ただいま戻りました。
「門開けて~~。」
修行に出てった時は、ちょうど交代時間だったから、すんなり通れたけど帰りは叫んでみた。
『んっ?
おぉっ、使い魔くんじゃないか?
開けてやるから、待ってろ。』
つっ‥‥使い魔くんって‥‥
門番さんにまで、その扱いされちゃうんですね。
嫌な有名になり方だなぁ。
『随分と早い、お帰りだなぁ。』
余計なお世話だよ。
と門番さんに、心の中でツッコミ。
『ははっ。』
と苦笑いして、小さな扉の方を通り抜け街中を歩く。
早朝の街中は、空気が美味しいなぁ。
颯爽と大通りを歩いて行くと
『おぉっ、使い魔くん。』
『使い魔さんっ。たまには、食べに来てね。』
『お使いは、ウチに来てよ。
使い魔くん。』
『今日は、パシリか?』
エリスと通った時と同じ様に街の人から、多数の声が掛けられる。
でも 何か酷い扱いだよねぇ。
もう慣れてきてる感は、否めないけど。
「おはよぉ。」
城の入り口を護る衛兵に挨拶。
『おぉっ、使い魔さんじゃないですか。
おはようございます。
お出掛けだったんですか?
何の、お遣いだったんです?
ちゃんと、頼まれたモノ見つかりました?』
ココでも完全に、パシリ扱い。
丁寧なのは、言葉使いだけだしなぁ。
「お遣いで出掛けてないですから。
ははっ。」
苦笑いしながら、うなだれて、そのまま城の中に。
城に戻って速攻で、バトって勝ってやろうと思ったけど、何だか凹んでしまったよ。
だって、扱い悪すぎ。
『あらっ、おかえりなさい。』
いつも、ご飯を食べてる広い食堂に入ると、朝食中のエリスの家族。
王族なのに気軽に声掛けてくれるし、いい人達なんだけど、まだ微妙な心境なんですよ。
「ただいま戻りました。」
ぺこりと頭を下げてから、エリスの隣に座る。
修行中は、魚と固くなったパンだけだったから、あったかいスープと焼きたてフカフカのパンは、美味しかった。
いなかった数日の事は、聞かないんだね。
やっぱり微妙な感じ。
「あの~‥‥
もう一回やらしてくれませんか?
次こそは、勝ちますから。」
食べ終わってから、王様が席を立つ前にと思い、慌てて言った。
『もう一回って、勝つ自信あるのか?
無理しなくても、エリスに何とかさせるぞ。
エリスなら、命を奪われる事もないだろうしな。
キミは、エリスの話し相手にでも、なってやってくれ。』
王様‥‥
それって、かなり馬鹿にしてませんか?
流石に怒るよ。
僕だって。
………
僕だって……
『んっ?
体調悪いのか?
ゆっくり休んで、早めに治した方が、いいぞ。
医者も必要か?』
俯く僕に、王様の優しい言葉。
「違いますから。
僕が、やると言ってます。
誰が何と言おうと、やりますから。」
俯いたまま。
それだけ言って、無意識に部屋を出た。
‥‥‥
うわぁ~、言っちゃったよ。
どうしよ?
王様怒ってないかな?
勝てなかったら、やっぱりカッコ悪いよなぁ。
言わなきゃよかった。
そりゃあ、勇者になんて、なりたくないよ。
だって、痛いのや怖いのなんて、経験したくないし、平和でノンビリしてて、目立たずに。
そんなのが僕の理想なんだから。
でもね‥‥
カッコつけたい時だって、あるんだよね。
思春期の男の子なんだし。
女の子の前でくらいは……
ちょっとだけ。
ほんの少しだけ。
いいとこ見せたいんだ。
僕が勝ったら‥‥
エリス‥‥
笑ってくれるかな?
ベッドに横になって、四角い天井を眺めながら、ぼんやりとしてた。
『入りますよ?』
その声と同時にエリスが部屋に
「ちょっ‥‥
ノック位は、してよ。」
僕の言葉に
『《《〔何回もノック……》》』
『しました。』
《あったぞ。》
『してたわよ。』
エリス、火トカゲさん、蒼蛇さんに同時に突っ込まれた。
ぼんやりしてたから、気付かなかったんだな。
きっと。
「そかっ。
ゴメン。
んで、何?
何か用事あるの?」
エリスを見ないまま、この部屋に来た理由を聞いてみた。
まぁ、何となく分かるけどね。
『はい‥‥
もう一度、戦うと言って下さった気持ちは、ありがたいのですが、数日のトレーニングでは、歯が立たないと思います。
次は命を落とすかも、しれない。
相手はきっと、万全の状態で来ると思います。
私なら‥‥
私なら、命を落とす事もありませんし。
だから‥‥』
「分かってるよ。
でもね。
この世界で生きてく以上は、戦わなきゃいけない時が、あるのは分かったんだ。
それが今なんだよ。
僕は、エリスの使い魔なんだよね?
それなら、僕のやるべき事は、これなんだ。
さぁ、話は終わり。
変態さんが来たら、呼びに来て。」
エリスの言葉を遮って、一方的に話すとエリスの背中を押して、部屋の外に。
そりゃあ、エリスなら命を落とす事は、ないかもしれない。
でも、いつまでも、このままって事も考えにくいでしょ。
だって、あの変態だよ?
『うん』と言わないエリスに業を煮やして、何を始めるか、分かったもんじゃない。
エリス以外が手だし出来ないのを逆手に取って、王様とか脅し始めたりしたら、それこそ国の一大事だし。
だからこそ、ここらで分からせてやらなきゃ。
変態さんには、用はないってね。
【コンコン】
『来ました。』
天井を眺めてた僕は、エリスの声で現実に引き戻された。