2-54.情報収集(1)
『情報を制する者は世界を制す』ってね。
<<ナビ、あってる?>>
<<ヒカリ、ここ前書きです。>>
<<本文で間違えると悔しいから。>>
<<<プリン>みたいに?>>
<<それ、ここで言う?>>
<<前書きですから。>>
さてと。フウマの言う通りなんだよね。
事前にどれだけの情報を掴めるか。
そして、こっちの手の内を掴まれないかが重要。
『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』ってね。
<<ナビ、『孫氏の兵法』について>>
<<原文で全文ダウンロードしてよろしいでしょうか?>>
<<これからの戦いで役に立ちそうなのを日本語で平易な文章で。>>
<<五事とは、
「道」:戦うメンバーが一つになって目指すこと
「天」:時の運を得ていること
「地」:地の利を得ていること
「将」:主将が優れていること
「法」:法に則って行動していること
ここが大切です。今のメンバーで問題ないとおもいます。>>
<<なるほど。他は?>>
<<先ほどの五事を敵と比較することを七計といいます。
「主」 :どちらが戦いの理由をメンバーに浸透させているか
「将」 :どちらが優れた将であるか
「天地」:天と地の利は、どちらが有利か
「法令」:決まりごとは、どちらが良く守られているか
「兵衆」:チーム力はどちらが優れているか
「士卒」:兵士は、どちらが訓練されているか
「賞罰」:賞罰は、どちらが厳密かつ公平に運営しているか
ここが敵の探るべき情報・状況の要と考えるようです。
ヒカリのメンバーに問題があるとすれば、手数ぐらいでしょうか>>
<<なるほどね。相手が合従連衡してくることまで想定してなかった。1:1の個別戦術では終わらない可能性があるね。ナビすごいね!>>
<<私からアドバイスがあるとすれば、くれぐれも敵を見くびらないことでしょうか。>>
<<ありがと。肝に銘じるよ>>
「みんなおはよう。ピュアして、そろそろ移動でいいかな?」
「姉さん、早いね。ベッセルさんの所へ行く前に、どこかで朝ごはんにする?」
「そうだね。街の情報も知っておくといいね。」
ーーーー
関所は予定通り、王子とレナードさんの書状をみせずに、あくまで<冒険者一行>として、街に入る。どこで、誰が情報を拾ってるか判らないからね。服装も当然いつもの狩人用の服だ。とりあえず、馬車を預けてから朝食へ行こうとおもったんだけど・・・。
「お嬢さん、悪いね。今は時期が時期だけに、預かりきれないんだ。」
「え?どんな事情があるんですか?」
「2日後に王子の誕生会なのさ。今回は婚約者の発表もあってさ、そりゃぁ、いろいろな有力の貴族が集まってきてるんだ。その世話役もぞろぞろ来てる訳で、街中が馬車だらけなんだよ。」
「多少割高でも構いませんので、朝ごはん食べに行くぐらいの時間は預かってもらえないでしょうか?」
「それがさぁ、<御三家>に貸し切りにされちまったんだ。前金で貰ってて、<他の者を一切入れるな>ってね。嬢ちゃんだけじゃないんだ。誰も駐められないんだよ。勘弁しておくれ。」
「そういうことでしたら、他を当たることにします。」
「フウマ、この調子で片っ端から馬車の預り所を当たれば、有名貴族リストができそう」
「姉さん、今回の婚約者を見に来るだけの人もいるし、もっと効率よく情報収集した方がいいよ。」
「そっか。裏の世界のプロだね。任せた。ところで、伯爵の爵位って貰いにいかなくていいの?」
「まだ、王子もレナードさんも到着してないから、今日着いて緊急会議を開いても明日以降じゃないかな。」
「昨日の昼間に出発してたよね?」
「馬ってさ、単距離なら結構速いんだけど、持久力はそれほ無いんだ。最高速度を維持したまた関所からここまで走り切れないんだよ。途中で馬を替えるか、休憩させないとね。」
「ひょっとして、私はフウマの言うことをハイハイ聞いてる方が、フウマが自由に行動出来て良くない?」
「姉さんが好き好んでやってると思ってたけど、効率優先でいいなら俺が仕切るよ。」
「フウマにお願いする。もし、私が決断した方がいいとか、そういうのあったら教えて。手分けしてする作業とか、そういうのもフウマの指示に従うから。」
「じゃぁ、『姉さんが決めていいよ』とか『姉さんの自由にしていいよ』という合図が無い場合は、俺の判断と指揮で全員動くってことでいいかな?」
「私は良い。みんなもいいかな?」
「「「ハイ」」」
「分かった。じゃぁ、朝ごはんを食べながら、ベッセルさんの派閥を確認する。人によっては2つも3つも掛け持ちして、都合の良い所に乗っかれるように準備する人がいるからね。最後に裏切られたら目も当てられない。いいかな?」
「いいよ。」
こういうとき、フウマの能力が光るね。
さり気なく、知らない振りと相手の気持ちをくすぐって、多少食事を奢りながら相手との気持ちを繋ぐ。で、そんなことを何回か別の店を周って繰り返すうちに、今回の有力貴族の派閥構成がほとんど出来ちゃった。
「姉さん、ベッセルさんは心配なさそう。商人としてそれぞれの貴族と平等に接しているけど、肩入れしている派閥は無いね。姉さんに中立を保ってくれるかは判らない。一度メイドとして働いて、王子に会わせて貰ったんだろ?普通、王族に得体の知れない人間を会わせたりしない。姉さんが余程の信頼を勝ち得たか、王子がベッセルさんをお気に入り扱いしてるかのどっちかだ。だから、姉さんにとっても、王子にとっても損な行動はしないと見ていいよ。手の内を見せるタイミングは、いつが良いとは言えないけどね。」
「フウマ凄い。その調子でお願い。」
「なら、早速ベッセルさんの所にお世話になりに行こう」
ーーーー
「こんにちは~。ベッセルさん、いらっしゃいますか~?」
「おや、久しぶり。元気にしてたかい?今日はどんな要件でしょう?」
「ええと、誕生会の賑わいを見に来ました。フウマ、説明をお願いしていいかな。」
「<フウマ>としては、初めましてです。王子の所に居た<スザク>です。」
「ヒカリさんと<スザク>殿が一緒とは、何かありますね。ちょっと奥に入って頂いても宜しいでしょうか。」
「あの、他の家族もいるのですけど、一緒しても良いですか?」
「もちろんです。さ、入って。馬車はうちで預かっていいですか?構わなければ執事に移動させますよ。」
「お願いします。」
「さてさて。単刀直入に聞いていいですか。誕生会に参加するつもりですね?」
「はい。」
「今から人数分の招待状を手に入れるのは厳しいですね。フウマ殿のコネを使う予定があるのですかな?あるいは、王子がこの事をご存じなのですかな?」
「王子も興味はあるようです。きまぐれのため、まだ公になっていません。」
「相変わらず面白い。コトが始まるまでの残り時間を聞いてもよろしいでしょうか?」
「王子とバイロン卿は本日夕刻に王宮に入り、<ある発意>がされます。」
「その件の成立の見込みは?」
「100%です。要件を満たしていますので問題ありません。」
「ふむ。ヒカリさんは仲間に恵まれましたな。失礼を承知でお伺いしますが、ヒカリさんを含む5人の当日の衣装の準備はお済みでしょうか?」
「姉さん、大丈夫だよね?」
「はい。馬車に積んであります。」
「そうでしたか。衣装はご自身で保管されても、こちらでお預かりすることもできますが、如何いたしましょうか?」
「フウマ、ベッセルさんに任せて保管してもらおうと思うけどいいかな?」
「うん。いいと思う。その方が留守中の心配もいらないし。」
「荷物の件、承知しました。
では、早速、今回の誕生会の参加者達の説明をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「「お願いします。」」
「先ず、今回の誕生会に参加する方達は、大きく3つの派閥があります。
<御三家>と呼ばれるウインザー公爵、バイロン侯爵、あとガウス侯爵でして、こちらは現国王と古くからの仲です。
<商人派閥>として、ベニス侯爵がいます。<メルマの商人>と仲が良い存在で、今回の王子の誕生会で婚約者を出すべく、積極的に動いています。
<鉱物資源系派閥>のガロア侯爵が居ます。エスティア王国の根幹を成す鉱物資源の管理・許可権を持っている侯爵となります。本人は野心も無く、至って真面目な方ですが、奥方と息女が『もっといい生活がしたい』と望んでいるようです。
他にも多くの貴族や他国の上級貴族が誕生会に参加されると思われますが、あくまで儀礼的な面が強く、今のところ大きな情報がございません。
ここまでの概略は宜しいでしょうか?」
「「はい」」
「では、個別情報に入りますが、宜しいでしょうか?」
「あ、ちょっと待ってください。」
<<ナビ、索敵。あと、情報入手のための結界やマーカーが設置されてないか確認>>
<<フウマ、ユッカちゃん、周囲に諜報活動を入手するような工作員が居ないか確認して>>
<<ステラ、シルフ、周囲にエーテルの乱れや結界の設置が無いか、妖精さんを駆使していいので確認して>>
<<<ぴろろ~ん>>>
<<この屋敷の敷地内に正体不明のマーカーが3つほどあります。また、赤〇が敷地境界の直ぐ外側に2名。諜報活動が目的かは不明>>
<<ありがと。継続監視をお願い>>
<<おねえちゃん、おうちの外に2人いるよ。なんかこわい感じがする>>
<<ユッカちゃんの言う通りだね。片方は動かないから、こちらを伺っている可能性があるね。>>
<<建物内に私の知らない結界が2個、知っている物が1個で合計3個あるわ。1個は、空気の取入れのものだから、危険は無いと思うのだけれど・・・。>>
<<僕の見た感じ、ステラの判らない1つは闇属性の魔術が仕込まれている。盗聴機能をもたせているかもね。もう一つは風属性だ。これは音や物の動きからこの館への出入りを把握するためのものだよ。ひょっとすると、ベッセルさんが防犯用に設置してるのかもしれないよ。>>
<<みんなありがとう。ベッセルさんに確認しないとね。>>
「ベッセルさん、大変申し上げにくいのですが・・・。」
私は、何か書くものが欲しい事を身振り、手振りでベッセルさんに示す。
ベッセルさんはそれを理解すると、メモ書き用の板とペンを持ってきてくれた。
そこから筆談が始まった。
『こちらは<空気清浄用の結界>や<防犯用の結界>が設置されていますか?』
『はい。2つとも宮廷魔術師に依頼しました。』
『もう一つ、<闇の結界>を設置した覚えはありますか?例えば外部と情報交換をするための用途です。』
『いいえ。私の指示では行っていません。』
『こちらの建物では、防犯用の護衛などで、境界の外回りを監視させたり、巡回させている者はいますか?』
『1名います。定期的に境界を周回をする者です。』
『対処します。適当な雑談をしながらお待ちください。』
「あの、今晩の食事は<海のお魚>というものを食べてみたいのです。森の中で狩人をしているのですけど、大きな海の魚はとても美味しいって聞くんです。」
「ああ、ヒカリさん、ここは海から遠いので、<海の魚>は、ちょっと難しいなぁ。早馬を出して、乗り継いで運ばせるような贅沢なお金の使い方をできる人じゃないと・・・。」
「そうなんですか・・・。それですと、この城下町ならではの名物とかは・・・?」
「そうですな・・・。」
<<4人とも、筆談が理解できていればいいけど、一応確認ね。
<闇の結界>これはシルフの言う通り、盗聴機能の可能性がある。
そして、フウマが見つけた<動かない監視役>が盗聴してる可能性がある。
もし、<闇の結界>と<盗聴役>が同一派閥の関係者なら、話は楽だけど、別の派閥が別々に送り込んでいる可能性もあるから、僅かにタイミングをずらして、尚且つほぼ同時に制圧したい。
やり方は、
(1)シルフとステラで闇の結界の解除が可能か確認して、解除方法が判ったらフウマに連絡する。
(2)フウマとユッカちゃんは<盗聴者>の方へ近づいて、心臓と頭を拘束する準備。準備が出来たらステラへ連絡する。
(3)ステラが合図してシルフと一緒に<闇の結界>を解除する。
(4)合図と結界解除が終わった時の<盗聴者>の反応を確認してから、<脳>と<心臓>を二人で拘束する。逃亡や自殺を図る可能性があるから注意してね。当然、歯向かってきたり、<拘束解除>の魔術を駆使してくる可能性もあるからそこまで考えて行動すること。
判った?>>
<<OK>>
<<私はここでベッセルさんと話を続けるから作戦開始!>>
<<OK>>
「こんな大きな街って初めてなので、お買い物とかも楽しみです。」
「そうですな。丁度お目当ての誕生会もあることで、いつも以上に露店もでるし、お祭り専用の屋台なんかも広場にでてきます。明日が前夜祭ですから、今日以上に楽しめるでしょう。」
「こんな狩人の服装でも大丈夫でしょうかねぇ?」
「街の中を散歩するなら構わないですよ。ですが、誕生会に当日参加するとなると、その格好では不味いですね。パーティードレスは持参していますか?」
「それが、母が結婚式に使ったドレスを借りてきただけで・・・。」
「ひょっとして、靴や帽子、手袋といったアクセサリーは準備されてない?」
「ええ?そのような物が必要なのですか。明日街で買いに行っても大丈夫でしょうか」
「靴や手袋はサイズ合わないと、かなりだらしない格好になりますな。でも、無いよりはマシでしょうか・・・。お買い上げの資金はお持ちでしょうか。」
「はい!金貨5枚!この日のために一生懸命貯めたんです!」
「ヒカリさん、それは少々不足かもしれませんね・・・。」
「そ、そんな・・・。笑わなくてもいいじゃないですか・・・。」
<<姉さん、終わったよ。なんか笑い転げてるんだけど。>>
<<ナイス!殺さないように、自殺しないように注意してね。あと、みんなで戻ってきて>>
いつも読んでいただきありがとうございます。
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