33.竈(かまど)を作ろう(1)
パンの製造を秘密裏に軌道にのせないとね。
あと、パン以外でも宿屋の経営を安定させないとまずそう。
権利がすべてレナードさんのものになっちゃったからね。
やっぱり、もう一品何かの追加が必要になっるね。
宿屋に戻ってきた。
早速明日の朝までにパンを焼くが必要があり、そのレシピが門外不出となることを説明した。宿屋の3人としては、訳が分からないことに巻き込まれてポカンとしてる。とにかく、明日のレナードさんに配達する分を持ってきた天然酵母で仕込まないとね。
さて、明日以降の問題が2つあるんだよね。
1つめは、冷蔵庫無しで天然酵母が保管できるかどうかと、エーテルさんの協力無しで培養できるかどうかを確認すること。これは宿屋の人達に試してもらって、『非常に難しい』となれば、固有技術として秘匿できるよね。
一般的な料理人がエーテル操作してるって話なさそうだから、酵母自体が盗まれても培養することできなくて、それまでってことになるよ。
もう一つが、竈の問題だよね。
鍋で作ってたら他の調理ができなくなるし、大きさや形にも制限ができる。パンを焼く専用の竈がほしいね。そして、開発するもう一品も、専用の竈があれば簡単に提供できるようになる。その計画を立てないとね。
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<<ナビ、助けて>>
<<英語でhelp。ヘルプというより、ヘロップに近い発音でしょうか>>
<<ごめん。私が悪かった。竈のことを調べたい>>
<<検索する条件をどうぞ>>
<<条件は以下のとおり
(1)この異世界の、この国にある材料で作れるもの
(2)この宿屋に組付けられるもの
(3)パンやピザが焼ける温度、熱量が付加できるもの
(4)薪などの燃費が良いと助かる
以上>>
<<了解>>
<<ヒカリ、調査結果を報告します
・基本的に耐熱煉瓦を使用しますが、この国で製造されている煉瓦の事情が分かりませんでした。
・煉瓦を使う理由として、カマボコ型を形成でき、強度上と熱効率で安定感があります。
・屋外であれば、煙突は不要ですが、宿屋内の場合煙突も備え付けるため、強度の観点から煉瓦の選択になります。
・煉瓦を使うメリットとして、赤外線の輻射熱の効果が得られることがあります。パン焼きの温度調整や燃費を考えると、石造りより良い結果が期待できます。
・パン焼きは直火でなく、じっくり焼き上げる構造が必要ですが、ピザ窯を想定する場合には、直火でも対応しやすくなるため、構造を簡略化できます。
・基本構造は、土台、火床、焼床、煙突の構成になります。
以上です>>
<<ありがとう>>
竈作成は、結構大がかりになりそうだね。
(1)お金。魔石をこっそり売って資金をつくることにしよう。
(2)台所の改造。これは説得だ。ダメなら独立してでも作らないと。
(3)地元パン屋との競合。レナードさんの許可があるからオッケーだね。
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早速、宿屋のご主人と台所の改造についての相談だ。
「すみません。この宿の台所にパン焼き用の竈を作りたいです」
「うちはパン焼きの免許が無いんだ。お嬢ちゃん達がこっそり作るのは構わないが、竈まで作ってパン焼きをするのは不味い」
「許可証はここにあるので大丈夫です」
と、レナードさんからの許可証を見せる。
「そ、そうか。だったら台所の奥の荷物置き場を空けるので、そこを改造してもらって構わない。しかし、うちには新しく竈を購入する資金がないんだ」
「台所の改造と竈設置の許可さえいただければ、お金は私たちが用意します」
「わかった。任せる。あまり無理しないようにな……」
「許可頂き、ありがとうございます。無理しないように頑張ります」
実際問題、お客さんが来ないんだから、私たちが自分達のお金で何をしてても自由なんだよね。
よし、どんどん進めちゃおう。
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翌朝早速、レナードさんの門番にパンを届ける。その後で竈なんかを設計・製造している職人さんの店を紹介してもらって訪問したよ。
「すみませ~~~ん!竈のことで相談があるのですが」
「ほいきた、どんな用事だい?」
店の奥から職人気質でひげがもじゃもじゃな感じのおじさんがでてきた。
「パン焼き用の竃を新しく作ってもらいたいのです」
「一応確認なんだが、免許はもってるかい?作ったあとでお金がも許可も無いんじゃこちとら仕事を受けらんないからな」
「はい。こちらに」と、レナードさんの許可証を見せる。
「おう。侯爵様のお墨付きか。よしきた。竈の設計について、なにか要望があるかい?」
「床、火床、焼床の3階層に加えて、煙突もつけて欲しいのです」
「なるほどな。煙突付きってことになると、日干し煉瓦の組み合わせだがいいかい?」
「煉瓦は構わないのですが、日干し煉瓦はすぐに壊れませんか?」
「そりゃそうだ。石の窯は壊れにくいが、屋外に置いて屋根をつけるもんだ。パン屋の窯は天気に左右されないように屋内に設置する。だから日干し煉瓦だ」
「壊れたら修理が必要だし、その期間はパン焼き作業ができませんよね?」
「お嬢さんな?日干し煉瓦の窯は修理して使うのが当たり前だ。壊れるのが嫌なら、屋外に石で作るか、壊れても良い様に予備の窯を作っておくかだ」
ぐ……。
ナビはなんて言ったっけ……?
『この国の煉瓦事情が分かりませんでした』
だったよね。
この世界にないとも、この国にはないとも言ってない。
作る素材も技術もあるけど、単に耐火性のある煉瓦が無いと解釈できる。
これはナビが私を試すヒントであり、最大限フィルターを緩めてくれている。
ああ、なんだ。
石窯で使う目地材を煉瓦の形に成形して焼けば、耐火煉瓦になるね。
値段がどうなるかわかんないけどさ。
「ちょっと相談なのですが、竈用の目地材を日干し煉瓦の型にいれて焼けば強度の高い煉瓦ができると思うのですが」
「たしかに、石窯の修理のときに目地材だけは残ってるな。日干し煉瓦の竈の修理は継ぎ目だけでなく、日干し煉瓦が自体も壊れて修理することになるな」
「お金は支払いますので、目地材を焼いた煉瓦で竈を作ってもらえませんか?」
「うむ。お嬢ちゃんのアイデアは良いと思う。
だがな?金で命は買えないんだ」
「もう少し分かりやすく説明してもらってもよいですか?」
「目地材をたくさん取ってくるには、魔物を退治しながらでないと量が確保できない。だから、お嬢ちゃんの頼みは聞けないってことだ」
「どのような魔物ですか?」
「ハイオークや、その上のサイクロプスなんかがわんさかといる。腕っぷしが強いからワシらと相性が悪いな。かといって、宮廷魔術師なんかを護衛に雇ったらいくら取られるかわからんぞ?」
「もし、私たちが目地材の元になる粘土を取ってこれたら、もう一度相談に乗ってもらえますか?」
「ああ、そうだな。お嬢ちゃんの作りたい竈が焼き煉瓦の竈から譲れないってなら、どうしようもないもんな」
「参考までに、その粘土がとれる場所、サンプル、そして必要量を教えてもらえますか?」
「場所はここから北西に馬車で四半日進んだ洞窟の中で採取できる。サンプルはそこにあるから持っていけばいい。量は中型の馬車2台分ぐらいにはなるな」
「わかりました」
「若いんだから、命を大事にな」
「ありがとうございます」
誤字などの修正です。本ストーリーへの影響はありません。




