4-61.作戦会議(1)
科学教の科学って、民の為ではなくて、軍需産業ってこと?
もう、属国なんて要らないから帰りたいよ。
どうしよっか。
今日の夕飯は船の中に食材を持ち込んで食べることにした。
航海士さんたちは仮設住宅とその周辺の支援に行ってるけど、主要メンバーには全員集まって貰った。
「みんな、お疲れ様~。
市場で買い集めた夕ご飯を食べながらちょっと聞いてね。」
「ハイ(ALL)」
「トレモロさん、アルバートさん、フウマはこの国のことどう思う?
私が一緒に行動できてなかった辺りで、アジャニアと外交するに感じたことを順番に意見を聞かせて貰えますか?」
「はい。では、私から。
過去のストレイア帝国とアジャニア国との間では、科学技術を提供して頂く代わりに各種鉱物の輸出と内政干渉に近い政府方針の押し付けがございました。それは妖精の封印の要請であったり、相対的な宮廷魔術師の地位の低下がございました。
確かに獣人族やエルフ族への支配力は向上したと考えられますが、ユッカ様のご両親が懸念される通り、単に科学技術のみの浸透では民の幸せに貢献出来ていたのか、あるいは内政業務が進歩していたのか疑わしい点がございます。
今回、ヒカリ様の主導で大航海を乗り越え、敵陣の本丸ともいえるアジャニア国へ到達し、一方的な押し付けからの脱却と、一部貴重な食品技術の提供も頂けることとなりました。これはすなわち、ストレイア帝国がアジャニア国より優位な立場に立てていると考えます。詳細な締結内容は必要があれば後ほど報告させて頂きます。」
「トレモロさん、ありがとうね。
相対的な地位は向上したから、今後ストレイア帝国は自由に自分たちの国の力で国を運営していけるって感じかな?」
「その通りでございます。」
「ありがとね。じゃ、次、アルバートさん。」
「先ず、現在のアジャニア国における科学技術レベルは停滞していると考えられます。すなわち、大よそ100年前に科学による支配を目指した科学教の力は、相対的な意味で言えば衰退しているとも言えます。」
「アルさん、報告中に割り込んでごめん。その情報の根拠を知りたい。」
「はい。今日の朝食の際に面談をしたマルコ様とニルス様について、父に問い合わせをしましたところ、父のアカデミーのご学友であり、ニルス様はそのご子息である可能性が高いとのことです。」
「アルさん、それは、つまり、飛竜のタカさんに支援してもらって、関所のモリスと会話したってことかな?」
「あ、それは、その。とうとう自力で<念話>を通すことに成功しました。」
「ああ、そう。おめでとうね。そのお祝いは後でするとして、実父のモリスは何か言ってた?」
「『マルコ親子が科学技術部門の長官となっているのであれば、ヒカリ様に敵わないであろう。あくまで、数学的な力を買われて、システム計算を司っているに過ぎない。科学と魔術の融合や調和が行えるのはヒカリさんだけであろう』と、申しておりました。」
「ああ、ええと。私の評価は置いておいて、<ナイトメア>の時代から100年近く経つはずだけど、大きな進歩がない可能性が高いってことね?」
「レーザーを用いた防衛技術により、他国からの支配を逃れている可能性が高いです。あの技術を維持でき、あれを超える攻撃能力を持つ国が現れない限りは現状維持で十分なのでしょう。」
「分かった。じゃ、その軍事的な地位と技術レベルを踏まえて、アジャニアとストレイア帝国の関係がどうあるべきか、報告を続けてくれるかな?」
「はい。アジャニア国はこちらの大陸の玄関口と言えます。さらには、周囲から科学技術によって優位に立てている国と言えます。すなわち、この国との改善された外交を結び、恩を売ることは今後ストレイア帝国にとってのメリットは大きいと考えます。」
「うん。なるほどね。最後、フウマの番だよ。」
「姉さん、僕は外交とか良く判らないよ。ただ、困っている人が居れば助けたいと思うし、封印級の迷宮もみんなで探索したいと思う。今、アジャニア国は僕たちの支援で立ち直ろうとしているなら、それを支援すべきだし、その代わりに封印級の迷宮で遊ばせて貰っても良いんじゃないかな。」
「フウマらしい答えをありがとうね。そうだよね。みんなで仲良く冒険できるのが一番だよね。私もそう思うよ。
さて、どうしよっかな~。」
「ステラ、ニーニャ、アリアは何か意見あるかな?」
「ヒカリ、技術視察は何も明らかにされず、つまらなかったんだぞ。ヒカリがちゃんと<レーザー>を使える技術として私に説明するんだぞ。そうしたら作るのを手伝うんだぞ」と。ニーニャ。
「私も早くヒカリ様と一緒に勉強したいです。お土産の積み込みが終わったら帰りませんか?」と、アリア。
「ステラは?」
「ええ。<封印級の迷宮>には興味がありますわ。それまでは国交を断絶することなく、次回訪問をスムーズに行えるようにして帰路に向かうのであれば特に問題無いですわ。」
「そう。分かった。なら、穏便に帰る方向で進めよう。」
「ヒカリ様、何か問題でもございましたか?」と、トレモロさん。
「うん。簡単に言うと、科学教の科学が軍事目的に活用されていて、魔石なんかも軍事用途に集約されてるっぽいんだよね。てっきり、電気や水が自由に使えるようなインフラが整った都市をイメージしてたんだけど、そういうのじゃ無かった。
今日の発電所とレーザーによる防御システムも、ほとんど軍事目的で維持されていて、なんていうか、あんまり私が知りたいような内容では無かったんだよね。細かいことを聞くには全て<国家元首の許可>が必要だったっぽいし。」
「そうしますと、追加の火の属性石は渡さずに、一般的な食糧関係のみを主として今回は帰路に着くことで宜しいでしょうか?」
「うん。そうなるかなぁ。
あ!ひょっとしてさ?<綿>製の衣服や布とかあるかな?」
「<めん>ですか。それは一体どのような?」と、トレモロさん。
「ヒカリさん、それは<麻>とはちがう、植物性の繊維を表す単語でしょうか?」と、ステラ。
「あ、ステラ知ってるの?」
「ええ。うちの郷土では、<絹><麻><綿>は普通に衣服の繊維として使われていますわ。」
「じゃ、ここでこれ以上面倒なことは良いや。ステラの所に今度冒険しに行っても良い?」
「私は構いませんけど、一度ストレイア帝国に帰って、新年の儀式や結婚の儀を終えてからが良いかもしれませんわ」と、なんの問題もないかのごとく、冷静に返すステラ。
「よし、じゃ、今回の収穫は<醤油>しかないけど、みんな無事ってことで、帰る準備しよっか。」
「いえいえ。アジャニア国とストレイア帝国の条約を更新して締結させることができました。この成果はとても大きいです。単に新規航路を開いただけではありません。」と、トレモロさん。
「私も外国での通訳の勉強と、その<念話>の技術も習得できました。ヒカリ様には感謝しております。」と、アルバート。
「私も<神器の斧>を新しく1本貰ったんだぞ」と、ニーニャ。
「私も沢山の勉強を皆さんとさせて頂きました。特に月を見る望遠鏡とか!」と、アリア。
「うーん。そう。ステラとフウマは?」
「ヒカリさん、前から申しておりますが、人間が妖精の長に会えることは滅多にありません。分かりますね?その機会があるのはエルフ族の長として光栄です。」と、ステラ。
「価値観は人それぞれだね。ステラがそれでいいならいいや。
最後はフウマの番だけど?」
「姉さん、あの・・・。」
「フウマ、何?」
「ちょっと、その・・・。」
「ごめん。<勇者の称号>は、私はあげられないよ。」
「そうじゃなくて!」
「あ、シズクさんでしょ?」と、ユッカちゃん。
「うん?誰?」
「おねえちゃんと一緒に朝ごはんを食べていた人。」と、ユッカちゃんが続けて説明してくれる。
「あ、ああ~。黒髪の通訳係の女の子ね。それがどうし・・・。フウマ?」
「い、いや。いいいんだ。いいの。姉さん、何でもない。」
「お~い。みんな。作戦会議再開だよ!」
「はい!(ALL。ただし、フウマ除く)」
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「トレモロさん、アルさん、あのミチナガ様っていうお茶屋のお兄さんは何者なの?そして、その付き人を引き剥がすって出来るものなの?」
「科学教が興る前の時代の王国ではストレイア帝国と同じように王様や貴族が支配する封建制度だったそうです。そこへ、初代の科学技術教を立ち上げた人がおり、その科学教による力が統治体制を二分化しました。
今は、その科学教の子孫として手厚く保護されているのがミチナガ様になります。」
「国にとって重要だったりするの?」
「象徴に近い存在ですので、元首や補佐官クラスの重要人物です。」
「なんでそんな人がお茶屋のお兄さんをしてるのさ?」
「『城に閉じこもっていてもツマラナイから。』だそうです。世の中を体験するためには旅人との接触の多い、お茶屋で働くことにしたそうです。」
「わ、悪くない発想だね。茶屋にはいろいろな人が立ち寄るもんね。
で、そのシズクっていう付き人はどういう待遇なの?」
「ヒカリ様とフウマ様に近い関係と考えれば宜しいかと。」
「血縁も無く、護衛対象ってことね?」
「その理解で宜しいかと。」
「シズクさんだけ連れて行こうとすると、どうなる?」
「ミチナガ様がもれなく付いて来ると思われます。」
「はぁ?国の象徴だよね?」
「好奇心旺盛でいらっしゃいますので。」
「だ、だれが、ミチナガ様の面倒みるのさ?
私は自由に、好き勝手に、帰路の船でいろいろやりたいんだけど?
勉強会とか、新しい料理とかさ。
当然、シルフに手伝ってもらって、ガンガン空飛ばして帰るし、
関所やレイさんとも<念話>したいでしょ。」
「それは困りましたねぇ。」
「ステラ、なんか無いの?記憶をなくさせる魔法とかさ。」
「ムサシ様と同じように、<奴隷印>の誓約をしてから乗船してもらうのは如何かしら?」
「ちなみに、ムサシ様は誰の奴隷印がついてるの?」
「トレモロ様ですわ。」
「お茶屋のお兄さんに奴隷印を付けるならどうなるの?」
「ヒカリ様かしら?」
「わ、私はトレモロさんに仕えるエルフの更に付き人の設定だよね?」
「一緒に乗船するなら、今更どうでもいいじゃないですか。」
「ステラ、結構大胆は発想になってきたよね?」
「ヒカリさんのおかげですわ」
「分かった。作戦は以下の通りね。
1.シズクさんをお茶屋のお兄さんから貰いに行く。
2.『俺も主として同行する』って言われたら、<奴隷印>を付ける許可を貰い、本人や周囲が納得してくれるか確認する。
3.私=ヒカリの奴隷印を施してから、乗船する。シズクさんも乗船できる。
これで良い?」
「ハイ!(ALL)」
「あ、一応だけど、シズクさんのハートを掴むのはフウマの仕事だからね?周りが支援をするのは自由とします。」
「ハイ(ALL)」
ふぅ。全くなんの作戦会議だったんだろうね?
いつも読んで頂きありがとうございます。
時間の許す範囲で継続していきたいと思います。




