短編1.魔王の聖夜
★短いですが、メリークリスマス!ということで小話です。
あ、うん、分かってた。分かってたとも。ここは異世界だっつうのに、日本式のカレンダーがジャパン領にあった時点で、予想はついていたとも。
「こっちがミニスカサンタの衣装で、こっちがプレゼント入れる用の袋な。ラッピング用の包装紙はいるか?あ、もしくは夏苗ちゃん自身にリボン付けてやろうか?でっかいリボンあったかなー」
「マジで滅びろ、諸悪の根源」
にっこにこで衣装を手渡してくる大介くんに、私は頬をひくつかせた。今日はクリスマス・イブなんだとさ。ジャパン領でお祭りがあるよおいで、ついでに魔王様への贈り物も持ってきてって言われたときに疑えばよかった。ちなみに、ジラルダークは魔王様のお仕事が終わってから合流することになっている。先に大介くんのところに送るのを渋ってたけど、まあ、いつもの大介くんの手八丁口八丁で丸め込まれた感じだ。
「ダーク、絶対に喜ぶぜ?」
「クリスマスってどんなのだか、ジルは知ってるの?」
「ああ、ここの領地じゃ毎年お祭り騒ぎしてるし、アイツも子供たちへのプレゼント配りに何度か参加したことがあるからな。……ミニスカサンタは見せたことねぇけど」
「だろうね!」
何でこんな衣装を用意してるんだ、毎度毎度!大介くんの侍女さんも、慣れたことのようにこちらで着替えましょうカナエ様とか案内し始めるし!用意してもらったんだったら着替えるけどね!
うわー、何かケーキ屋さんとか雑貨屋さんでバイトしてた頃を思い出すわ。こんなにスカート短くなかったけどね。侍女さんは、お似合いですわとほっこり笑ってた。
後はプレゼントかぁ。いやまぁ、用意はしてきたんだけどね。ホラー研究会にホラー要素を引っこ抜いてもらった銀のブレスレットをね。シルバーアクセの要領で作ってね。用意はしてきたんだけどね。……こう、彼氏というか、旦那にプレゼントっていうの、どう渡したらいいんだろ。夜、寝てるところに置くっていうのは無理だし。私、ジラルダークよりも遅くまで起きていられたのは数えるほどしかないからなぁ。
てことは、対面でお渡ししなきゃいけないのか。で、出来るかしら……?日本のイベントで、ええと、あれだ、身近な人にプレゼントを渡すんだよって言えばいいのか。うん、そうしよう!家族に渡したりするもんね!うんうん、自然だ!ナチュラルだ!
よし、ラッピングも完了!
「カナエ、待たせたな。街を見に行こ……」
プレゼントも用意したし、大介くんのところに戻ろうかと思ったら、部屋の扉が開いた。大介くんが誂えたのだろう、日本の洋服を纏った魔王様が現れる。グレーのチェスターコートに白のニットで、もうどう見ても冬服着たイケメンでしかない。
そしてそのイケメンが、部屋に入ってきたままの体勢で目を見開いて固まってる。じっと見つめられてる。うっ……、い、いたたまれない……!
「に、似合わないよね!すぐに着替え、ひょわっ!?」
洋服を用意してもらおうと侍女さんを探していたら、急に視界がぶれた。後ろから、ジラルダークに抱き込まれたらしい。腰の辺りにジラルダークの腕が回されていた。
「……この姿を、ダイスケに見せたのか?」
「えっ、いや、着替えを手伝ってくれたのは侍女さんだけだけど……」
そう答えると、脳天にジラルダークの息がかかる。それから、抱き着いてるジラルダークの腕にじわじわと力が籠ってきた。
「ああ……、とても愛らしいな。サンタクロースは良い行いをした者に贈り物をするのだと聞いたが、俺はお前にとって良い夫だろうか?」
「ばっ……?!」
くすぐるように耳元へ向けて囁いてくるジラルダークに、顔中が赤くなるのが分かる。私は、回されているジラルダークの腕をべしべしと叩いた。
「子供に贈るの!子供!ジルはいい大人でしょ!」
「こんな愛らしい姿で子供の前に行っては惑わされてしまうだろう?俺が責任を持って引き取ろう。可愛らしい、俺だけのサンタクロースをな」
ひょいっと私を抱え上げて、ジラルダークはにんまりと笑う。あ、これ、ダメな奴だ。プレゼントは、わ・た・し、になっちゃう奴だ。
「ぷ、プレゼント!プレゼントちゃんとあるから!」
ポケットからプレゼントを出しながらの私の言葉に、ジラルダークは私を抱えたまま嬉しそうに破顔する。イケメン100パーセントの笑顔に、ドキッと胸が鳴った。
「ありがとう。お前と共に、いただこう」
ぺろり、とジラルダークの赤い舌が私の頬っぺたを舐める。完全に硬直した私を抱えたまま、ジラルダークは意気揚々と歩き出した。
「クリスマスとは、とてもいいイベントだったのだな」
違うから!こんな爛れたイベントじゃないから!
私はご機嫌なイケメン魔王様に連れられながら、そういえば魔王と聖なる夜って正反対だな、むしろ魔王は浄化されそうだな、なんて現実逃避よろしく遠い目をするのだった。