2-56.情報の整理
さて、ベッセルさんの本命の情報を聞かなくては。
戦略?戦術?どっちか曖昧だけど、
戦わずして勝つための方策の検討だね。
そして、勝ち方で最大限の効果が得られるようにね。
「ベッセルさん、お疲れ様でした。これでとりあえずは自由に会話が出来るようになりました。そして、この机に転がってる魔石とか属性石はベッセルさんに差し上げたいんです。みんないいよね?」
「「「「ハイ」」」」
「え?あ、あの・・・。意味が解りません」
「あの魔法の革袋から出てきたものだから、ベッセルさんが引き取って頂くのが妥当かなと。収納用の別の革袋が必要ですが・・・。もし気になるようでしたら、我々5人のお世話代として考えて頂ければよろしいかと。」
「ちょ、ちょっと待ってください。これ、大事件ですぞ。この事を知ってるのは・・・?」
「私たちとベッセルさんだけの秘密です。王子やレナードさんも知りません。取扱いにはお気をつけてくださいね。<魔法の袋の持ち主>として、ベッセルさんが殺されてしまうかもしれませんので。」
「命がけで守る秘密ですか・・・。この戴いたものは使いようがないのですが。」
「ユッカちゃんとシルフの以外は普通に流通できるサイズでしょ?」
「ステラさんと、ヒカリさん、そしてフウマさんので金貨100枚は超えるでしょう・・・。」
「そうかも?命が狙われない金額で良かったですね。」
「なるほど、ヒカリさんは衣装の心配もなかったし、これから盗聴される心配もなくなたっと・・・。本腰入れて相手との戦いに備えられますな。」
「念のため、結界を張らせてもらっていいですか?次なる侵入者が来た場合の検知機能みたいな。」
「当然構いません。ベニス卿を本命にして対策を取ることになりそうですね。」
ーーーー
「ベッセルさん、勝手なお願いで申し訳ないのですが、先にベニス卿側の魔術師の位置と、<盗聴の結界>を封じておきたいのです。同時進行であれば、最大5ヶ所ですが、設置だけして、巡回する方法も考えられます。ここに細工をしたいので、ベッセルさんなら仕掛ける場所を教えて頂けませんか?」
「なるほど。私たち以外の声も拾われていると。探索と処置方法はお任せしますが、仕掛けるのに適したポイントを考えますと・・・。
(1)御三家、ガロア卿、ベニス卿が宿泊する宿屋
(2)上記の別荘相当の建物
(3)城下町の門番小屋、王宮の門番小屋
(4)王、王妃、王子達、王女達の寝室
(5)王宮内のメイド控室、調理場、客用寝室、会議室
が、候補として挙げられます。」
「ベッセルさん、ありがとう。先ず、設置の有無と人の配置の有無を確認します。フウマとユッカちゃんで王室内を、ステラとシルフで城下町の探索をお願い。城下町の方はベッセルさんの執事から地図の説明と場所を聞いてね。今はまだ、こちらが気付いたことを敵に知られてはいけません。『こっちが知っているという情報を知られてはいけない』ということなの。移動も探索も細心の注意を払って行動してね。」
「姉さん、了解。王室内もユッカちゃんと一緒なら動けるはずだから大丈夫だよ。直ぐ行くよ。」
「ありがとう。」
「では、ベッセルさん作戦会議を始めましょうか。
まず、<ベニス卿なら何を使って止めにくるか>相手の立場で考えてみましょう。」
「はい。」
「まず、私に<伯爵の爵位>が与えられます。ここを妨害する方法は?」
「先ほどの話ですと、100%自明とのことですが、どのような内容か伺っても?」
「未開拓の領地であっても、ある広さを領地マーカーで囲うことができれば、冒険者・開拓者要素として認定されるとのこと。関所の東側に広がる森林を囲ってあります。」
「私は領地に疎いのですが、それを調べる方法は?」
「簡単な魔術で、その国の領地情報を確認ができるそうです。国の大臣クラスであれば、その魔術の使用が可能だそうです。」
「そこに、偽装や捏造の余地はないのですね?」
「全員が別々に同じ情報を確認するので、個別に騙すことは困難です。領地マーカーそのものを偽造して設置するよりは、普通に設置する方が楽なので、そこは疑われないでしょう。」
「なるほど、他の大臣が承認出来る以上は、ベニス卿一人で反意を唱えても、そこから切り崩すのは難しいでしょう。」
「ありがとう。次に行きます」
「王子の家族へ<婚約者として紹介>が行われます。ここを阻止するには?」
「今やっと合点が行きました。これは戦争になります。
王宮において、王族が招待した客人を妨害することは、誘拐や殺人などの実力行使以外ありえません。誕生会の前日にそれを実行すると、肝心の誕生会自体が中止になる可能性があるため、そこもスルーされるでしょう。ただし、情報は全て筒抜けとなります。<盗聴機能>などなくても、メイドや宮廷魔術師を利用して情報収集を直接・間接で行います。」
「ありがとうね。そっか、<盗聴>よりも、人を雇った方が楽だもんね。普段から王宮の情報は筒抜けか・・・。今からそこの人員を変えるのも難しいし。その時点から勝負か・・・。
最後に、<突然爵位を持った婚約者>が誕生会に現れたらどうする?」
「ヒカリさんを目の前にして申し訳ないですが、次のような手を使います。
1.直接的に誘拐・殺人により処理をする
2.自分の持つ婚約者が優れていることを誕生会で公にアピールする。
3.誕生会そのものを壊すような騒ぎを起こし、婚約者発表も無かったことにする。
私のような者ですら、この程度のことを考えます。
より、具体的な方法は魔術師団を持っていればさらに分岐すると思います。」
「いいよ。凄くいい。私は1とか2の<私個人の心配>をしてたけど、3は想定してなかった。相談して良かったよ。次から具体的に話をしようか。
<私を出席させない方法>
これはどう考えればいいかな。この敷地内の私の姿は確認できないし、盗聴もできないし、侵入できないものとするよ。」
「私や執事に金を渡して毒殺する。あるいは、用事と称して呼び出して殺す。」
「毒殺は無いとして、<家族を誘拐した>と脅された場合はどう?」
「私どもを信用して頂きありがとうございます。ヒカリさんを全力で支援します。また家族は別の土地に住んでいるため、誘拐した事実を示す手段が相手側にはありません。」
「そう、安全地帯ができて良かった。」
「次は移動中を狙います。馬車ごと倒す。馬を操る。出てきたところを攫う、殺す。」
「なら、ダミーの馬車を出して、そっちに敵の目を向けるのはアリだね。私たち5人は別の手段で移動することにする。教えないのは信用してないのではなくて、ベッセルさんが殺されちゃうような秘密の数を減らすためね。」
「ハハハ。お気遣いありがとうございます。偽の馬車はこちらで用意いたします。」
「最後は王宮の中ですが、基本的に帯刀は出来ません。預けるのが決まりです。ただ、護身用の小さなナイフなどはあるかもしれません。これに毒を塗って、かすり傷でも致命傷にする作戦があります。あとは魔術の類でしょうか。」
「毒のナイフに魔術か・・・。ちょっと考えてなかった。後で皆と相談する。
他には?」
「食べ物などに毒を混ぜる可能性もありますが、万が一、他人が倒れてしまうと誕生会そのものが中止になり、そこは避けたい作戦です。」
「他人任せなコントロール不能な作戦は取らない。なるほどね。じゃ、無事に誕生会に出席できたとしようか。」
「誕生会で婚約者の発表がありました。<素性の知れぬ伯爵になったばかりの娘>これをどう落として、自分の推薦者を押す?」
「<自分が後ろ盾であること>を全員に周知し、語り掛けるでしょう。王子は庶民感覚の恋愛感情で結婚ができる立場ではございません。<国力を強める結婚>が重要視されるためです。この場合、ヒカリさんの味方が王子とバイロン卿であることが逆に作用してしまいます。<御三家>の2卿が自分の身内を押すことは<ごり押し>として、ベニス卿の煽りを正面から受ける形となり、他の貴族が<国の行く末を案じる>ような雰囲気に染めてくるでしょう。なので、そこではお二人からの助力は当てに出来ません。」
「いいね。流石だよ。分かりやすくて、イメージがよく出来るよ。
ベニス卿は<何が国力を強める>と主張するのかな。」
「<お金・財力>を前面に出してきます。交易によって、食料自給率が低い問題を解決したと主張するでしょう。軍を出すにもお金が必要ですから、ロメリア遠征も絵空事と主張するでしょう。」
「あれ?ちょっとごめん。横道に逸れるんだけど、何点か質問してもいいかな?」
「あ、はい。判ることなら何でも。」
「ちょっと、リストにするね。
1.食料自給率は開拓騎士団を出したけど失敗した。いつのこと?あと理由も。
2.ベニス卿がメルマと癒着しているのは、いつからのこと?
3.メルマとロメリア王国の依存関係または支配関係
4.今流通している<贋金>はいつから?
わかる範囲でいいので、1つずつ答えて貰える?」
「なるべく要点をまとめますが、少々話が長くなりますこと、ご承知おきください。
約7年前に当時の騎士団の団長であったベイスリー氏によって、開拓騎士団が編成されました。国王も他の大臣達も<食料自給率の問題>は解決できるならしたいと考えており、大きな期待をかけたプロジェクトでした。ちょうど関所とキリギスの中間辺りの森は、未開拓な土地で、ロメリアからも目につかない土地でしたので、その辺りを開拓することになりました。
詳細は分からないのですが、道を作るところから始めて、肥沃な平原を探索していたそうです。最初の1年は大した成果も出ずに延々と森の中を進んでいたそうです。そのような中で、鉱物が取れそうな洞窟が見つかり、『農地ではなく、鉱物の増強で交易を強化するのもあり』という声もでてきて、洞窟の探索が始まったそうです。しかし、洞窟内の瘴気により、肺の病で騎士団が壊滅に追い込まれ、洞窟の探索も農地の開拓も中止になったそうです。それが約5年前のことで、ベイスリー氏も責任を取らされ資格をはく奪されただけでなく、国への多大な損害を与えた罰として、犯罪奴隷に落とされたとのことです。
これと同時期にベニス卿から『交易を盛んにするなら金貨を変えて、大量に持ち運べるようにしよう』と、<金貨を厚くする>ことが提案されました。確かに数える枚数も減りましたので多額の取引には使いやすいとの評判となりました。メルマとの交易を盛んにして、多額の売買を可能にして、食料自給率の問題が解決できたとのことで、ベニス卿が財務大臣として侯爵の地位に就きました。
メルマとロメリアの関係は、遥か昔からあります。よくわかりませんが、エスティア王国の国力が衰退する中、メルマが独立したので、エスティア側が関所を建てたと聞いています。ロメリアがメルマを裏から支配しているとか、そういった情報は関所を境になかなか入ってきません。
最後に、<贋金>とのことですが、よくわかりません。<今の金貨>は先ほど述べた通り、ベニス卿の発案で新しい金貨に切り替わりましたが・・・。
お答えになったでしょうか?」
「かなり情報が繋がってきた。ここで追加で質問ね。
ベニス卿が火の魔術師の部隊を持っているとして、ロメリアへ遠征させるとしたら、
それは、<エスティア王国のため>か<ロメリア王国のため>か、どっちだと思う?」
「あの・・。あくまで推測でよろしいでしょうか。
ベニス卿にとっては、<エスティア王国において、確実で強固な地位を手に入れること>これが一番重要な事柄ですので、この大事において、ロメリアへ遠征する必要はなく、手元に置いておきます。
もし、そのような部隊をもっているにも拘わらず、ロメリアへ魔術部隊を送っているのであれば、それは出兵ではなくて、<ロメリア王国からの要請>で帰還を命じられていると考える方が正しいと思います。」
「うん。私に説明してくれてさ、『もし、ヒカリの言う<ベニス卿の魔術部隊>が居たら、とんでもないことがこの国に起こっている』とか、頭がグラグラしてこない?」
「あ、あの・・・。ちょっと飲み物を頂いても宜しいでしょうか」
「うん。ちょっと休憩だ。私も整理したいことがあるから。」
いやぁ・・・。
ベニス卿を潰して、ロメリア王国と戦争か・・・。
食料自給率をどうしようか・・・。
えっと、なんだっけ。
<宮廷魔術師になって、自由な研究>
だっけ?
いや、そうじゃないよ。
<平和は戦争のための準備期間>って誰かが言ってた。
勝てないと大事な人が奴隷にされるんだよ。
相手が5年もかけてやってきたことをひっくり返せるとは思わないけど、
徐々に相手の力を削いで、開戦するまえに互角に持ち込もう。
それが戦略ってやつだね。
いつも読んでいただきありがとうございます。
頑張って続けたいとおもいます。
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ありがとうございます。
10月は毎日少しずつ22時更新予定。
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