……、カナエに会いたい。


 確か、エミリエンヌのアドバイスだと、束縛は程々に、嫉妬したならそう本人に告げること、いちゃつくのは場所を弁えること、誰かがカナエに優しくしても邪推しないこと、だったか。


……ふむ。


「…………これは、難しいな……」


 誰もいなくなった執務室で、俺は天井に向かってため息混じりに呟いた。

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