4-72.帰還(2)
会話がちぐはぐな帰還の報告はまだ続くのでした。
「王子、それでね?」
「あ、ああ。もう寝てもいいぞ?」
「じゃ、寝る。もう死ぬまで寝る」
「まてまてまて。冗談だ。ヒカリの冗談に付き合わされて少し疲れただけだ」
「それでね?ちょっと早く帰ってこれたんだけどさ。」
「そうか。遠くの新大陸を発見することより、航海の無事の方が大切だ。良い判断だったな。」
「うん。まぁ、今回私は何もしてないというか、させて貰えなくてね。」
「ヒカリがそんな訳ないだろ?どっかの迷宮クリアとかしてきても驚かないよ。」
「ええ?誰から聞いたの?」
「ぁあ?迷宮に入ったのか?」
「観光迷宮ってのがあって、ちょっとだけ潜ってみた。」
「それは新大陸より面白かったんじゃないか?」
「うん。私がちょっとだけお小遣いを稼いだね。」
「ヒカリのちょっとは、『金貨10万枚ぐらい』とか、言うんだろ?」
「え?なんで、なんで?」
「おまえ、既に国を2個買い取ってるんだぞ?
ヒカリの<ちょっと>って、そんなもんだろう。」
「私、国を買ったりしてないよ?」
「少なくともエスティア王国は金貨20万枚分の借金がヒカリ個人にある。」
「それ、王子のためでしょ。結婚するんだから関係ないし。」
「わかった。それは本当に恩に着るよ。
そして、今回ロメリア王国も買い取っただろ?」
「買ってないし、戦争すらしてないし。」
「さっき言っただろ?<国家資源が枯渇した>って。
全部ヒカリが持ち去ったんだろ?方法は分からないけどさ。」
「いや、盗まれたのが悪いのであって、私が国を買ったのとは違うよね。」
「結果的に資金ゼロの国が生まれて、国の指揮権を譲らざるを得ない状況にした訳だろ?ヒカリが国を買い取ったのも同じじゃないか。」
「大分違うと思うけど、ロメリアだって私の物じゃなくて、エスティア王国の物なんだから、結局は王子の物になるでしょ?」
「いや、まぁ、それはそうなんだけどな。ヒカリの<ちょっと>の大きさの話だよ。」
「うん、まぁ、迷宮の報酬は<金貨12万枚>ぐらい。だけど払えないんだって。」
「ヒカリ、これから『ちょっとお願いがあるの』で、金貨10万枚は出せないからな?一応結婚する前に確認しておく。それがのめないなら結婚の話は無しだ。」
「いやいや、ちょっと待ってね。というか、物凄く待ってね。
迷宮の各種アイテムを売り払えたらそれぐらいの金額になるのだけど、
『借金してでも引き取りたい』って、話になって全部ただで預けて来た。」
「ちょっとも稼いでないじゃないか。」
「代わりにちょっとだけ<醤油>とか、いろいろお土産に貰って来た。」
「確かにちょっとだな。<醤油>が何かしらないけど、きっとヒカリの好きな食べ物なんだろ?」
「うんうん。<醤油>を求めての旅だったから大満足だよ。」
「良かったじゃないか。もう、大航海に出る必要は無いな。」
「ステラの故郷に行かないと。」
「なんだって?」
「ステラの故郷にユグドラシルの樹があって、そこに植物の妖精さんが居るらしいの。その妖精さんに会って、お米とか大豆を栽培して貰うの。」
「ヒカリは俺と結婚する気はあるよな?」
「あるある!ちゃんと体大事にして帰ってきたし!アッ!」
「なんだ?他にも冒険に出る約束をしてきたのか?」
「ううん。もっと大事な話。なんで脱線ばっかりするんだろ。」
「それは、ヒカリが『ヒカリだから』だろう。」
「あ、大事な所だから無視して続けるね。」
「大事なんだな。<金貨10万枚より大事>なんだろうな?」
「お金じゃ買えないよ。妊娠したよ。子供が生まれるんだよ」
「ほう。誰が?錬金術師のアリアさんか?」
「私だよ。」
「そうか。ヒカリが妊娠したのか。それはおめでとうな。」
「驚かないの?」
「ヒカリも普通の女性なんだと思った。ある意味でびっくりだな。」
「それだけ・・・。」
「他に何をって、ああ、その子の父親に何かプレゼントを王族から送るべきだな。」
「もう、いい・・・。寝るね。」
「お、おう、お疲れ様。旅の疲れがとれるまでゆっくりすると良い。」
なになに?
どこで会話がすれ違ってる?
意味が判らない。
それとも、誰の子とか関係なく王室は嫁を選ぶものなの?
ちょっと、ショックだ・・・。
ーーーー
「レイ~。疲れた。お風呂に入りたいです。」
「あら、ヒカリ様。どうぞどうぞ。旅の疲れを癒してくださいな。」
「うん。お願い。ちょっとゆっくりしたい感じ。」
「王子への報告はお済になられたのですか?」
「済んだけど、なんか変。」
「では、一緒にお風呂に入りながらお話を伺っても宜しいですか?」
「うん・・・。」
レイがテキパキと指示をだして、私とレイの二人分のお風呂を用意してくれる。ユッカちゃんと一緒に入った時以来の久しぶりのお風呂だね。
「ヒカリ様、それでどうかなされたのですか?」
「うん、なんか、旅の報告をしてたら脱線ばかりでさ。『ちょっと大事なこと』って言って、妊娠したことを告げたんだけど、『ヒカリが普通の女性でびっくりだ』とか、『その子の父親に王室からプレゼントを出すべきだ』とか、頓珍漢なことを言い始めた。」
「ええと、それは大変でしたね。『この子は王子の子です』って、ちゃんとお伝えしたのですしょうか?」
「伝えてないど、ちゃんと大事なことって言ったし。」
「うん・・・。喧嘩になってしまっている片方の言い分だけでは判断が難しいですね。一応、前後の話題なんかも伺っても宜しいでしょうか?」
レイに誘導されるままに<架橋拠点の優秀は仲間>とか<金貨10万枚>とか<国の買い取り>の話を説明した。
「ヒカリ様、私から少々ご質問をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、はい。」
「もし、自分よりとても優れた人に好意を抱いていながら、とてもとても敵わない方がいたとします。そしてそれは両親や家柄が決めた相手で、自分にはどうすることもできません。」
「うん。それで?」
「その人に追いつこうと一生懸命努力します。そして少しは成長できた自分がいます。でも、その間に憧れの人はもっともっと成長してしまったことを知ったとします。」
「うんうん。その人達凄いね。お似合いだよ。仲良く結婚すればいいのに。」
「家柄や政略結婚的に決められた結婚相手ですから、結婚はすることになるでしょう。ですが、憧れている相手にいくら努力しても追いつけない自分がいて、相手はその才能をなんとも思わないし、能力の成長の遅い自分に対して何も関心を持って貰えない。そんなことを想定できますでしょうか?」
「その憧れの人の側が、もっと話を聞いてくれればいいのに。その人頑張ってるんでしょ?」
「そうですわね。とても頑張って、初めてのことに挑戦して、大きな成果を出しています。それでもその成果は、憧れの人の足元にも及びません。」
「なんか、可哀想だね。周りが支えてあげて欲しいよ。それか誰かが<凄い人>にさり気なく教えてあげるとかね。」
「こまったことに、ヒカリ様の言う<凄い人>は、自分を凄いと思っていないから、初めてのことに挑戦しているその子が凄く頑張っていることを<普通のこと>と感じてて、上手く関心を寄せてあげられないの。」
「それは問題だねぇ。レイ、どうしよう?」
「私も困りましたわ。」
「え?なんか、答えがあるんでしょ?」
「私のたとえ話が、ヒカリ様にとっては、あくまでたとえ話として伝わった様です。」
「今のって、実際に問題になってる話なの?本気出すよ。もっと詳しく教えて。」
「ヒカリ様、王子に『ただいま』を伝えたとき、王子はどのような返事をされましたか?」
「う~ん、なんだっけ。『おかえり。無事で何より、ここの人達は凄い』みたいな反応だったかな?そんなに凄い事じゃ無いのにね。」
「ヒカリ様にとって、<普通のこと>が王子にとっては<凄いこと>という意味でしょうか?」
「あ、うん。なんだかさっきの<困っている人達の話>みたいだね。」
「ヒカリ様?」
「レイ、ひょっとして?」
「王子はヒカリ様のいらっしゃらない2か月間、それはそれは死に物狂いで努力し、皆に認めらようと頑張り、信頼を得て指揮を執り、治水工事をほぼ完成させただけでなく、ロメリア側の資材提供にも支援を行っていますわ」
「レイ、お風呂の続きはまた今度一緒に入って貰っても良いかな?」
「是非王子とお二人でお越しください。」
「わ、わかった。またね。」
う~。う~。
私か!私がいけなかったのか!
そっか~。そうだよねぇ。
相談相手もなく、人脈も0からで頑張ったんだもんね。
なんでもして貰えた王子の人生からすればとんでもないことだったんだよ。
ああ~。
奥様になるには失格だねぇ。
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