4-59.技術視察(1)
さ、待ちに待った科学教の技術視察だよ。
「おねえちゃん、おはよ。」
「ユッカちゃん、おはよ。ピュアしよっか。」
「うん。でも、みんなが朝ごはん待ってるよ。」
「え? てか、ここどこ?」
「お茶屋のお兄さんの知り合いの宿屋。
お姉ちゃんは、夕ご飯食べながら寝ちゃったから、
みんなで運んできたよ。」
「ええ?私、夕飯に何食べたか覚えてない」
「『疲れてるから寝かせてあげよう』って、言ってた」
「ああ、そう……。みんなは大丈夫だった?いろいろ進んだ?」
「ルシャナ様が全部指揮してた。あと、お茶屋のお兄さんはラナちゃんの言うこと聞いてたよ。」
「そっか。なんか、あんまり記憶が無いや。疲れてたのかな。
ピュアして、みんなの所へ行こうか。」
「うん!」
<<ナビ、私、昨日は大丈夫だったの?>>
<<命に別状は無く、魔力切れも起こしてません。気疲れが溜まっていたかと。>>
<<そう。ありがとうね>>
まぁ、ナビもユッカちゃんも嘘を付くわけ無いから、無事だったのかな。
しかし、魔力切れも起こさずに寝呆けてしまうって、ちょっと大丈夫かね。
「ま、いっか」で済まないきもするけど……。
後でステラと相談してみるかな……。
ーーーー
ユッカちゃんに案内されて、宿?の廊下や階段を連れまわされる。
これさ?うちの関所の本館よりかなり広いよ。
日本でいうところの、旅館とかホテルクラス。
流石にエレベーターとか無いから高層建築にはならないけど、
大広間みたいなところにいくまで、ぐるぐる回される。
あ、あと!
裸足なのね!板葺きなのね!
よく考えたら、船以外で宿泊したのはこれが初めてかも?
ようやく、大広間に辿り着いたので皆様に挨拶だね。
ここは日本のタタミ張りではなくて、木の床にテーブルが置いてあった。
でも、みんな素足なんだよね。
「皆様おはようございます」
「おはようございます(ALL)」
この朝食のメンバーが
先ず、妖精の長のクロ先生、ルシャナ様、ラナちゃん、シルフの4人
次に交渉役のトレモロさん、フウマ、アルバート、航海士のコウさんで4人。
関所からパーティーで、ステラ、ニーニャ、アリアと私で4人
ストレイア帝国からのメンバーは上記合計で12人。
アジャニアの方は、
見たこと無いけど、一番上座のお誕生席に座っている人が二人。
この二人は多分、現職の元首と補佐官なんだろうね。
次に、対面側にムサシさんと征夷大将軍の二人。
技師官みたいな、真面目そうなおじさん達と女性1人を合わせて五人。
そして、お茶屋のお兄さんと隣に女性で二人。
これで合計11人。
人数はほぼ一緒だね。
なんか、技師官みたいな人たちと少し距離開けてお茶屋のお兄さんが座ってるから、私とユッカちゃんの前にお茶屋のおにいさんと女性がいるんだよね。
顔に帯を巻いて覆面みたいにしてるけど、目つきが女性っぽく。
あと、胸がちょっと出始めてる感じ?
綺麗な男性だったらごめんなさいだ。
なんか、この人はフウマぐらいの年齢で忍者っぽい雰囲気の人だよ。
何故か、ユッカちゃんと私が睨まれてるみたいだし。
初対面だよね?
元首らしき人の挨拶が終わると、食事が運ばれてきた。
アルバートさんとルシャナ様が逐一音声で通訳をしてくれた。
私達は挨拶に挨拶を返して、簡単な自己紹介をしつつ食事が始まった。
朝ごはんのタンパクは植物性タンパク、卵、あと焼き魚の切り身があった。
私と一緒にお茶屋に行った人はお箸を器用に使えていたけど、
フウマ達はナイフとフォークで食べてたよ。
茶碗や御椀にフォークじゃ食べにくいだろうに。
そもそも、容器を持ち上げて食べる習慣が無いからね。
私はサクサクと日本文化の延長で和食料理を頂きますっと。
で、ユッカちゃんとコショコショと他愛もない雑談をエスティア語で交わしていると、
向かいに座っている忍者さんから声が掛かった。
「私はシズク。少し、ストレイア帝国語喋る。貴方達、何者?」
声の高さと張りから女性で確定して問題無さそう。
あえて、男性が変声術とか使ってたら、もうあきらめよう。
しかし、これはちょっとびっくりだ。
会話が出来ないことを利用して、いろいろ隠蔽できると思っていたけど、
どうしたものか……。
「私、言葉、わからないか?」と、追い打ちをかけるシズクさん。
「あ、分かります。言葉お上手ですね。」と、慌ててエスティア語で返事する。
ストレイア帝国内のエスティア語は、日本で言えば同じ言語体系の方言みたいなもので、大よその会話は自然にできる。私に関してはナビから適当にダウンロードして貰ってるから、言語に差があることも普段は意識して無いんだけどね。
「うむ。では、貴方達は何者か教えて欲しい。」と、再びシズクさん。
「私はヒカリです。こちらはユッカちゃん。船で観光に来ました。」と、素直に答える私。
「迷宮に入った。冒険者か?」
「観光迷宮と聞きました。なので、観光しました。」
「うちのご主人様からきいた。軍隊で難しい迷宮をクリアしたと。」
「他の皆様がお強いので、私は荷物持ちをしていました。」と、素直に追従する。
「ふむ。私は何回か追跡を振り切られ、ご主人様に怒られた」と、愚痴を吐かれる。
「それは、あちらで通訳をされているルシャナ様のお力かもしれません。」と曖昧に答える。
すると、今度はアジャニア語でお茶屋のお兄さんに話しかける。
『この子らは、観光と冒険をしてるだけで、あちらのルシャナ様に力があると申しております。』
『あのお母さんは、その正面の子に指揮を委ねている。
冒険者登録所でのパーティー戦も、その子の指揮で作戦が展開され、勝利に至ったのを確認している。
魔道具屋でも交渉や魔石の指定もその子がしていた。
市場へ向かわずに、大波の被災者救済に向かったときもその子の発案。
単に、荷物持ちの女の子が150㎏の樽2つを重ねて運ぶことはできない。
シズクよ、お前は出来るか?』
『ミチナガ様、失礼ですが、300㎏は流石に不可能かと。』
『ああ、シズクはそのとき、船まで食事を運びに行っていたな。
私はあちらのルシャナさんを含めた6人の女性それぞれが、樽2つの食料を運んだのを確認している。』
『さ、左様でございますか。』
『ああ、その辺り、何か隠しているはずだ。』
うう。不味いね。
でも、確か、ステラと合流する前は派手なことは何もしてないし、
<身体強化>さえ使えれば、300㎏はなんとかなるよ。
だって、ほら、ナポルの街の試験で大きな丸太を城門まで運んだときは、<身体強化>しか使わなかったもんね。
よし、突っ張り通そう。
「おまえ、重い樽2つ運んだ。何か隠してる。」
「<身体強化>の魔術を習得しております。」と、素直に答える。
「身体強化?魔術?何だ?」
「体に魔力を通わせて、普段以上に力を発揮させる技です」
すると、またお茶屋のお兄さん?ミチナガ様?の方へと話しかける。
『身体強化の魔術によって、力を増大させているそうです。』
『いや、それだけではない。武具屋の斧を持ち上げていた。
そこも確認してみろ。』
なんか、随分と観察眼というか洞察力に優れているね。
普通の貴族のご子息では無いってことだね。
「武器屋の斧を持ち上げたと聞いているが、それはどうだ?」と、再び質問される。
「私には判りません。触りましたが一人では持ち上がりませんでした。」と、事実だけを述べる。
「ミチナガ様が持ち上げたのを見たと言っている」
「それは、仲間のステラ・アルシウス様とニーニャ・ロマノフ様のことと思います。」
小姓のフリするためには、ちゃんと、貴族を敬称なり、ファミリーネーム付けて呼ばないと不味いからね。
「それは、だれだ?」
「あちらの席に座られている、緑髪のエルフ族の方がステラ様で、銀色の髪のドワーフ族の方がニーニャ様でいらっしゃいます。」
「わかった。ちょっと待って。」
シズクさんと、ミチナガさんがまたゴショゴショと話を進める。
「人族のおまえが、何故エルフ族やドワーフ族の貴族と一緒にいるのか、尋ねてもよいか?」
「とある、人族の館で共に働く機会がありまして、付き人にさせて頂いております。」
『ミチナガ様、人族の館で共に働く機会があったそうです。』
『そうだとすると、きっと、あそこに座るトレモロ・メディチ様の館なのだろう。あの方が今回の大航海の企画、実行の総指揮者らしいからな。
しかし、本当にこの正面の子が単に付き人なのか、正直判らない。
今日の技術視察は私も同行出来るように手配しろ。』と、お茶屋のお兄さん。
『承知しました』
なんだか、面倒なことになったねぇ。
相手が技術者だけだったら、ステラ、ニーニャ、アリアの3人と一緒にワイワイ出来たのに、小姓として振舞うとなると、表立って議論出来ないじゃん?
私と3人で念話で相談しながら進めるしか無いね。
今のうちに、根回ししておこうかな。
<<フウマ、私のことを正面にいるミチナガ様という人に警戒されてる。だから、今日の技術視察はステラの付き人という立ち位置のまま継続する。表立って議論できないし、私に意見を求めないでね。<念話>でお願い。このあと、ステラ、ニーニャ、アリアにも話を通しておくよ。おっけー?>>
<<了解。そこのミチナガ様は初代科学教の末裔らしいよ。役職や実権はないけど、国の象徴みたいな存在。やっぱり、初代ほどの科学技術の力がなくても、その子孫というだけで保護される対象になるみたいだよ。>>
<<そうなんだ。了解です>>
ふむふむ。この国の象徴ってことか。
でも、科学教の末裔ってことは、裏を返すと、技術者としての血も引いてるのだろうし、ナイトメアなる人物のことも知ってそうだけどね。
ま、変なこと探ると藪蛇になるから、暫くは静かにしておこうっと。
あとは、ステラ、ニーニャ、アリアに根回ししておけばおっけ~っと。
いつも読んで頂きありがとうございます。
時間の許す範囲で継続していきたいと思います。
暫くは、週に1回の更新で続けさせて頂きます。




