回復と休息と、ある意味ダラダラ
「痛たたたぁぁ。」
包帯替えてくれるのは、いいんだけど痛いよ。
『すみません。
でも包帯替えないと。』
どの世界でも医者は、白衣なのかねぇ。
包帯替えてくれてる人も白衣だし。
結局のところ、呪術師には辛勝って感じ‥‥らしい。
らしいと言うのは、無意識で魔法を発動して撃退。
瀕死の呪術師に対して、ヤバい脅し文句を放っていたらしい。
人を呪う呪術師が、ひく程の脅しって‥‥
とにかく エリスに掛けた呪いを解いて、逃げ帰ったとの事です。
まぁ、結果的によかった訳だけど、火傷に打ち身、切り傷だらけの体。
今は、体中に包帯だらけ。
魔法で、ちゃちゃっと治して欲しいと頼んだけど、そんな便利な魔法は、ないらしい。
回復力を高めたり、傷を綺麗に治したりする事は出来るらしいので、それは頼んだ。
必要以上にね。
包帯を巻き終わり、ベッドに横になった時にエリスが遠慮がちに部屋に入ってきた。
『お怪我の具合は、どうですか?』
心配してくれてんだね。
「ありがと。
痛いけど、魔法のおかげかなぁ。
少しは、ラクになってきたよ。」
ーーーーーーーーー
あれから、もう10日。
本当に魔法の効果なんだろうけど、痛みも引いてきて全快も近いのが自分でも分かるしね。
《あれだけの白魔術で、これほど掛かるとは、お前は本当にダメなヤツだな。》
火トカゲさんは、そう言う(鳴く)けど、充分早い方じゃないの?
あれだけの火傷あったんだよ。
それに活躍したんだし、もう少しダラダラしてたいよ。
最初の契約からしたら、大活躍でしょ?
『ゆっくりお休み下さい。
何かあったら、ご遠慮なさらずに仰って下さいね。』
エリスは、それだけ言うと部屋を出ていった。
誰もいなくなった部屋で
「聞きたいんだけど、いい?」
2人?の返事を待たずに
「やっぱり、修行した場所と同じ力が発揮出来なかったのは、あの場所が特別だから?」
その質問に、蒼蛇さんが答えてくれる。
《精霊の力が強いとか弱いとかって場所の事も関係してるけど、やっぱり水がない場所で、水系の魔法は‥‥ねぇ。》
言葉を濁してくれてるのに
《要するに、お前は馬鹿って事だよ。
最後の松明を使った魔法は、なかなかよかったがな。》
飴と鞭です?
でも、火トカゲさんの言葉って飴2鞭8って感じ。
かなり凹むんですよぉ。
でも確かに‥‥
ない所から、水を捻り出したんだから、威力弱そう。
松明とか、あるのを使えば簡単だったんだね。
ちょっと考えたら、分かりそうなものなのに。
僕のバカ。
次から、気を付けて魔法使います。
明らかに凹んでると
《生きてんだし、倒したし、まぁいいんじゃないか。》
と慌ててフォローしてくれる火トカゲさん。
あの火トカゲさんに心配されて、フォローされちゃうなんて、かなりヤバい顔したんだ。
気を付けよっと。
「でも‥‥この世界って、凄いよね。
あの変態さんって、強い方?」
僕の質問の意味を汲み取ってくれたのは、蒼蛇さん。
《下の中って感じかしら。
相性の問題もあるけど………
あの程度のレベルなら、城下町にもゴロゴロいるんじゃない?
あの禁呪があったから、誰も手出だし出来なかっただけで、この城にいる兵士なら、誰でも勝てたかもね。
その程度のクラスよ。》
厳しい言葉だなぁ。
薄々は、感じてたけどね。
下の中に辛勝って事は、僕のレベルは、下の下って事だよね。
最下位。
街の人にギリ勝てるって感じかなぁ。
調子に乗ってた自分が恥ずかしいよ。
ふぅ~‥‥
‥‥
今は傷を治して、だらだら過ごす。
エリスが僕を使い魔にした目的は、果たしたんだしね。
はぁ~‥‥
ダメダメ‥‥
何も考えずにダラダラ過ごすの。
僕は、勇者になりたいワケじゃないし、ノンビリ平和で平凡がいいんだから。
余計な事は、考えるんじゃないよ‥‥僕。
「お腹減ったなぁ。」
傷も治ってきたし、久し振りに王様達と食事を摂る為に部屋を出る。
もう痛みも殆どないし、そろそろ包帯も外して欲しいなぁ。
『おっ、もう傷は、いいのか?』
部屋に入るなり、王様が気遣ってくれた。
「はい。
痛みも殆どなくなったので、大丈夫です。
みっともない姿を晒して申し訳ありませんでした。」
席に着く前に頭を下げる。
『気にする事ないぞ。
役目は、果たしてくれたんだ。
これからは、ゆっくり過ごしてくれ。』
王様の言葉に笑顔で返し、久し振りの肉や魚を次々と口に放り込んでいった。
ーーーーーーーー
それから数日は、それはもうダラダラと過ごす。
起きて、食べて、ゴロゴロ。
食べて、寝て、食べて寝る。
1日のサイクルが ほぼ同じ。
そんな毎日。
イヤじゃあないし、僕の望む毎日。
でも何だか、物足りない。
分かってるよ。
自分の事なんだし。
だけど、認めたくない。
《お前‥‥
自分でも分かってんだろ?》
火トカゲさんが、珍しく静かに。
それに答え
「うん。
でも‥‥
面倒くさい。
でも、ダメみたい。
どうしても考えちゃうんだよね。
強くなりたいし、せっかくなんだから、色々な物を見たい。」
《ふ~ん‥‥
やっぱりアナタって、面白いわね。
来て、よかった。》
蒼蛇さんは、僕の肩に。
反対には、火トカゲさん。
いつもの定位置。
そろそろダラダラも飽きたし、冒険してみようかなぁ。
そのまま部屋を出て、謁見の間に向かう。
その前にエリスの部屋に。
【こんこん】
「エリスいる?
話しあるから、王様んトコ行くんだけど、エリスも話し聞いてくんない?」
返事が返って来る前に、ドアの前で言っちゃった。
【がちゃ】
『話しって、何ですか?』
部屋から、顔だけ出すエリス。
「まぁ、一緒に行こっ。
話は、その時に。」
エリスを引き連れて、謁見の間に。
「誰か、いる?」
扉の前の衛兵に聞く。
『エリス様と使い魔くん。
今は、誰とも謁見なさってないですよ。』
ちょうど、いい感じ。
気持ち変わる前に、話ししちゃおっと。
「じゃあ、僕が話しあるから、開けて。」
頼むと観音開きの扉が、ゆっくりと開く。
おずおずと王様の前まで進み、跪く。
「お話があり、参りました。
お時間を頂いても、よろしいでしょうか?」
謁見の間では、いつもと同じで顔を上げずに言った。
肩こりそう。
『もう体は、いいのか?
話なら、食事の時でも、よかったんじゃないのか?』
やっぱり王様って、いい人だよ。
いつも気遣ってくれるんだから。
「いえ‥‥
僕の気持ちが変わる前に、お話したかったのです。
お時間は、取らせません。
このまま、お話させて頂きます。」
そこまで言って、少しだけ間を置く。
聞く時間なかったりしたら、何か言われるだろうと思ってね。
少し間を置いても、誰も口を開かない。
話を続けても、いいって事だよね。
「先の呪術師との戦いでは、お見苦しい所を、お見せしてしまい恥ずかしく思います。
僕のレベルや呪術師のレベルを聞き、更に恥ずかしく思いました。
王様には、以前お話させて頂いた通りに僕は、異世界の住人です。
ですから、この世界の景色や物、人々‥‥
全てが珍しく、そして、驚きの連続です。」
ここまでで、また少し間を置いてみる。
何か反応あるかなぁ。
でも、やっぱり、誰も話す事はない。
エリスも王様も王妃も黙って聞いてくれている。それなら、続けて
「王様‥‥
この城から出て、旅をする事をお許し下さい。
この世界を見聞したいのです。
そして、身も心も強くなりたいのです。」
そこまで話すと顔を上げて、真っ直ぐに王様を見る。
王様も、僕を真っ直ぐに見てる。
やっぱり、こうやって見ると凄い威圧感。
『私は、何の問題もない。
エリスは、どうだ?
使い魔としての契約がある。
私達より、エリスの意見を尊重する。』
王様は、エリスに問い掛けた。
その時には、自分に話しが振られるのを分かっていたのだろう。
すぐにエリスが答えた。
『私は‥‥
よろしいと思います。
私自身が、同じ様に感じ、城を抜け出していたのですから、止める権利は、ないと思います。
ただし‥‥』
やっぱりかぁ。
エリスの話は『ただし』が付くのは、予想済み。
『私も旅に同行致します。
よろしいですか?』
予想的中‥‥
それと僕に聞くな。
王様に聞いてよ。
エリスから、王様に目線を移すと、王様と王妃は、うなだれてる。
お二人も、予想通りの展開だったんだね。
どうするんだろ?
でも王様と王妃は、目を合わせると、何も話さずに頷き、話し始めた。
『言いだしたら、私達の言葉なんて聞かないだろ?
止めても行くのだろ?
それなら、シルクス家として……王家の人間として、恥ずかしくないだけの見聞をしてくるがいい。
困った時は、いつでも帰っておいで。』
エリスを真っ直ぐ見つめて言ったあと
『1人の娘の父親としての、お願いです。
エリスの事を護ってやって下さい。
お願いします。』
僕に、深々と頭を下げる王様。
それに習って、王妃も部屋にいた兵士も、みんなが頭を下げる。
腰の低い王族だよね。
いい人達だよ。
「僕の力は、まだまだ微力です。
でも出来うる事は、全てします。
エリスは、必ず無事に帰します。」