2-08.着任(2)
奴隷を解放できたかは、ともかくとして……。
やっと夕飯だよ?
『(ノック、ノック)ヒカリさん、夕食の用意が出来ました。
食堂へご案内させていただきます』
「ありがとう。今行きます。」
「みんな、モリスさんがご飯だって。食べに行こう」
「うん」
「はい」
食堂には10人ぐらいが座れる長テーブルがあった。それ以上人数が増えたら、サブテーブルを持ち込んで、補助椅子が必要になるか、立ち見ってことになるんだろうね。貴族が開催するような大人数の接待パーティーとかは考えられて無い感じ?それともジャガ男爵もそこまで貴族のコネクションが無かったから、これくらのスペースで十分だったのかも……。男爵ってどれくらい偉いか判らないけど、1世代目の成り上がりだとこんなもんなのかな……。
てか、王子とかレナードさんとかが貴族の中の貴族って風だもんで、それが貴族の平均って訳じゃないんだろうね。そもそも私の立場からすれば、パーティーどころか、自分の服すら借り物な訳だし。
「皆様、こちらになります。もしかしますと、貴族らしい夕飯を期待されたかもしれませんが、普段は前の男爵の命令でこのような物を召し上がっておりました。今日は急でしたので、これまでと同じものを作るように私が指示を出しましたのでご了承ください」
「了解です。それで構いません。早速いただきましょうか」
う。想像以上だ。ジェームズさんの宿屋レベル。 ユッカちゃんと<森のおうち>のときの方がお肉がいっぱいあった。なんなんだ。ジャガ男爵は何にお金を使っていたんだろう……。まさかの赤字経営だったりしないよね?
なんか、ユッカちゃんもフウマも文句は言わないけど、つまらないオーラが出てるね。
「ユッカちゃん、申し訳ないけど荷物が入ったカバンを取ってこれる?」
「うん!」
ニコニコして部屋を飛び出していく。以心伝心ってやつだ。
「モリスさん、ちょっと大き目の皿とナイフと、取り分け用のお皿をもらえますか?あと、食事をしながら話を伺いたいので、モリスさんもここで一緒に食べましょう」
「わ、わかりました。食事をご一緒にさせて頂くのは光栄ですが、本当によろしいのでしょうか?」
「フウマ、いいよね?」
「ヒカリ姉さんがいいなら、俺はいいよ」
「じゃ、モリスさん、そういうことでお願いします」
モリスさんも部屋を出て行って、台所とかで指示をだしに行った。その間にユッカちゃんがトタトタと駆けて戻ってくると、例のかばんを私に手渡す。
「おねえちゃん、お肉?パン?」
「あ~、パンも冷蔵庫に少し残ってたのを入れたか。忘れてた。冷たくていい?」
「いいよ、いいよ。カチカチパンよりいいよ」
テーブルの上に冷蔵庫で寝てた食材の残りを並べる。パン、ロースト鹿肉、ハム。スープや野菜は無かった。あとは、モリスさんが戻ってくるのを待つだけだ。
「お待たせしました。先ず皿とナイフになります。私の食事は後から来ますので気にせず始めてください」
「わかりました。では、先にパンと肉を切り分けるので各自適当に取ってね。」
「いただきます」と、私が声をかけると、
「「いただきます」」と、ユッカちゃんとフウマが挨拶を返した。
「いただきます」と、モリスさんも慌てて追従する。
なんか、不味かったかな。ま、いっか。
「食べながらで結構ですので、領内の収支報告をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「では早速始めさせていただきます。
この領地での収入は関所の通行料が100%になります。それ以外の領地からの収入はありません。関所の中には待機したり、休憩する施設もありますが、そこでの物品の販売や斡旋はなく、休憩施設の使用料もとりません。関所で待たせてしまうための必要経費として関所側が無償で提供するのが、ここでの考え方です。
続きまして支出ですが、1つ目に、雇用者への給金が必要です。
管理者が5人おりまして、1日小金貨1枚。その他の10名は銀貨2枚。合計で小金貨7枚相当が必要になります。念のためですが、奴隷は食事の提供のみであり、給金を支払う必要はありません。
2つ目に、食費になります。前男爵は日々の食費として小金貨3枚を私へ渡しておりました。こちらの食費は男爵様1人、雇用者15人、奴隷17人の33人分を賄います。
すなわち、毎日金貨1枚が現状の領地を維持するために必要な経費としてお考えください。ここまではよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。続けてください」
「次に、収入に対する大きな支出としまして、税金を納める必要があります。先ずは通行料収入の70%を自由貿易組合メルマに納めます。そして、70%を除いた残り30%から、さらに7割をエスティア王国へ国税として納めます。
すなわち、通行料収入の残り9%が領地の収入となります」
「ちょっと、口を挟みます。
1.日々の通行料の総額はどの程度になりますか。
2.2重納税の理由をモリスは私へ説明ができますか。
この2つの質問に答えてください」
「はい。先ず、1つ目の質問ですが、
日々の平均として、金貨50枚程度の通行料の収入があります。曜日や季節によって変動しますが、10倍になったり、1/10になったりすることはありません。
つまり、毎日人や物がこの関所を移動していることを意味します」
「分かりました。おおよそ金貨50枚の収入があり、その分配が、
・メルマ35枚
・エスティア10枚
・領地経営1枚
・男爵の収入4枚
ということですね?」
「そのとおりです」
「モリス、続ける前に今日の通行料の収入を私が確認しても構わない?」
「ハイ!すぐにお持ちしますので、少々おまちください」
うん。これは不味い。『モリスさん』などと、ぬるい敬語を使って話を進めている場合じゃないね。他の自治権を持つところへ納税してて、国税をきちんと納めてないなんて有りえないよ。
「フウマ、この話は知っていた?」
「いいえ」
「私が決定を下すまで、王子他へも情報は流さないで」
「流すと?」
「私が逃げ出す」
「追いかけたら?」
「突風が吹いて、フウマが吹き飛ぶだけ」
「やっぱり、金貨返してください」
「いいけど……」
と、フウマの金貨の小袋をユッカちゃんのからから引っ張り出す。
「おにいちゃん、無駄だよ?」
「ユッカちゃん、何故に……」
と、執事が戻ってきたので、身内のコントはいったん終了する。
「お待たせしました。こちらが金貨40枚、小金貨100枚ちょうどになります。銀貨の類はお持ちしておりません」
「中身を確認しても良いですか?」
「どうぞ」
と、モリスから金貨の袋と小金貨の袋の2つを手渡されたんだけど、違和感を感じる。
あれ?軽い?受け取った袋をフウマの金貨が入った袋と比べる。小分けにして入れてきたから、袋の体積はフウマのも、モリスが持ってきたのも、ほぼ同じ大きさ。それなにに重さが違うって……。
「中身を確認させてもらいます」
モリスから渡された袋の中を覗くと金貨が詰まってる。机の上にジャラジャラと並べてみる。どれも金貨。両面とも金貨。そして、エスティア王国で流通している金貨と紋様は同じ。
「フウマ、一枚金貨を借りるね」
フウマの金貨を袋から取り出して両者を見比べる。私の目にはモリスが出した金貨との違いが判らない。そして、1枚を持ったくらいじゃ、重さに違いが判らない。
これって……。
「フウマ、どっちがフウマのか分かる?」
と、モリスの金貨とフウマの金貨を1枚ずつ渡す。
「どちらもエスティア王国の金貨です。一緒ですね」
「じゃ、ユッカちゃんに渡してあげて。ユッカちゃん違いがあるか判る?」
と、フウマからユッカちゃんへと金貨が手渡される。
「おねえちゃん、形は同じだけど、フウマお兄ちゃんのと、モリスさんの金貨は区別がつくね。だって……」
「ユッカちゃん、ストップ!その先は言わなくてOKだよ」
ユッカちゃん凄いな。1枚だけで差が判るって……。私は2枚の金貨をユッカちゃんから返してもらうと、それぞれの元の袋に戻す。そして、金貨と小金貨の入った2つの袋をモリスに返した。
「モリス、この金貨はどこから渡された物ですか?あるいは、小金貨をモリスが両替したり、整理した金貨に交換した物ですか?」
「基本的に通行料で支払われた物です。私の手元には金貨の袋が残るのは一晩だけです。前の男爵は毎日回収し、先ほどの使い道に合わせて分配されていました。私自身の貯蓄は少々ございますが、金貨一袋ほどの蓄財はございません」
「ありがとう。つまらない物言いで申し訳なかったです。この件は後日説明します。では、中断させてしまった、二重納税について説明をお願いします」
あ~あっ。贋金か~。
金の分量変わってるじゃん……。
贋金を科学的に証明できるけど、製造・入手元が判らないと摘発もできないよね……。
次に、二重納税の話と……。
逃げるか、逃げるか……。
ううん。
困難な課題を一個ずつ解決するのが楽しいのさ。
ユッカちゃんも主神も、そして私自身がそれを望んでる。
前向きにいこう!
誤字などの修正。本ストーリーへの影響はありません。




