27.冒険者(よろずや)になろう(1)
今日は無事に冒険者登録証を2枚手に入れて、
冒険者の資格を得るはず。
うまくいくといいね。
「「「「いらっしゃいませ~」」」」
今日は女子高の学園祭でメイド喫茶を営んでいる。
服装は統一感も無く様々だ。
水色のフレンチスタイル風で、かなりミニスカートでフリフリ。
胸にはタオル入れてまで無理しちゃって!
片やゴスロリ風に大人しそうに振舞っている。
皆が和気あいあいと楽しんでいる。
メイド喫茶の運営よりも自分たちのコスプレに酔ってるような。
でさ?私はさ?給仕長な訳。
背が高くてしっかり者だからって。
服もなんだか、濃紺のロングワンピースで地味。
一応頭にはカチューシャ着けてるけど、
伊達メガネで黒ぶちのごついのを掛けさせられてる。
『ヒカリはこっちの方が、給仕長っぽい!』
とかなんとか。
確かにさ、私はあんま肉食系女子ってよりは、
本読んだり、SFの中身を力説したり、オタク風でさ。
あんま、そういうのに感心がなさそうだから、
皆が私に気を遣って役どころを与えてくれてたんだけどさ?
でもさ?
なんか、自分も混ざって一緒に給仕してみたいな~~~。
ほら、あそこのスラっとした金髪の欧風男性とかちょっと素敵でしょ。
とか、思ってみたり。
「おねえちゃん、早く砂糖運ぼう」
あれ?
なんでこんな小さな子がいるんだっけ。
私とお揃いのメイド服を着て。
その子に手を引かれながら、その男性のところまで行く。
なんか、手を引き返せば踏ん張れるんだけど、
楽しみたいから釣られちゃってる振りをする。
そして金髪男性の前までいくと、
「お兄ちゃん!砂糖頂戴!」
「ユッカちゃん、砂糖頂戴じゃなくて、砂糖どうぞでしょ?」
って、あれ?
学園祭にユッカちゃん?
学園祭は終わってて、受験も終わって……。
ーーーー
ハッ。ここどこだっけ?
昨日はベッセルさんのおうちに泊めてもらって……。
今日はレナードさんのいる街まで帰らないと!
「え?ユッカちゃん、今何時?時計!」
いや、寝ぼけてる。
時計もスマホも無いって。
ユッカちゃんにばれた?
ユッカちゃんが横で寝てる。
「ムニャムニャ。あのお菓子も食べたい~」
ユッカちゃんも昨日のパーティーでいろいろ頭がフル回転だ。
おかげで異世界人であることが、ばれずに済んだ。
トモコさんがユッカちゃんに教えていれば、
とっくにばれてそうだけどね。
それはともかく、日が高く昇ってる。
さっさとユッカちゃんを起こして出発しないと。
「ユッカちゃん、朝。朝だよ~」
「おねえちゃんばっかりお菓子食べてずるい~」
「私は食べてないよ。クッキーなら作ってあげるから起きて」
「あさ?ここどこ?」
「ベッセルさんの家だよ。冒険者登録証もらいに出発しないと」
「あ、そうだっけ。でも、まだ間に合うよ。エーテルさんと一緒に急げばいいよ」
「そうだけど、全力で走ったら他の人に見つかるよ」
「そっか。なるべくエーテルさんの助け借りない方がいいね」
「うん。ベッセルさんにお礼を言って、早くでかけよう?」
「うん」
ベッセルさんはもうお出かけ済み。
ハウスキーパーさんらしき人に声をかけて、
お世話になったお礼を丁寧に伝えてから出発したよ。
ーーーー
で、城下町の門番さんに挨拶をして街道に出たんだけど……。
見るからに怪しい人が道の傍らからこっちを見てる訳。
この日中に黒装束に覆面とかさ。
忍者なの?アサシンなの?憧れコスプレなの?
たまたま、私たちの方向をみてるだけかも知れないけどね。
ユッカちゃんも、私の手の指を1本だけ引っ張る。
うへ。不味いのか。
<<ナビ、周囲の安全確認>>
<<右前方の人物が赤○。その他道中の索敵範囲は青○または黄○のみ>>
<<ありがとう>>
小声で脇を見ないようにユッカちゃんと作戦を練る。
「「走れないね」」
「「どうしようっか」」
「「走って逃げる?」」
ここまで一緒か。二人で笑い出す。
「「エーテルさん無しで走ろう」」
エーテルさんの力を借りずとも速く走れるようになった。
ナビに確認すると時速10kmぐらいだって。
エーテルさんの助けを借りずに4時間継続して、
残10kmぐらいまできた。
ユッカちゃんの訓練のお陰なのか、
<身体強化>で特訓している後遺症なのか分からないけれど、
我ながら大したものだと思うよ。
ところが、ここで問題が。
その1.日が暮れそう。このペースでは街の門が閉まる。
その2.赤○の人が付いてきてる。40kmずっと同じ距離で!
「「このままだと間に合わないね」」
「「どうしよう?」」
「あの人、エーテル使ってるよね?」と、私がユッカちゃんに問いかける。
「うん、使いながら、楽々こっちを追跡してる」
「追跡されてるよね?」
「この走りに付いて来れる人がエーテル使ってて、限界なはずないよ」
「あの人を振り切れると思う?」
「振り切ったら、私達がエーテル使えるってわかっちゃう」
「そうだよね。間に合っても、そっちが問題だよね。
あの人をなんとかしないと不味いね……。
横から来た魔物に突然襲われるとか、
忘れ物を取りに城下町まで戻りたくなるとか。
急にお腹が痛くなって休むとか。
そういうことって起こらないかな~~」
「おねえちゃん、それむり。雷雨で歩けなくなる方がありそう」
「ユッカちゃん、雲一つない青空じゃ、それも無理。突風ぐらい」
…。
……。
ひょっとして?
「ユッカちゃん、突風で吹き飛ばすのはアリかな?」
「あの人、エーテルも使えて<身体強化>できるから普通の風じゃ吹き飛ばないよ」
「普通の風でも吹き飛ぶくらい、体が軽くなったら?」
「どっか、とんでいく。できればだけど」
「私は、実際に飛ばされて、えらい目にあったよ。やってみていい?」
「いいよ」
「じゃ、ちょっと準備するね。あと、吹き飛んだら直ぐにエーテルさんと一緒に走ろう」
「うん」
<<エーテルさん、ここに重力遮断の膜を設置>>
<<後ろの追跡者が踏み込んだら、膜で包み込む>>
<<その膜は、追跡者が吹き飛ばされた後で地面に接地できたら解除>>
<<重力遮断の膜で包めたら、進行方向から城下町方向へ突風を流して>>
<<<ほわわ~~~ん>>>
多段で無詠唱でエーテルさんを起動したけど、
なんか膜が張られた音がしたね。
エーテルさんに全ての思いが通じたんだと思う。
「ユッカちゃん、ここからちょっと先で休憩しよっか。
あの人がここに丁度到着するのが見えるぐらいの距離で」
「わかった。クッキーたべよ」
「今日はないよ。昨日のパーティーで全部おいてきたもん」
「いじわる。パンは?」
「パンも無いよ。カチカチのパンはベッセルさんちでお弁当に貰ったけど。」
「え~。いいよ……。それでも……」
ユッカちゃんも舌が肥えてきた。私のせいだけどさ。
でも、貧しさにも我慢できるってのは躾がすばらしいんだろうね。
時間的な余裕なんかないんだけど、
二人して座って、カチカチのパンを食べ始める。
後ろから来る人が罠に掛かるのを待つしかないじゃん?
で、追跡者がスピードを上げて迫ってくる。
たぶん、突然こっちがしゃがみ込んだから、
見失ったと勘違いしたのかもね。
で、追跡者の視界に私達が入って、
速度を落とし始めた途端……。
『うぉ~~~~!』
追跡者が風に舞い上げられて飛ばされていく。
ちゃんと突風に乗って城下町の方へ。
無重力遊泳ってさ、30秒で70万円とか?
もし、大気圏外に行くなら1500万円とかだっけ。
それが、無料だよ!無料!大サービスだね。
ちゃんと、突然解除しないようにセーフティーまでついて。
私なんか自由落下したからね……。
「ユッカちゃん、いこっか」
「うん。日が沈む前に走って到着すれば、<走れヒカリ>って、吟遊詩人が語ってくれるかな?」
「こっちの国ではどうだろうねぇ~」
この後、二人で無事に街に到着して、
冒険者登録証を2枚手に入れることができました。
めでたし、めでたし。
追跡者がどうなったか?
知らない。
<明日は明日の風が吹く>
飛んで、こっちに戻ってきたらどうしよう……。
誤字などの修正のみです。本ストーリーへの影響はありません(たぶん)。




