4-66.武力認定試験
私達が薬師の店に行っている間、
ムサシ様やフウマ達で<飛竜の血>の効果を検証していたんだって。
姉さんの発案内容を予めムサシ様とかに説明していてくれたから、僕たちは最初から冒険者登録所に向かったんだ。ここなら政府の秘密も守られる部屋もあるし、すぐ裏手に闘技場があるから、模擬戦もし易いしね。
「こちらがエルフ族のステラ様から預かっている<身体強化の秘薬>となります。私自身も効能の方は良く判りませんが、『魔術が使えなかったものが魔術を使えるようになった』とか、『これまで以上の力を武力を発揮できるようになった』など、の伝承があるそうです。この秘薬は数量が限られていることと、エルフ族の中でも一部の者しか近づけない場所にある素材を使用しているとのことで、大量に頒布することはできません。
また、非常に劇薬であるため、その薬による体の活性化に対して体が負けてしまうと、動悸や発熱、最悪死に至る場合もあるとのことです。
ですので、元々武術や体力に自信があって、自己責任で服用して欲しいとのことです。」
「フウマ殿、丁寧な説明ありがとう。我々も<持ち逃げに伴う武力制圧>に関する懸念はありましたので、そのような対策に対する支援に感謝します。
こちらとしても政府の上位職を務める人材にその薬を与えたいと考えて要るのですが、今回お分けして頂けるのは、事前に話のありました3人分でしょうか?」
「はい、ムサシ様。今回の航海で渡せるのは3人分で、全てだそうです」
と、赤い液体が入った<身体強化の秘薬>を3本机に並べる。
これは、姉さんの作戦で、『せっかくだから、それらしい演出の物を作ろう!』とのことで、この<秘薬>の作成に取り掛かったんだよね。アリアさんがガラスの器を作成して、姉さんが<飛竜のタカさん>にお願いして、血を少し分けて貰って、それをガラスの瓶に移し替えた。最後はガラス表面にステラ様がエルフの銘を瓶の表面にラナちゃんのナイフで刻んで、<エルフの貴重な秘薬>であることを演出しておいたんだよね。
「ほほぅ。フウマ殿、この器が初めて見ました。氷の中に液体が浮いているのでしょうか?」
「いいえ。ガラスと言われる器に入っておりまして、中身が確認できるだけでなく、他の物と作用してしまうのを防ぐ効果もある、薬専用に使われる貴重な器なのだそうです」
「差し支えなければ、この<秘薬>を頂いた後に、空いた器を頂戴することは可能だろうか?」
「それは、ねえさ・・。いや、ステラ様に相談してからでないと、私の一存では決められません。」
「では、選ばれし3人の者達よ、こちらへ参れ」
ムサシ様が部屋の外に控えている人に声を掛けると、3人の騎士のような格好をした人が入ってきたんだ。一人は仮設住宅の指揮を執りに行った、<征夷大将軍>の役職の人で、残りの人は、もう少し若いけど数々の修羅場を潜り抜けてきたような厳しい顔つきの人だったよ。その二人は僕よりちょっと年齢が上だけど、体格はレナードさんのような大柄だったね。
「では、国の為、命を賭す覚悟で、その貴重な秘薬を頂くが良い!」
と、ムサシ様の号令が飛ぶと、少し震える手つきで瓶をしげしげと眺めたあと、上部にある蓋を外してから、3人が顔を見合わせて一気に赤い液体を喉に流し込む。
3人がゴクッと喉を鳴らして飲み込んだ後、瞑っていた目をそ~~っと開いて、お互いを確認し、ホッとした表情になった。
「フウマ殿、こちら3人の志願者は試練を乗り越えられたのだろうか?」
「はい。数回深呼吸をして頂き、それで体調にオカシナ点が現れなければ、これまで通りに活動できます。また、武力衝突の際には加減することを忘れないで下さい。」
「どうだ?動悸があったり、気分が悪くなったものはおらぬか?」
「大丈夫であります!(3人)」
「フウマ殿、貴君らの協力に感謝する。この空の器は大切に保管し、後でステラ様にお伺いすることとして、早速彼らの腕試しをしたいのだが、お付き合い頂けるだろうか?」
「ハイ。私とこちらの少女ユッカが同行させて頂きます。」
「うむ。では、こちらの冒険者登録所の裏手の闘技場で模擬戦を行うので、彼らの力を確認し、何かアドバイスがあれば頂きたい」
ーーーー
僕は初めて来たんだけど、ユッカちゃんが冒険者登録所のお姉さんや闘技場の仕組みをよく理解してくれていて助かったよ。
最初は木刀を用いた無し無しの勝負。武器を手から離すか、宝箱に入ったペンダントを取り出せた側の勝ち。相手はAランクの5人のパーティーなんだって。予め冒険者登録所の受付のお姉さんが人選して、パーティにー依頼を掛けていたらしいよ。
「では、始め!」
と、今日は特別にムサシ様が開始の合図をしたんだ。
<エルフの秘薬>を飲んだ3人は、流石に<飛竜の血>を飲んでも戦闘技術が向上するわけじゃないし、<身体強化>の魔術を使える訳でも無いから、力任せの攻撃でアタックをかけるんだけど、相手もそういった猪突猛進な魔獣の様な相手には防御魔術や受け流しの技で対応する。
拮抗するかと思われたんだけど、人間の体力では受け切れないから前衛が押し負けて、そこから冒険者側のパーティーが決壊した。そして宝箱を開けてペンダントを取り出しての勝利。
なんか、受付嬢のお姉さんが『ふぅ~~』とか、横でため息をついているんだけどなんだろう?姉さん、この人にも何かしたのかい?
「フウマ殿、ユッカ殿なにか今の模擬戦でアドバイスなどありますかな?無ければ人数を増やしての第二回戦を始めたいと思うのだが。」
「ムサシ様、少々お待ちください。ひょっとしたら簡単なアドバイスで更なる効果が得られるかもしれません。」
ここは<身体強化の魔術>を解放することは難しいから、血液の流れと呼吸を意識することだけを教えた。後は、僕が姉さんに教わったように『もし、何らかの魔力の流れを感じ取れたら、その動きに合わせて体を乗せると、精密な動作が可能になる』と、ちょっと直ぐに効果がでるか判らないけど、そんなアドバイスをしたんだ。
次の2回戦目は相手が12人の構成で、こちらは3人のまま。攻撃魔法と身体が欠損するような攻撃は無しで、防御と木刀での戦いが開始されたんだ。
最初は呼吸を意識して、ゆったりと行動しつつ、敵の攻撃を待つような状況から、相手の先制攻撃を受け流すと、宝箱を守る人を残して二人が突然駆け始めた。
さっきの第一回戦は<とても俊敏に動ける人>という感じだったけど、今回の動きは明らかに違った。
僕も魔力の探査で動きを追跡しないと、目に写る残像と実際の位置がぶれていたからね。飛竜の血を飲む前のリチャード王子と同じレベルでの動きになってると思うんだ。これならちょっと修練を積んだ冒険者では敵わない速さだったよ。
結果として、位置を追跡すらできずに冒険者パーティーは宝箱を開けられて終了。こうなってくると人数差が意味をなさないんだよね。隣に座る受付嬢が今度は『やれやれ』て感じで首を左右に振ってから目を閉じて考えこんじゃったね。これ、やっぱり姉さん達が何かしただろ?
「皆の者、圧巻であった。フウマ殿のアドバイスで動きが格段に変わったように思う。如何であっただろうか?」
「はい。ちょっと修練を積んだ盗賊とか、騎士団相手であれば100人くらいまでは大丈夫だと思います。」
「そ、そうであるか!それは有難い。彼らにとっても大きな自信となることであろう。
冒険者登録所におかれては、今回の場所の提供とパーティーメンバーの選抜に助力頂き大変感謝している。
念のためではあるが、この試験のために冒険者パーティーに手を抜くような打ち合わせはされておらぬだろうな?」
「ムサシ様、滅相もございません。ちゃんと試験に通ったAランクのパーティーメンバでございます。上級迷宮の地下5階層を超えて10階層にも到達しうると見込まれる者達です。」
と、冒険者登録所の受付のお姉さんが慌てて返事をしたよ。
「そうであるか。とすると、この者達3人でも地下10階層に到達しうるのだろうか?」
「ムサシ様、恐れながら申し上げますと、上級迷宮をクリアした者達とはまだ力の差は大きいと考えます。また、彼らが所有している武具に関しましても今回の迷宮で得られたものとは格が違うため、そのあたりも考慮して頂いた方が宜しいかと。」
これって、姉さん達が何かやったって証拠だよ。
この受付嬢が<飛竜の血>を飲んだ人の動きを見て、驚かないどころか、『まだまだ追いつけない』って、言っちゃうんだからね。
「フウマ殿、その~。申し訳ないが、私には<エルフの秘薬>によって、彼らがとても強くなったように思えるのだが、買い被り過ぎであろうか?」
「ムサシ様、先ほども申し上げました通り、策を弄さず敵対した100人の騎士団や盗賊であれば、殲滅可能な能力をお持ちであると思いますが。」
「いや、うむ。そのだな。<上級迷宮を最下層迄クリアした>という、貴君らのパーティーの実力と照らし合わせて、彼らの力はどう見れば良いか?」
「ムサシ様、私は上級迷宮がどのようなものであったか存じ上げません。ただ、ここにいるユッカであれば、私よりは迷宮内での振る舞いについて詳しく評価できるかと思います。」
「そうか。ユッカ殿、彼ら3人の力で上級迷宮はクリアできるだろうか?」
「う~ん。フウマお兄ちゃん、地図作製、罠解除、灯り、食料とか、誰がするの?あと、荷物運びも大変なんだけど、どうするの?」
と、ユッカちゃんがムサシ様じゃなくて、僕に向かってコメントを返す。
ムサシ様はちゃんと両方の国の言葉を喋ってるんだから、直接返事してもいいと思うんだけどな。
「ユッカちゃん達はどうしたの?」
「おねえちゃんが全部指揮して、役割分担してくれた。私はステラおねえちゃんと敵を倒してただけ~。」
「ムサシ様、今、聞こえたかと思われますが、単に攻撃担当のみならず、迷宮内での地図、罠解除、食料管理、収集品の回収など種々人手が必要で、その者達もそれなりの防御力を備えている必要があるかと思われます。」
「フウマ殿、よく分かった。迷宮進軍はまさに戦争と同じで兵站や指揮系統込みで1つのパーティーということだ。武勇に勝る者だけでは戦争には勝てぬからな。ありがとう。」
ユッカちゃんのおかげで、『強化された人と僕らで、どっちが強い』みたいな腕試しをさせられることにならなくて良かったよ。それにしても姉さん達は本当良く考えて迷宮攻略したってことなんだね。姉さんと初めてクロ先生を救出したときの経験が役に立ったみたいだね。
よし、これで僕らの役目は終わりかな。あとは姉さん達の結果次第で今回の報酬の件は全て決着ってことになるかな。
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