37.医者になろう(1)
竈職人に煉瓦を渡して後を頼むことにした。
竈が出来るまでの間は、ユッカちゃんと特訓したり、
森のおうちの様子を見に行ったりしようと思っていたんだけどね。
「ユッカちゃん、お疲れ様。とっても助かったよ」
「明日から冒険者になるための特訓再開できるね」
「ユッカ先生!よろしくお願いします!
ところで、ユッカちゃん、特訓とは別の相談があるんだけどいいかな?」
「なになに?」
「粘土をとってきた洞窟で、いろいろな物を拾ったでしょ」
「うん」
「あれって、何か分かるかな?ユッカちゃんのカバンの秘密は置いておくとしてだけど」
「う~~~ん」
「出して、整理してみよっか」
1.こん棒2本
2.大きな斧1本
3.ソフトボールサイズの魔石が2個
4.ボロマント1枚
5.金貨の入った袋
6.なんかの素材
「おねえちゃん、これで全部だよ」
「ありがとうね。とりあえず、大きな魔石はカバンにしまっておこうか」
「うん」
「ユッカちゃん、金貨はどんな内容なのか分かる?」
「なんか、形も大きいし、色もピカピカで、もってる金貨と絵柄も随分違うね」
「この国の金貨じゃないから、いろいろな金貨を収集してる人がいたら、高く売れるかもね。こっちもしっかりカバンにしまっておこう」
「うん」
「次は、斧とこん棒。これって、みたことある?」
「わかんない。巨人が使うものだから人は使いにくいかもね」
<<ナビ、情報頂戴>>
<<こん棒はこん棒です>>
<<斧は単に大きな斧なのか、何らかの銘が入っているかで変わります>>
「ユッカちゃん、斧をちょっと良く見せて」
「はい」
大きくて、おおざっぱで良くわからない。
だけど、この厚さの鉄の塊が結構軽い。
そして、刃こぼれしてないんだよね。使ってないだけかな?
持ちての部分も金属っぽいんだよね。
丈夫だろうけど、重くなるだけと思う……。
銘、銘っと。
包丁とか日本刀で作者の名前が入ってるやつだよね。
「ぼ、ぼれあす?なんか擦れてて、よくわかんない。
ユッカちゃん、読める?」
「この国の言葉じゃないから読めない。おねえちゃんすごい!
でも、なんか風の神様みたいな絵がほってあるね。ここの部分!」
「あ、ほんとだ。ユッカちゃん、観察力高いね」
「高く売れるといいね」
<<ナビ、ボレアスって、風の神様だっけ?銘だか刻印があるんだけど>>
<<ボレアスはヒカリが居た元の世界ではギリシャ神話における北風の神とされています。この国でも同様な解釈とみなせます>>
<<価値は?>>
<<本物なら神器扱い。レプリカなら鍛冶職人の腕試し試作品>>
<<ありがと>>
「よくわかんないね。高いものを、言い値で買われたら損だから、
しばらくはこの宿屋の部屋においておこう」
「わかった」
次にボロマントを広げてみる。
なんか、本当にボロボロ。旅人が冬場に着てるみたいなやつ。
なんか汚いの。銘とか入ってるかな……。よく、わかんないや。
鑑定スキルとかあるなら欲しいところだね。
「ユッカちゃん、この素材とマントもカバンにしまっておいていいかな?」
「いいよ」
「こん棒はいらないから、レナードさんの所に、明日パンと一緒にもっていこうか」
「それでいいよ」
ま、いっか。
今のところはお金には不自由してないし。
大きなお金が必要になったら、売れそうなものを売るってことで。
ーーーー
翌朝、宿屋でパンを焼きあげて、レナードさんの門番の所へいく。
門番さんによると、提供しているパン自体は問題になってないみたい。
こん棒2本がお土産になるか判らないけど、欲しいか聞いておいてもらうことにしたよ。
「ああ、パンは問題ない。だが、侯爵様が別件で確認したいことがあるそうなんだ。一緒についてきてくれ」
「「わかりました」」
前回の面会と同じ段取りを踏んでからレナードさんに会うと、今日はレナードさんから話を切り出す。
「また会えたな。パン焼きの方は順調か?」
「今のところは鍋で焼いてますが、近いうちに竈を改造しようとおもっています」
「そうか、そうか。がんばってくれ。
それでだ。宿屋の奥さんの治療をした件なんだが、続けても良いか?」
「免許も無く治療したことが問題になりましたか?」
「いや、そうじゃない。リチャード王子は覚えているか?」
「ベッセルさんと一緒に会った青年のことですね」
「うむ。どうも体調が悪いらしい」
「え?一週間ぐらい前にお会いしてましたが……」
「宮廷魔術師に症状を抑えさせながら、無理していたらしい」
「それで、どのようなご用件でしょうか」
「リチャードを治療して欲しい。推薦状は私が書く」
「信用していただけるのでしょうか?」
「トモコの技を引き継いでるのは君ら二人しかいない。リチャードは人柄も良く、才能もある。私としてもこの国の世継ぎになって欲しい。だから頼めないだろうか。」
「症状を見てから、最善を尽くすことでよろしいでしょうか?」
「全力を尽くしてほしい。必要なものは全て用意させる。技を秘匿する必要があれば、人払いをしても構わない。良いか?」
「わかりました」
「推薦状は既に作って、ここにある。今から向かって欲しい。出来れば<身体強化>で移動してほしい。馬や馬車では手配に時間がかかる」
「わかりました」と、私。
「レナードさん、こん棒あげるね。上手くいったらクッキー食べにくるよ」と、ユッカちゃん。
「そうだな。上手くいったらクッキーを皆で食べよう」と、治ることを信じたいレナードさん。
ーーーー
レナードさん直筆の推薦状を貰ってから二人で直ぐに出発した。
レナードさんが言うように、下手な馬車や馬より速く移動できるからね。
そのような意味では、昨日が休息日で良かったよ。
煉瓦焼きの徹夜明けとかだと、こうはいかなかったかもしれない。
門番の姿が見えなくなると、直ぐに<光学迷彩>を発動。
あ。あの追跡者にみられてる?
「ユッカちゃん、見られたかも」
「うん。でも、今日は振り切ろう」
「そだね。全力で移動しよう」
50㎞の距離を1時間半で到着。デコボコの舗装されてない道を荷物が無いとはいえ、我ながら大したもんだね。追跡者は1時間ぐらい粘ってたけど、最後で遅れていった。すぐに追いつくだろうけど、気にしてる場合じゃない。
門番にレナードさんの推薦状を見せると、王室に取次できる門番に代わった。
その門番が推薦状を確認すると、馬を2頭用意し始めた。
「お二方、急ぎますので別々の馬に乗って下さい」
「「はい」」
馬も乗れない、馬車も制御できない。ただ、走るだけってのは寂しいね。
今度誰かに教えて貰っておくと、移動手段に幅が出来ていいね。
それより今は王子の治療に専念しないとね。
ユッカちゃんの乗る馬が先頭、次にわたしの馬。ユッカちゃんは後ろから抱きかかえられるように、私は後ろから抱き着くようにして馬に乗った。しっかり乗れたことを確認すると、ものすごい勢いで走り始めた。要所要所で止められるんだけど、先頭の馬の人が何か言うと顔パス状態。いろいろ観光したり見物する暇もなく、あっという間に王宮。次回、歩いてきて訪問しようにも、こうはいかないだろうね。
「お嬢さん達、執事に代わるので、何卒よろしくお願い申し上げます」
門番が執事にレナードさんの書状を見せて、それだけ言うと引き下がった。
執事は無言で言うと、挨拶せずに私たちは無言で案内する。
それも、相当な早歩きで。
執事もほとんど顔パスで、どんどこと王宮内を連れまわして、とある一室に到着した。
そこでやっと執事がノックをして、中に入る旨を告げるための声を発した。
更には中からの返事を待たずに、3人で部屋に入る。
うは。そんなに悪いのか。
全然そうは見えなかったんだけどね。
扉を開けて部屋の中に入ると、豪勢なベッドに横たわるあの青年が居た。
顔が土気色をして、ぼろぼろにやつれているのが遠めにも判る。
これは、肺炎とかじゃなくて、死相がでてるってやつでしょ。
「あ。お嬢さんたち、また会えたね。今日も美味しい物を出してくれるのかい?」
青年は無理して声をなんとか絞り出すと、反動で咳き込んでしまう。
「レナードさんの遣いで来ました」
「おや、レナードには内緒って言ったはずだぞ?美味い物が食えなくなる」
無理に笑いをとるように明るく話をすすめようとするが、
そのたびに咳き込んで、ゼコゼコと息が荒くなってしまう。
「執事さん、席をはずしてください。これから王子を診断します」
執事が黙って、頭を下げて出ていく。
ユッカちゃんと二人でスキャンを始める。
やはり、肺が真っ白。
よくこれで呼吸ができてるレベル。発熱とか他の症状もひどいだろうに。
これが王室の威厳ってやつなのかね。
が、レントゲンのごとく体内をスキャンしたときにおかしな物を発見した。
胃の辺りに強烈なエーテル反応。
まさか、魔石の塊?
「ユッカちゃん、胃の辺りをみた?」
「うん。あり得ない。体のバランスが壊れちゃうよ」
さて、どうする?
誤字などの修正です。本ストーリーへの影響はありません。




