4-67.帰路(1)
国同士の精算も終わったし。
今日は手に入らないけど、後々金貨12万枚相当の報酬が入るし。
後は、お土産物を忘れないようにして帰るだけだね。
「トレモロさん、帰路に着く船に乗るアジャニアの人には<奴隷の印>とか施してあるんだよね?」
「ハイ。ヒカリ様とその仲間内のことは全て口外しないこととともに、シズク様含めて全員が、いずれかの方の奴隷の契約印を施してあります」
「わかりました。他に契約書、人材、機材、お土産とかの忘れ物は無いかな?」
「私自身はそう多くの観光をする時間はとれませんでしたが、ちょっとしたお土産を購入は出来ました。他の皆様もそれなりに楽しまれた様です。」
「じゃ、出発するけど、帰路は空を飛ばして良い?それとも航海術を少しでも向上させた方が良いかな?」
「ラナちゃんとステラ様の意向からすると、再度訪問する機会があるそうです。であれば、後学のためにも航海術を用いて船旅をさせて頂ければ彼らも経験を詰めるでしょう。ただ、彼らも未熟であります故、何かの非常時にはご助力頂ければと思います。」
「その様にシルフに伝えておきますね。あまりにも日数が掛かって、新年の儀に間に合わないようなら、加速するからよろしくね?」
「承知しました。その様に進めさせて頂ければと思います。」
って、感じで慌ただしかったけど無事に帰路に着くことができたよ。帰りは打ち合わせ通り、30日くらいかけてゆっくりとした船旅になる予定。それでも、当初の計画は往復合わせて三か月間だったのだから、帰りに一ヶ月間掛かっても、新年の儀まで一ヶ月ぐらいは猶予がある計算になるね。もし、病人が出たり、食料の欠如が発生したら急いで帰ればいいやってことで。
さてと~。
30日もあるからね。いろいろな勉強会が開けるよね。
何から始めようかな~。
ーーーー
よし、先ずは・・・。
「アルバートさんとフウマにお願いなんだけど、二人はシズクさんやお茶屋のお兄さんと一緒に語学だけでなくアジャニアの歴史、文化、隣国との関係をしてもらいたいの。その代わりに、フウマは出来れば<身体強化>の魔術の基礎を教えてあげて欲しいし、アルバートさんはストレイア帝国の情報や語学を教えてあげて欲しいかな。
それと<念話>に関しては、基本的には教えない方向でお願い。これは教えるためのスキルが面倒なだけでなく、ストレイア帝国やロメリア王国、エスティア王国でも<人同士の念話>は公開されてなくて、<飛竜を介しての念話>までだからね。
気を付けて欲しいのは、普段から会話の整合を取るために、なるべく念話を使わない方向で進めたいと思ってる。当然、関所とか架橋拠点と事前に打ち合わせることとか、緊急事態があれば、その処理を優先で良いから。
そんな方向性で進めたいけど良いかな?」
「ハイ(2人)」
次に、<重力の勉強>だね。
「ステラ、ニーニャ、アリア、ちょっと話があるんだけど良いかな?」
「ハイ(3人)」
「帰りは<基本的に航海>ってことで、大体一ヶ月ぐらい掛けて帰ることになったから、結構、いろいろ勉強できる時間がとれそうなんだよ。私の目標としては<重力軽減>までたどり着きたいし、そのためには数学の基礎もある程度習得しておく必要があると思ってる。
<重力>ってのは、物理学の基本的な考えで、習得するために必要な数学の考え方は電磁気学への応用もできて、この辺りが組み合わさると<電気>とか<光>を作るシステムへ、発展させることができるのね。習得の順番は異なるけど重要で直ぐに役に立つ内容から勉強を進めたいと考えているんだよ。
どうかな?」
「私は重力の秘密が知りたいんだぞ。そうすれば<空飛ぶ船>に一歩近づけるんだぞ」
「私も<重力軽減>について知りたいですわ。私の操る魔法では不便なことが多いですもの。」
「ヒカリ様、私もいろいろ勉強したいです。その順番は皆様にお任せします。精一杯ついてくために努力しますので、ご指導のほど、どうぞよろしくお願いします!」
「うん。じゃ、3人とも了解ってことで良いね?」
「ハイ!(3人)」
うんうん。今のところ順調だね。次は妖精さん達だね~。
「クロ先生、ルシャナ様、シルフ、ラナちゃん、ちょとご相談があります。」
「ヒカリ、何かしら?」
「帰路は基本的に航海術を習得することを目的に、海上を行くことに決めました。もし、何らかの事故や緊急事態が発生した場合には、行きと同様にシルフに頼んで空路での輸送をお願いしたいと考えております。」
「貴方がそうしたいなら構わないわよ。人間ほど時間に対して頓着しないわ。」
「ラナちゃん、ありがとうございます。それと、航海中の予定ですが、基本的に<念話>を駆使しての会話は止めようと思っています。フウマやアルバートさんにはアジャニアからの客人の世話をお願いしようとしていますが、<念話>と<重力軽減>はエスティア国内でも関所に居るメンバーのみのスキルとして利用したいと考えています。」
「貴方の婚約者やお妃様はご存知でしょう?あと、この船の主のトレモロさんも。」
「リチャード王子とお妃様には<飛竜を介しての念話>の存在は知られておりますが、人間同士の直接の念話や<妖精の長>に関しては情報を公開しておりません。これはエスティア王国のみならず、ロメリア王国、ストレイア帝国に関しても同様です。」
「トレモロさんは特別なのかしら。」
「ハイ。既にユッカちゃんの秘密、科学教の秘密、ドラゴン存在の可能性までを共有しておりますし、今回の船旅でも多くの魔術と<妖精の長>のご助力により達成できた結果となっておりますので、<情報漏洩に伴う我々の被害>に関しては一心同体の状況となっております。」
「分かったわ。それだけかしら?」
「はい。繰り返しになりますが、<アジャニア語>の勉強会はフウマ主体で行います。また、私は<重力軽減>に関する勉強会を実施する予定です。長旅になりますので、<妖精の長>の方々には退屈な時間にはなりますが、ご自由にお過ごし頂ければと思いまして、先ほどの注意点の連絡に参りました。」
「ヒカリ、<食事>と<おやつ>はどうするのかしら?」
「すみません。特に考えいませんでしたが、数人のアジャニアからの客人もお迎えしておりますので、材料と調理場を提供することで、我々もアジャニアの食事を楽しむことができるかもしれません。」
「美味しいのかしら?」
「もし、お口に合わないようでしたら、船にある素材を元に、私なりになにか提供できるものを考えさせて頂きます。」
「わかったわ。以上かしら?」
「はい。もし問題無ければ、他の<妖精の長>の方々も同様にご配慮頂ければと思います」
「ハイ(3人)」
よしよし。<ご飯の問題>は要注意だけど、今のところは順調だね。
ーーーー
最後はユッカちゃんと相談だ。
「ユッカちゃん、いろいろお疲れ様でした~。楽しかった?」
「初めてなことがいっぱいできて、とっても楽しかったよ。」
「そっか、それは良かった。また来るときまでにアジャニア語を勉強しておくなら、フウマ達と一緒に過ごすと良いよ。」
「お姉ちゃんも、また来るの?」
「う~ん。来たいけど、ちょっと分かんない。」
「なんで?」
「リチャード王子と結婚して、その後どうなるか分かんない。」
「お妃様になるの?」
「あ~。王子が王位を継いだらそうなる可能性もあるね。
でも、そういう爵位とかの問題だけじゃなくて、王子とは一つの家族になるわけだから、私が勝手に決められないことも出てくると思うんだよね。
そうえいば、ユッカちゃんも王族だよね。それも皇帝の。」
「分かんないし、面白く無さそう。」
「美味しいものが食べられるかもよ?」
「お姉ちゃんの方のが美味しい。」
「私よりゴードンさんの方が、料理を作るのは上手だよ。私は素材とレシピを渡しているだけだし。」
「でも、おねえちゃんが良い。ダメ?」
「ダメじゃないけど、あ、トレモロさんはどうするつもりなんだろ?」
「おねえちゃん、どうしたの?」
「あ、うん。トレモロさんにも話しに加わって貰おう。」
この航海の大成功はストレイア帝国にとって、大きな変化になるよね。
トレモロさんの意見をちゃんときいておかないと。
ーーーー
「トレモロさん、ちょっと込み入った話をさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
「あ、ユッカちゃんもご一緒ですね。どうされましたか?
私の部屋で宜しければ、<緑茶>でも飲みながらお話を伺わせてください。」
船内のこじんまりとしたトレモロさんの専用の船長室に3人で入って、席に着いてお茶を飲み始める。
「ええと、今回の航海の成果はとても大きな影響があると考えます。例えば、ストレイア帝国は科学教からの束縛も解放されると思うんです。そうすると、帝国としてみれば、『旅に出たハンス王子夫婦を探し出せ』みたいな状況にもなると思うんです。」
「そうとも限りませんが、隠居した皇帝夫妻はそう考えるでしょう。」
「ええと、もう既に帝位は次の代へ継がれているということですか?」
「はい。上皇としての爵位は残っていますが、実質な権限は現在の皇帝が最終判断を下すことになります。」
「そうなんですか。今の皇帝さんは<科学教>や<ハンス王子>に対してどのような考えをお持ちか存知ですか?」
「基本的に先代の持ち物を受け継いで、それに胡坐をかいて座るようなタイプでしょうか。無理な遠征や征服を試みて、戦争前後の煩雑な状況を考えることが億劫なタイプです。」
「それって、<科学教からの脱却>は、大きな変革になるので、今の皇帝にとって不都合な情報になりませんか?<科学教なしで科学を維持する>あるいは<元の宮廷魔術師を雇用し、魔術を推進する>とかしないと、国力は弱まりますよね。」
「そういう億劫な情報は仕事ができる部下に任せようとしますが、億劫な情報や助言をしてくる部下を嫌がるので、そういう仕事を頼む先が有りませんね。」
「トレモロさんは、そのような<億劫な情報を与える部下>なのですか?」
「私は先代の皇帝とハンス王子に感謝しており、ご恩を感じておりますが、不必要に事を荒立てて、不興を買うような真似はしないつもりです。ヒカリ様やステラ様からの特別なご要望が無い限りですが。」
「んん?私が何か特別な要望をすることってあるの?」
「例えば、ユッカ嬢を立てて、皇位継承者争いをさせるとか。<科学教からの解放>を帝国内で宣言して、宮廷魔術師の地位復活運動を推進するとかですかね。」
「私は皇位継承とかに興味もないし、ユッカちゃんからお願いされたらそういうのを支援する準備はするけど、ユッカちゃんが直近で望まないと思う。
ユッカちゃん、どう?」
「おねえちゃん、私は難しいことはよくわからないけど、私の家族はヒカリおねえちゃん、ステラおねえちゃん、フウマお兄ちゃんだよ。」
「うん。ユッカちゃんが過度な贅沢をしない範囲で、自由に暮らしてくのに必要なお金は用意できると思うよ。あと、下手に皇位を継ぐと、<自由>は減る可能性が高いね。
ユッカちゃんが、もっと大きくなって、そういうことに興味が出てきたら考えるってことで良いかな?」
「うん!」
「ということで、トレモロさんから積極的に報告が無ければ、ユッカちゃんがハンス王子の娘であることを周知しない方向で進めたいです。」
「承知しました。今回の航海の報告の際に、その辺りは知らぬ事実として扱わせて頂きます。」
「トレモロさん、ありがとう。この辺りがちょっと心配だったから相談しに来たのです。」
「そうでしたか。<沈黙は金なり>と申しますように、余計なことは言わないことが世渡り上手のコツと考えております。それで、<科学教>に関しては何か考慮すべき事柄はございますか?」
「う~ん。その、今の皇帝さんは、<科学教への使用料>が不要になったとしても、<贋金づくりによる収益>とか、ロメリア王国や自由貿易組合メルマからの収益とかを期待されるのでしょうか?」
「そこは微妙なところでしょう。<贋金を推進する技術提供が出来なくなるので、その見返りも不要>と、アジャニア国との新規条約に記載がございます。しかしながら、過去に製造した贋金や、既存の技術を流用しての新規贋金の製造に関しては記載がございません。
簡単に申しますと、<新しい技術はあげない。でも、お金を既に払ってくれた技術は自由にどうぞ>という内容で更新された条約が締結されているとお考え下さい。」
「科学教からの指示や旧条約に明記された資料の中に、<贋金による国家の弱体化方法>を示唆する記述ってないのかな?『言った・言わない』で、有耶無耶にならないような公文書とか保管されている資料も含めての話になります。」
「それは、私としても解り兼ねます。
今回はロメリア王国内で、ロメリア王国の財務大臣とエスティア王国の財務大臣が結託して、エスティア王国の弱体化を狙ったことまでは、情報の追跡が可能と思われますが、それがストレイア帝国からの指示であったかを証明する記録があるかを問われていますよね?」
「うん。贋金で税収はあがるし、王国間の争いに見せかけられるし、科学教の目指す<妖精の長の封印>への施策になる。『この一連の指示を出した根本が曖昧』っていうのは、ストレイア帝国にとって、とっても有利な状況なんだよね。『帝国内の贋金事件は夫々の王国間のいざこざで発生した。帝国としては感知しない』ってなる。そして、その贋金事件による帝国への損失の責任も被せることができるからね。」
「財務大臣に直接伺うのが良いかもしれませんが、私はそのような伝手が無く、お役に立てそうにありません。」
「あ~。私はてっきり、ロメリア王国の国王の指令だと思っていたんだけど、ちょっと違うのかな。二人の財務大臣には<奴隷の印>が付いてて、二人ともロメリア国王の奴隷だったんです。この話は既にしましたっけ?」
「あ、いえ・・・。既に聞いたのかもしれませんが、失念しておりました。申し訳ございません。」
「私も<贋金の金メッキ>が水銀中毒や科学教の力と関係するって分かったのは、火山の島に行ってからで、それまではあまり気にしてなかったから情報を関連付けて考えていなかったと思うのです。」
「私もヒカリ様が<財務大臣二人に財産勝負で勝った>という話はよく覚えておりますが、二人の財務大臣の財源が<贋金>であったと伺ったのは今回が初めてかもしれません。」
「う~ん。そっか。ロメリア王国のロメオ王子から話を聞いて、ストレイア帝国への税収影響があるか確認をします。その結果次第で対応を決めることにしたいと思います。」
「承知しました。また何かあればご相談ください。」
「ユッカちゃん、ということでユッカちゃんが望まない限りはストレイア帝国の王族としての地位を探られることも無いと思うよ。」
「お姉ちゃんと一緒に居られるって言うこと?」
「リチャード王子次第だけど、一緒に居られるんじゃないかな?」
「ずっと一緒に居られるなら、お父さんとお母さんのお墓を移してもいい?」
「うんうん。もちろんだよ。お墓の場所はモリスとかウンディーネと相談になるけどね。毎日お墓で挨拶出来るようになるね。ユッカちゃんのやりたいことを手伝ってあげられなくてごめんね」
「ううん。お墓が戦争にまきこまれちゃうよりいいの。大丈夫。」
「そっか。じゃ、そのことは後でモリスに伝えておくよ。いろいろ勉強会で勉強しながらみんなで帰ろっか」
「うん!」
じゃ、久しぶりにモリスとレイに連絡とろうっと。
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