2-48.視察の準備
<プリン>が根本的なミスを犯したこと以外、特に問題無し。
っていうか、ばれてない、ばれてない・・・。
で、順調だと思ってたらフウマが<念話>通してくるの。
あれ?いつ<念話>習得したんだろ?
「みんな、おはよ~。昨日の試食会に参加してくれてありがとうね。ちょっと食べ過ぎちゃった気がするけど、朝の体操が終わったら、各自視察に向けた準備をお願いね」
「食後のハーブティーに消化成分を配合しておいたのじゃ」
「流石長老!いろいろ気配りありがとうね」
「うむうむ。ちゃんと約束通りに畑も見に行くつもりじゃからな」
「移動が不自由なら、ユッカちゃんとかシルフに手伝ってもらって。ステラは革作成で忙しいのと、エルフの子らは<飛空術>も<隠密行動>も持ってないから、勝手気ままに空を飛べないんだよね」
「心配無用じゃ」
「そう。そしたら、モリスとベイスリーさんと私で、開拓者受け入れの準備の打ち合わせをしようか」
「ヒカリさん、ベイスリーさんは関所の中で働いていますので、声を掛ければいつでも来れると思います。私も優先して時間を割けます」
<<ねえさん!ねえさん!これでどうかな?通じて欲しい>>
<<フウマ、おはよ>>
<<通じた!>>
「モリス、食堂に移動しようか。ちょっとフウマから連絡入ったから、先に進めててくれる?」
「了解しました。フウマ殿も<念話>通せるようになったのですね」
「うん。なんかそうみたい」
<<ねえさん!大変なんだ>>
<<突然の念話には、誰も寝んわ>>
<<ねえさん、真面目にきいてよ。緊急連絡なんだよ>>
<<一人で念話を使えるようになって、おめでとうね>>
<<今から、関所に行くことになった>>
<<フウマが3日前の夜にここを出発したよね。あと、2-3日先に来てもらうことで計画立てるんだよね?>>
<<その予定が狂ったから、必死に<念話>で話をしようとしてるんだよ>>
<<大変なことに見えるけど、大変なことにならないように修正すればいいよね>>
<<そこを相談をしたいんだ>>
<<じゃ、大変なことを整理してくれる?>>
<<今、キリギスの街にいて、レナードさんと王子が一緒に関所に行くことになった>>
<<止めてね>>
<<そもそも、関所とか娼館の視察の話はしてないんだよ。王子が元気になって、レナードさんの所にねえさんとユッカちゃんの件でお礼をしにきてたんだ。レナードさん自身も不在だったらしくて、ねえさんが男爵になったことを今回初めて王子から聞いてるんだよ>>
<<門番さんに伝言してたけど、王子が優先だから仕方ないよね>>
<<俺なりに、城下町行ったり、レナードさんの所に戻ったりして王子を探していたんだけど、僕らの考えとは全然違う所で意気投合しててさ>>
<<昼は、キリギスの宿屋で<ホットミース>食べさせる。その後、<粘土の洞窟>に視察してもらって、焼き煉瓦の重要性と製造・販売権の許可の話を持ち出してみて。上手くいけば2日間は関所へ来る時間を引き延ばせるよ>>
<<王子の誕生日が近いんだ。王宮のパーティーの日程はそう簡単にずらせない。だから、『近くだし、今日行って見よう』って、二人が盛り上がってしまったんだ……>>
<<王子の誕生日が近いのをフウマは知ってたの?>>
<<忘れてた。だけど、レナードさんに娼館の視察をしてもらう件と、『二人が姉さんに会いに行こう』っていう件は全然別って、姉さんも判かってくれるよね?>>
<<二人は何日間、こっちに滞在する予定になるの?>>
<<移動時間と前夜祭まで考えると、明日の朝に関所を出発だと思う>>
<<飛行術で飛んで、パーティー当日にお届けだと何日?>>
<<4日後の朝に王宮ってことになるね>>
<<フウマが王子を直接送ればその日程でもいいよね>>
<<レナードさんが出席しない訳にはいかないだろ?それに、体格も大きいからユッカちゃんじゃ、レナードさんを運ぶのは無理じゃないかな>>
<<フウマ、よく状況を把握してるね。流石だよ。もう一つ問題があって、実は私の誕生日も近いの>>
<<いつなの?>>
<<5月15日>>
<<なにそれ?月の形で言ってよ>>
<<ナビ、こっちの5月15日相当の月の形をお願い>>
<<半月、満月、半月です。大きな満月が真ん中ですね。割と有名な月の形です>>
<<ナビ、いつもありがとね>>
<<どういたしまして>>
<<フウマ、多分だけど、半月、満月、半月。大きな満月が真ん中のやつ>>
<<多分ってなに?それ、王子の誕生日と同じだよ>>
<<お~。偶然ってあるもんだね>>
<<ワザと言ってる?>>
<<よくわかんない>>
<<こっちの国では、誕生日を月の形で覚えるぐらい、月の形って重要で、占いにも使われるし、その人の将来を決めるとも言われて、信じている人が多い。『最後は月のめぐり合わせだね』なんて、運命論もよく出てくるんだよ>>
<<それで?>>
<<『半月を持つ人は半月と一緒に成れ』って格言があって、結婚相手を探すときに、半月同士は非常に相性がいいとされているんだよ>>
<<フラグ立った?>>
<<旗がどうしたって?今日は何もお祝いじゃないから旗なんて無いよ。人が説明してるんだから、関係ないこと言わないで>>
<<ごめん>>
<<王子は婚約者候補が何人かいるんだけど、半月を2つも持つ人が居ないし、まして、王子のは半月2個と満月だから、なかなか相手が見つかりにくいんだ>>
<<半月3つの誕生日なんか、相手探しで死に物狂いになるね>>
<<半月3つは凶兆とされてるんだ。『全てが中途半端で達成できない』って、思われているみたいだね。王子はそこで満月があって、偶数の半月もあるからすごいんだ。伝説的な面からも期待されてる部分もあるんだ。人柄とか実力も当然あるんだけどね>>
<<ふむふむ。なんかとっても重要ってことが判ってきたよ。
で、それは私と関係ないよね。王子の視察と私の誕生日パーティーが重ならないように調整しようって話だよね>>
<<ねえさんは、興味とかないの?>>
<<何が?>>
<<いや、なんでもない。姉さんが元気って分かれば二人とも納得して帰るはずだから。そうしたら、王子もパーティー開けるし、姉さんもこっちでパーティーできていいよね。>>
<<うん。その方向で進めよう。フウマは、こっちで、贋金、二重納税、魔石換金とか余計な事言わないでね。飛行術、拾った船、開拓団の話もね>>
<<今は姉さんの味方だよ。余計なことは何も言わない>>
<<ありがとうね。こっちの準備変えて対応するよ。お昼ご飯を用意するかだけ、分かったら教えてね>>
<<了解。<念話>できて良かったよ>>
<<こっちもだよ。頼りにしてるよ>>
さてと……。
興味とか言われてもさ。異世界来て、1.5ヵ月の私に何をしろっていうの。まして、関所しか権利をもっていない男爵が相手になるかってーの。
よし、気を取り直して、モリス他に連絡開始だ。
ーーーー
「モリス、王子とレナードさんが来る」
「計画してた視察予定とは日程が合いませんが?」
「私が男爵になったお祝い兼ねて、様子を見に来るだけらしい。今、キリギスに二人がいるって。昼ご飯をどうするかは、後でフウマが連絡くれる」
「視察はどのようにお考えですか?」
「ここにきて、あの娼館見てなにも言わない訳にはいかないでしょ。娼館と焼き煉瓦でつくった窯だけにしようと思う。丁度トーマスさんも居るし」
「私らは何か手伝うことはありますか?」
「ああ、ベイスリーさんごめんなさい。急にお客さんが来ることになってね。もともと接待の準備をしようとしてたんだけど、今日の午後には到着するんだって。
モリスを中心に、ゴードンさんとメニューの調整を進めてくれるかな。レイさんの所に人を返しちゃったから、食事係のメイドさんとか足りないはずなんだ。関所の運営はいつも通りに助けてあげて」
「了解しました。」
「ゴードンには、『昨日の試食で上手くいったものを再現して』って伝えてくれるかな。昼食が必要になったら、パスタの準備をお願いってことで。明日の朝には帰るらしいから」
「承知しました。直ぐ始めます」
ーーーー
「レイ、困りごとができて相談があるの」
「どのようなご用件でしょうか」
「リチャード王子とレナード・バイロン侯爵が今日の午後に来ることになったの」
「計画では、もっと後と思っていましたが……」
「私が男爵になったお祝いに様子を見に来る。視察の予定はないよ」
「ヒカリさんが男爵に代わられて、2週間も経たずに娼館ができてるとは思いませんから、視察の予定はなかったでしょうね」
「レイの準備が整ってなくても、ここを見せざるを得ない。ごめん」
「100点とは言えませんが、90点ぐらいの完成度にはなっています。ちょっと、みて行ってくださいませんか?」
街道沿いから門越しに中を見ても、この娼館は見えない。柵や庭木を上手く配置して隠してあるんだね。ちょっとした貴族の屋敷か宿屋が新しくできたぐらいしにか見えない。
門の中に入ると中庭みたいになっていて、いくつかの東屋がある。これはハーブオイルのマッサージサービスができるって話だったよね。でも、そこそこ脱衣所っぽいのとか、寝そべることができそうで、通路からはそれぞれの人が何をしているか判らない構造。
で、この中庭ゾーンと娼館ゾーンを、これまた上手く生垣とかで隠してあって、『何か奥にある』ってのは判るんだけど、一見して娼館とは思われない。貴族の館か大きな宿屋ぐらい。
そして、娼館への入り口に二人の女性の門番が居る。それも綺麗で、露出しすぎないけど、体のラインを綺麗にみせるような、そして耐久性とか関係なく、仮面の中を覗き込みたくなるような素敵なシルエットをみせている。
この門番さんを立てることで、『下衆な一見さんお断り』って凛とした風を出してるが、風格を出していて良いね。
「レイ、そこに居るの門番さん達はどうしたの?」
「うちの子らです。交代で立たせています。衣装はドワーフの方達が好意で作ってくれました。軽い金属だそうで、身に着けてても疲れを感じさせません」
「『下衆な気持ちでこっから先を覗き込みたくなくなる』心理が働いていいね」
「はい。当初の計画通り、一般的な誰でも使える場所ではなく、ここから先は高額の支払いに耐えうる人をお客様として扱います。
この心理的な壁があることは、そのようなお客様達にとっても、安心感を与え、リピート客が増えることになると思います。かといって、厳つい男性兵士を雇用したら雰囲気が台無しなので、このような形になりました」
「リピート客っていえば、関所の休憩所と私が住んでる館からも秘密の通路を作って貰えるように言っておいたけど、知ってる?」
「存じ上げております。両方とも既に開通しております。娼館の従業員とヒカリさんの夕食会メンバー以外は通路及び鍵の在り処は知らせておりません」
「私は知らないけど……」
「そうでしたか。失礼しました。私がご案内しましょうか?」
「脱線してごめん。今日は使わないし、先に中を案内して」
やっぱり、建物の外側にマネキンが飾ってある。2ヶ所ほど幕降りてるのは留守ってことかな。どの子にしたいか、ここのマネキンで見定めるんだろうね。確かに近くで見ると、顔立ちとか髪の色や長さが少しずつちがう。こんな短期間でここまでやるって、ドワーフ族の力は恐ろしいね。
「レイ、この表側に置いてある人形みたいなのは?」
「単にオブジェを置いたのではもったいなとのことで、これから遊んでいただく子らの模造品を置くことにしました。お休みの日や門番のときは、あのように幕を下ろさせてもらいます」
「なるほどね~」
いちいち説明しなくても、なんとなくでルールが判るのがいい。【これから】ってときに小難しい話を説明されたって萎えるだけだよ。で、この高級感・お金掛かってる感が最初から出されてると、特別待遇って感じがいいんだろうね。私は庶民の子だから判らないけど、特別なサービスって、もう、中に入る前から勝負が始まってるんだ……。
「受付はこちらになります。基本は私が対応します。
好きな子を此処で選んでいただくか、予約をされていた場合は、そちらへ案内させていただきます。お客様同士の鉢合わせがないように、ここで一旦お待ちいただくか、手前の中庭でオイルマッサージのサービスを受けて頂いて、時間を調整していただくことになります。
入り口はこちらですが、出口は個別の部屋から出られる構造で、さりげなく、関所や街道にでられるルートがあります」
「宿泊は?」
「今のところ、基本は宿泊する前提で考えております。夜に外に出て頂くのは危険ですから。お時間が無い方や昼間に予約が入る場合には、その都度対応となります」
「そうすると、食事がないね」
「簡単なパンなどは、その子らの独自サービスとして提供させて頂くことになっています。そのサービスが個性でもありますので……」
「行き過ぎたサービス競争にならないように注意してね。お菓子に小金貨入れて返すみたいな事になりかねないから。簡単な物なら夕飯や朝食を関所の方でも出せるようにするからね」
「ご指摘、尤もです。なんらかのルールを設けたいと思います」
次に部屋に案内される。
足洗用の桶、ちょっと狭いけどギリギリ二人が寝れる寝床、オイルマッサージなどの各種容器。ガラスじゃないから中身が何か全然わからないけどね。荷物なんかがおける台もあって、ちょっとしたホテルの一室のイメージ。ただし、バス・トイレ無しみたいな。
で、シルフが設置した換気扇もちゃんと動くの。強すぎない風が部屋の空気を外に流してくれる。そりゃ、ほら、いろいろとあればね。汗もかくし、臭いも籠るからね。この時代の工業レベルでここまでできるのか……。
「レイ、凄いね。よくぞここまで!」
「おほめに預かり光栄です。まだ、水が引き込めてなかったり、水をお湯に変えるのが竈を使っていたりするので、この辺りは追々です。2階も同じ構造となっていますが、まだここでお勤めする人数が足りていません。管理人も私一人では捌ききれなくなります」
「視察してもらおう」
「ええと……」
「なにか、不味い事でもある?」
「中庭のオイルマッサージのみのお客様は、エルフの子らに協力頂くわけにはいかないでしょうか?娼館10人で経営して、私と門番で3人が抜けますので、中庭のお客様は今日だけで結構ですので、人数の増強が必要です」
「本人たちが断らなければいいよ。あとで長老に連絡しておくね」
「ありがとうございます」
「視察の二人が来たら、また連絡いれるから、皆に伝えて準備しておいてね」
「承知しました」
<<ニーニャ、いまどこ?>>
<<水車と水路の調整。どうした?>>
<<フウマが王子とレナードさんを連れてくる>>
<<フウマは<念話>の習得がんばったんだな。私が手伝えることあるか?>>
<<突然だから、娼館と焼き煉瓦で作った窯だけにしようと思うけどいい?>>
<<酒の製造権が貰えればなんでもいいぞ?>>
<<今日貰えるかわからないけど、頼んでおくよ>>
<<こっちは、イワノフ達と上手くやっておく。緊急なら<念話>通していいぞ>>
<<ありがとうね>>
<<長老!いまどこ?>>
<<畑に潅水しておるのじゃ>>
<<ありがとね。エルフの子達は?>>
<<ステラの手伝いじゃ。この作業はワシと他の妖精達で十分じゃ>>
<<フウマが王子とレナードさんを連れてくることになったの。ちょっとエルフの子らを借りるかも>>
<<ワシは構わんのじゃ。それよりお主、がんばりすぎて無理するでないぞ?ときにはマイペースでもいい。いずれ、運命は収まるところに収まるんじゃ>>
<<今の私には判らないけど、無理しないように頑張るね。ありがと>>
ーーーー
「ステラ~。大変なの。フウマが念話を覚えたの」
「それは凄いですわね。私も負けていられませんわ」
「王子とレナードさんが今日の午後に来るの」
「別の意味で大変ですわね……。革自体はいけそうですけど、貼り合わせと乾燥が間に合いませんわ」
「今回は無理でいいよ。王子の誕生会が近いらしくて、明日には帰るんだって。娼館とトーマスさんの窯だけ見てもらうよ」
「残念ですけど、そうなりますね……。割といい感じに出来たとは思ってるんですけどね。明日、ヒカリさんがそれを着てお見送りすればいいですね」
「そんなに無理しなくていいから。
それより別件でね。オイルマッサージの人手が足りないから、その子らに手伝ってもらえないかなって」
「男性の体にオイルマッサージを施すのは嫌がるかもしれませんが、オイルを作ったり、温度を調整して準備する分には可能だと思いますよ」
「そっか。そういう人手も必要だよね。そこはフウマと調整するよ。サポートだけでも手伝ってくれればありがたい。いろいろ迷惑かけるね」
「いいえ~。皆、生き生きとしてますわ。私も彼女らが独立して考えて行動しているのを見ると、とても嬉しいですし」
「いつも、いろいろありがとうね。私もがんばるから」
「私たちのために頑張ってくれてるのはありがたいです。無理はされないでくださいね」
「うん」
って、関所の方から、なんか声が聞こえてくる。
こういう忙しい日に限ってトラブル?
ちょっと見に行こう!
いつも読んでいただきありがとうございます。
頑張って続けたいとおもいます。
また、ブックマークや評価を頂けることはとても励みになります。
ありがとうございます。
10月は毎日少しずつ22時更新予定。
手間な方は週末にまとめ読みして頂ければ幸いです。




