2-32.念話(4)
ステラとフウマの念話の特訓にお付き合いだ。
先ずは無詠唱で魔石生成なんだけどね。
さぁ、どうなる?
「二人とも、できた?」
「できていません」
「できない」
「何か手伝ったり、教えたりすることある?」
「もうすこしお時間をください。いろいろ考えてみます。」
「ねえさん、今日はいつぐらいまでここに居られる?」
「今日は夜までいることになるよ。そこから船を皆で運ぶ予定」
「なら、もう少し一人で試させてもらえるかな。」
「いいよ。
これが生成する魔石の見本ね。ここに置いておくよ。
二人ともがんばって。何かあったら言ってね。」
「「はい」」
多分、魔術ランクを5まで上げるトレーニングは私でもできると思う。というのは、<何がゴールなのか>、<何ができれば正解なのか>を知っているから。
でも、彼らは今まで<正解のある教科書に沿って合格してきた>訳で、そのことを私が示唆した。ここで、彼らに<何が正解かを教えること>は、彼らが初めて経験してる<正解のない問題にチャレンジする試み>を奪ってしまうことなんだよね。
モリス、ニーニャ、ユッカちゃん達にとっては<当たり前の行動>だったのかもしれない。だから、ランク5や6で、すぐに<念話>が習得できた。
なので、ステラやフウマが自力でランク5相当の力を身に着けられれば、<念話>もすぐにできるようになると私は勝手に信じている。逆に、ランク5にする正解を私が教えてしまったら、彼らは<念話のやり方を教えて>と、言ってくると思う。
だから、ここは私が我慢しないといけないと思うんだ。
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「長老!ちょっと相談!」
「なんじゃ?今晩出発の件ならモリスと話がついたんじゃが?」
「うん。どこに住むかが決まってない。」
「わしか?わしは水の傍がすきなんじゃが。海人達はエイサンに聞くのがよかろう?やつが族長じゃて。」
「残りの生存者は海人なの?」
「そうじゃが?きいておらんのか。」
「知らないから、今聞いてる。」
「ワシは川でも良いんじゃが、海人は海に帰りたかろう・・・。」
「海人は海底に住むってエイサンが言ってたね。なんで奴隷になったりしたんだろ。」
「エイサンが捕らえられたからじゃな。」
「エイサンを捕まえるって、なにか弱みが無いと無理だよね。」
「え?あ?いや~~。どうなんじゃろ?」
「水の精霊ウンディーネは嘘つきですか?」
「ワシは嘘なんかつかんぞ?」
「ウンディーネが捕らえられて、それを囮にして、エイサン呼び出したとかありませんよね?」
「そうじゃが。」
「どっちにそうなの?」
「囮のほうじゃ。」
「長老が間接的に海人を奴隷にする原因を作ったって言えるよね。」
「ワシが奴隷にしたわけじゃないんじゃ。悪いのは<メルマの商人>なんじゃ。」
「細かいことは置いておくよ。私も<メルマの商人>はなんとかしないと不味いとおもってるから。長老だけをうちの関所がある領地へ連れて帰って、残りの海人達はエイサン含めて、海に帰ってもらうってことで良い?」
「皆が良ければ、ワシは構わんのじゃ。」
「長老、うちの領地に川もクッキーあるから、農作物を豊作にする手伝いをしてね?」
「クッキーだけかのう・・・。」
<<きれいな娼館もオープンする予定だよ>>
<<そ、それは、なんじゃ?>>
<<私の前の領主が囲った、選りすぐりの性奴隷さんたちが、
そういう専用の夜の店を開くの>>
<<ワ、ワシは、その店に入れるのかのう・・・?>>
<<高いらしいよ。私は経営の許可を出すだけだけど。>>
<<ワシ、お金は持たないんじゃ・・・。悲しいのぅ・・・。>>
<<領主で、管理人だから融通は効く。娼館の出資者でもあるし。>>
<<ヒカリ、お主、偉いのか。>>
<<今度行く場所では偉いよ。長老を守ってあげられるし。>>
<<耕した土地と種さえあれば、ワシが手伝えるぞ。シルフもおるから、雲をどけたり、暖かい風を送り込むのも簡単じゃ。豊作間違いなしじゃな。>>
<<うちの領地に来る?>>
<<もちろんじゃ>>
ーーーー
「エイサン!ちょっと!」
「ヒカリ、何?」
「あんた、海人の族長なんだって?」
「そうだ。」
「言わなかったよね?」
「誰も、聞かない」
「そうだけどさぁ。で、長老除いた残りの人は海人で良い?」
「そうだ。」
「あんた、全員連れて帰って、一族で暮らせる?」
「できる。」
「長老をうちの領地に連れて行ってもいい?」
「ヒカリいい。他の人間ダメ。」
「ありがとう。じゃぁ、船の中の海人の遺体を埋葬して、船を片づけたら領地に運んでしまっても大丈夫?」
「死者片づけた。墓ここに作った」
「仕事が速いね。流石族長だよ。海人はどこまで送ればいい?」
「俺送る。一人ずつ。大丈夫。」
「エイサンと友達になりたいね」
「ヒカリ親友。長老、一族救った。大事あったら助ける」
「忘れてた。奴隷の印ってどうする?まだ消し方知らないけど。」
「ヒカリ親友。記念残す。問題なし」
「そっか、そっか・・・。良かったよ。もう帰りたい?」
「ヒカリ達送る。後、我々帰る。」
「ありがとうね。今日はお別れパーティーだ。」
「俺、魚採る。ヒカリ、肉だす。」
「じゃぁ、みんなの夕飯の準備だね」
ーーーー
「モリス、ニーニャ、ユッカちゃん、シルフ、<念話>の調子はどう?」
<<楽しいよ~。遠くてもシルフと話できるし。言いたいことが良く伝わる>>
<<ヒカリ、凄いぞ。シャットアウトできたんだぞ。<念話阻止>ってヒカリの言っていた通りだ。これは外からの通信を止めるだけじゃなく、自分の思念も読み取られなくなる。>>
<<ヒカリさん、このシステムは画期的です。1:1だけでなく、1:多も可能です。緊急時用のチャイムなどの決めておけば、活用の幅が広がるでしょう>>
<<ヒカリ、この人たち凄いな。僕は面白いから暫く一緒にいるぞ>>
「おまえら~~~!口で話せ。口で!」
「え~。なんか怒ってる」
「ヒカリ、いいじゃないか。皆嬉しいんだ。」
「ヒカリさん、軽率な行動でした。すみません」
「ヒカリ、クッキー頂戴」
なんか、念話でも口頭でも話が混ざるのは一緒だね。このにぎやかなのが私はちょっと嬉しいけど。
「長老が関所に一緒に来てくれることになった。あと、エイサン達は全員ここでお別れ。今晩の夕食がお別れパーティーになるよ。フウマとステラは特訓中だから、あまり邪魔しないであげてね。」
「ヒカリさん、私が何か手伝えることはありますか?」
「お魚はエイサンがとってくるらしい。海人は魚が好きらしいから。私たちのお肉はユッカちゃんの鞄からかな。海のお魚も美味しいんだよね。<醤油>とかあれば最高なんだけどさ」
「「「<show you>?<show me>では?」」」
「何のギャグっていうか、逆っていうか・・・。
<ショーミー>じゃなくて、<しおみ=塩味>じゃない?
<塩味>と<醤油>はちがうんだけど。」
「おねえちゃん、<ギャグ>って何?」
「流石ユッカちゃん。そこに突っ込むわけね。
ギャグってさ、口に咥えさせる拷問器具なの、
トゲトゲの丸い球を口に入れて後ろで紐で止めるの。
その状態だと普通には喋れない。喋りたくない。
けど、そこを押し切ってまで、<死ぬ気で皆を笑わせたい、渾身のネタ>を言うんだね。」
「おねえちゃん、なんでも知ってるんだね?」
「『なんでもは知らないわ。知ってることだけよ』っていうネタしってる?」
「やった!やっとお姉ちゃんがそれを返してくれた!」
「狙ってたのか!知ってて、こっちも避けてたんだけどさ。」
「ヒカリさん、<醤油>って、どんなもんでしょうか?」
「僕が代わりに答えるよ。
この辺りでは小麦ぐらいしか植物性タンパクがとれないから難しいけど、マメ科の植物でタンパクが多いのがあるんだ。これを塩とかと一緒に混ぜて発酵させると、特別な芳醇な香りになるね。ワインとかビネガー、あとはヒカリのパンで使っている天然酵母なんかもこういった仕組みを使っているよ。」
「シルフ詳しいね!<醤油>はどこで見つけた?」
「この大陸にはないなぁ。海を渡った西の方の島国にあったかな。ちょっと南に行けば<魚醤>ならあるよ。」
「ありがとう。今日は塩味で我慢だ。祖国を思い出しちゃうからね。
よし、飛べる人で泳げる人は海にも行ってみようか。飛べない人は食事の準備をよろしく!」
「「はい」」
「おねえちゃん、裸?」
「私は泳ぐとは言ってないよ?」
「泳がないの?」
「ステラとフウマの様子見てから考える。先にシルフと遊んでて。美味しそうなお魚さんとかいたら、よろしくね。私はタコとか貝も好きだよ。」
「お姉ちゃんが自分でとるんだよね?にひひ・・・。」
「そういえば、ユッカちゃんの誕生日祝いしてないね?にひひ・・・。」
「タコとってくるよ!タコ!どんなのか知らないけど。」
「シルフ教えてあげて。分かんなかったら長老に聞いてみて。」
いつも読んでいただきありがとうございます。
頑張って続けたいとおもいます。




