小話6.魔王の魔力
※12時、二度目の更新です
★魔女、解放の時期がきました
【ジラルダーク】
俺は今日、鍛錬所へ研究室に所属させている三人とトパッティオ、カルロッタ、ボータレイと共に来ていた。フェンデル、トゥオモ、トパッティオ、ボータレイには厳重に結界を張らせるようにしている。勿論、鍛錬所全体に、だ。加減はするが、暴発すればここが壊れかねん。
オティーリエを捕らえ、その処遇を話し合った結果、彼女の魔女としての記憶と魔力を奪うこととなった。奪った魔力をそのまま国の結界へ回すかとも考えたが、調整や異変への対処に僅かでも遅れが生じるのは避けたい。
検討を重ねた結果、俺の魔力として取り込むこととなった。
「魔力の循環は……問題ありませんね……」
ヴラチスラフが俺の状態をつぶさに観察している。単純に倍になったであろう魔力は、確かに負担ともならずに俺へ馴染んでいた。
「あの魔女の魔力にしては、大人しいでござるな」
「ええ……、魔女の体に魔力を止め処なく流出させる為の術式を組み込んだ際に、陛下の魔力に近付けるよう、四つの印を経由しております。故に陛下が力加減さえ把握なされば、問題なく稼働致します。魔力が飽和状態にならぬように陛下の方へも術式が必要かと準備も致しましたが、元より陛下は常に国全体へ結界を張っております故に、常時魔力を垂れ流している状態でございます。……何も……、問題はないかと……存じます……」
饒舌に語って、ヴラチスラフは一礼する。俺は短く頷いて、銃剣を抜いたカルロッタに向かった。カルロッタは口元を吊り上げて俺を見ている。
「加減をして頂けると僥倖にございます、魔王陛下」
「戯言を。リータ=レーナやホンファからも報告が上がっている。放蕩が過ぎる領主へ灸を据えるように、とな」
俺の言葉にカルロッタは笑って、銃剣に魔力を込めた。俺も、双剣を抜いて魔力を注ぎ込む。が、双剣の軋みを感じて注ぐ魔力を止めた。
「これでは耐えられぬか……。魔法だけで、となるのは好まんのだが」
「至急、打たせます」
トゥオモが俺の独り言に応えた。俺の忠臣であるトゥオモが用意するのであれば、間違いはないだろう。頷いて、トゥオモに任せた。仕方あるまい。魔法の試し打ちは剣無しでやるか。肉体強化の魔法がどれほど影響するかも確かめたいしな。
「では、五撃、お前へ打ち込もう。ボータレイ、全回復の用意をしておけ」
「かしこまりましてございますわ」
俺の言葉にボータレイは頷き、カルロッタは頬を引き攣らせた。俺は全身に魔力を巡らせると、軽く地面を蹴ってカルロッタとの間合いを詰める。脚力は随分と上がっているな。もう少し魔力を込めてみてもいいかもしれない。
「っ!」
眼前に迫った俺に、カルロッタは横へ移動しながら銃剣の切っ先を向けた。警戒すべきは、銃剣だけではない。俺の視界から隠れるよう位置取られた左手には、かなりの魔力が集まっていた。普段であれば銃剣は左の剣で受けて、魔法を右の剣で叩き斬るが、今日はそれができない。
ということはつまり、銃剣も魔法も丸ごと吹き飛ばすのがいい、ということだ。
「ちょ!」
「まずは一撃だ」
焦ったカルロッタの声を聞きながら、俺は風の魔法を放つ。風、というよりももう、暴力的な空気の塊のようなものが出た。……これは加減の仕方を間違えたな。もっと抑えねばならないか。
防ぎはしたらしいが、カルロッタは鍛錬場の壁まで吹き飛ばされて、四人の張る結界に激突していた。五撃放つ、と宣言をしたが、ボータレイは一撃目で回復が必要だと判断したようだ。即座にカルロッタの元へ向かっている。
「陛下、やり過ぎです」
トパッティオが呆れたように言ってきた。魔力の総量が倍になった、というだけでもなさそうだ。出力もよくなっているから、今までの倍、加減をすればいいという単純な話でもない。
「見誤った。随分と魔力の通りがいい」
「ヴラチスラフが調整したのでしょう。ただ増やすだけでなく、陛下の元へ流れて尚、相乗効果を生むように」
「そうだな。さすがは我が魔神だ。良い仕事をしたな、ヴラチスラフ、フェンデル、トゥオモ」
褒めると、ヴラチスラフは恭しく傅いてみせた。後で労うようにせねばならんな。彼らの飽くなき探求心と開発力は目を見張るものがある。
「その、せいで、オッサン、死にかけたんですけど……?」
ボータレイの治癒を受けて、カルロッタがふらふらと寄ってきた。俺は口元を吊り上げて言ってやった。
「あと四撃あるぞ、構えるといい」
カルロッタが俺の言葉に顔を青褪めさせる。リータ=レーナにはカナエが世話になったからな。俺の調整ついでに、灸を据えてやることとしよう。少々、きつすぎる灸かもしれんがな。
そうして俺は、オティーリエから完全に魔力を奪ったのだった。