5-45.みんなの願い(2)
いやぁ~。
自分の家を建てるとなると、どうしたもんだかねぇ。
普通に考えたら、旦那さんであるリチャード王子なんだけど、タコ獲りに行って帰るのいつになるんだろう?<念話>が使えないってことは、どうやって連絡とるんだ?これぐらいのことでフウマに探しに行ってもらうのは、ちょっと悪い気がする。
結婚の儀への布石であることを考えると、義理のお母様となるマリア様に相談かな?<念話>も通るし、出産した後に頼れる貴重な人だし、何せ夕食会のメンバーだもんね。
うん。マリア様にお願いして、相談にのってもらおうかな?
<<マリア様、今どちらにいらっしゃいますか?>>
<<貴方が作ってくれた別荘に到着したわ>>
<<あ、あの……。とすると、お忙しいですよね……。>>
<<うちの人を放置できれば、問題無いわよ。ちょっと確認するわね。>>
って、そうだよね。
国王様を連れてきてくれているんだよね。放置って言ったって、限度ってものがるだろうし、いろいろ出会うと不味い人も居るような気がするんだけども……。
<<ヒカリさん、『ここにヒカリさんを呼びなさい』と、召喚命令が出てるわ。当然、命令書なんかないのだけど、義理の娘としてなのか、エスティア王国を構成する伯爵領の領主としてなのかは、この場では確認できなかったわ。>>
<<わ、分かりました。いま、領主の館ですので、直ぐに伺います>>
ーーーー
ってことで、一旦ゴードンと別れて、ユッカちゃんと一緒にマリア様が来ている別荘へ向かうことにした。
ちゃんと、マリア様付のメイドさんが居るから、挨拶をして取り次いでもらったよ。
「国王夫妻には、このような遠方まで訪問頂き恐縮です。領主として歓迎の挨拶をさせていただくため伺いました。
ところで何か、ご不便をおかけしておりますでしょうか?」
「ヒカリさん、新年の儀に続く、婚約の儀での歓待は見事であった。来賓の方達からも多くの反響の声が届いていおる」
「ハッ。お褒め戴き光栄です」
「それで、次の結婚の儀に関してなのだが、何か考えて準備していることはあるのだろうか?」
「まだ検討を始めたばかりでして、今ご紹介させて頂くような内容が整っておらず申し訳ございません」
「そうか、では、私から一つお願いがあるのだが、良いかな?」
「何でございましょうか?」
「うむ。<焼きおにぎり>を供するのはどうだろうか?」
「(ゲヘン、ゲヘン、ゴホン、ゴホン)」
「ヒカリさん、大丈夫か?」
「き、緊張のあまり、飲み込んだ唾で咽ました。た、大変お見苦しいところをお見せしました」
「そうか。それで、<焼きおにぎり>については、どうであろう?」
「その、材料として使用する<醤油>が、非常に貴重なものでして。先の航海から持ち帰りました積み荷以上には提供できない事情がございます」
「うむ。貴重なものを分けて頂いた訳だな。承知しておる。大きな船で観光してきたのであったな。
取り寄せの費用を心配しておるなら、私の方で船便を手配して取り寄せても良かろう」
「あの……、その……」
「ヒカリさん、私がこの人に説明しても良いかしら?」
と、マリア様から助け舟がでる。
でも、なんて説明してくれるの?変なことになったら、この場で訂正させて貰って、直ぐに誤解を解けば大丈夫だよね。
「あ、はい……。説明が下手で、国王様に理解を賜れず申し訳ございません。お妃様にご助力頂いても宜しいでしょうか?」
「貴方、さっき、『観光』と言ったけれど、無上陸で片道一カ月以上の航海ができる商船は無いのよ」
「うむ。ロメリア王国との戦争終結から、二ヶ月も掛からずに戻って来られたのであろう?それほどの難儀があったとは思えぬ故、私からも材料調達の資金の提供を申し出たのだが」
「貴方、<科学教>については、ストレイア帝国を構成する王国の一つとして、その重要性を知っているわよね?」
「ま、マリア。まだ王族になっておらぬヒカリさんの前で、その話は少々早すぎないか?」
「貴方、今まで<醤油>が手に入らなかったのは何故かしら?」
「ヒカリさんが、トレモロ・メディチ卿に同行した際に、地場の土産物屋で、たまたま発見したのであろう?」
「ヒカリさんは、アジャニアのお土産物屋で<醤油>を買ってきたのよ」
「な、な、な、何だと!」
「当然、トレモロ・メディチ卿も、<醤油>を皇帝陛下へ、大航海の新規航路開拓の証として、献上したらしいわ」
「そ、それは不味いぞ。ヒカリさんから貰った<焼きおにぎり>を、ストレイア帝国からの使者に振る舞ってしまっている」
「そうね。新規航路の開拓と、その報酬。そして利権の確定がされていないのに、勝手にお土産程度とはいえ、他国の物を自由に扱ってはいけないわ」
「ま、マリア。ヒカリさんを守るために、大臣達へ緊急招集をかけて、帝国の使者に備えねばならぬ。使者への誤解が解き終わるまでは、ヒカリさんを避難させて匿える場所も手配せねば!」
「ヒカリさん、うちの人が慌てているのだけど、どうしましょうか」
「ま、マリア様、私にそれを説明させるのですか?」
「ヒカリさんがうちの人に遠慮するからよ。それに私だって報告を受けてないわ」
ゴクッと唾を飲みこんで、隣に静かに座るユッカちゃんを横目に見ながら覚悟を決めるよ。
「マリア様、報告させて頂きます。
ストレイア帝国からの使者及び視察団はこの領地の視察を完了し、皇帝陛下への結果報告を行いました。
その結果として、私の領地は経済特区としての直轄地として認めて頂けることになりました。
また、その直轄地の運営・警護のため、カシム卿およびハシム卿の両侯爵が率いる帝国騎士団員500名を派遣頂けることになりました」
「あら、ヒカリさん、予定より多めに成果が出たじゃない。何か追加の切り札を切ったのかしら?」
「マリア様、私はこのまま報告を続けさせて戴いても宜しいのでしょうか?」
「あ、ああ、そうね。貴方、話についてこれてるかしら?」
「待て待て待て。醤油の話と、交易の違反の話までは理解している。ストレイア帝国から使者が来たとは聞いておらぬ。報告は上がっていたのか?」
「貴方、レナードは新年の使節として帝国へ向い、未だに帰ってきてないのよ。ヒカリさんだって、相談も報告も、しようがないわ。」
「まぁ、辺境における他国との折衝は辺境自治大臣であるレナードの裁量が必要であるからな。私ですら独断では決めかねぬ。それで、どうなったのだ?」
「私がお答えしても宜しいのでしょうか?」
と、マリア様へお伺いを立てる。
「ヒカリさんが説明すればいいと思うわ」
「はい。その使者と、後から来られた視察団が、こちらに帝国の領地マーカーを設置されたため、何事かと帝都への確認を行いましたところ、直轄地としての経済特区に指定するとの回答を頂きました」
「ヒカリさん、それはおかしいだろう」
「な、なにがでございますか?」
「帝国が勝手に、属国とは言え、他人の既にある領地へ領地マーカーを設置するとなると、領地侵犯となり、国際法上も問題となる。
そのような誤解を招くことが無いように、普通であれば、レナードなり、国王である私へ使者での通達が予めあっても良いはずだ」
「さ、左様でございましたか。領主として不慣れであるが故、判断の遅れをお詫び申し上げます」
「ここには、かの有名なステラ様やニーニャ様、そして優秀な執事のモリス殿もおるのだろう?ヒカリさんが判らなくとも、その者らが判断できるであろう」
「ステラ様、ニーニャ様は新年の儀の際に、ストレイア帝国への召喚が決まっておられたようで、視察の急使の方とは入れ違いになっておりました。
モリスと私で使節団への対応を行っていたところ、視察終了日に突然の領地マーカーの設置に驚いた次第でございます」
「なるほど、全てが帝国の思惑通りに進んでいたということか。であればこそ、これだけ良好な成果が上がっている領地を直轄地として統治するならともかく、<経済特区>としての利権放棄をするのは合点がいかぬ。」
流石王様。状況分析に抜けがないね。
とすると、何故領地マーカーの上書きが起こったのかを説明しないとダメかな。
「使者のハシム卿とともに、皇帝陛下への謁見が叶い、<領地マーカー>の設置理由を確認させていただきましたところ、それは誤解であり、<経済特区>として、認めるためのものであると、指令書を拝領した次第です」
「ヒカリさん、<領地マーカー>の上書きの話をしておる。その行為自体が何らかの意図がないと実行されぬ。例えば、強制的に軍事制圧によって、このヒカリさんが居る領地を接収してしまおうとする意図がある場合だな。
だが、これだけ広大な領地に対して、そう簡単に領地マーカーによる接収などできぬと、分かったはずなのだがな」
「そ、それは……。確かに私の采配が不味かったかもしれません。
ちょうど、領民が増えてきた最中でして、領地マーカーをポイントとした区切りを設けて、領内の道路や水道などのインフラ整備の区画割を行っておりました。
その際、一時的に領地マーカーを解除していた地域があり、その空白領域に帝国の領地マーカーを設置して、そのような軍事行動を起こそうとしたのかもしれません。
ですが、その、一時的な整備での解除ですので、大枠の領地マーカーは以前と大きく変えておりません」
「とすると……、……。
帝国としては領地マーカーによる接収の意図があったかもしれぬし、その同じタイミングで領地マーカーの整備をしており、空白地帯ができていたところ、その空白を領地境界と誤解して、接収を試みたということであろうか?」
「そのように解釈できるのでは、なかろうかと……」
「ヒカリさんのたまたまの区画整備行動が、運よく接収を免れたということか」
「はい。誠に幸運に恵まれた結果であるかと」
「ふむ。マリア、そういことであれば、<醤油>に関する利権問題も解決ということになるな。
ではあるが、アジャニアへの航海は、未知なる大航海であり、ストレイア帝国の技術では、ここ100年一方的な外交を迫られていた土地であるぞ?」
「だから、ヒカリさんが返事に困っていたのよ。ねぇ?」
「は、はい……」
「そうか、それは無事に帰って来られて何よりだ。確かに<醤油>は、金銭の問題だけでは済まぬようであるな。保留としよう。
ところで、そんな大事の最中、うちの息子は何をしておった?」
「<タコ丸>のタコを獲りに行かれているようです。一度帰って来られたようですが、丁度、私は帝都を訪問して留守にしておりましたので、詳細は分かりません」
「おお。あれも新年の儀で大きな話題を呼んだな。これも手に入り難い材料なのか」
「そもそも、タコが流通しておりません。魔物の一種として、漁をする対象になっていませんし、それを食べる文化がありません」
「マリア、知っていたのか?」
「貴方、婚約の儀を控えたヒカリさんにタコを獲りに行かせたのよ?」
「国王が無知で申し訳ないのだが、流通どころか漁師すら食さないよう物が、なんで新年の儀の話題になったのだ?今年の新年の儀はルナ様の降臨と言い、いろいろとオカシナことが多い……。
ま、まさか!」
「わ、私は関係ありません!国王の命に即して、臣下として支援させて頂いたに過ぎません!」
だめ、だめ。それ以上踏み込まないで。この人、頭がいいよ。
タコ丸はガードが甘すぎるっていうか、ユッカちゃん用のイベントな訳でさ……。ルナ様に至っては、言葉すら交わせてないんだから、何もコントロール出来ないし!
「マリア、ヒカリさんは隠し事が多いようだが大丈夫であろうか?」
「ヒカリさんに自由にしてもらっている分、これまでの王族の世界からは見えなかったことが多いかもしれませんわ。
私、<タコ丸>を食べたことはあるけれど、タコを獲っているのがヒカリさんとは、あの日まで知らなかったもの」
「こ、こちらで静かに座っているユッカちゃんもタコを獲るのが上手いです」
「おねえちゃんのイジワル!」
と、すかさずユッカちゃんから返事がくる。
「え?」
「マリア様、ヒカリ・ハミルトン伯爵は嘘を申しております。タコは非常に危険な生き物であるため、多くの方が命を落としかねない危うき目に遭っています!」
と、ユッカちゃん。
「ユッカちゃん、その儀礼的な言い方は、いつ覚えたの……?」
「おねえちゃんと一緒に、マリア様とステラお姉ちゃん達から習ったよ」
「そ、そっか。でも、そんなに危険なら、国王の命令で<タコ丸禁止>になるよ?」
「おねえちゃんの、もっとイジワル!」
イジワルの比較級登場ですよ。
っていうか、タコが大きすぎるのに、素手で挑むから悪いんだと思うんだけど?リチャード王子はどうやって狩りしてるんだろ?
「ヒカリさん、そしてユッカちゃん。うちの息子がタコを獲りに行くのは危なくないのかな?」
「「さぁ……」」
<<ヒカリさん、この訳の分からない茶番は一旦休止よ。うちの息子の現在位置の把握と生存を最優先で確認して!お願いよ!>>
<<わ、わかりました。<飛竜の念話>は通りますので、支援依頼をかけます!>>
って、マリア様と念話で打ち合わせをしつつ、次の話題をどうつなげるか考えているところで……。
「ヒカリ、タコを獲ってきたぞ。今から調理場で<タコ丸>を作るんだが、見に来ないか?
あ、丁度、師匠のユッカちゃんもいるじゃないか」
リチャード王子、いろいろな意味で貴方に感謝するよ。
生きてることも、念話が使えないのに、私を探してくれてここに来てくれたことも。
そして、びろ~んって、2m近くあるタコの足1本を持って、皆に見せてくれていることもね。
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