5-35.上皇后様と謁見しよう
打ちひしがれた皇后陛下がお供の3人のメイドを連れて退室されて、上皇后様が連れてきたメイドをテーブルに着くように指示を出してから、改めて会食というか、お茶会が始まった。
メイドの子達は夕食はいつ食べるんだろうね?ま、いっか。
「あなた。私に綺麗な女性達を改めて紹介頂けないかしら。」と、上皇后様。
「うむ。今朝に手渡した<クッキー>を差し入れてくれた者が、そこでメイドの恰好をしておるヒカリ・ハミルトン卿になる。」
「初めまして。ヒカリさんとお呼びしても失礼では無いかしら?」と、上皇后様。
「こちらこそ初めまして。上皇様はにはいろいろ支援頂き、感謝しております。私のような平民出の者が上皇夫妻にお目通り適い、大変うれしく思います。」
「あらあら。そんな緊張なさって。私の前では楽にして頂けるとありがたいのだけど。」
「は、はい。どうぞよろしくお願いします。」
と、なんかいつもの調子に戻らず、しどろもどろな私だよ。
「それで、エルフ族の方とドワーフ族の方はどちら様ですか?」と、上皇后様。
「エルフ族の方はステラ・アルシウス卿であり、20年ほど前にトレモロ・メディチ卿と共にナポルの街を救った伝説の方である。今回のトレモロ卿の大航海にも同船し、各種支援頂いているとの話であり、我がストレイア帝国に多大なる貢献をされている方である。」
「そう。かの有名なステラ様ですね。ご高名は予てから伺っております。今後とも共存のため、お付き合い頂ければと思います。」
「上皇后陛下への挨拶が遅れましたことお詫び申し上げます。こちらこそ種族を跨いでのお付き合いに日頃より感謝しております。」
「そして、ドワーフ族のニーニャ・ロマノフ卿になる。その指輪はニーニャ様の銘入りで私が戴いたものであるので、十分にお礼を言う様に。」
「ニーニャ様、夫の我儘にお付き合いさせてしまい、大変申し訳ないですわ。だって、この人が装飾品に興味を示すことなんかあり得ないですし、朝から私を喜ばせようとクッキーなるお菓子の差し入れをして、お忍びで出かけるとか訳がわかりませんもの。
女性の噂話と全く無縁のトレモロ卿や視察遠征中のハシム卿と共に出かけるとか、何をどう信じて良いのか全く分からなかったの。」
「上皇后陛下、改めて挨拶申し上げます。辺境の大陸より知見を得るために諸国を行脚中、そこにおられるヒカリ様と出会い、今回の謁見の機会に巡り合うことが賜りました。これも何かのご縁と思い、今後とも種族を超えての交流を出来ればと存じます。」
「皆様、丁寧な挨拶痛み入ります。ですが、もう少し楽にお茶を楽しむことは出来ませんか?」と、上皇后様。
いやね?
上皇后様の気持ちも分かるんですけど、何か言葉のあやが付けばあっという間に種族間戦争が始まっちゃうわけですよ。私だって、緊張しちゃうもん。
「ヒカリさん、出来ればうちの妻と仲良くしてやって貰えないだろうか。あまり、親しく話ができる友人がおらぬのだよ。」と、上皇様。
「いえ、あの、そんな。恐れ多いことです・・・。」
「ワシには、フランクに接するように依頼しても、ワシの頼みは聞けぬということであるか。」
「あ、いやいやいや・・・。そんなことは無いです。大丈夫ですっ!
上皇后様も、機会があればうちの領地に遊びにいらしてください。」
「ヒカリさん、私のことはシルビアと名前で呼んでいただいても良いかしら?」
と、上皇后様。なるほど、シルビアさんですね。今、名前が分かりました。でも、名前で呼ぶとか聞いたこと無いもんね。どうしよう?
「シルビア様、お言葉賜り光栄でございます。今後とも良しなに。」
と、何だけ訳の分からないことを喋り出しちゃったよ!
む~り~!
「ステラ様、ニーニャ様、ヒカリさんに助言頂くことは出来ないかしら。とても緊張されてしまっていて、可哀想ですわ」と、上皇后様。
「ヒカリさん、私は出来ませんが、ヒカリさんなら大丈夫ですわ。」
「ヒカリ、私たちの分まで頑張るんだぞ」
と、無責任な事を言いだす二人。
いいよいいよ。そういうこと言いだすならこっちも無茶ぶりしちゃうもんね!
「シルビア様、私も覚悟を決めました。領地没収なり、何なりと構いませんので、普段使いの言葉で接します。ご無礼の程、どうぞお許しください。」
「ヒカリさん、もっと楽でいいですわ。それで貴方の領地は遠いのかしら?長時間馬車に乗るとお尻や腰が痛くなるので困るわ。」
「シルビア様、解決方法は2つほどございます。
1つ目は、この度の召喚に応じてステラとニーニャが相乗りしてきた馬車をご利用される方法です。
もう一つは、身代わりを馬車で移動させつつ、お二人は極秘の手段で領地迄移動する方法があります。如何でしょうか?」
「ヒカリさん、貴方は伝説の魔女なのかしら?」
「いいえ。普通のメイドです。」
「うちの人が、普通のメイドに<様>はつけませんことよ?」
「で、では、縁がありまして、エスティア王国の伯爵に任命して頂いております。」
「ヒカリさん。うちの人、これでも帝国の皇帝の父ですの。<伝説の魔女>か、他の種族の族長クラスでないと、<様>はつけませんわ。これは譲れませんの。」
「縁ありまして、<加護の印>を頂いておりますことから、上皇様には<聖女>と勘違いされて、認識されております」
「あら?ヒカリさんも、ドリアード様にお会いしたのかしら?」
「いいえ。未だ遭遇で来ておりません。是非お会いしたいのですが、なかなか機会が得られておりません。シルビア様はお会いされたのでしょうか?」
「ええ。だって、私も<加護の印>を戴いておりますもの。」
「それは、とても羨ましいですね。それでしたら、<聖女様>ですね。」
「森の中の平凡な村人だったのに、<聖女>って認定されて、こんなお城に閉じこめられた人生なんて、大して面白くないですわ」
「そ、その気持ち、何となくわかります・・・。」
「ヒカリさんも森のある領地で暮らしていたのかしら?」
「私も森の中の暮らしが好きな方かもしれません。」
「そうよね!そうよね!木の実拾って、花を摘んで、草花で冠や籠をつくったり。魚や鳥を獲ってきて食べるご飯は美味しいわよね。」
「ハイ。とても楽しい暮らし方だと思います。」
「わかったわ。
私、<極秘の方法>でヒカリさんに連れて行って貰うわ。あなた、後から<私の身代わり>と一緒に馬車で来なさいよ。」
と、話を決めてしまう上皇后様。
「わ、ワシもそれの方が良いのだが。ヒカリさん、人数制限はあるのだろうか?」
と、上皇様も続く。
な、なんか、凄いことになってきた。
自分が無茶ぶり宣言を心の中でしてみたものの、
こんな受けが良いと、ちょっとびっくりだよ。
「<飛竜族>に支援頂くので、多分人数制限は無いかと思います。ですが、極秘な行程となりますので、<身代わり>には上手く行動して頂く必要がございます。」
「あなた、聞いたかしら?<飛竜>ですって。私、故郷の森で飛竜を見上げたことはあるけれど、近づけたことは無いの。ロメリア王国で<飛竜隊>が居るのは知っているけれど、それでも近づかせてもらえなかったわ。」
「ヒカリさん、<ロメリア王国>から飛竜隊を極秘裏に借りられる伝手があるということだろうか?」
「ステラ、ニーニャどうしよう?」
「私の飛竜は関所で建設工事の支援をしているんだぞ。こっちにはいないんだぞ。」
「私の飛竜さんは、レイさんに預けてありますけど、私とニーニャさんで乗って帰る予定ですわ。」
「二人とも、そういうこという?私だって、ハシムさん載せて行かないといけないじゃん!」
「「その人知らないから、馬車を持って帰って貰いましょう」」と、二人。
「じゃ、ハシムさんに馬車と<身代わり>の護衛を頼んで、アリアと私で上皇様とシルビア様を連れて行くでいい?」
「「ハイ」」
良いのか!
二人とも大胆過ぎるよ!
兜無しの飛竜を何頭も抱えているって、軍事力としたらエライことになるよ?
科学教の比じゃないんだからね?
「上皇様、上皇后様、お二人をお連れすることは可能であると思います。<飛空術>を身に着けていない場合、万が一に備えて、私達の仲間が必ず同行された方が良いと思います。
しかし、一方で、関所を長らく留守にする訳にもいきませんので、後日、日を改めて案内させていただいた方が宜しいかと思われますが、如何でしょうか。」
「ヒカリさん、私は今からでもいいわ。」と、上皇后様。
「ヒカリさん、ワシも今からでも良い。」と、上皇様。
な、な、なに、この喰いつき方は!
「あの、<飛竜族>の習性としまして、夜の行動はあまり得意としません。最短でも明日の朝の出発となります。また、上皇様に於かれましては、<直轄地の署名>、<偽物の装飾品の回収指揮>の2つがあるかと思われますが、その辺りは如何でしょうか。」
「私は明日の朝からでも構いませんわ」と、上皇后様。
「むむ。それは不味いな・・・。1日。1日伸ばすことは叶わぬか?」
「ステラ、ニーニャどうする?」
「トレモロさんとレイさんに挨拶をしていませんので、私は構いませんわ」と、ステラ。
「ヒカリの好きにすればいいんだぞ。私は木の装飾品に興味があるんだぞ」と、ニーニャ。
「あ、じゃ、今日はトレモロさんちに泊って、明日は木こりの村を訪ねてみるってのはどう?」
「ヒカリさんらしくて良いですわ」と、ステラ。
「それのが良いんだぞ」と、ニーニャ。
「明後日の朝に、上皇様のお屋敷へお迎えにあがるということで宜しいでしょうか?」と、私。
「ヒカリさん、木の装飾品とか木こりの村というのは、皆さんが身に着けている装飾品のことかしら?」と、上皇后様。
「はい。」
「私も付いて行って良いかしら?」
「上皇后様に失礼でなければ、私たちは構いませんが・・・。」
「ヒカリさん、シルビアって呼んで下さる?あなた、トレモロ卿の家に泊っても良いわよね?」
「ムムム・・・。ヒカリさん、その・・。その・・・。
妻は私にとって大切な存在なだけでなく、帝国にとっても<聖女>として奉られている存在なのだ。
親しく付き合って頂けるのはありがたいのだが、万が一にも事故などに遭わぬよう配慮頂きたいのだが、頼めるだろうか?」と、上皇様。
「ステラ、ニーニャ、どうしよう?」
「ヒカリさんなら、私が守りますわ。上皇后様はクロ先生にお願いするのはどうかしら?」と、ステラ。
「ヒカリに任せるんだぞ。どっちでも良いんだぞ」と、適当なニーニャ。
「上皇様、上皇后様には特別な護衛を付けさせていただきますので、事故や急襲による戦闘行為によるケガを負うことはないと思われます。ご病気や毒物となりますと、なるべく我々と同等な注意・配慮をさせていただきますが、万が一の事態には聖女の力を借りて、全力で対処させて頂きます。」
「ヒカリさんと仲間の皆様にお任せすることとしたい。妻がこのように快活なのは近年稀にみる状態なのだ。是非とも同行させてやってほしい。」と、上皇様。
「承知しました(ALL)」
ーーーー
「みんな、ただいま~。お客さんを連れてきたよ。」
「ヒカリ様、お帰りなさい。お客様というと、ひょっとして、ステラ様やニーニャ様でしょうか?流石に皇帝陛下との謁見が終わるとは思えないのですが?」と、レイさん。
「あ~。それは終わった。もっと凄い人連れてきたよ。聖女様だよ!」
「関所で加護の印を貰っているとすると、まさかマリア王妃様でしょうか?」
「ううん。もっと凄い人!」
「ヒカリさん、ひょっとして、上皇后陛下ではあられませんか?」と、トレモロさん。
「ぴんぽ~ん!当たり!流石はトレモロさんだね。」
「ヒカリさん、ピンポンと言いますと、何らか球技の亜種の音の響きですが、この重大事に関係がありますか?」と、トレモロさん。
「正解のブザーの音だよ!気にしないで!ささ、シルビア様、入って、入って!」
と、勝手に上皇后様をトレモロさんの別荘に招き入れてしまう。
レイさんが慌てて、席をつくったり、お茶の準備を始める。アリアも一緒についていくから、火力は足りるよね。
「ヒカリさん、ステラ様とニーニャ様は百歩譲るとします。上皇様がいらっしゃって、例の作戦の通りに動けば、皇帝陛下はご多忙になられるので、自分本位な謁見を続けている場合では無くなりますから。
ですが、上皇后陛下をお屋敷の外に出されるのは有り得ません。たとえヒカリ様が要請しても上皇様がお許しになる訳がありませんし、皇后陛下との関係に配慮しますと上皇后陛下の立場が悪くなりすぎます。」
「あ~。それも上皇様が片付けてくれた。」と、私。
「すみません。私から直接、上皇后陛下にお話を伺っても宜しいでしょうか?」
「え?あ~。良いと思う。だけど、明日朝早いからね?」
「ヒカリさん?」
と、疑義を抱くトレモロさん。ま、当たり前か。
「ステラ、任せた!私は台所の手伝いとお風呂の準備してくる!」
「ヒカリさん、私にしかお茶は淹れられませんわ。ニーニャさんにお任せしますわ」と、ステラ
「ヒカリ、風呂の手伝いなら私もできるんだぞ」と、ニーニャ。
「ヒカリさん、私もお手伝いしますわ」と、上皇后様。
茫然としつつ、眉間に皺を寄せて、うなだれつつ、首を横に振るトレモロさん。
ごめんね。ごめんね。
でもさ、上皇后様は、きっと籠の中の鳥だったんだよ。
今、羽ばたいているんだよ。
だから、多少のことは許してあげてほしいな。
いつもお読みいただきありがとうございます。
春休みや休校の方もいらっしゃるかもしれませんが、
マイペースで続けさせていただきます。




