4-77.報告と恩賞(4)
トレモロさんに最終確認だ。
「トレモロさん、そしたらさ、表の言葉通りの意味でお話をさせて頂いて良いです?」
「はい。なんなりと。」
「私はこの後、架橋地点を経由してそのまま関所に戻る予定です。そうすると上納金と税金の話とか、恩賞の領地の話とか、いろいろトレモロさんにお願いしないといけなくなると思います。その辺りの進め方を確認させて頂きたいです」
「承知しました。以下私なりに整理したこと4点を申し上げます。
1.航海の報告と恩賞の件
これは既に打ち合わせ済みで、<焼きおにぎり>辺りを振舞うことで報告を完了し、恩賞を頂く方向で進めます。もし何らかの方針変更がございましたら、適宜ご連絡頂ければと思います。
2.上納金と税金の件
こちらも、<航海の指揮者の指示>ということで、ミチナガ様、シズクさん共にご了承頂いておりますので、問題ありません。私の方で全て調整と対応をさせて頂きます。
3.恩賞で賜る予定の領地の件
ストレイア帝国との内部情報との連携もございますので、出来ましたらレイ様と一緒に進めさせて頂ければと思います。連絡の仕方か訪問の仕方を後ほど教えて頂ければと思います。
4.お預かりしている船と装備の件
こちら、まずはニーニャ様のナイフの件ですが、私名義での借用に許可を頂きました。『要らなくなったら、ヒカリに渡すか、溶かして廃棄して欲しい』とのことです。
次に、船に関しまして、ヒカリ様が次回の航海に出るまで借用できれば許可を頂きたい次第です。コウとカイの操船の習熟もございますが、海図作成にはあの船の装備が非常に有効であると考えます。
そして最後に、船の装備の他船舶への展開です。もしご許可頂ければ既存の航路に起きましても一気に海図の製作が進みますので、ご一考頂ければと思います。」
「トレモロさん流石だねぇ。
レイさんの件は後回しにさせて貰いますね。
それで、船は使ってて貰って構わないです。何か壊れたり修理が必要で、専門の知識が要る場合には関所までご連絡ください。
ただ、船の装備は一般的な木工職人や鍛冶師の他にガラス技師が必要になります。アリアは私が連れて帰るから、アリアの下でガラス細工の技師を育成しないといけないと思う。誰か心当たりはありますか?」
「ミチナガ様は如何でしょうか?」
「え?」
「ガラス技術の習得にミチナガ様を推薦させて頂きます。」
「いや、だって。アリアは貴族の姓も無いし、お金も無いし、ミチナガ様より年下で女性で。それでも師と仰がなくてはいけないって、ミチナガ様に失礼じゃない?」
「お似合いのお二人ですから問題ございません。」
「え?そういうこと?」
「はい。錬金術師としての腕前がアリアさんの方が卓越した才能をお持ちであり、その一方で<科学教>の末裔であるミチナガ様の好奇心の高さと理解の速さでお互いに意気投合している状況です。」
「ふ~ん。そうなんだ~。今回の航海で二組目が成立ってことです?」
「そのような理解で宜しいかと。」
「わかった。それで、レイさんの事なんだけどさ。大丈夫かな?」
「何がでしょうか?」
「トレモロさんと一緒に行動して貰っても良いかなって。」
「そ、そ、それは、ど、どのような意味でしょうか?」
うん?トレモロさんが動揺してる?
「うん。航海の最中に飛竜を介して連絡を取って貰った訳でしょ。
多分、いろいろなお願いでお世話になったと思うんです。
またトレモロさんに迷惑をかけるかな~って。」
「ヒカリ様、レイ様は頭脳明晰な素晴らしい方です。
作戦の立案や適任者の選出、その実行に掛かる必要な事前情報の入手と準備。
潜入後の計画的な情報収集と突発時の対処方法など。
非常に感心できる内容でございました。」
あれあれ?この会話って、昨日もどこかで聞いたね。
念のため確認しておこっか。
「そう。なら心配ないか。
ところでトレモロさん、話が突然変わるけどいいですか?」
「はい、何でしょうか。」
「トレモロさんはご結婚されているのでしょうか。」
「本当に突然ですね。」
「うん、ほら、私もこれから王族の人と結婚する訳で、いろいろ心配です。もし、トレモロさんがそういった上級貴族でのご結婚経験があればと思いまして。」
「申し訳ございません。結婚しておりませんので、参考になる体験談をお聞かせできることはありません。」
「そうでしたか。いろいろな紹介もありましたでしょうし、言い寄られる方もあまたいらっしゃったのではと。」
「はい。正直申しまして、周囲の政略結婚であるとか、貴族間の社交辞令に妻を巻き込むことを考えると申し訳なく感じました。
また私が航海で長期留守にすることも多く妻に寂しい思いをさせたり、あるいは留守中に天真爛漫に振舞われて騒ぎになるのも問題かと、いろいろと悩んで、お断りしております。」
「そういうのが無いならいいのです?」
「そうですね。気兼ねなくお互いを尊重できる方とならお付き合いするのは面白かもしれません。」
「相手の種族や職業、資産とか気にされます?」
「そんな、とんでもない。私自身異国との交流が多いですから、人種や職業の多様性は理解しているつもりです。また、このような質素な住まいしかありませぬ故、名ばかりの貴族で反って恐縮です。」
「容姿とかは?」
「健康であれば良いですよね。病気がちであると心配してしまいます。」
「あ、いや、なんていうか、顔立ちとかスタイルとかです。」
「心も健康であれば、自然と内面の健康さが体表面に雰囲気として表れます。」
「え?それって、体臭とか?」
「ひ、ヒカリ様?」
「え?え?え?」
「何をおっしゃってますか?」
「あ、いや。昨日王子と会ったら体臭のこと言われて、ちょっと気にしてた。」
「そのような意味で、今回同行されたヒカリ様のお仲間は清潔で体臭が素敵ですね。」
「あ、気になる?」
「いえいえ、とんでもない。さわやかな汗は新鮮な気持ちにさせてくれます。」
「じゃさ、例えば私なんかでも<お付き合いする人>として構わないってこと?」
「ひ、ヒカリ様?突然何をおっしゃいますか!」
「あ、これは物の例えです。<気軽に接することが出来る人>としての例です!」
「ヒカリ様が王子とのご結婚において、何か不満があるかと思いました」
「ないない。大丈夫。多分大丈夫。上手くやっていけるように努力します」
「そうですか。安心しました。」
「そう、じゃ、結婚とか相手の話はお終いです。
あとは、レイさんとの連絡手段ですね。」
「は、はい。こちらからお伺いしましょうか。」
「いや、トレモロさんは忙しいし。レイは王子とリンさんに任せれば、時間を作れるみたいなこと言ってたし。」
「左様ですか。」
「<飛竜>で会話するのが良いです?」
「何かと細かな打ち合わせが必要になると思いますし、私は<飛竜>との会話が出来ませんので、直接お会いさせて頂いた方が・・・。」
「そう。レイさんがこっちに来ても問題は無い?」
「全く問題ないです。」
「そうなんだ。じゃ、レイさんに言っておくね。いろいろとお願いします。」
「承知しました。ヒカリ様もお気をつけて。」
「ありがとうね。またね。」
ふ~ん。
なんだかんで、3組も良い仲になってるってこと?
今回の大航海は大きな成果ってことなんじゃないの?
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