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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の隣人編
123/184

116.村の夜1

【クレスト】


 カナエ姉ちゃんとジル兄ちゃんの家から帰ってきたら、母ちゃんしかいなかった。じいちゃんはどこに行ったんだろう。母ちゃんは豪快に笑いながら、ジル兄ちゃんに村で取れた野菜をたくさん持たせてた。


「こんなに頂くわけには……」


「いいんだよ!うちの子、手がかかるだろう?手間賃さ!」


「おれよりジル兄ちゃんの方が大人げねぇんだぞ」


 本当のことを言ったら、何でか母ちゃんに拳骨を落とされた。母ちゃんは、ほほほほほ、とよく分からない笑い声をあげてる。ジル兄ちゃんはいっぱいの野菜に少し困って、でも嬉しそうに目を細めて笑った。


「ありがたく頂戴します。クレスト、また明日な」


 拳骨の痛さで涙目になりながら手を振ると、おかしそうに笑ってジル兄ちゃんは帰っていく。おれは母ちゃんにどやされる前に、家の中に引っ込んだ。やっぱり家の中にもじいちゃんはいない。カナエ姉ちゃんとジル兄ちゃんが悪い奴じゃないって、今日もじいちゃんに教えてやろうと思ったんだけどな。


「全く、あんなに気のいい人が、お前より大人げないわけがあるかい」


「だってさ、ジル兄ちゃんてばよぉ」


 おれは母ちゃんと晩飯を食いながら、今日カナエ姉ちゃんのところであったことを話した。途中から、ジル兄ちゃんがカナエ姉ちゃんにおれらを撫でさせなかったことも、母ちゃんにちゃんと話してやる。母ちゃんはおれの話を聞いて、何でかけらけらと笑った。


「ジルさんは、うちのお父ちゃんの若い頃そっくりだね!」


 ジル兄ちゃん、見てくれはかっこいいじゃん。全然父ちゃんに似てないぜ、母ちゃん。そう思ったけど、母ちゃんは懐かしそうに父ちゃんとの昔話を話し始めた。ふんふん聞きながら晩飯を食い終わっても、じいちゃんはまだ帰ってこない。


「なあ母ちゃん、じいちゃんは?」


「そういや遅いね。今日は村の会合だから、もう帰ってくるはずなんだけど」


「ならおれ、じいちゃん迎えに行ってくる!」


 ひょいっと椅子から降りて、おれは家を飛び出した。後ろから母ちゃんの怒鳴り声が聞こえるけど、じいちゃんと一緒に帰れば大丈夫だ。最近慣れてきた、足だけ獣化をさせて、村の中を一気に駆け抜ける。


 会合ってヤツをしてるのは、大体村の集会所か村長の家だ。まずは、いつも行く集会所を覗いてみる。何でか、エーリがいた。


「何やってんだよ、エーリ」


「家、おばあちゃん帰ってきてなくて……」


 エーリは半分泣きながら集会所から出てくる。男の癖に、しょうがねぇヤツだ。まあ、コイツんちはばあちゃんと二人だけだもんな。


「うちのじいちゃんも、会合って言ってたぜ」


「じゃあ、村長さんの家かなぁ?」


「会合ならそうだろ。行こうぜ、エーリ」


 うん、と頷いて、エーリはおれの後をついてきた。足だけ獣化させるとエーリがついてこれないから、しょうがなく普通に走ってく。村長の家の途中で、ミレラに会った。いつもの夜の散歩か。でもミレラ、散歩なのに獣化してねぇじゃん。おれらが村長の家に行くんだって言ったら、ミレラも暇だからついてくるらしい。


「うちのおばあちゃんもいないの。散歩のついでに様子を見てあげるわ」


「お前んちもかよ」


 みんな揃って、会合って何してんだ?難しいことでもしてんのか?飯の時間に遅れるなんて、しょうがねぇな。ジル兄ちゃんより大人げねぇじゃん。


「みんなどうしたの?」


 村長の家までの途中で、今度はデメトリに会った。梟の姿で木にとまってるから、デメトリはいつもの散歩らしい。


「村長んちに、じいちゃんたち迎えに行くんだ」


「……そう。いってらっしゃい」


 半分寝てそうな返事が返ってきた。じゃあな、ってデメトリに言って、おれらは村長の家に向かう。村長の家からは、たくさんの大人の声がした。


「なあ、ちょっと驚かせてやろうぜ」


 普通に迎えに行ってもつまんねぇと思って言うと、ミレラが呆れたように肩を竦める。


「天井から声をかけるの?前にやって怒られたじゃない」


「ちっげーよ!おれらも会合ってのに混ざってやるんだ」


「会合に?どうやって?」


 エーリが不思議そうに首を傾げた。おれはにんまり笑って頷く。それから、耳だけ獣化させて見せる。


「大人しか知らない話を知ってたら、じいちゃんたち驚くだろ」


 クレストくんすごい、ってエーリが楽しそうに笑った。さっきまで泣きべそかいてたくせに、現金な奴だ。ミレラはどうかしらね、って首を傾げる。


「ミレラ、耳だけ獣化できんのかよ」


「出来るわよ」


 得意そうに顎を上げて、ミレラが言う。エーリはいつもみたいに困ったような泣きそうな情けない顔になった。エーリはまだ、耳だけとか足だけとか獣化できねぇんだもんな。


「んじゃあ、おれたちで聞いてみようぜ」


「男子ってバカねー」


「ミレラはやんねぇのかよ」


「しょうがないから、やってあげるわ」


 こそこそと話しながら、おれたちは村長の家の庭に忍び込む。耳を立てて、たくさんの声がする方に向かった。窓から見えないように植木の中に隠れて、聞こえやすいように耳だけ出した。


『じゃが、それでは失敗するんじゃなかろうかね』


 あ、じいちゃんの声だ。失敗?何かするのか?


『いや、恐らくは大丈夫です。へ……、悪魔は寛大な方が多いですから』


 こいつは、ええと、何だっけ。隣の村の、何とかってヤツだ。悪魔、って、カナエ姉ちゃんたちのことだよな?


『わしらでどうにか出来るかのう』


『残っている私やビサンドたちにも声をかけましょう。くれぐれも、悪魔の方々には知られないように』


 村長の声だ。悪魔に知られないように?じいちゃんたち、何をしようとしてるんだろう。じいちゃん、あんまり悪魔のこと好きじゃないから、カナエ姉ちゃんたちに意地悪するつもりなのか?


『彼らももう、こちらに滞在される日数が残っていないでしょう。急がないといけませんね』


『ふーむ。谷であれば問題ないじゃろう。この前ビサンドが見つけた奴でよいかの?』


『ええ、随分と育っていましたよ。丁度いいんじゃないでしょうか?明日にでも……』


「ねえ、ちょっとまずいんじゃない?」


 ミレラが、ひそひそ声で言う。おれは耳を部屋の方に向けたまま、同じようにしゃがんでるミレラを見た。谷って言ってた。多分、村から少し離れたあそこだ。魔物が多いから、おれたちは近付いちゃいけないって言われてる。


「もしかして、谷の魔物にカナエ姉ちゃんたちを襲わせるのか?」


 言うと、エーリが驚いて悲鳴をあげそうになった。おれは、慌ててエーリの口を押さえる。まずい、バレるかも。


「とりあえず、一回逃げようぜ」


「ええ、そうね」


 頷き合って、おれたちは来た時と同じようにこっそりと村長の庭から逃げた。デメトリが羽を休めていた木のところまで一気に走る。デメトリはまだ、木の上にいた。焦って逃げてきた俺たちに首を傾げる。


「どうしたの?……おじいさんたちは?」


「それどころじゃねぇんだって!」


「ちょっと、大声出さないでよ!」


 のんびりしてるデメトリに怒鳴ったら、同じくらい大声のミレラに頭を叩かれた。いってぇ!


「まずいわよ、大人に見つかったら、わたしたちも捕まっちゃう」


「……何があったの?」


 デメトリは木から降りてくると、枝にかけてあった革袋から服を出して獣化を解いた。おれはさっき、村長の家で聞いたことをデメトリに説明する。


「村長たちが、谷の魔物を使ってカナエ姉ちゃんたちを襲うって……!」


 大声を出しちゃダメだって、またミレラに叩かれた。痛くて頭を押さえるおれに代わって、ミレラがデメトリに説明し始める。


「ビサンドお兄ちゃんが偵察してきたみたいなの。時間がないから、明日にでも襲わせるつもりらしいわ」


「そんな……」


「いくら悪魔だって、カナエお姉ちゃんはきっと、戦えないわよ。今日だって、具合悪くしてたじゃない。今襲われたら、カナエお姉ちゃんが死んじゃう……!」


 泣き出しそうなミレラの肩を、デメトリが支えた。エーリは真っ青な顔で、そわそわと辺りを見ている。


「ね、ねぇ、誰かに言った方がいいんじゃ……」


「誰に言うんだよ!」


「だから、大声出さないでって!」


 エーリに怒鳴ると、またミレラに叩かれた。くっそ、母ちゃんの拳骨くらいいてぇ。どうしたらいいのか、焦るばっかりで分からない。


「ジル兄さんに相談しようよ」


「ダメよ、カナエお姉ちゃんが泣いちゃうわ」


「じゃあ、……どうしたら……」


 デメトリも、しょんぼりとうつむいてしまった。カナエ姉ちゃんはおれたちのことが怖いって言ってた。おれたちに襲われたら、死んじゃうって。……だったら。


「おれたちで、守るんだ。おれだって、狩りはしたことある。カナエ姉ちゃんやジル兄ちゃんよりも強いんだ」


 手だけ獣化させて、爪を出す。おれたちに襲われたら死んじゃうって、だって、おれたちの方が強いってことだ。だったら、守らなきゃいけない。


「……そうね。そうだわ。村の大人が頼りにならないなら、わたしたちで守るのよ」


 しょんぼり俯いてたデメトリも、ミレラの声を聞いて顔をあげた。普段、あんまり真面目に狩りをしないデメトリだけど、おれとミレラの言葉に頷いてみせる。


「明日、襲わせるなら、もう今しかない。行こうぜ」


 おれはそう言うと、谷の方へ向かって走り出した。ミレラもエーリもデメトリも、おれにくっついて走る。


 絶対に、カナエ姉ちゃんたちを襲わせたりしないからな!おれが守るんだ!


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