4-57.神器
魔力の充填が終わったら、神器がもらえるね~
あの斧も木々の伐採とかできるのかね?
なんか、何もすることが無くなった。
かといって、勝手にアジャニア語で通訳無しで会話するのも不味いし、外に散歩にもいけないから、ニーニャとステラの様子を確認しつつ、店内を見て周る。
正直、武器とか防具とか興味ない。
興味ないから、ニーニャの作ってくれてる武具がどれだけ貴重なのか判らないんだよね。さっきの話からすると、<門外不出級>の技みたいだし、その技によって製作された武具にまで、一つずつ管理責任を負うってさ。なんか、自由が全くないよ。好きな物を適当に作って、いろいろ試して、失敗したら捨てて、余計なものができちゃたら、ちょっとお裾分けみたいな。料理とかお菓子ってそういう雰囲気だけども、武具もそういう感覚で考えてた。
確かに武具は消えてなくならないから、その失敗作が後々残るというのは、とても辛いことだし、家名を汚すことにもなりかねないのかも。本当に、考えが甘かったなぁ。
なんて考えながら、陳列されている武具を見ると、加工精度とか、材質の均質さ、表面のムラ、錆の浮いた感じとか、いろいろな物のレベルが全然低いことを改めて認識する。日本の博物館に飾ってある刀の刃とか、見てるだけですごい綺麗だもんね。ここに並んでるのは台所の棚の奥から出てきた錆だらけの包丁とか、文化祭なんかで使う、使い古された鋸や金槌レベル。
値札見ると、この辺りのですら金貨20枚とか書いてあるよ。冒険者が金持ちというより、金属の採石、精錬技術が甘いからこの価格で無いとやってられないってのが、売る側の気持ちなのかもね。そうすると、今度は冒険者側は装備が整わない状態で戦い続けると。
お金で済む問題なら、高度なコーティングされた装備は買い取るべきだし、遺品も遺族にとっては大事な思い入れのある品なというだけでなく、いざとなったら、売ってお金にすることも出来るよね。今更だけど工業製品が生まれる前の時代は大変だったんだねぇ。
なんてことを考えなら、15分ぐらい店の中をブラブラしていると、ラナちゃんが茶屋のお兄さんを連れて帰ってきた。
あれ?この二人って知り合いだっけ?
そもそも、会話してるの?
「ヒカリ、この人がルシャナ様に用があるって。航海士さん達を引き連れて、食糧を広場に運んでたところで、私と会ったの。なんとかしてあげて。」
お茶屋のお兄さんはお煎餅の箱を何箱も持たされている。これ、さっき役人さんが買ってきてくれた量より増えてるよね?ラナちゃん、ひょっとして、ここに来る前に<お煎餅やさん>に寄ってきてませんか。お金は相当な額を預けてあるから、その点は心配しなくて良いんだけどさ。
「こんにちは~。お母さんがここに居るって・・・。居ないな。あ、冒険者のお嬢さん、お母さん居るかな?」
って、箱に積まれたお煎餅を降ろしならがら、私に向かってアジャニア語で話しかけてくるよ。そもそも、私はアジャニア語を喋れない設定なんだから、無視するしか無いし。
私はチラっとそっちを見ると、<二コリ>と営業スマイルで微笑んでから黙る。
ラナちゃんはお煎餅の箱を開けて、お煎餅をがっさりと抱えるとベンチで食べ始めた。
「これはこれは、お茶屋のお兄さん、何かお探しでしょうか?」と、武具屋の店主。
「ああ、うん。この子達は観光客でさ。大波の被害の復興を手伝ってくれてるんだ。だけど通訳が居ないもんで、両方の言葉が判るお母さんを探しに来たんだよ。」
「ああ、あちらのお母さんでしたら、船に戻られました。荷物を運んできてくださるそうです。貴重な武具を売却してくれるのと、遺族の遺品に関しては寄付してくれるとのことです。」
「あれか。冒険者ギルドで<政府案件>って、言われて、売却せずに持ち帰ってたやつだね。そこそこ貴重な物があったのかい?」
「収集品全体で金貨5000枚相当。まだ残りがあるそうなので、その鑑定額は不明です。」
「そうか~。お嬢さん達よかったね。これで醤油を好きなだけ買って帰れるよ。」
って、こっち向いて話しかけるの止めてよ。
私は<良く判んないけど>って、少し首を傾げながら営業スマイルを繰り返す。
「それで、久ぶりに武具屋にきたんだけど、例の斧はどうなったの?まさか売れたとか。」
「あ、はい。今、そちらで二人のお客様が挑戦されています。我々では使いこなせませんので、収集品の中から兵士の遺品を寄付して頂けるとの交換に差し上げることになっています。」
「わかった。静かに。」
って、このお茶屋のお兄さんが冷静で鋭い目つきでニーニャ達の方を睨む。
あれ?この人、ひょっとして、エーテルの動きと検知できる人なのかな?
傍目には斧を二人で握って、温めているようにしか見えないんだけどさ。
しばらく二人の様子を観察した後で、軽くため息をついてから、店内を見渡すと征夷大将軍である役人さんに気が付く。逆に、店主や鑑定士さんの死角から征夷大将軍の役人がこのお茶屋のお兄さんに恭しく、頭を下げる。そして、お兄さんはそれを素早く目配せして、手を振って制止させる。
ほ~ら、やっぱりこのお兄さんは、なんかの偉い人なんだよ。
例えば、武家と貴族みたいな構造で、国を運営する側と国としての象徴側とかね。この国の政治形態とか判らないけどさ。
私は気が付かないフリして、お煎餅を抱えてラナちゃんの横に座って食べ始める。私には関係ないから、全然きにしないもんね~。
ところが、ラナちゃんが私に話しかける。
「ヒカリは何であの人を知ってるのかしら?」
「お茶屋のお兄さんです。最初の日に3人で散歩したときにお世話になりました。」
「それは、つまり、<焼きモロコシの人>ということかしら?」
「は、はい。」
「ヒカリ、何をしてるのかしら?」
「わ、分かりました!」
慌ててお煎餅をベンチに置いて、お茶屋のお兄さんのところへ向かう。そして、両手で<焼きモロコシ>を持って食べるジェスチャーをして、ラナちゃんを指さす。そしてまた焼きモロコシを食べるジェスチャーを示す。
すると、それを理解したお兄さんは、外を指さして、焼きトウモロコシを食べる仕草をして、お兄さん自身を指さしてから、店の床を指さす。
なんとなく、意味は伝わってくかな。大丈夫だと思いたい。
「あ、店主。ちょっと茶屋まで料理を取りに行ってくるから、ここのお客さん達に待ってて貰えるかな。大事なお客さん達だから丁寧に対応して貰えると助かるな。」
「ああ、兄さんも忙しそうだね。気を付けて~。」
って、呑気な会話がなされてから、お兄さんが自らお茶屋へ向かう模様。私はもう一度ベンチに戻って、ラナちゃんと二人でお煎餅をバリバリと音を立てながら食べ始める。これって、匂いも音も凄いから後でステラ達に怒られなければ良いんだけどね。
そして、食べ始めた直後に今度はルシャナ様が到着した。光学迷彩を使用しているし、周囲に人が居ないことを確認してるからお茶屋のお兄さんとはすれ違って無いんだろうね。
「ヒカリさん、荷物をお持ちしました。入れても良いですか?」
「あ、はい。お疲れ様です。私も一緒に入れますので、店主さんに鑑定の準備を始めて貰いましょう。」
「承知しました。」
武具が入った麻袋の残り12袋を全部店内に入れ込む。
『一人でどうやって運んだんだ?』
って、皆が思うし、私もなんとなくの想像でしかないけど、麻袋12袋がある以上は、それを事実として認めて貰うしか無いね。
手順としては、おおざっぱに<遺品>と<その他武具>で選別して貰って、<遺品>はお役人さんに銘とかを確認して貰うことにした。<その他武具>をさっきと同じように鑑定士さん達が一生懸命一つずつメモを取りながら鑑定結果を書き込んでいく。これさ、この量の鑑定は今日中には終わらないよ。<斧の魔力充填>と、どっちが先に終わるのかね。
なんて感想を抱いていると、ステラが薄っすらと汗をかきながらニーニャのところから離れて、
ルシャナ様、ラナちゃん、私の3人で腰かけてるベンチの方にやって来た。
「ヒカリさん、もう直ぐ終わりますわ。皆で静かに見守りませんか?」
「ハイ(3人)」
4人でニーニャの座っている周りに移動して、視界に入って邪魔をしないように遠巻きに囲んで様子を伺う。
すると5分も経たないうちに、斧全体がレモン色に輝き始めた。音とかないのね。エーテルだから普通の人には色も見えて無いかもだけどさ。私達ならエーテルの流れを読めるから少なくともニーニャ含めての5人は同じ感覚になっていると思いたい。
輝いた後、一旦光が収束して、ニーニャが手で掴んでる辺りに集まって、ニーニャの右の手の甲に印を結ぶ。妖精の長達が<加護の印>をくれたように、<神器の印>がニーニャの右手の甲に描かれたわけだね。他のみんなは印が見えているのかな?
「みんな、終わったんだぞ」とニーニャ。
「おめでと~(4人)」
「ニーニャ、そこの右手の甲にある印は見える?」
「目では見えないけど、魔力の流れで、ここに印があることを感じ取れるんだぞ」と、ニーニャ。
「そっか。じゃ、もうその神器はニーニャのだね。持ち上げてみてよ。」
「わかったぞ。持ち上げてみるんだぞ」
ニーニャも最初は恐る恐る、少しずつ手に力を入れていく。
でも、直ぐに持ち上がってしまって拍子抜け。
「ヒカリ、軽いんだぞ。鍛冶用のハンマーより軽い。」
「そっか~。どんな効能があるの判らないけど、ニーニャの物になって良かったよ。ルシャナ様、店主に<この斧>を譲って貰うことと、ニーニャが工具を作るための鉱石を幾つか貰えるように頼んでください。あとは、その武具の鑑定と精算は私達が出発するまでで良いと伝えて貰えますか?」
「分かりましたわ」
ニーニャは全身汗まみれなんだけども、手早く麻袋1袋分の鉱石類を集めると、それを店主に確認してもらって、譲って貰うことを確認して貰った。今日のところは武具屋に用事が無くなったので、征夷大将軍のお役人さんに声を掛けて、広場まで戻りたいことを伝えて貰った。
みんなでゾロゾロと武具屋から広場に向かって歩いていると、お茶屋のお兄さんがこっちに向かってくる。
あ、この人に<焼きモロコシ>買ってきて貰ってるのを忘れてたね。
「お母さん、『店で待ってて。』って言われなかったかな?」
「知りませんわ」
「と、とりあえず、そこのお嬢ちゃん用に焼けてる<焼きモロコシ>を持ってきたんだけど、食べて貰えるかな?」
「ラナちゃん、頼んだのかしら?」と、ルシャナ様。
「私は頼んでないわよ。ヒカリが頼んだのよ。」
「ヒカリさん、召し上がりますか?」
「あ、はい。斧の件ですっかり忘れていました。
ですが、食べたいのは、その、ラナちゃんでして。」
「でしたら、広場に着いてから食べて貰うこと良いかしら?」
「私は構いません。」
「私もそうよ。」と、ラナちゃん。
状況をルシャナ様からお兄さんに説明して貰って、先ずは広場に戻って仮設住宅関連の工事を進めたいので、向こうに行ってから<焼きモロコシ>を食べることにした。こう、どこかの貴族とか征夷大将軍とかに雑用させてて良いのかね?
ま、いっか。
いつも読んで頂きありがとうございます。
時間の許す範囲で継続していきたいと思います。
暫くは、週に1回の更新で続けさせて頂きます。




