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異世界で気ままな研究生活を夢見れるか?  作者: tinalight


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5-43.帝国からの帰還

結局、ステラは昼頃に出発して、騎士団を救出したり、馬車を持ち帰ったりで、帰りが夜中になっちゃった。それにしても、ステラは愚痴を口には出したりしないけど、皇帝直属部隊を相手に大変だったんだと思うよ。いろいろ大変なことさせてごめんね。


こんな夜中になっちゃったもんだから、飛竜さんのことも考えると関所への帰還は1日延期だね。私たち関所のメンバーは上皇様のご厚意に甘えて連泊させてもらうことにしたよ。


翌日、関所に帰る前にハシムさんと一緒に、騎士団の偉い人と、女性騎士団の偉い人が上皇様のお屋敷に挨拶に来た。『ステラと村人が窮地にある騎士団員を救出した』ってことで、お礼を言いたかったってことらしい。


けど、なんで私まで一緒に挨拶をされなくちゃいけないのか、さっぱりわからない。というか、私が誘拐犯の元締めの領主とか判ると、問題がぶり返す可能性があるから、無難に挨拶だけして、<遠足>の件の会話はそれとなく避けておいたよ。


村人さんやステラへの感謝の証も、ハシムさんが連れてきた二人と纏めてくれるっていうし、トレモロさんも居るから大丈夫かな。いざとなったら、レイさんやアルバートさんから念話を通してもらうってことで。『<感謝の証>は後日の受け取りでいい』って、ステラも言うから、関所への帰還を優先させてもらったよ。


ハシムさんは事前の打ち合わせ通りに、上皇様と上皇后様の身代わりを本物扱いで護衛して、例の乗り心地の良い馬車でゆったりと旅してくるから、しばらく会えないね。

私たちは、飛竜さん3人に、ステラ、ニーニャ、アリア、そして、上皇様と上皇后様、そして私の6人が2人ずつ分乗して、空の旅を楽しみながら帰還したよ。


ーーーー


「みんな、ただいま~」

「ヒカリさん、お帰りなさい。飛竜に同乗されたお客様がいらっしゃるので?」


と、真っ先に出迎えてくれるモリス。目も気配りも素晴らしいね。


「う、うん……。こっちを観光してみたい人を二人ほど案内してます」


と、折角モリスが出迎えてくれるのに、ちょっと歯切れが悪い私。

一応なんだけど、<お忍び扱い>ってことで、割と平民的な老夫婦って設定の服装にしてもらってる。メイド服や執事の服ですらない感じ。でも、なんていうか、体から滲み出るオーラっていうの?モリスやみんなには判っちゃってるみたい。


「お姉ちゃん、美味しいお土産は?」

「ヒカリ、ずいぶん遅かったけど、美味しいものを食べて楽しんできたわけでは無いわよね?」


と、責め立ててくるユッカちゃんとラナちゃん。この関所の雰囲気はいいよね。気持ちが安らぐよ。なんか、これが私にとっての我が家なんだな~って。


「あ、ええっと、ええっと、お土産はあるよ。それで、帝都ではそんなに美味しい物は無かった。っていうか、誰かのせいで、砂糖の帝都への物流滞ってて、帝都では砂糖がほとんど買えないの。めちゃくちゃ高いし、クッキー作るのすら大変なぐらいだったんだよ?

それに結構忙しくて、ご飯を楽しんで食べる時間は無かったんだよ」

「「ふ~ん……」」


と、疑わしそうで、つまらなさそうな気のない返事をする二人。

帝都へ向かうはずの砂糖がどこへ向かってしまったかは気にしないわけね。


そうそう。

それよりも早くお客様二人をモリスに案内させないと!


「あ、あのね。みんなちょっと待ってね。お客様が二人いて、飛竜に不慣れで疲れていると思うの。だから、早く部屋に案内してあげて、先に休んでもらった方が良いと思う。モリス、案内お願いして良いかな?」


「ヒカリさん、ひょっとして?」

「う、うん。今日は私が住んでる館の空いてる部屋でいいよ」


「ヒカリさん、本当に宜しいので?」

「今日の夕食会までは良いことにしよう!そうしよう!」


「分かりました。ヒカリさんに何かあったら、ランドルの所に身を寄せて、久しぶりに天文学でも構築するとしましょう……」


「モリス、私が招いたお客さんだよ?何か心配?」

「ヒカリさんが普通でないのは慣れています。ですが、普通の老夫婦を<飛竜>に乗せてくるとか、有りえませんよね?」


「あーあーあー。とりあえず、目立つわけには行かないから。とにかく、部屋に案内してあげて」

「はい。良しなに」


ーーーー


夕飯は旅の疲れがあるし、上皇様夫妻はそれなりにお年を召してるってことで、サラダとかポタージュの体に優しいものから慣れてもらうことにした。メインは魚かエビとかの海鮮類。それでも、まだ追加で食べられそうなら、好みを聞いた上で、パスタとか簡単なパンを添える形で夕飯を組み立てるようにゴードンにお願いしたよ。


関所にある私のやかたでは、10人ぐらいの席しかないから、妖精の長達には我慢して貰って、夕食会メンバーと老夫婦でギチギチに詰めて食事をすることになった。これは、本格的にこの館の増築か、建て直しを考えないと不味いね。


夕食会に集まったメンバーは、

モリス、フウマ、ユッカちゃんの留守番組と、

ステラ、ニーニャ、アリア、私の帝都組。

それと、上皇様、上皇后様。

合計で9人になるね。


「じゃ、大体一週間ぶりぐらいかな?ステラやニーニャが集まるとなると、もう、20日ぶりぐらい?とにかく、みんなのおかげでいろいろ上手く行ったよ。それでモリス、私が留守中の話を聞けるかな?」

「はい、ヒカリさん、何から始めましょうか?」


「なんか問題あった?」

「皆様が上手く対処してくれました」


「例えば?」

「リチャード王子がタコを持ち帰られました。ユッカちゃんが相手をして、<神速タコ丸>の特訓に付き合われました。材料のタコが無くなりましたので、再び漁に向かわれました。『今度はヒカリに負けない大きなタコを獲ってくる』との意気込みです」


「わ、私のことは?」

「不在のことを気にされているようでしたが、『タコが腐る前に<タコ丸>を作って、ヒカリに食べさせる』とのことで、ユッカちゃんと夢中になっていました。

なお、『ちょっと、アリアさんと買い物に行かれました』と、伝えてあります」


「いろいろ、ありがとう。他には?」

「騎士団500名の住居の確保と開拓の指揮が必要でしたが、フウマ様、ミチナガ様、ユッカちゃんに夫々(それぞれ)指揮を執って頂きました。

道向こうのレナード様から借用している領地を、ざっくり、1km四方、森林伐採と平地化、そして100世帯分の建物の建設までが完了しております」


「ええ?あ~。全然理解が追い付かない」


「先ず、神器の斧がございます。切り出した丸太は脇に積み上げました。

次に、神器の剣がございます。残った切株を掘るのは容易でした。

そして、地面をならして固めるハンマーがあります。多少の魔力を有していれば叩くだけで、十分に強固で平らな地面を形成できました。

この辺りの連携は、フウマ様、ミチナガ様、そしてカシム卿とその配下で行いました。丸太の移動ぐらいであれば、500人の騎士団からすれば問題ないとのことだそうです。


今度は、ヒカリ様直属の騎士隊達が、ニーニャ様とラナちゃんが共同して作成したナイフを用いて、石の切り出しを行い、ユッカちゃんが<重力遮断>を施して、住居となる石の運搬を行いました。

軽量化された石さえあれば、イワノフさんの指揮の下、石工のドワーフ族の方達がインフラとしての、道路、水道、下水道を整備し、雨風がしのげる程度の家屋を作成しました」


「うわ~~~」


「続けても宜しいでしょうか?」

「は、はい!」


「教師として雇った者の支援と、エルフの方達の作成された紙を用いて、<住民票>の整備が行われております。ヒカリ様の近衛兵70名、ユッカちゃん直属の騎士団員500名、この領地の初期開拓団と人口流入による増加を合わせて、非戦闘員が200名になります。

出来れば、そのような事務員を雇って頂けますと、<教師>の本来の仕事に専念できるかと思われます」


「あ~あ~あ~。もう、村じゃなくて、町の規模だね。商人が直接商店を開きたいレベルでしょ?」


「<万事屋よろずや>から、支援の申し入れが来ております。こちらへ支店を開き、運営させて頂きたいとのこと。また、<メルマの商業組合>からも、領主さまへの謁見の申し入れが来ております」


「モリスが一番大変だったよね?」

「これくらいできませんと、ヒカリさんの代行は務まりません」


「ところで、モリス、お客様が二人いるんだけど、随分と重要な事項を平気で喋ってなかった?」

「何か問題でも?」


「あ、いや、いいです。大丈夫です。それより細かい話を聞く前に、どこから私の方の報告をした方が良いかな……。あ、それとも、誰か先に報告したい人がいるかな?」


「ヒカリ、ヒカリの勉強会のときでいいんだぞ」と、ニーニャ。

「ヒカリさん、私も特に問題ありませんわ。ヒカリさん一緒に行動していなかったときの内容は勉強会のときで構いませんわ」と、ステラ。

「ヒカリ様、私も何もありません」と、アリア。


「そう……。じゃぁ、フウマとユッカちゃんは?」


「姉さん、さっきモリスさんが報告してくれたことで大よそ含まれてるよ。

実際上の問題としては、姉さんの近衛兵と、カシム卿の率いる騎士団との軋轢は残っていているよ。

仕事場とか、住居区分、食事をとる場所が重ならないように配慮する必要はあったけどね。でも、姉さんの力とユッカちゃんの力をお互いが尊重しているから大した問題じゃないよ」


「そっか……。フウマの采配に感謝するよ。その辺の機微が私には足りないんだよね。とっても助かるよ。ありがとね」

「いや、姉さん。さっきのモリスさんじゃないけど、役割分担だと思ってる。僕に出来ることが皆の役に立つなら、それは、その役目を全うするだけさ」


「いろいろありがとうね。ユッカちゃんは何かある?」

「おねえちゃん、私は、お姉ちゃんが連れてきた、そのおじいさんとおばあさんを紹介してもらってないよ?」


「あ、はい。ええと、みんな、食事は進んでます?」

「ハイ!(ALL)」


「では、多少は疲れも癒されて、心安らかな状況と考えて、重大な報告をさせて頂きます。


私は、今回、皆様の協力のおかげで2つの大きなお土産をこの領地にもたらすことに成功しました。


1つ目は、<経済特区>としての許可証になります。これは、皇帝陛下と、レナード・バイロン卿と、ステラ・アルシウス卿と、ニーニャ・ロマノフ卿の共同署名入りになります。これで、この領地の活動は無税で、尚且つ発明品の占有権を自動的に取得できます。」


「ヒカリだから!(ALL)」


「いいえ。本当に皆様のおかげです。ここに同席されていない人も含めて、皆様の支えがあって実現できたことになります」


「おねえちゃん、もう一つは?美味しい物?」

「うん。もう一つは、ユッカちゃんに関係することかな」


「これ?」

「うん」


ユッカちゃんが胸に掛けている形見のペンダントを服の中から取り出す。きっと、何かを感じて、普段はカバンに大事にしまってあるペンダントを掛けていたんだね。


「ヒカリさん、それは!」


って、これまで只管ひたすら沈黙を守っていた上皇様が驚きに声を上げて、ユッカちゃんのペンダントに目を向けるだけでなく、大きなテーブル越しにガバッと、身をのりだす。


「貴方……」


と、上皇后様が、身を乗り出す上皇様の袖を掴む。食事中に机越しに身を乗り出す上皇様を引き留めようとしてるんじゃないね。



見えたんだね。



ユッカちゃんが取り出したペンダントが何であるか判ったんだよ。だから、必死に何かにつかまって無いと、自分で自分を支えられていない状態。


「最初に申し上げます。あちらの少女が胸に掛けているペンダントは、私が墓荒らしなどにより、不当に得て、それを預けているものではありません。正当なる持ち主が所有しているものです」


「ヒカリさん、宜しいか?」と、上皇様。

「はい、何でしょうか?」


「私はお主が私の屋敷を訪問した夜のことを正確に覚えておる。


『ハンス夫妻の墓を大切にしている人物がいて、それはヒカリさんの師匠に当たる。その者の許可がなくては墓参もまかり通らぬ。』


と、申しておったな。相違ないな?」

「はい」


「つまりは、この領地に居るヒカリさんの師匠である軍神が、ハンス夫妻からそのペンダントを略奪し、その少女に与えたということか?」

「いいえ、違います」


と、私は、はっきりと皆に聞こえるように声を張る。


「ことと次第によっては、これまでの全ての協力を破棄し、超法規的な措置の指揮を執らせて頂く。例えこの身が消滅しようとな」


私は上皇様の発言が終わるか、終わらぬかのタイミングで発言を重ねたよ。


「あちらの少女であるユッカちゃんは、私の師匠であり、大切な家族です。そして、ハンス様とトモコ様のご息女に当たります」


「な、な、な……」

「貴方……」


「おねえちゃん、二人のお客様がおじいちゃんとおばあちゃんなの?だから飛竜で連れてきてくれたの?」


と、ユッカちゃん。


「ユッカちゃん、ごめんね。どういう紹介の仕方が良いか分からなかったの。でも、飛竜の長旅で疲れてて、いきなり、『じゃ、じゃ~ん』っていうんじゃ、感動も薄いし、上手く説明できないかなって、思ったの。だから、ちょっと疲れがとれて、夕飯を食べて元気が出てくるまで待っててもらうことにしようとしたの。

ごめんね」


「ううん。私は大丈夫。それに、カシムさん達から『姫、姫』ってからかわれてるし、フウマにいちゃんが、それをみんなの前で言わないように怒ってくれてるんだよ。だから、大丈夫だよ」


「ヒカリさん、食事中ではあるが、その子に近寄っても宜しいか?」

「はい。シルビア様もどうぞ」


ユッカちゃんも静々と立ち上がって、テーブルとイスで狭くなってる部屋の隙間を通って、上皇様と上皇后様の方へ移動する。見てる他のみんなは、椅子を避けて通路を作って、3人が黙って抱き合う姿を見守る。


誰も言葉を発しないまま、長く、そして心が熱くなる時間が流れる。ユッカちゃんは、大きな感動も感じずに抱かれるままな様子だけど、上皇様と上皇后様は目をつぶって、ハラハラと涙を流している。



静まり返った食堂の扉をそ~~っと、開けて、私とモリスに向かって手でサインを送るゴードンにユッカちゃんが気が付いた。


「あ。デザート!」


って、ユッカちゃんが言葉を発したことで、部屋の沈黙が破られた。


「ああ、すまぬ。まだ、食事中であったな。席に戻ろう」

「はい」


と、上皇夫妻が席に戻る。ユッカちゃんもそれにつられて、デザートを食べるために元の席に戻ってきたよ。


「みなさん、色々と考えることはあると思いますが、今日はデザートを食べてから、ごゆっくりお休み頂ければと思います」


ユッカちゃんの好きな<プリン>じゃなくて、<ミルクテロン>なんだけど、口をつけない。


「ユッカちゃん、食べないの?」

「おねえちゃん、もう、私はここでデザート食べられないの?今日が最後なの?」


「ううん。全然。でもね?その話は、この場で続けられないことなの」

「おねえちゃん、どういうこと?」

「ヒカリさん、どういうことであろうか?」


「ユッカちゃん、簡単な話じゃないし、理解を進めるには時間がかかるってことなの。上皇陛下夫妻には、この関所に暫く滞在頂けます。私がこの場で言葉で説明できないことがあることをご理解いただいて、その上で改めて、今日の話の続きをさせて頂きたいかと思います」


「うむ。まだ、息子達の墓参もしておらぬ。ヒカリさんの見せたいものが何であるかも判らないのに、私がこの場で強硬な態度をとることはお互いのためにならぬ。我々の<身代わり>がこちらへ到着しない以上、表立った行動は何もとれぬ故、しばらくは老夫婦の客人として世話になることとしよう」


「上皇様、多大なる譲歩頂きありがとうございます。お二人に退屈な日々とならぬよう、皆で歓待させて頂きます」


うん。

まぁ、説得することが目的じゃないからね。

時間が解決するってこともあるし。

今日はこれでいいと思う。


いつもお読み頂きありがとうございます。

また、マイペースで続けさせて頂きます。


もし、このヒカリのノリが気に入って戴ける方がいらっしゃったら、拙作のN2774GBも、楽しんで頂けましたら幸いです。2月末に書いていたんだなぁと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに肉親と呼べる人達にユッカちゃんが出会えた [一言] この話を読むとなんだか最初からまた読み返したくなった。
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