32.宿屋を手伝おう(2)
肉とパンの権利を運よくゲット!
宿屋の経営を軌道にのせられそうだね。
あっというまに、食事の席になった。
とは言っても、突然のことで
飲み物とか簡単なものから順番にだけどね。
そんな中、一人の執事がレナードさんに耳打ちする。
何やら話が長いらしく、レナードさんが何回か頷いている。
レナードさんが「分かった」と返事をすると執事が下がった。
「ユッカよ。クッキーは無いそうだ」
「え~~~」
「荷の中に有ったそうだが、私の知らぬところで食べ終わっていたようだ。そして、うちの料理人たちでは、クッキーというお菓子を再現することが出来なかったようだ」
「おねえちゃんが作ればいい!」
「また、ヒカリの料理技術なのか……」
レナードさんも諦めつつ呆れつつ、微妙な反応だ。
確かにね?
研究と料理は良く似たプロセスなんだよね。インプットが素材、アウトプットが料理。その段取りが調理方法って訳で。実験のセンスがないと、上手い結果が得られないし、再現しない。また、分量を微妙に変えたレシピを残すのなんか、まさに研究と一緒だよね。
「あ、はい……」
なんか、恐縮しつつ、申し訳なさそうに返事をするしかない。
「作れるのか?」
「材料と台所があれば、スープを作る程度の時間でできるかと」
「特別な材料が必要なのか?」
「「砂糖!」がいります」
と、ユッカちゃんも一緒に返事をする。ユッカちゃんにとって重大なことなんだね。
「あの砂糖か!」
「はい……」
「手に入らないだろう?非常に高価で、一文無しのヒカリが手に入れることができるとは思えないんだが?」
私は仕方なく、ベッセルさんと青年と出会って物々交換をした経緯を話した。そして、お礼としてクッキーやパン、鹿肉も提供していることを正直に話した。さらには、青年に口止めされていることまで……。
「ベッセルと貴族の青年?ひょっとして……」
「恐れながら申し上げれば、その青年は『レナードの所の肉だ』と申しておりましたので、バイロン卿のお知り合いの可能性がございます」
「かぁ~~~。リチャード王子にばれたのか!トモコが死んだことは言ったのか?」
「いいえ」
「トモコの固有技術扱いなんだな?」
「現時点ではおっしゃる通りです」
「今後はヒカリとユッカの固有技術で良いな?」
「その通りです」
「よし、今日の2つの権利許可と今後の信頼の積み重ねのために、食後にクッキーを作ってくれるか?ユッカと一緒にそれを食べてみたい」
「あの、砂糖が……」
「食後までに買いに行って来させる」
「わかりました」
ーーーー
食後に台所に行って、そこにある材料と砂糖を使って、適当にクッキーを焼く。ナッツいれたり、適当にアレンジしたのも作っておく。今日はあんまり凝ったの作ると時間がないので簡潔にね。
「「できました」」
と、料理長と一緒にレナードさんとユッカちゃんが待つ部屋に持ってきた。
「わ~い、わ~い!」
「これか……」
ユッカちゃんはお行儀よくレナードさんが手を出すのを見ている。
そして、ジロジロとニコニコと期待しながら食べるのを待っている。
一方のレナードさんは、焦げた甘い匂いはするものの、甘未にあまり慣れてない様子で、普段食べているカチカチの固いパンを小さく甘くした物にみえるかな?
けれど、カリッとひとくち食べてから驚きの表情を見せて、こちらに尋ねた。
「む。これの製造権と販売権はパンの契約に入ってないな?」
「入っておりません。ですが、こちらの料理長と共に作りましたので固有性は失われています」
「料理長!」
「はっ」
「これを料理長とヒカリの固有技術として、うちから外に出すことを禁じる。いいな?」
「わかりました」
「ヒカリ。そういうことで、ここにあるクッキーのレシピを買い取る」
「あ、でも、ユッカちゃんに作ってあげたいのですが……」
「個人で楽しむ範囲では構わない。技術の流出は一切認めない」
「わかりました」
「貴族に広めて、売れることが判ったら、そのとき対価を支払う。よいな?」
「わかりました」
「よし、あとはどうやって、貴族のパーティーに持ち込むかだな……」
「非常に申し上げにくいことではありますが……」
「ん、なんだ?ヒカリには秘密が多いな!!」
「ベッセルさんから紹介された貴族のパーティーに持ち込んで配布しました」
「ベッセルが配ったのか?」
「いえ、ベッセルさんは参加されず、直接リチャード王子に手渡ししました」
「リチャード王子が独りで食したのでは、意味が無いだろう」
「王子自らが皆様の輪にお盆を持って、分け与えておりました」
「皆の反応は?」
「メイドとして控えていたため、良くわかりません」
「そうか……。まてよ?それは最近のことだよな?」
「はい」
「ベッセルが呼ばれていなかった?」
「はい」
「王様や王女は?」
「私には判りません」
「私も呼ばれていないんだが」
「お見かけませんでしたね」
「何かおかしい」
「あの、本当なんです。ユッカちゃんと一緒に給仕しましたし」
「うん。一緒にメイドしたよ」と、同調してくれるユッカちゃん。
「あ、いや。おかしいのはこっちの話だ。気になる情報だな。こちらで調べるので気にする必要はないぞ。あと、今日から狩りとパンの権利を使っていいぞ。精進して私を喜ばせてくれ」
「ありがとうございます」
「レナードさん、ありがと!」
ーーーー
「ユッカちゃん、やったよ!!」
「おねえちゃん、よかったね!」
「ユッカちゃんのおかげだよ」
「おねえちゃんが、がんばったんだよ」
「ううん。トモコさんの影響の方が大きかったよ」
「おかあさんもがんばってた」
「そうだね。感謝してます」
「きっと、おかあさんも私たちのことみてる」
「そだね。おねえちゃん、これからも一緒に頑張ろ!」
誤字などの修正のみです。本ストーリーへの影響はありません。




