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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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11.悪魔の崇拝5

 エミリエンヌさんが先頭を歩きながら、私たちは魔神の最後の一人、イネスさんがいるところへ向かう。

 ジラルダークは私の手を片手に握りながら、もう片方の手にある蛍光塗料を矯めつ眇めつしている。見た目はカラーボールだ。銀行とかコンビニとかに置いてある、防犯のアレ。ヴラチスラフさんが青白く光ってた原因のこれは、魔王様の興味を随分と引いているらしい。……けども。


「ジルが青白くなったら、暫く寝室を別にしてもらうわ」


「!!」


 何でショックを受ける、魔王様。もしかして、自分に使う気だったのか?んなアホな。どこの魔界に、青白く発光する幽霊魔王がいるというのかね。悪魔の方向性を、今一度問いただしたい。


「うふふ、陛下も御后様には敵いませんのね」


 先を歩いていたエミリエンヌさんがくすぐるように笑った。ああ、癒し……。幼女かわいいよ、幼女。

 イネスさんは、午前中に連れてってもらった鍛錬場とは別の鍛錬場にいるらしい。ちなみに、そこにもジラルダークはあまり行かないそうだ。今度、よく顔を出す鍛錬場に連れてってもらう約束をした。もっと魔法見てみたいし、解説も聞きたいしね。


「御后様にはお教え致しますわ。陛下がお持ちになっているその塗料、まだ試作段階ですの。持続時間は、もって10分ですわ」


「あれ、意外と短いですね」


「ええ。光を集めておいて一度に放出させますから、持続が難しいんですの。ヴラチスラフは魔法を使えませんし。術式を見直しておりますので、もう少し改良の余地はありそうですわ」


「エミリエンヌさんも、ホラー同好会の一員ですか……」


 げっそりと告げる私に、エミリエンヌさんは花のような笑みを浮かべた。そして、ヴラチスラフさんは魔法が使えないのか。ファントムで錬金術師なのに、魔法が使えないとは、違う意味で驚きだよ。


「魔法は、やはり以前の世界にあるかどうかによりますわ。私も使えませんもの」


「魔神さんの中でも、魔法が使える人は限られてるんですね」


「とはいえ、陛下ほどに使いこなせる者はほとんどおりませんわ」


「へぇー」


 やっぱり凄いんだ、ジラルダークの魔法って。戦闘部隊の強い人を吹き飛ばせるくらいだもんねぇ。そう思ってジラルダークを見上げると、彼は得意気に口元を吊り上げた。おい、ドヤ顔すんな。


「スゴイデスネ、魔王様」


「カナエ、心がこもってないぞ」


 褒めてやったのに不満か。んもー、このワガママ魔王め!仕方なしに背伸びして、よしよしと魔王様の頭を撫でると、ジラルダークは満足したように微笑む。エミリエンヌさんとベーゼアは、そんな私たちを見てくすくすと笑っていた。ああ、幼女と美女に笑われてしまったじゃないか。


「こちらですわ」


 エミリエンヌさんが案内してくれた先には、アマゾネスさんと海坊主さんがいた。鍛錬場というか、武器庫か、ここは。斧やら剣やら槍やら弓やら銃やら、たくさん壁に引っかけてある。


「陛下!奥方様!」


「ああ。よい、楽にせよ」


 あら、ジラルダークが魔王様モードになった。切り替え早いな、魔王様。さっきまで、褒めて褒めてって尻尾振ってたのに。

 すぐさまに跪いた二人に、ジラルダークは片手を出して制した。下手すると、平伏しそうだもんね。


「あれがイネスだ、カナエ。我が軍の斥候部隊を任せておる」


 女だてらに斥候部隊か。強いんだな、イネスさん。見た目も強そうだし。


「お目にかかれて光栄にございます、奥方様。イネスと申します」


「御機嫌よう、イネスさん。急にお邪魔してしまってごめんなさいね」


 笑顔を心掛けつつ、魔王様のお后様を演じる。そのうち、もふもふが付いた扇子とか用意した方がいいんだろうか。口元隠しながら高笑いをかました方がいいんだろうか。


「ナッジョ、イネスの武器は見繕えたか」


 そんな葛藤をしていたら、ジラルダークが海坊主さんに声をかけた。ナッジョさんは、は、と頷いてイネスさんに視線を向ける。


「陛下のご指摘の通り、イネスの斧は耐久力に問題が御座いました。しかし、大振りの物になる程、打てる職人がおりませんで……」


「そうか。エミリエンヌ、ヴラチスラフに命ずる。イネスに斧を誂えよ。我の力が必要ならば言え。魔力程度、幾らでもくれてやる」


「畏まりましたわ、陛下」


 魔王様の言葉に、イネスさんは驚いたように目を見開いた。あらら?


「そのようなっ、陛下の御手を煩わせるなど……!」


「これは勅命である。口答えは許さぬ」


「っ……!は、申し訳ございません」


 ジラルダークが鋭く言い放つと、イネスさんは恐縮しきりで俯いてしまう。うわー……。プレッシャー、パネェですな、魔王様。それもそうか。国の王様だもんね。私の前だと随分と違うから、どうにも忘れそうになる。


「ねぇ、イネスさんは、お怪我はなかったかしら?」


 緊張した空気を和らげたくて、私は跪いて頭を垂れているイネスさんに問いかける。バチバチ光る剣で吹っ飛ばされてたもんなぁ。無傷じゃ済まなかったんじゃないかな。


「いえ。五体満足にございます。お気遣いありがとうございます」


「すごいわね。私が陛下の一撃に当たってしまったら、きっと木っ端微塵になってしまうわ」


 ふふふ、と笑うと、イネスさんは戸惑うように私を見上げた。アマゾネスさん、捨てられた大型犬みたいでかわいいな……。撫で繰り回したい。


「けれど魔神とはいえ、イネスさんも女の子なのですから、怪我には気を付けて下さいね」


「っ……!は、はい、ありがとうございます!」


 ものすごい勢いで、イネスさんに平伏されてしまった。あ、あるぇー?


「カナエ、戻るぞ」


「はい、陛下」


 腰を抱き寄せられて、ジラルダークと一緒に鍛錬場を出る。エミリエンヌさんは、鍛錬場に残るらしい。

 はふー。これで十二魔神全員と会えたか。第二回で会ったのは、吸血鬼さん、幽霊さん、イガグリ頭さん、幼女人形さん、アマゾネスさん、と。うん、相変わらず濃いなー。メンツ、濃ゆいなー。


「カナエ」


「ひゃっ!?」


 部屋に戻るまでの道、呼ばれたと思ったらいきなり抱き上げられた。び、びっくりした!何だ、急に!?


「じ、ジル?」


 尋ねても、ジラルダークは私の髪やら額やら耳やらに口付けるだけで返事はない。というか、くすぐったい。しかも、ここ廊下だし。せ、せめて部屋に戻れ!


「ちょ、ジル、部屋に……」


 部屋に戻ろうとしても、私はジラルダークに抱き上げられちゃってて歩けない。ジラルダークはジラルダークで、廊下のど真ん中で歩みを止めちゃってる。そしてベーゼアは空気を読んだのかいつの間にかいなくなってる。

 こりゃダメだ。どうしてこうなったのか突き止めないと、廊下のど真ん中で羞恥プレイまっしぐらだ。


「ジル、どうしたの?」


 抵抗を止めて、私はジラルダークの赤い目を覗き込んだ。その目は、どこか拗ねたように細められている。赤い色は、目を覗き込んだ私から逃げるように逸らされた。あらら、逃げられた。

 とにかく、魔王様はお拗ねでいらっしゃるらしい。どこだ。どのポイントで拗ねたんだ。んー……、分からん。分からんが、拗ねてることは分かった。


「もう、しょうがないなぁ」


 拗ねてるなら、慰めるに限る。私は、ジラルダークの頭をよしよしと撫でた。ジラルダークは、逸らせていた赤い目を私へ向けた。


「ジル?」


「…………、」


 促すと、ジラルダークの唇が動く。


「カナエは、俺の…………」


「うん?」


 呟いたジラルダークに、私は首を傾げる。


「いや、何でもない。……部屋に戻ろう」


 ジラルダークはそう言うと、私を抱き上げたまま歩き出した。私はジラルダークの肩に抱き付いて、彼の首筋に顔を埋める。だって、顔赤いもん。私も、ジラルダークも。

 そうかい、そっち方向で拗ねてたのかい、魔王様。私、魔神さんたちに愛敬振りまいてたもんね。


『カナエは、俺のものなのに』


 呟かれた言葉は、聞かなかったことにしよう。……うん。恥ずかしすぎる。

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