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異世界で気ままな研究生活を夢見れるか?  作者: tinalight


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5-28.上皇様との面会(3)

「トレモロさん、なんかずれてるよね?」

「ひ、ヒカリさん、先ずは会話が再開できる状況になったと見受けられますが。」


「トレモロさん、どこから始める?

ハンスさんと、聖女と、領地マーカーがごっちゃになってる。そこに、クッキーと毒殺が混じってる。」


「先ず、クッキーから始めましょう。

アルバート、メイドを一人たたき起こして連れてきなさい。

あるいは、夜の当番で甘い物好きならだれでも構わない。」


「トレモロ様、承知しました。少々おまちください。」


って、駆け足の足音がしないギリギリの速さで部屋から静かに出ていく。3人が残されたけど、私は壁や天井を見渡しながら、椅子に座ったまま何も話さない。トレモロさんはチラチラと私を見ているけど、何も言葉を発しない。上皇様は目をつむって、何かを考えている様子。


そして5分も経たずに、15歳くらいのアリアよりちょっと幼く見えるメイドの女の子が連れてこられた。


「アルバート様、なんでしょうか?」


「君にこのお菓子をお裾分けしようと思ってね。

そこに座ってらっしゃるトレモロ・メディチ侯爵の手土産になる。

上皇様の許可も得ているから大丈夫だよ。」


「あ、あの・・・。ひょっとして、私は毒見役なのでしょうか?」


その場の雰囲気を察して、その場の雰囲気を読まない発言をする辺りは若いのか怖いのか、どっちなんだろうね?


「そんなことはないよ。君が好きなのを1つ選んでご覧。その1つを半分にして、私と半分ずつ分けて食べよう。もちろん私が先に食べるさ。」

「本当に宜しいのでしょうか?」


「ああ、もちろんだとも。『珍しいものが手に入ったから、起きてる誰かにサプライズプレゼントしよう』という、上皇様のお心遣いだよ。」

「本当の、本当に私で良いのですか?明日になって、誰か先輩方に怒られたり、メイドの職をクビになったりしませんか?」


「逆に、急いで食べないと、上皇様の機嫌を損ねるし、いつまでもお客様をお待たせすることになるよ。」

「は、はい!直ちに!」


って、このメイドさん、アルバートさんに半分渡すのを忘れて一人で食べちゃったよ。食べ終わって、至福の笑顔をしながら口の中をモグモグさせて唾をゴクリと飲み込んでから、アルバートさんの笑顔をみて、ハッと手を口に当てて驚く。


「す、すみません!アルバートさんにお分けせずに一人で食べてしまいました!」

「いやいや、良いんだよ。君が『毒見役ですか?』とかいうから私がそう言ったまでだよ。美味しかったかい?お客様が感想をお待ちしてるよ。」


「ええと、すみません。これはなんていう食べ物でしょうか?

ハチミツとも砂糖とも違う甘さがあり、香ばしさが口から鼻へと抜けて、カリカリした触感がリズミカルで食欲をそそります。これはどこで買えるのでしょうか?」

「そう。それで、気分が悪くなったり、苦みがあったり、毒が入ってる様子はなかったかい?」


「毒なんてとんでもないです!上皇様の毒見役でこんな素晴らしいものが頂けるなら、いつでも来ます!」


って、この子は本当に毒が仕込まれている場合を想定してないね。目がつぶれたり、喉から声が出せなくなったり、様々な毒があるんだけどさ。それはともかく、絶賛して頂いて先ずは安心だね。


「上皇様、トレモロ卿やヒカリ様とまるで面識のない上皇様にお仕えしているメイドがお土産を絶賛しておりますが、如何でしょうか?」

「アルバート、その子にもう一つ選ばせてあげなさい。そして、温かいお茶を4人分入れてくるように、申し付けなさい。」


「承知しました。」


って、アルさんが手際よく指示をだして、お茶を4人分持ってこさせる。

そして、毒見役の子に追加でもう1つお菓子を選ばせていたよ。

アルさん、なかなか人心掌握が長けてるね?


「上皇様、お土産のクッキーを召し上がって頂けますか?」と、トレモロさん。

「う、うむ・・・。私は<お菓子>というものをあまりしょくさない。だが、ここは一つトレモロ卿の顔を立てよう。」


で、恐る恐る一口かじって、ナポルのときのトレモロさんと同じ反応をする。


「トレモロよ、これが聖女様の御業みわざか?」

「いいえ。少々高価な材料が必要ですが、どこの家庭でも製作可能なものです。」


「とすると、帝都の新鋭のパティシエが発明したのか?」

「そのような意味では、ヒカリさんがレシピを所持しており、エスティア王国内で権利化されているようです。私もレシピは存じ上げておりません。」


「聖女様には秘密が多いのか?」

「ヒカリさんは国の制限が無ければ隠す気もないでしょう。」


「そうであるか。であれば、このクッキーを早速別の入れ物に移し替えて、奥方にお裾分けさせて頂こう。アルバート、移し替える器を探して参れ。」

「お言葉ですが上皇様、その器のまま上皇后様へ差し上げられた方が、一層お喜びになるかと思われます。」


「アルバートよ、このような宝石にも勝る貴重な器を、そう長く借用するわけには行かぬだろう。」

「上皇様、その器も含めて、ヒカリさんからのお土産です」


と、トレモロさんが助け舟をだす。

でも、なんか、もう、段々とイライラを耐えてる間隔が短くなってきたよ。


「トレモロさん、お土産は良いから、そろそろ本題に入って~」

「上皇様、そのような訳で、ヒカリさんは早く帰りたいようなので、皇帝陛下との謁見の場における用件を簡潔に述べさせていただきます。


1.<領地マーカーの件>は皇帝陛下が上皇様へおねだりする形で決着をつけること。

2.上皇様はおねだりされた<侯爵2名と500人の精鋭騎士団>をヒカリ様の領地へ派遣することを許可すること。

3.ヒカリ様の領地のうち、<帝国の領地マーカー>がある場所は<経済特区>に定め、帝国への上納金を免除し、開発品などの権利は全て領主が管理できること。

4.騎士団員が家族を呼び寄せる場合、その引っ越しや領地移転に係る費用は帝国が負担すること


以上4点が決着として望む事項となります。」


「ワシや現皇帝の退任や、賠償金の請求はないのか?」

「ございません。それよりも、上皇様にはなるべく引退せずに職に留まって欲しい意向がございます。」


「ワシは公の立場として、さきほどの4件はまざるを得ない最低限の要求内容であろう。至極当然の成り行きと考える。

だが、ワシが引退する理由には個人的な思いとして、ハンスの墓を傍で守りたいという気持ちがある。」


「その件につきましては、先ほどのレナード卿の貴族用別荘地の販売が予定されておりますので、少々お待ちいただければ<別荘訪問>という形で実現可能と考えます。

ヒカリさん、この点は宜しいでしょうか?」


「上皇様とトレモロさんの別荘はもうできたよ。あと、騎士団員にも貴族が多そうだから、あの辺り一帯の領地は割譲してもらえることになった。自由に使えるよ。」


「ヒカリさん、その件は私も初耳でございますが。」

「別荘は一週間も掛からずに出来てたよ。領地割譲の件は今日の昼決まったからしょうがないでしょ?」


「左様でございましたか。

そのような訳で上皇様、本件の決着が付き次第、いつでも上皇様の別荘へ訪問可能となります。また、ハンス王子夫妻の墓参も可能と考えます。」

「トレモロよ、承知した。必ずや聖女様のために、謁見の場での決着を誘導してご覧に入れる。」


「トレモロさん、終わりで良いかな?」

「宜しいかと。」


「上皇様、夜遅くの面会にお付き合いいただきありがとうございました。

また、謁見の場での協力を頂けること、大変感謝しております。成功した暁には辺境の領地ではございますが、お時間のあるときにご自由に訪問頂けるよう、臣下ともども首を長くしてお待ちしております。


じゃ、トレモロさん、帰ろっか。」

「承知しました!」


夜も寒くなってきたけど、油脂コーティングとかせずに飛行してトレモロさんの別荘まで帰ったよ。風邪をひかないように気を付けないとね。


ーーーー


「みんな、ただいま~」と、私。

「只今もどりました。」と、トレモロさん

「お帰りさなさい(ALL)」


「トレモロ様、面会は上手く行きましたか?」と、レイさん。

「最終的には上手く誘導出来ましたが、途中でいろいろありました。」と、トレモロさん。


「その<いろいろ>を伺っても宜しいでしょうか?」と、レイさん。

「レイ、あのね、そのね。ほら、もう、夜も遅いし。また今度で。」と、私。


「ヒカリ様、皆さんドキドキしてお待ちしていましたので大丈夫です。報告を聞いてからの方がぐっすり眠れます。」と、レイさん。


「あ、あ、あ~。ええと、体が冷えたからお風呂に入りたい。レイさん出来る?」と、私。

「そ、そうですか・・・。確かに外は冷えてますね。ただ、もう暗いので薪を取るとなると・・・。」と、ちょっと困るレイさん。


「ヒカリ様、私で宜しければお湯を入れましょうか?ウンディーネ様からも妖精の子を頂きましたので、お湯ぐらいでしたら頼めます。」


と、気が利くのか、きかないのか判らないアリア。上皇様のメイドよりは大変有能だけれども。

っていうか、アリアだって<加護持ち>+<妖精の子持ち>じゃん!聖女じゃん!

でも、それを言っても、レイさんぐらいしか判らないって言うね・・・。


「ヒカリさん、お体を温めてきてください。私の方で簡潔に報告を進めますので」と、トレモロさん。


「ハイ、ではお願いします。」と、私が素直に答える。


お風呂場とか無いのね。当然、下水も無いし、上水道も無い。

五右衛門風呂じゃないけど、木の大きな樽にお湯を入れてそこに入るだけ。

普段はどうしてるんだろ?

わざわざ、竈でお湯を沸かして、それを注ぐのかな?


それを考えると、娼館の給湯システムって凄くない?

上、下水道に加えて、お風呂に温かいお湯を給湯できるんだから。


「ヒカリ様、お湯加減は如何ですか?」

「丁度いいよ~。アリアも入る?」


「関所の娼館に備え付けてあるようなお風呂でないと、二人は入れません。」

「アリアは普段のお風呂はどうしてるの?」


「濡らした布で泥は落とします。汗はピュアを覚えたのでそれで除去します。あとは、ステラ様達から頂いたお香を焚いて纏っています」


「そっか。私はそういうの全然してないよ。王子に嫌われちゃうかね?」

「そんなこと、私に聞かないでください!」


「え?怒るところ?」

「ヒカリ様はそれで良いんです!大丈夫だからそのままで良いです!」


「そ、そう・・・。

あ~、でも体が温まるね~。

今度みんなで温泉とか行って見たいよね~」


「<おんせん>ですか?」

「うん~。こっちには無いのかな?ルシャナ様が溶岩に浸かっていたけど、あれのお湯バージョンって感じ。火山の近くに湧水わきみずがあると、自然のお風呂になるんだよ。」


「それは面白そうですね。ルシャナ様に掘って貰いましょうか。」

「掘るとえらいことになるから、元々温泉がありそうな場所を教えて貰う方が良いよ。

どうしても無ければ掘っても良いけど、お湯が自噴しないと、汲み上げられないからね。

ま、良いや。体を拭いて皆の所に戻ろう」

「ハイ」


ーーーー


「聖女様が戻られましたね」と、レイさん。


そして、無言で怯えてるハシムさん。

平然ととぼけてるトレモロさん。


「そんなこと言ったら、アリアだって聖女じゃん?」

「ああ・・・。アリアさんも沢山の加護をお持ちですね。」と、レイさん。


「てか、よく考えたら、ステラやニーニャも聖女だね。

それはまぁ、あの二人だから任せておくとして、私が皇帝に聖女って思われるの良くないよ。何かで隠せないかな?」


「ヒカリ様は加護が有り過ぎます。隠しようが無いですよ。

額、両耳、両手の甲、うなじ、右手の二の腕と太ももにもありますね。」


「左の二の腕はレミさん用に空けてあるんだよ。


それで、隠し方なんだけど、手は手袋、腕は長袖で隠せそう。

うなじはベールの様な物を後ろに流して、ひたいはティアラみたいのを付けられないかな?耳はピアスタイプじゃないイヤリングとか。

どうかな?」


「凝った物でなければ、金貨100枚もあれば揃うかもしれません。

それか、ニーニャ様に作って頂くとかでしょうか。」と、レイさん。


「う~ん。金貨で済むならそうしよっかな~?」

「ヒカリさん、何かご支援をさせて頂きましょうか?」と、トレモロさん。


「うん?メイドの小娘が豪華な装飾品を身に着けてるのはオカシイから、安価な金属や木、布なんかで作られた装飾品の方が良いと思うんだよ。金貨自体は今日砂糖を買った残りがあるから大丈夫だよ。」


「帝都の砂糖は高価ではありませんでしたか?」

「うんうん。1㎏ぐらいで金貨300枚とられた。ありえないよね?」


「そんなに金貨を用意して・・・。あ、なんでもございません。」

「うん。小麦粉の袋から魔石が出てきたから、それを売ったよ。

ハシムさん、そういうことで、貴族の高級店ではなくて、街の小娘さんたちが喜ぶような装飾品と衣料品のお店を明日案内いただけますか?

レイやアリアも欲しいのあれば買ってあげるよ。」


「「本当ですか?」」


「え?二人とも、なんか嬉しそう?」

「ヒカリ様から仕事と食事と金貨以外が貰えるのは初めてです」とレイさん。

「ヒカリ様がそういう物に興味があるのが信じられません」と、アリア。


「レイには娼館あげたし。アリアからはエメラルドのペンダント貰って身に着けてるし。ちょっと、酷過ぎじゃない?

ハシムさん、私の買い物が終わったら、二人を連れて貴族街で即日買える装飾品を片っ端から選ばせるから、よろしくね?」と、言い返す私。


「わ、わかりました。」


と、何が何だから判らないハシムさん。

ヤレヤレってかんじで、俯き加減で首を横に振るトレモロさん。


いいもんね。

そういう日があってもいいもんね。

たまには砂糖以外にも金貨使うもんね。

いつもお読みいただきありがとうございます。

マイペースで続けさせていただきます。

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