2-52.視察(4)
「昨晩はお楽しみでしたね?」
ユッカちゃん、そのネタの意味、知ってて言ってる?
「おねえちゃん、おはよ。朝だよ。」
「あ、あれ、ユッカちゃん。おはよ。」
「昨晩はお楽しみでしたね?」
「え?え?え~~~~~。な、なんで。」
「勇者がお姫様を助けた後で宿屋に泊ると、翌日言われる台詞だって。」
「トモコさん仕込み?」
「うん。<ドラゴンクエーサー>とかなんとか。」
「クエーサーは星からでてる強い光でさ。クエストだと思うんだ。」
「じゃ、後は王様の城に報告に行って、ハッピーエンド?」
「ユッカちゃんがハッピーエンドじゃないと、私は終わらないよ。」
「私のハッピーエンドって?」
「ユッカちゃんは何がしたい?」
「おねえちゃんと一緒にいろんなことを勉強したり、冒険しに行きたい。」
「それなら、これまでと一緒だね。」
「うん。」
<<おねえちゃん、ステラさんが用事があるって>>
<<え?>>
<<ヒカリさん、出来ましたわ>>
<<おはよう。何か頼んでたっけ?>>
<<毛皮が出来たんです。王子にお見せできるかなと。>>
<<速いね~~。なんか頭がぼ~~っとしててごめん。>>
<<おねえちゃん、ステラさんが<念話>出来てるって分かってる?>>
<<あ、あれ?みんなどこだ。>>
「私がおねえちゃんの目の前。他の人は食堂で待ってるよ。」
「すぐ行く。モリスに言っておいて。」
こう、腕枕とか、余韻とか、朝からもう一回とか、
ああいうのは無いのね。ファンタジーじゃないのね?
ピュアして食堂に行かないと・・・。
あ、なんか痛い。筋肉痛みたいな・・・。
いかん、いかん。朝から思い出してしまうよ。
ーーーー
「ヒカリ、おはよう。」
「ヒカリ殿、ご機嫌は如何かな?領主として人をもてなすのも疲れるだろう。」
「おはようございます。寝坊しました。すみません。
お二人が昨日楽しんで頂けたなら幸いです。」
「レナードは楽しめたか?」
「どうやって、ここへ通う都合を見つけるか画策中です。王子は如何でしたか。」
「どうやって、次回此処へ来るか考えている。」
「誕生日と婚約者の発表が控えておりますので、ほどほどに・・・。あ。」
「『あ』じゃない。準備に時間が無いんだ。」
「ヒカリ殿の御意向を伺わないと。昨日の夕食の通りでよろしいので?」
「え?私なにか準備するの?」
「姉さん!」
「「ヒカリさん」」
「ヒカリ殿・・・。」
「ヒカリ・・・。」
「おねえちゃん、どっか行くの?」
「ヒカリが好きにしていいぞ。私は行かないが。」
「姉さん、王子の誕生日の話はしたよね。」
「うん。」
「婚約者の発表もするよね。」
「そういう話があったね。」
「姉さんが婚約者になるって話だよね。だから伯爵の爵位をもらうんでしょ。」
「え?そうだっけ。王子と公平な立場で結婚するなら伯爵以上ってことでしょ。」
「ねえさん。俺が悪かった。今から準備することを言うね。
王子やレナードさん達と王宮へ行く。
王様やお妃さまにも話を通す必要がある。
伯爵の爵位をもらう。
王子の誕生会の前夜祭から出席し、有力な貴族と会話をする。
誕生会の当日に発表される婚約者の紹介にも出席して、そこで皆の前で紹介される。
もう、3日後が婚約者の発表の場だね。」
「移動するだけでも間に合わないよね。確か60kmぐらい。ええと、フウマの足で6万歩。どうするの。」
「王子とレナードさんは、馬を乗り継ぐから、2日で戻れるよ。夜でも門番が通してくれるし。ねえさんは、馬に乗れるの?」
「馬はやったことない。馬車は運転できるよ。走ったほうが。あ、今の無し。」
<<飛んだ方がとか、言わないだけいいよ>>
<<飛べないから走るんでしょ。>>
<<わざと?>>
<<今のはわざとだよ。>>
「ヒカリは走ると馬車より速いのかい?」
「フウマやユッカちゃんより遅いですけど。」
「スザク、じゃなくて、フウマ。荷物無しなら城下町までどれくらいかかる?」
「門が開いている前提で、1日あれば移動できます。」
「レナード、我々の方が遅いんだが。どういうことだ?」
「ヒカリ殿ですから。」
「レナード、二人で書類をここで作成する。手伝ってくれ。」
「ヒカリ殿の名前や、家族など種々伺うことになります。そこに我々の署名を付けますので、門は全て素通りできるようになります。宜しいか?」
「あ、はい。誰が行くか決めるんですよね。」
「書類の不備にならないよう、今決めて頂きたいですな。」
「おねえちゃんが行くなら、私もいく~。」
「俺もついていくよ。」
「ステラとニーニャは?」
「私はちょっと、観てみたいですわ。」
「私は行かんぞ。」
「モリスは申し訳ないけど留守番で。」
「承知しました。」
「じゃ、4人でお願いします。
1.ヒカリ・ハミルトン
2.フウマ・ハミルトン
3.ユッカ・ハミルトン
4.ステラ・アルシウス
です。」
「おい、レナード。アルシウス家のエルフ嬢といえば・・・。」
「ヒカリ殿ですから。次行きましょう。
ヒカリ殿の出身国と誕生日をお願いします。
これは爵位だけでなく、婚約の儀の発表にも必要になります。」
「出身国は<ニホン>です。どこの大陸に位置するか判りません。誕生日は5月15日で、半月、満月、半月です。」
「王子!」
「ヒカリだからな。」
「喜ばないので?」
「やることが多いんだ。悪気がある訳では無いんだ。前に進もう。」
「これで書類を記入する内容は大丈夫です。モリス殿、羊皮紙とサインするペンを借りれるかな。」
「すぐにお持ちします。」
「ヒカリ、準備のもう一つとして、ヒカリに着てもらう服が無いんだ。」
「私は借り物のこの服しか持ってないよ。」
「おねえちゃん、私のお母さんの別の服を使う?」
「ユッカちゃんが貸してくれるなら、それにしようかな。夜はステラが作ってくれた毛皮をお洒落にもっていくぐらいでいいかな。」
「<トモコの毛皮>でなく、<ステラの毛皮>とは?」
「ステラ、借りていい?」
「是非是非!こちらになります。」
「レナード!」
「<トモコ産>から<ステラ産>に変更ですな。ステラ殿が技術を人族のために提供してくれればですが。」
「私はヒカリさんの物ですから。ヒカリさんの意向に沿いますわ。」
「ステラ、無理しなくてもいいよ?」
「材料さえあれば、あの子達でも作れますわ。手が空けばですけどね。」
「王子、これ着て行っても変じゃない?」
「十分な物だよ。入手元を隠すのが大変になるだろう。」
「モリス。服はユッカちゃんのお母さんの服と、この毛皮にしようと思うんだけどいい?」
「あ、決まりましたか。一応、レイ殿と相談してきたのですが・・・。」
「レイが何か持ってるの?」
「例のハウスセールで一式買い上げたときに、衣装も何点かございまして。
ただ、その、商売には不向きなパーティードレスが手つかずで残っております。」
「それを貰えばいっか。」
「サイズが合えば、宜しいかと。あと、恐れながらの推測ではございますが、もしユッカちゃんのお母さんが、<伝説のトモコ>だとすると、普通の伯爵には分不相応な衣装の可能性がございます。衣装で国が買えるレベルかと。」
「ユッカちゃん、そうなの?」
「しらな~~い。お母さんのお墓にしまってあるよ。」
「レナードさん、大事な事を忘れていました。借りていた<森のおうち>と<お墓>をそのまま保存してもらえませんか。ユッカちゃんのご両親が眠っているので。」
「貸す予定が無いから構わん。私が忘れないようにしないとな。」
「それで、ユッカちゃんのお母さんが<伝説のトモコ>かどうかは、誰も知らないのですか?」
「ハンスとトモコは二人で旅人としてやってきた。肺の病気を治してもらった恩があるから、二人が住みたい場所を提供しただけだ。そんなとき、ユッカちゃんが生まれて紹介に来て、交流してたぐらいだ。ついでに、良質の肉と毛皮も買い取っていたがな。」
「王子は?」
「レナードが流す「肉」と「毛皮」の正体を今知った。」
「モリス、お母さんのお墓を開けるのはちょっと忍びないから、レイさんが紹介してくれるものにしようと思う。王子、変えてもいいかな。」
「我々はそろそろサインを済ませて出発しないと不味い。衣装合わせに付き合う時間が無い。レイとモリスの見立てなら問題ないだろう。任せる。
レナード、そろそろ時間だろ?」
「はい。結局、誰が<おねだり>していたのか判らない関所の訪問でしたがな。」
「レナードが言うか?<高温炉>のおねだりと、<娼館>の使用権だろ。あと、<ステラの毛皮>も権利化するんだろ?」
「王子は<ヒカリ殿>をおねだりしています。これが一番だと思います。」
「ヒカリ、もう一度<おねだり>してみろ。なんでもいいぞ。」
「王子、いいの?」
「できるとは言わない。まず聞くだけだ。」
「船が欲しい。農民がほしい。砂糖を作ってる場所まで冒険しに行きたい。」
「レナード、許可できるか?俺は夢があっていいと思うぞ。」
「許可します。が、私が<高温炉>の進捗を毎月視察に来ることが条件です。」
「ありがとうございます。夢が叶ったときに備えて、お二人の連名で一筆頂けますか?」
「船の製造、所有、運用の許可権。農民の徴収、小作支配と収穫物からの徴収権。冒険に必要な身分証明書の発行。で、よろしいかな。実現に必要な機材や人材などの費用はご自身で用意頂くことで。」
「レナードは相変わらず厳しいなぁ。あくまで権利のみなんだな。だが、俺も良いと思う。サインしよう。」
「あの、夢ですので、有効期限は無期限にして頂いてもよろしいでしょうか?」
「「アッハッハッハ。いいよ。夢が実現するといいな。」」
「よし、これら一式にサインしたら出発だ。ヒカリも皆と後からきてくれ。」
「わかりました。昼夜駆けて追いつきます。」
「おねえちゃん、なんで、みんな笑ってるの?」
「みんなで楽しい夢をみてるからだよ。」
いつも読んでいただきありがとうございます。
頑張って続けたいとおもいます。
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ありがとうございます。
10月は毎日少しずつ22時更新予定。
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