5-22.帝国訪問(1)
<<ステラ、ニーニャ、いまどこ~?>>
<<馬車なんだぞ>>
<<馬車で揺られてますわ>>
<<え?揺れるの?車輪から浮かせてないっけ?>>
<<ヒカリさん、乗り心地は快適ですわ。文字通り旅行を楽しむイメージですわ>>
<<そっか。楽しめてるなら良かった。>>
<<ヒカリ、楽しくないんだぞ。ステラが空気を液化させるから寒いんだぞ>>
<<ニーニャさんだって、火の妖精の子を使って、トンカントンカンしてますの>>
<<二人とも狭い所で我慢させててゴメン。私が悪かったよ。早く飛行船で移動できるようになると良いね。
それでさ?今、ストレイア帝国までどの辺りかな?それと、レイさんかトレモロさんと連絡とかしてる?>>
<<ヒカリさん、今日中には帝国の城下町に入るそうですわ。レイさんからの情報では、トレモロさんは毎日城へ召喚されてるそうですわ。軟禁出来ないから、用事を言いつけて、束縛してるみたいですわ。>>
<<ヒカリ、領地のドーナツ計画が終わったんなら戻るんだぞ>>
<<二人とも、今のところ作戦は順調なんだけど、ちょっとした手違いというか、揉め事が有ってね。少し追加の作戦を組み込みたいんだよ。>>
<<何なんだぞ。寒いのは明日までしか我慢したくないんだぞ>>
<<私だって、夜中に隣で突然トンカンするのは控えて欲しいですわ>>
<<思いついたら吉日なんだぞ。直ぐに試すことが大事なんだぞ>>
<<それはそうなんですけど・・・。>>
<<二人とも、本当にごめんなさい。トレモロさんと連絡が取れて皇帝との面談が終わったら、直ぐに飛竜で帰ってこれるから。それだけじゃなくて、この面談で<経済特区>の許可も貰って来ようと思うんだよね。>>
<<ヒカリさん、皇帝相手に欲を出すと痛い目を見ますわ>>
<<相手にも花を持たせることが、本当の意味での勝利なんだぞ>>
<<うん。二人の言うことは尤もだと思う。
だけど、どうも今の皇帝は人望が薄くてね。
その理由が、単純に我儘で周りを顧みないってことみたい。
ってことは、多少は花を持たせようと譲歩する姿勢を見せると図に乗るタイプみたい。
だったら、徹底的に凹んで貰って、こっちに口出しできない状況を作りたいなって。>>
<<出産するまでは体が一番大事なんだぞ>>
<<ヒカリさん、体も心もお母さんとしてお腹の子を大切に育んで欲しいですわ>>
<<二人とも、先輩としての助言ありがとうね。
今回の件を放置すると、多分帝国軍が大軍で攻め込んできちゃうんだよ。
道中での接収も行われるし、雨季が終われば農耕に従事したいだろうし、領民たちも普段通りの生活が出来なくなるよ。
戦争で勝てるとしても、戦争が起こること自体が無駄なんだよね。
だったら、私が動けるうちに先手打っておきたいってのもあるかな。>>
<<トレモロさんやレイさんと良く話すんだぞ。>>
<<ヒカリさん、<橋の通行料>みたいな小ネタは噴き出すのを抑えるのに苦労するから、事前に教えておいて欲しいですわ。そうすれば私達だって、ちゃんと演じ切りますわ>>
<<二人ともありがとうね。レイさん経由でトレモロさんと連絡とってみる。いろいろ詳細が決まったら、また連絡するね>>
<<了解(2人)>>
ーーーー
<<レイ、トレモロさんと直接打ち合わせしたいから、そっち行っても良いかな?>>
<<ヒカリ様、どうされましたか?>>
<<ハシムさんと一緒に皇帝と面談するつもりなの。そのとき、口約束で済まない様に立ち合い者がいる状況で書面に残したいのね。
あ、ハシムさんは視察団が来ることを告げに来た皇帝からの急使の人です。トレモロさんのことは知ってるみたいだったよ。>>
<<少々お待ちくださいね。>>
<<うん。>>
とか、念話で会話しつつ、どんどんと出発の準備を進めていく。夜になると飛竜さんの負担が増えるから、さっさと出発しちゃわないとね。
<<ヒカリさん、お待たせしました。
トレモロ様が驚いていますよ。
それはともかく、『人数と到着予定』を教えて欲しいそうです。>>
<<トレモロさんが驚くほどのことかな?作戦通りなんだけどね。
こっちは、飛竜のタカさん、ハシムさん、私の3人っていうか、飛竜さん1人と人族2人になるね。予定時刻は夕方にはそっち着くと思う。今関所を出発するところだから。
飛竜さんが隠れるところ無かったら、光学迷彩かけておくけど、どんな感じだろ?>>
<<人数と到着時刻について、承知しました。
こちらは、帝国首都の貴族別荘地区ですので、ちょっとした人目を避ける林の様なものが敷地内にあります。私がステラ様から借りている飛竜さんもそこで待機しております。ただ、上空からの侵入時は目立ちますので、配慮頂ければと思います。>>
<<分かった。場所はハシムさんが分るかな?わからなかったら近くで<念話>するよ。>><<はい。お待ちしておりますので、お気をつけて~>>
うんうん。良い感じだね。
ーーーー
で、ハシムさんが飛竜さんの背中で話しかけてくる。
「ヒカリ様、少々宜しいでしょうか?」
「うん。ハシムさん何かな?」
「兜無しの飛竜を飼いならせることは可能なのでしょうか?」
「あ~。助けて貰ってるだけだよ。」
「失礼ですが、意味が判りません。」
「飛竜さんたちは、非常に高等な知能を持った生き物なのね。人間と音声言語で会話することは出来ないけどさ。意思疎通ができれば、お願いも聞いてくれるんだよ。」
「ヒカリ様は龍族のご出身でしょうか?」
「ううん。全然。普通の人間だよ。ちょっとした経緯があってね。飛竜さん達に力を貸して貰えることになっただけだよ。ただ、一応言っておくと、私が不用意に殺されちゃうと、飛竜さん達の人族への恨みが抑制できなくなるから気を付けた方が良いよ。」
「それは、ヒカリ様が飛竜の族長という意味でしょうか?」
「違うけど、<飛竜の加護の印>は貰ってるよ。目に見えないけどね。」
「あの・・・。別の質問をしても宜しいでしょうか?」
「うん。時間があるし、暇だから大丈夫だよ。」
「これから何処へ向かわれてるのでしょうか。」
「トレモロさん、じゃなくて、トレモロ・メディチ侯爵のところ。」
「彼は、ナポルの街に住んでおり、帝国の方角とは異なりますが。」
「うん。今は皇帝に呼び出されたままで、未だに帝都の別荘に居るんだって。」
「失礼ですが、今と申しましても、随分と日が経った情報ではありませんか?」
「帝国の伝書バトとか、狼煙を使った信号よりも確実な情報だよ。」
「と、申しますと?」
「行けば分るよ。温かいご飯を二人分用意して待っててくれてるから。
あ、あと飛竜さんの分もね。」
「は、はぁ・・・。その、あの・・・。」
「何?」
「ヒカリ様はメイドをされていたのですよね。」
「そういう設定にしてあるよ。」
「リチャード王子に見初められて、伯爵の地位を頂いたのだとか。」
「半分合ってるかな?」
「半分ですか?」
「私はリチャード王子を素敵だと思ったし、助けたいと思ったのね。
で、リチャード王子はそのお礼に男爵の称号とあの関所をくれたの。」
「全然合って無くないですか?」
「リチャード王子が一方的に婚約の儀を開催することにした訳では無いから半分は合ってるよ。伯爵の地位の元となる男爵をくれたのもリチャード王子だから半分は合ってるでしょ?」
「あの、失礼ですが、ステラ・アルシウス卿やニーニャ・ロマノフ卿とはどういったご関係なのでしょうか?伯爵領にするために支援者として呼ばれたと伺ってますが。」
「大切な仲間だよ。」
「仲間ですか?同列の様に聞こえるのですが。」
「呼び捨てにしても怒られない程度の仲間。敬称付けたら本気で戦争になるかも。」
「エルフ族やドワーフ族と戦争とは、物騒な話ですね。」
「うん。私もびっくりしたよ。気を付けないとね。
気軽な仲間として接してるうちは種族間の問題に成らないようにするって言ってくれてる。」
「その大切な仲間の絆であっても、皇帝の勅命には逆らえなかったと言うことでしょうか?」
「ううん。お願いして出かけて貰ったの。」
「いや、それは無いでしょう。すれ違った急使達と作戦の進捗を確認しましたが、それなりに交渉する必要があったと聞いております。」
「それも作戦。
だって、拒絶したらこっちの作戦が成り立たないし。彼女ら二人が易々と出かけたら、うちの領地を留守にしても、何か別の防御手段があると思って警戒するでしょ?
だから、そういう演技をして貰ったの。」
「それは、帝国の視察団が派遣されることを予見されていて、準備を進めていたということでしょうか?」
「予見じゃなくて、そういう風に誘導したんだもん。」
「それは、つまり、ユッカ様の祖父である、上皇から指示を出したということでしょうか。」
「ううん。トレモロさんに誘導してもらった。あ、すみません。トレモロ・メディチ卿ですね。」
「私もその場に居合わせましたが、彼は裁判にかけられていて、その様な状況には無かったはずですが。」
「だって、直接誘導したら、今回の失敗の責任がトレモロさんになっちゃうでしょ?」
「確かに東方のロメリアやエスティアの地形のこと。そして、季節による天候の情報提供は求められていましたが、進軍にすべきか、それとも視察団の派遣にするかを助言したのは彼では無かったです。」
「でしょでしょ?」
「いや、しかし。では、一体どういうことだ?」
「何がです?」
「視察団を送って、<領地マーカー>で囲って制圧することになった経緯です。」
「それが簡単で、準備にかかる費用も少なくて、対外的にも問題が大きくないし。
万が一にも失敗したなら上皇派の侯爵辺りに責任を被せれば、厄介払いが出来て良いでしょ?」
「ヒカリ様、何故ぞれを?」
「結果として、上皇派が送り込まれただけで、本当に慎重に事を進めるなら皇帝自らが来るべきだったし、腹心の部下で念入りに調査させただろうね。でも、それをしなかったから失敗した訳でさ。だから、こっちも、今、慌てて追加の作戦を実行中な訳でしょ?」
「と、申しますと?」
「作戦内容はトレモロさんと一緒に話そうか。こっからはトレモロさんも知らないから。」
「わ、分かりました。」
「うんうん。もうちょっと掛かるから寝ててもいいし、折角だから景色見てもいいし。馬とは全然視界が違うでしょ?まるで、地図を見てるみたい。」
「あ、あ、あの。」
「なに?」
「怖くは無いのでしょうか?」
「何で?」
「落ちたりとか、しないのでしょうか?」
「飛竜さんが突然殺されたり、意識不明になったら落下するかもだけど、生きてるうちは私達を守ってくれるから大丈夫だよ。」
「そ、そうですが、もし万が一にも、そのような飛竜様の事故が起きたら・・・。」
「自分で<飛空術>使って、墜落を回避するしかないね。私は飛竜さんを助けるので手一杯になると思うけど。」
「私は<飛空術>は使えません」
「じゃ、もし、墜落しそうになったら私に掴まるしかないね。
でも、ストレイア帝国内では問題無いよ。近くに飛竜さん達の巣があるくらいだし。」
「そ、そうですか。万が一のときにはよろしくお願いします。」
「うん。関所に戻ったら、誰かに<飛空術>を教えて貰うと良いよ。そのままだと、フウマやクワトロ達にいつまでたっても追いつけないよ。それに飛空術が使えると軍隊同士の作戦で戦術の幅が広がるからね。」
「しかと、肝に銘じます。」
さて、飛竜さんに任せて楽をさせて貰った空の旅を満喫したよ。
ストレイア帝国の貴族の別荘地区に無事到着だね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
マイペースで続けさせて頂きます。




