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悪魔の王のお嫁様  作者: 塩野谷 夜人
悪魔の日常編
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10.悪魔の崇拝4

 お昼ご飯食べました。野菜たっぷり血の色のミネストローネと骨みたいな色合いのパン、人肉と見せかけたローストビーフと、デザートにラズベリーソースたっぷりのチーズケーキです。うまうまでした。んで、今度は魔王様を引き連れて第2回魔神見学ツアーに赴いております。


 おどろおどろしい悪魔城を、魔王様の後にくっついて歩いていく。私の後ろにはベーゼアもいる。目が腫れちゃったらどうしようと思ったけど、変わらずに美人さんだ。よかった。


 魔王様が歩いていく先には、何というか、おどろおどろしさを増し増しにしたような一角が見える。


「ちょっと魔王陛下、あそこが研究室でございますか」


「ふふ、そうだ。察しがいいな」


「分からいでか!うーわー……、あそこ、絶対、悪魔の研究してるよ。雰囲気バリバリだよ。あそこでパン酵母の研究なんかしてっこないよ」


「まぁ、酵母の研究はさせていないな」


 そらそうでしょうよ。あんな、髑髏と蜘蛛の巣と赤い液体とカビで出来たドアの先でアンパンの申し子とか生まれてほしくないわ。毒々しい色合いの餡子になるわ。


「大丈夫だ。三人ともいる」


「違っ!私の心配事、そこと違う!」


「ほら、おいで、カナエ」


 手を差し出されて、私は渋々ジラルダークの手を握った。気が進まない。もう、ほんっと気が進まない。いくら見せかけ悪魔城ってったって、ここは違うだろ。悪魔の本職いるだろ。


「フェンデル、おるか」


 偉大なる魔王様モードになったジラルダークが、扉の向こうに呼びかける。フェンデル……、イガグリ頭さんか。


「おお、陛下!ご機嫌麗しゅう!」


 すぐに開いた扉から、…………ヴァンパイア?


「トゥオモか。フェンデルとヴラチスラフもおるか」


「ええ、おりますとも!おや?」


 長い八重歯……牙?に、陶器のような白い肌。魔王様よりも薄いけれど血のように赤い目が、白い肌にいやに浮いて見える。その目が、私を捉えた。同時に、吸血鬼さんはにんまりと笑う。剥き出しになった牙が、ぎらりと輝いた。どういう用途なのでしょうかね、その凶悪な牙は。


「おお、御后様!ようこそ、我々の研究室へ!さぁ、遠慮なさらず!どうぞお入りくださいませ!」


「は、はいっ……」


 ぎゅーっとジラルダークの手を握ると、斜め上から押し殺したような笑い声が聞こえてきた。わ、私だって怖いものは怖いんだい!ホラーは耐性があるだけで、笑えるほどに得意なわけじゃないんだい!

 トゥオモさんに続いて、魔王様と一緒に薄暗い室内に入る。何でこういう部屋に限って照明を抑えるんだよ。煌々と焚いてよ。


「ええと、今のは……」


「トゥオモという、吸血鬼のような男だ」


「て、テンション高い吸血鬼だね……」


 ジラルダークに引っ付いたまま、部屋を見回す。正面に、青っぽいものが、薄らぼんやり見え……


「御機嫌よう……、奥方様……」


「っ、ひッ?!」


 ひひひひ、人!ひとぉおおおおおお!!


 ああ、あ、ああああ、青白いの、人!人、だった!喋った!ううう、動いた!!幽霊!!幽霊がいる!!髪の毛がずるずるって!!目がぎょろって!!


「ヴラチスラフ、我が后を驚かすな」


「おや……、失礼致しました……、陛下……」


 こっわ!何だ、この人!貞子ならぬ貞夫か!何で髪の毛引きずってるんだ!目、充血しまくって、隈も尋常じゃないし!そして薄暗い中で青白く発光するな!うわーん!


「わたくしは……、ヴラチスラフと申します……。どうぞお見知り置きを……、奥方様……」


「は、はいぃ……」


 声もぼそぼそしてて頼りないし!覇気も無ければ生気も無いし!


「おやおや、先程君は蛍光塗料を浴びたじゃないか!とても気持ち悪いのだよ!」


 あっはっは、と軽快に笑いながらトゥオモさんが幽霊の肩を叩く。遠慮なくバシバシ叩かれても、幽霊……ヴラチスラフさんはぎょろりとこっちを見たままだ。け、蛍光塗料を浴びたってどういう……?


「ここは、悪魔たちの知識を集め、研究を行う施設でございますぞ、奥方様」


 奥からのっそり出てきたのは、イガグリ頭さんことフェンデルさんだ。


「充分……、成果は出ていますね……」


 そう言って、ヴラチスラフさんはその場に跪いた。トゥオモさんも、その隣に跪く。フェンデルさんは、ジラルダークに何かを差し出した。ジラルダークは、液体の入った球体の何かへ視線を落として口元を吊り上げる。


「これが、ヴラチスラフの浴びた塗料か」


「は。より、ファントムらしさが増したかと」


 フェンデルさんが頷いて跪いた。ふぁ、ファントム、らしさ?どういうことなの、魔王様?このぼんやり青白い人は、ファントム?……亡霊ってこと?


 そう思ってジラルダークを見上げると、彼はこくりと頷いた。


「ヴラチスラフは元々、幻影という種族の者だ。姿を暈したり、影に入り込み、影の間を移ることが出来る」


「き、規格外な……」


「陛下に、いっそ悪魔ではなく、幽鬼を目指してみればいいとのご助言を賜りまして、我々にて研究を行なっておったところにございまする」


 フェンデルさんの言葉に、私は眩暈を覚えた。原因はお前か、魔王様!何で、悪魔を目指さず幽霊を目指せとか助言しちゃうの!助言の方向がおかしいでしょうが!


「かなり……、霊に近づけたかと……」


「ああ。中々の出来ではあるな」


「ヴィーの錬金術と組み合わせる研究も進めておりますぞ、陛下!」


「ほう。それは楽しみだ」


 勘だけど、魔王様が心底ワクワクしてる。いや、勘だけど。ニンゲンから悪魔を守るのに、何で驚かす研究とかしちゃってるの。気味悪がってニンゲンが近づかないようにっていうより、ジラルダークの趣味が入ってる気がする。

 だって、錬金術なんて大層なもん使えるなら、それだけでいいじゃないか。何で錬金術師が幽霊に化けなきゃいけないんだ。


「べ、ベーゼア、」


 助けを求めるようにベーゼアを見るけど、苦笑いで首を振られてしまった。あ、諦めろってことか!それは諦めろってことなのか、ベーゼア!


 ふと、研究室のドアベル……の頭蓋骨が音を立てた。もうやだ、この悪魔城。


「トゥオモ、ヴィー、薬草をお持ちしましたわ」


 鈴の音のような女の子の声が、ドアの向こうから聞こえる。おおお、癒し!このホラー同好会に一石を投じるかわいい女の子……!


「あら」


 ドアを開けて入ってきたのは、西洋人形のような女の子だった。双子さんよりも幼い。幼稚園児、ぐらいに見える。女の子は私とジラルダークを見て、ガラスのような瞳を丸くさせた。


「失礼致しましたわ。陛下、御后様、お目汚しお許し下さいまし」


 ふわりとスカートを揺らして、女の子が跪いた。ちょ、こんな小さな子に跪かせるなんて、と慌てて駆け寄ろうとした私に、女の子は微笑んで首を振る。そんな仕草も人形のように優雅で、私は思わず足を止めた。


「御后様、私はエミリエンヌと申します。このように幼い外見をしておりますが、そこな幽霊の数倍の時を過ごしておりますわ」


「えっ!」


 幽霊さんの数倍……。というか、確か、エミリエンヌって、ベーゼアが古参組だよって教えてくれたメンバーの中にいたような?


「お気遣い下さいまして嬉しゅうございますわ」


「い、いえ……」


 お、大人な幼女だ……。すんごいギャップ。


「ま、魔神さんって、みんなすごいのね……」


 呆気にとられて呟くと、喉を鳴らしてジラルダークが笑った。この野郎……!ここに連れてきた張本人が笑うな!


「となると、残るはイネスか」


「折角だから、挨拶しちゃいたいな」


 もう、十二魔神のうち十一人に会ってしまったんだ。こうなったら、今日中に全員に会ってやる。ええと、吸血鬼さんに幽霊さんにイガグリ頭さんと幼女人形さん。オッケー、覚えたわ。


 光る指先を顎に置いていたジラルダークが頷く。残る一人、アマゾネスさんことイネスさんの場所が分かったらしい。


 よっしゃー!行くぞー!んで、こんなホラー研究室、とっとと脱出じゃーい!

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