5-15.関所での準備
婚約の儀を終えた翌日には関所に戻って来た。
マリア様は王様と一緒に荷物運びながら馬車で来るって。
王子は私達と一緒に皆で飛んで帰ってきた。
さて、ここから3重生活のはじまりだよ。
1つ目は、王子と王様に領地の視察をさせる生活
2つ目は、これまで通り、内政と勉強会をする生活
3つ目は、<ストレイア帝国>に備える準備
なるべく無駄が無いように効率よく進めたいよね。
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王子に関しては、王様が来るまで<タコ>の捕獲に挑戦して貰うことにした。
自力では長距離飛行は出来ないってことで、海まで馬で往復ね。メルマで漁師にタコの取り方を聞いたらしいけど、<タコ>が何か判らないらしく、絵を描いたりいろいろしたらしいよ。
せっかく、タコが何かは、伝わったけど、『近づいちゃいけない危険な生物』ってことで、漁師は獲らないらしい。
<自力で漁にでられるように>ってことで、漁師を雇って海に潜る練習とか、水中での狩りの練習とか始めたみたいだけど、なかなか上達しないらしく、しばらくメルマに滞在するらしい。
本当だったら、フウマを専属でつけるんだけど、<ヒカリの我儘だから仕方ない>ってことで、私の騎士団から3名を選んで、護衛兼見張り役をつけて、一緒にタコを獲る練習に行ってもらった。
王様に関しては、<お忍び>といいつつも、それなりに贅沢をしたいらしく、その我儘にマリア様がちゃんと、丁寧により添ってくれて、関所に来るまでの時間を稼いでくれるらしい。
そして、関所に着いてからもマリア様がちゃんと王様の面倒をみつつ、関所内の様々な施設を案内してくれるらしいので、これまた暫くは時間が稼げそう。
やったね!チャンスだよ!
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内政はこんな感じで進めたよ。
従来技術に関しては、
モリスとミチナガ様、そしてエルフの子らを中心に、技術開発、職人の育成、受注販売できる程度の量産化を進めてもらうことにした。
教育に関しては、
関所で雇った先生たちを中心に<紙>や<辞書>を活用して、勉強の習熟度をあげつつ、領民の読み・書き・算術と一般的な知識の普及に努めてもらった。
魔術や身体強化の勉強会は、
ステラ、フウマ、ミチナガ様、シズクさんに日替わりで指導者として対応してもらうことにした。やっぱり、<身体強化>も魔術の一種だからね。あるレベルで魔術を使える人じゃないとコツとか教えるのは無理だよね。
私の勉強会は、
基本的にエネルギー変換と、それらを妖精の長達に頼らない実現方法について勉強を進めることにした。ここは私が中心になって進めるし、詳しい内容は日々纏めて行こうと思う。
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問題は<対ストレイア帝国の準備>だよね。
先ずは、情報収集と皆の意識合わせから始めたよ。
<<レイ、いろいろごめん。>>
<<マリア様から聞いてますし、ヒカリ様のせいではございません。>>
<<でも、間接的に私が絡んでるし、トレモロさんと調整不足だった。これから迷惑をかけることになるね。>>
<<私達はヒカリさんが決めたことに従います。ですので、ご自由に指揮して頂いて結構です。>>
<<<私達>って言われても、レイとレミの領地の話じゃなくて、トレモロさんに迷惑が直撃するって話でさ。トレモロさんとは念話が通せないし・・・。>>
<<ヒカリさん、あの、ええと。メディチ卿には私から伝えてありますので・・・。>>
<<あ・・・。
じゃ、じゃぁ、レイにはこれまで通りトレモロさんとの連絡係をお願いね。>>
<<ハイ>>
<<じゃ、基本的にレイとトレモロさんが同じ方向で考えてくれる前提で、どんどん相談を進めたいのだけどいいかな?>>
<<微妙な判断を要する内容は持ち帰らせて頂きますが、基本的には問題ありません。>>
<<ありがと。
マリア様から聞いてるかもしれないけど、<戦争>を前提にして作戦を練るよ。トレモロさんは一切関知しない立場で、皇帝の臣下として皇帝寄りの行動を貫いて欲しいの。>>
<<承知しております。ヒカリ様にそのような意向があることも伺っております。そのまま作戦の説明を続けて頂いて結構です。>>
<<そしたら、このまま続けるね。
今回は、新年の儀だけでなく婚約の儀でも目立つイベントがあったの。皇帝からの使節団が帝都に戻ってから大袈裟に吹聴すると、<ハミルトン伯爵の領地への視察>という名の侵略が行われると思ってる。
マリア様は、<ヒカリの告発と処罰として、領地の没収が起こる>と言ってるけど、エスティア王国を全面的に敵に回すと、私の領地を占有した後で治安維持をするのに手間が掛かるから、視察からの接収とかするだろうね。
もし、短絡的に<進軍による制圧を決める>みたいな動きがあったら、可能な範囲で<領地没収の方が民衆の受けがいい>みたいな助言はトレモロさんからしてもらえると有難いよ。>>
<<はい。
現時点で使節団の頭の中には、トレモロ・メディチ卿への嫌疑があるはずです。メディチ卿本人が召喚されて、申し開きの場が近々開かれると思います。その場で嫌疑が晴れ、皇帝を宥めるための奏上する機会があれば、<領地没収>という方向で伝えておきます。>>
<<うん。
<領地没収のための派遣>だと、帝国にとってもいいことがあるんだよね。
1.皇帝の領地マーカーで上書きすれば、国際法上は皇帝の領地となる。
2.戦争でないため、途中の派遣経路で略奪や接収などの強制徴用が起こらない
3.一般市民からの徴兵も起こらないので、農耕の邪魔をせずに税収が下がらない。
4.視察団が<領地没収>に失敗したとしても皇帝の名は汚れない
他にもあるけど、主にこの辺かな。>>
<<確かに、帝国側にメリットが多そうです。>>
<<もし<領地没収>に失敗して、本当の戦争を仕掛けられたら、こっちも大義名分がある訳だから堂々と受けて立つよ。
戦争に勝利した後の統治に関してはユッカちゃんを立てて、上皇に統治してもらうって言う手もあるかな。大臣は総入れ替えすればいいし。>>
<<そうですね。<戦争を仕掛けて失敗するリスク>までを含めると、<領地没収>で動くのが皇帝にとっての良策と言えますね。>>
<<小娘への温情ではなく、皇帝自身のプライドのためって方が説得力あるよね。
そして、視察団という名の派兵が1000騎ぐらいなら全員捕縛できると思ってる。3000騎も連れて来られると、捕縛した後で私が使い道に困るから1000騎以下で進言して欲しいかな。それに、1000騎以上となると、明らかに視察の範囲を超えて、戦争の布石を噂する周辺国がでてきて、いろいろ警戒すると思うよ。>>
<<承知しました。派遣規模が提案できそうであれば、200~1000騎で進めます。
編成への希望はございますか?>>
<<これは仮説だけど、
1個中隊=100騎として考えると、編成としては騎士x5、歩兵x5、弓兵x5、魔術師x2ぐらいの小隊を5編成。残りは100人分の食料なんかを運搬する間接支援部隊を1編成かな。
要は、小隊を開拓地の奥まで進軍させて、複数個所で同時に<帝国の領地マーカー>で囲える魔術師と、再び<私の領地マーカー>で上書きされるのを阻止できるだけの小隊を<帝国の領地マーカー>ごとに配置できれば良いよね。>>
<<ヒカリ様、皇帝側にとっては名案ですが、本当にヒカリ様の領地を没収できてしまいます。>>
<<うん。
領地マーカーだけ書き換えても、私の領民が他の領主に従うとは思えないから、実効支配はできないと思うけどね。あるいは領民が居なくなった施設だけが残るとか。
ただ、建前上は<帝国の領地>が実現できそうでしょ?>>
<<いや、ですから。
そのように皇帝の直轄地として宣言されてしまいますと、そこを上書きするには、再度開拓地に踏み込まなくてはいけません。1000騎近い兵を相手に領地マーカーだけ置きに行っても直ぐに制圧されてしまいますので、戦争ではないイザコザが延々と続きます。
実働できる人数が多い方が最終的に勝利を得ることになります。>>
<<まぁ、そこも相手の人数が多ければ兵站が枯渇するまでゲリラ戦を繰り広げるとか、いろいろと手はあるんだけどね。
あまり、正攻法で戦い続けるのは負傷者が出るリスクもあるし、何よりイザコザにかける時間が勿体ない。>>
<<ヒカリ様、<飛竜族>の協力を得るのでしょうか?>>
<<うん?
途中の移動とか、荷物運びとか、<飛竜の念話支援>ではお願いするかもしれないけど、直接的な戦闘には参加してもらう予定はないよ。
人間同士の戦いだから、<飛竜>さんたちに出て来てもらったら失礼だよ。
領地を守って、派遣された兵士達を貰って、皇帝が黙る方法で解決するよ。>>
<<今、その作戦をお伺いするのは止めておきます。
他に何か皇帝側で準備を進めることはございますか?>>
<<うんとね。トレモロさんの信頼を完全に取り戻して欲しいの。
つまり、<徹底的にヒカリを遣り込める方法>を入念に入れ知恵して欲しいの。
万が一にも皇帝が拗ねて、<大航海の恩賞の没収>とかされると、あの苦労が水の泡だからね。>>
<<樹海の領地に関しては、レミに代わってお礼を申し上げます。
それで、申し訳ないのですが、私はヒカリ様を遣り込める方法が判りません。>>
<<うんとね。簡単な話なんだよ。
私は、ステラとかニーニャ、エスティア王国の後ろ盾があって、
形だけ伯爵に祭り上げられている訳でしょ?>>
<<実際には違いますが、<情報操作>は効いているはずですので、
ヒカリ様に関する情報収集をすればするほど、その結論に向かいます。>>
<<そうなったら、どうする?>>
<<ヒカリ様から、ステラ様、ニーニャ様を取り上げて、エスティア王国に強制力を働かせて、軍隊を動かさないように指示をだします>>
<<惜しいね。
あくまで、<領地没収>という平和的な裏工作なのだから、
そこも<強制力>を見せないような裏工作で進めないと。>>
<<どういうことでしょうか?>>
<<まず、エスティア王国に関しては、レナードさんの帰還阻止ね。
いろいろ理由をつけて、軍の総司令官をエスティア王国に返さない。王子や王様の近衛騎士団なんか僅かな量だし、王宮へ伝令が飛んで、そこから派遣される頃には<領地マーカー>の問題は片付いている。
けれど、同国内の隣接する領地に辺境自治大臣が居て、国境付近で領地問題が起きたら、軍をすぐさま派遣するでしょ。そんな状態で揉め事を起こすのはリスクが高いでしょ?>>
<<あ、はい。ヒカリ様は恐ろしいですね>>
<<うん?そうでもないよ。それで次ね?
ステラとニーニャに対して、皇帝からの招待状を出すんだよ。
『是非、此方に来て魔術や技術の指導をお願いしたい』
ってね。地方の小国の伯爵が皇帝の勅命を断る訳にはいかないし、エルフ族やドワーフ族としても人族と揉め事を起こすのは得策じゃないよ。馬車でのんびりと移送して、豪華な晩餐会を開いて、だらだらと時間をかけて接待する。指導会とか開催しなくても全く問題無い。
二人がそのその状況へ疑問が湧いて、
『用事が無ければお暇させて頂きます』
みたいな発言をしたころには、<領地没収>の作戦は完了済み。
どうよ?>>
<<ヒカリ様、本当に大丈夫なのでしょうか?>>
<<大丈夫じゃないのは、
『なんでそんな面白そうなことに私達が参加できないのか!』
って、二人から怒られそうなことの方が心配だよ。>>
<<あの御二方はそのような物言いをしそうです>>
<<こんな風に相手の力を全部剥いで無力化して、そこへ精鋭騎士団の大部隊が押しかけたら、関所のメイド一人ではどうにもならないでしょ?
あとは普通の戦争の準備をするがごとく、編成や装備、兵站を整えればいいよ。<情報操作>として、『視察巡回がある』ってお触れがでてると尚いいね。>>
<<わかりました。その方向で進めさせて頂きます。ですが、本当に宜しいのですね?>>
<<うん。なるべく実現するように努力して欲しいし、できれば、早い方が良いかな。あまり遅いと<結婚の儀>の準備がギリギリになるから>>
<<ヒカリ様の言い方では、『皇帝との戦争より、結婚の儀の方が大変』みたいですね。>>
<<だって、大変だよ?
お披露目に参加する人が限られている<婚約の儀>ですら苦労したから。<結婚の儀>となると、今度は招待する側になって、その招待客の移動方法や途中の宿泊施設、滞在中の宿の確保、使者の確保、出席者の席次やら、何やら。
いろいろ入念に準備しないとね。>>
<<できれば、私達も招待いただきたいですわ>>
<<当然、<貴方達>も今回の功労者として招待しないとね。あと、レミさんも。>>
<<は、はい。妹ともども、どうぞよろしくお願いします>>
よし、ストレイア帝国側の動きをウォッチしておけば、タイミングよく行動に移すだけだね。その間に<勉強会>と<結婚の儀の準備>をどんどん進めておかないとね。
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