5-18.ドーナツを作ろう
「みんな~。夕食会だよ。報告は保留して、相談があるんだけどいいかな?」
「ハイ(ALL)」
「ストレイア帝国が視察に来るから、その準備をしたいのね。」
「ヒカリさん、もう、使者が来たのでしょうか?」と、モリス。
「ううん。トレモロさんが誘導してくれるから、そのうち来るよ。」
「ヒカリさんのお考えでは、いつ頃来ると予想されてますか?」
「う~ん。
早いパターンだと、
今日辺りにトレモロさんの査問が行われて、明日には<視察決行>が決定されるかな。そこから、第一便の急使が3日後に届いて、第二便の急使は翌日に届く感じだと思う。
視察団の行軍は並行して開始されるとすれば、急使の3倍の9日ぐらいで到着するかな?
遅いパターンなら、結婚の儀を狙った半年後だと思うよ。」
「ヒカリさんの読み通りに<視察>が決定されたとして、その人数は如何程でしょうか?」
「200~1000人でお願いしてるよ」
「ヒカリさん、その人数は視察ではなくて、完全な進軍ですが?」
「相手がうちの実力をどれくらい舐めてるかによるね。狭い、ちっちゃな領地なら200人で十分と考えるし、森や広い開拓地があって、近衛騎士団まで抱えてると知ってると500人以上は派遣してくるだろうね。」
「なるほど。代表者の宿泊施設や野営場所は如何いたしましょうか?」
「う~ん。そっか。考えてなかった。
その派遣された使節団を貰った後の事は考えてたけど、貰うまでの接待が必要だったね。」
「ヒカリさん、貰うのですか?」
「うん。貰う。」
「ヒカリさん、<貰う方法>はお任せします。そのための打ち合わせですね。
でしたら、尚更、こちらの行動が警戒されないように、失礼の無い接待が必要になると思います。」
「中隊長以上はランちゃんの娼館に泊って貰おう。小隊長は道を挟んだ向かいの宿屋でどう?」
「承知しました。その方向で手配します。一般兵の野営場所は如何しましょうか?
領地の中にいれるのか、街道沿いで休んで頂くか、メルマまでもどってもらう必要があります。
また、なんらかの食料の接収も行われると予想されますので、簡易な物で良いですが温かいスープやパンなどを提供できる必要があります。」
「500人分とかタダで準備するの?敵に?」
「ヒカリさん、敵じゃないです。心の声だとしても漏らしてはいけません。
税収として徴収している食料を倉庫から出しますので、許可頂けますか?」
「うん、その辺りの加減が判らないからモリスに丸投げしていいかな?」
「承知しました。10日後を目途に、先ずは500人分の野営場所と食料の手配を進めます。」
「モリスありがとうね。
で、ニーニャやステラが留守になるから、みんなで早めに準備したいんだよ。
マリア様も王様と一緒に来るから使節団の到着とギリギリ被るぐらいだろうし、
リチャード王子だって、タコが獲れるようになるまで10日間ぐらいは掛かりそうだからね。」
「ヒカリ、私は何処に行くんだぞ?」と、ニーニャ。
「ヒカリさん、私は参加させて貰えないのですの?」と、ステラ。
「だって、皇帝からの召喚要請が来るから、小国の伯爵ごときが拒絶できないじゃん?
モリス、断れるの?」
「ヒカリさん、人族の爵位で言えば断れません。
種族間の違いで、ステラ様とニーニャ様が拒絶することは可能です。
ヒカリさんが、ストレイア帝国を滅亡させて、代理で統治するなら断っても良いです。 しかし、穏便に使節団をもてなして、捕縛するのであれば、断らない選択が良いでしょう。」
「ヒカリ、なんなんだぞ。
飛竜で飛んでいけば1日も掛からないんだぞ。
ヒカリの攻略を見てから召喚に応じるんだぞ。」
「ヒカリさん、そうしましょうよ。
今出かけてるとか、書類に不備があるとか丁重にお断りして、
後日訪問することに出来ませんの?」
「メイド上がりの名ばかり伯爵から優秀な二人を引き剥がす作戦なんだからしょうがないでしょ?二人がここに居るとしたら、警戒してこっちの作戦に乗ってきてくれないじゃん?」
「ヒカリ、仕方ないんだぞ。作戦を教えてくれたら100歩譲っても良いんだぞ。」
「ステラもそう?」
「ヒカリさんの我儘になら、少々は我慢しますわ。」
「あ、あのね?私の我儘じゃないけど、戦争するよりマシでしょ?
戦争なんかしたら、<いろんな研究>する時間が取れなくなるんだから。
で、作戦ね。
相手には<視察>という名目で領地を見て貰います。
割と隅々まで見て貰います。
領地と空き地の境界まで丁寧に見て貰うことで、視察が無事に終わって、
私達はほっと息をつける訳なんだけど・・・。
ストレイア帝国側は、その<空白地帯>の各所に<帝国の領地マーカー>を設置してしまって、丸ごとこの領地を囲んで奪う作戦に出て貰います。
そのために、各所に<領地マーカー設置要員>を分散して配置する必要があって、
その設置した帝国の領地マーカーを死守するだけの人員が必要。
あとは、視察団の隊長が私=領主に対して、帝国の領地から立ち退きを命じるだけ。
これで法律上は何ら問題無く、この領地を接収できるね。
領地さえとっちゃえば、交渉は圧倒的優位に立てるよね。
『醤油全部だせ』『税収は80%だ』『ステラやニーニャを派遣しろ』とかさ。
これが作戦になるね。」
「ヒカリさん、そんなの私が許しませんわ。」と、珍しく怒るステラ。
「私はそんな要請で派遣されてもなにもしないんだぞ」と、機嫌を損ねるニーニャ。
「そんな二人をこの領地に置いておくのは危険だから、
第一の使者によって、『二人の召喚』をするのね。
第二の使者である『視察団のお触れ』の前にさ。
帝国の要請によって、渋々二人を見送った後に視察が始まるわけ。視察が始まったら、さっきの作戦が決行されるし、レナードさんも帝国から帰ってきてないから、私は助けを求める手段も無いの。
良いかな?」
「分かったんだぞ。最後まで話を聞くんだぞ。それはヒカリがトレモロ卿へお願いしている作戦なんだぞ。」と、諦めたニーニャ。
「そんな作戦聞いたら、私が召喚に応じる理由は全くありませんわ」と、更にお怒りモードなステラ。
「でね?
相手が<視察>して、領地を取りに来るときに、<領地マーカー>で攻略するのが簡単なの。だから、私はその行為を逆手に取りたいのね。
モリス、既に領地になっている場所へ、許可なく領地マーカーを設置して領地を囲い込むとどうなる?」
「その領地マーカーを設置した人々に対して、<領地侵犯>として、拘束し処刑する権利が与えられます。人質交換であったり、身代金の要求でも構いません。
逆に、その覚悟で無いと<領地侵犯>するべきでないし、国を挙げての武力行為に発展することまで視野に入れて行動することになります。」
「ってことはさ。
一度囲い込まれちゃったら、さらにその外側まで行って、新しく領地を囲い込むか、武力衝突を前提に領地の中に領地を囲い込み続けるようなことをしないと、占有された領地は取り戻せないよね。」
「その通りです。
ですから、圧倒的な兵力で領地マーカーを設置しに来るわけでしょう。
そして、その成功しそうな作戦をヒカリさん自らが提案されていると。」
「じゃぁ、もし、不用意に<私の領地と知らずに、帝国の領地マーカーを設置してしまったら>、その<帝国の領地マーカー>を設置した人達は、<領地侵犯>として、捕縛後に処刑したり、帝国との交渉に使えるよね。」
「ヒカリさんの仮説どおりに進むとすれば、帝国側はその<領地侵犯した人>を切り捨てるでしょう。『その者は独立した組織の者なので、帝国とは関係ない』と。
そうすれば、ヒカリさんからの交渉を受ける必要が無いですし、<作戦失敗>を有耶無耶に出来ます。
ただ、どう考えても、領地マーカーの設置がしくじったと判明しても、さらにその外側に全力をあげて領地マーカーの上書きをしに走るでしょう。何せ軍勢や武力は向こうが上ですから。」
「うん。『どうやっても、しくじる要因が見当たらない』からこそ、手軽な領地マーカーによる占有を実行するわけだし、多少の事なら武力でカバーしてしまおうと、視察団は考えて行動するだろうね。」
「ヒカリさん、そろそろ皆様が『答えを言え』と、しびれを切らしております。私もその一人でございます」と、モリス。
「じゃぁね?
私の領地を5kmぐらいの範囲で丸く囲っておいて、その外側にドーナツ状の空白地帯を設けるわけ。その空白地帯は幅が1kmもあれば良いと思うんだよ。
ここまでは良いかな?」
「ドーナツ?(ALL)」
「あ、今の無し。」
「ヒカリ、<ドーナツ>からは甘い香りがするわ。」と、ラナちゃん。
「ドーナツ、ドーナツ、やほ~、やほ~♪」と、歌い出すユッカちゃん。
「フウマ、半径5kmの円形と、その外側に幅1kmの空白地帯を構成する領地マーカーの設置。
あと、その位置を私の近衛騎士団に周知して。そこの境界までを<帝国の視察団>に視察してもらうための段取りを行う。
いい?」
「姉さん、それだけ?」
「できれば、リーダーのアイン、ドゥエ、クワトロの3人には<普通の念話>を習得させて、即時連携ができるように。あと私の領地マーカーの転写もできるように。
期間は10日以内で。」
「了解。最優先でそれを行うよ。」と、フウマ。
「ヒカリ、<ドーナツ>はどうするのかしら?」と、ラナちゃん。
「ドーナツ状の空白に視察団が<帝国の領地マーカー>を並べ始めたら、それが完了する前に、その空白部分を<私の領地マーカー>で埋めます。すると、帝国は私の領地に帝国の領地マーカーを設置した痕跡が残ります。
そのタイミングを計るために、<念話>で各所と共有して、絶妙なタイミングで実行する必要があります。」
「ヒカリ、馬鹿ねぇ。作戦なんかどうでもいいのよ。
私はお菓子の<ドーナツ>の話をしているわ。」
「今の説明でステラとニーニャに納得頂けたなら、<お菓子のドーナツ作り>を実行に移せます。ただし、<重曹>はユッカちゃんの専任技術となっています。」
「ヒカリ、ドーナツを食べるまで召喚に応じないんだぞ」と、ニーニャ。
「ヒカリさん、何となく分かったので後はお任せしますわ。ただ、私もドーナツが心配で帝国から召喚されてる場合じゃありませんわ。」と、ステラ。
「おねえちゃん、<重曹>はいっぱいあるよ。アリアおねえちゃんといっぱい作った。」と、ユッカちゃん。
「そう。じゃ、<ドーナツ作戦>の開始だね」
「ハイ!(ALL)」
ドーナツは簡単に作れたさぁ。
ホットケーキを船で作っていたのだから、あの生地を硬めにして、ドーナツ型の金型でどんどん生地を打ち抜くだけ。
で、あとは<タコ丸(改)>みたいに油で揚げる。
不用意に、くり抜いた内側を揚げて『この穴の無いのはドーナツか?』なんて質問が飛んでこないように、金型で抜いた残りは捏ね直して、<ドーナツ型>に成形しなおしてから揚げなおしたさぁ。
でね?
ここまでは、割と私の想定範囲内で、問題は無かったの。
想定外の出来事が起きてね・・・。
ルナ様が大変喜んでしまって、年末でもないのに、<月の妖精の降臨>が起こっちゃったの。領民は大喜びだったらしいんだけどさぁ。
王子がメルマからこっちの夜空を見ていたら、余計な心配すると思うんだよね。
『やっぱりヒカリがルナ様なんじゃないか?』みたいな。
王子が漁の特訓で疲れて寝てくれていることを祈って。
おやすみなさい。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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