4-45.パーティー試験(1)
迷宮に入る前にパーティーランクの試験を受けに来たよ。
ナポルの港町で似たような経験したよねぇ。
今回は資格が欲しいのではなくて、単純な強さだから簡単に済むと思いたいよ。
茶屋のお兄さんに連れられて、冒険者ギルドの前まで到着。
お店は、ざっくり言えば万事屋ギルドとかと変わらない。
大きく違うのは、建物の裏手に割と大きくて、格闘競技が行えそうな広場があること。
これって、ちょっとした戦闘訓練だけでなく、パーティー同士の模擬戦もできそうだね。
なるほど、迷宮を抱えている都市ってのは、それだけで人が集まって賑わうもんだんだね。
「すみませ~ん。ちょっとお願いがあるのですが~」と、お兄さんが受付カウンターで呼び出しの声を掛ける。
「おやおや茶屋のお兄さん、今日は美人さんを連れて何の用事?」と、カウンターの奥から豊満で色気たっぷりな、そしてかなり際どい服装をした妖艶なお姉さんが出てくる。
「ああ。いつも綺麗だね。こちらの3人が観光迷宮に入りたいらしいんだ。で、出来ればお金も欲しいらしくて、上級の迷宮に入れるパーティーが居たら、一緒に行ってあげられないかなって相談なんだけどさ。」
「ふ~ん。貴方どの子がお気に入りなの?黒髪の子?それとも豊満な熟女?まさか、あの小さい子じゃないわよね?」と、ギルドの受付嬢。
「ま、まさか。そんなんじゃないよ。うちのお客さんで醤油とか味噌をお土産に買って帰りたいらしいんだけどね。ちょっとお金儲けもしてみたいようなんだ。」
「あんたさ?うちはボランティア紹介所じゃないんだからさ?なんで、女の子3人のお荷物を連れて危険な迷宮に入って、挙句報酬を分けないといけない訳?」
「いや、そこを何とかならないかなと。」
「私だって受付譲として、訳の分からないパーティーのマッチングしないわ。私が紹介・斡旋したパーティが決壊して死者や怪我人がでたら私の評価が下がるじゃない。
だから、一見さんには、必ず試験を受けて貰うわ。
いいかしら?」
「ああ。いいと思う。本人達には試験があることをちゃんと説明してあるんだ。」
「そう。それで連れてきたのなら、単なる旅人以上の腕はあると考えて良いのね。
ただ、その国によって武術や魔術の評価ランクは基準が異なるから、うちはうちのやり方で確認させて貰うわよ?」
「ああ、良いと思う。そこのお母さんはこの国の言葉を喋れるよ。子供らは挨拶程度みたいだね。」
「分かったわ。パーティーの登録から始めるわね。」
ーーーー
名前、性別、年齢と職業とパーティー構成を登録することになったんだけど、
戦闘するとか考えて無かったから何も持ってきてないんだよね。
腰にナイフがあるだけ。ユッカちゃんも同じ。ルシャナ様なんか素手で杖すらないし。
ま、いっか。
短剣使いx2と魔術師の3人パーティーで登録して貰うことにした。
回復担当やポーション使いがメンバーに居ないときいて、相当驚かれたよ。
武器や防具が無いのは良いのかな?
ま、いっか。
「そちらのパーティー名はルシャナ。女性3人で剣士x2と魔術師x1でいいわね?
この後、こちらのパーティーランク5のメンバーと戦って貰う。
5人構成で、男女混成だけど文句は言わせないよ。」
<<ルシャナさん、ルールを聞いて貰えますか?>>
「あ、あの、受付嬢の方・・・。」
「お母さん、何か?」
「パーティー戦のルールを聞いても良いでしょうか?」
「なんだ、あんたたち、パーティー戦をしたことが無いのかい。
うちは、即死以外のダメージはなんでもありだよ。
四肢欠損は自己責任だ。回復薬や回復師は自前で用意する。
これから案内する闘技場は結界が張られているから、その内部での魔法は即死魔法以外は全て使用可能。範囲、単体、属性関係なく使用していい。
結界の内部に召喚できるのであれば、召喚魔法も使用可能だよ。
それでいいかい?」
<<相手のパーティー構成と、勝敗の決着方法についても聞いてくださいな>>
「あの、勝敗の決着方法はどのような判定でしょうか?」
「ああ、そうだったね。
1.審判がどちらかのパーティーが戦闘不能と判断し、中止をかけた場合
これは、口がきけなかったり、態度で負けを表せない状況への救済措置だよ。
2.パーティー全員が武器を捨て、負けを宣言する。あるいは腹ばいになる。
3.相手陣営の宝箱を奪取して、その中身のペンダントを審判に提出する。
この3点になるよ。
あんたらは3人で宝箱を守りつつ、相手の宝箱を取りに行くか、
全ての攻撃を凌ぎきって、相手が疲れるの待つという感じになるね。
わかったかい?」
「はい~。ありがとうございます~。それで~。相手の~、パーティーの~、構成は~、教えて~貰える~ので~しょうか~?」
なんか、ルシャナ様がまったりモードで会話してる。
なんか、嬉しいのか、緊張してるのか、ほんわかしてきてるのか。
大丈夫なのかね?
「あ、ああ。あんた緊張感の欠片も無いね。大丈夫なのかい?
相手の特技は教えられないが、剣士x2、弓師、魔術師、回復師のバランスのとれた5人構成だよ。」
「ありがと~ござい~ます~。わたしは~。大丈夫~で~す~。」
「そうかい。それじゃ、闘技場に案内するよ。そして、それぞれのパーティーが奪い合う宝箱を紹介する。鍵とかは掛けられないし、魔術の遠隔で中身も取り出せない仕組みになっている。だから、その上に人が座っていれば、どかさないと開けて中身は取り出せないってことになるね。
わかったかい?」
「ハイ(3人)」
何故か最後の『分かったかい』には、3人が同時にハキハキと答えることが出来た。
ユッカちゃんは何となく察知してるのと、適宜ルシャナ様が念話で送信してたらしいよ。
さてさて、作戦会議の始まりだけど、どうしたものかねぇ?
こっちも作戦を立てないといけないんだけど、
あんまり派手な戦闘をせずに宝箱を開けて勝ちに行きたいんだけどね。
う~ん。
「おねえちゃん、この宝箱って、私たちのナイフで切れるのかな?
切れるんだったら、開けずに切り裂いて、中身を取り出せばいいよ。」
「うん。私もちょっと考えた。きっと相手は一人を守備に就かせると思うから、
その人との戦闘になっちゃう可能性があるんだよね。」
で、ユッカちゃんが、早速<斬鉄剣>という名のナイフで宝箱を削ってみると、簡単に切れちゃうわけね。慌ててルシャナ様に受付嬢のところに行って貰って、質問をしたよ。
『宝箱を魔法や武器で傷つけても問題ないですか?』って。
そしたら、笑いながら
『普通の魔法や武器では傷つかないコーティングがされてるよ。
そんな見事な魔法や武器があるなら、上級迷宮も楽々クリアできるかもしれないね』だって。
なんだ、上級迷宮は楽勝なの?
というか、ランク5のパーティーってどんなもんなのよ?
私の奴隷になってもらったクワトロさん級の<光学迷彩の見破り>ぐらいは範疇なんだろうけどさ・・・。
こっちの作戦は、ルシャナ様に宝箱に座って貰って防御の結界を張って貰う。
ユッカちゃんと私の二人が虚像の人型を脇に配置して、本体は光学迷彩で移動して、宝箱を横から切り裂いて中身を取り出す作戦。
相手チームは4人がこちらに身構えていて、一人の大柄な両手剣士が宝箱に座ってる。
座ってると、いざというときに反応できないんじゃないかと思うんだけど、それは自信の表れなのか、敵を油断させる作戦なのか良く判らない。
ま、いいや。受付嬢の開始合図を待つ。
ーーーー
「では、始め!」って、高い物見やぐらの上から受付嬢の合図が発声された。
合図とともに敵方のパーティーは、
弓師が牽制の矢を放つために引き絞りつつ、こちらの動きを確認している。
回復師が剣士の防御魔法を唱え始めた。
前衛の剣士は身体強化の呪文を詠唱し始めた。
魔術師は何か長い詠唱を唱え始めている。なんかの攻撃魔法なのかな?
残る宝箱に座ってる剣士は、一応身体強化を発動して、オーラが漏れてる。
この宝箱に座ってる剣士の人がこのパーティーのリーダーなのかもしれないね。
で、こっちは作戦通り、残像のダミーを残して、一気に相手陣地の宝箱に駆け寄る。
距離は20mぐらい離れていたけど、あっというまだね。
で、横から二人で宝箱を薙いで、切り裂いて中身を取り出す。
当然、上に座っていたリーダーの剣士は訳も分からず、後ろ向きに宝箱から転がり落ちて、情けない有様になる。
私達は光学迷彩を保ったまま、宝箱に格納されていたペンダントも光学迷彩で透明化して、自分たちの陣地に戻る。
陣地に戻っって、残像と重なってから光学迷彩を解除。
そして、降ってくる矢の攻撃を慌てて避けたり、逃げたりする振りをする。
弓師は3発目の矢を番えるタイミングで。
一人の剣士は自分の身体強化を終えたタイミングで。
回復師は前衛の剣士に保護の印を掛け終わったタイミングで。
魔術師は長い詠唱の魔術の途中で。
後ろで大きな『ズデン!』と、リーダーの剣士がひっくり返るのを聞いて振り向いた。
そこには宝箱が切られていて、入っているはずのペンダントが無い。
「いててて・・・。何だこれは?
受付嬢の姉ちゃん、これは酷くないか?宝箱が割れて壊れちまってる。
確かに俺が体重掛けて座ってはいたが、壊したのは俺のせいじゃないぞ?
それに、いつも入っているペンダントが無いじゃないか?」
「おや、オカシイねぇ」と、ギルドの受付嬢。
え?え?え?
誰も気が付いてないの?
索敵して、私たちの気配ぐらい追えなかったのかな?
それって、審判が審判の役目を果たせないってことだよ。
なんか、無し無しの武術大会を想定してなきゃ行けなかったかねぇ。
しょうがないから、うちらの宝箱を開けて、
あたかもそこに2個入っていた風を装って、
ルシャナ様にその1つを持って行って貰うことにしたよ。
「あれ、おかしいねぇ。なんでそっちに2つもはいっていたんだろう。
それに相当頑丈なコーティングされている宝箱が割れちまうなんてオカシナ日だよ。
悪いけど、ペンダントは胸にかけて模擬戦をやり直して貰ってもいいかい?」
やり直しの2戦目。
今度の作戦は開始の合図で、ルシャナ様に相手の剣士のペンダントの鎖を熱で溶かしてもらう。
そこで、落っこちたペンダントを回収してから審判の受付嬢に渡す作戦。
さっきと同じように残像を使うと訳が分からなくなるから、
目で追えるスピードで私が正面から攻撃する風を装って、
ユッカちゃんが視界の範囲外から後ろに周り込んで、ペンダントを回収してもらう。
さっきと違うのは、ルシャナ様に出番があることと、光学迷彩を使わないことだね。
随分と譲歩したもんだよ。
「では、始め!」って、受付嬢の人。
作戦通りに、私が正面からナイフを大振りに上段に構えてドタドタと駆けていく。
で、失笑を浴びながら詰め寄ってる最中にペンダントはするりと地面に落下していて、それをユッカちゃんが拾い上げる。
私の正面からの大振りの一撃を、前衛の剣士さんが笑いながら受け止める。
<カキーン!>って、いい音で跳ね返される。
いや、だって、切っちゃったら不味いからね。
跳ね返されないとね。
で、反動で大きくよろめいた振りをして、
おっとっと、って感じでヨタヨタと2、3歩後退する。
「審判の人、ハイ!」って、ユッカちゃんが受付嬢にペンダントを渡す。
受付嬢の人はユッカちゃんが何を言っているか判らないけど、
ユッカちゃんが持ってきたのは、確かに勝負を決めるペンダントだった。
「勝負待て!」と、受付嬢の声。
え?『勝負アリ』だよね?また、何か文句あるわけ?
全員が動きを止めて、受付嬢の方を見る。
「あ~。溶けるはずのないペンダントの鎖が融け落ちている。
これは勝負無効だ。」
お~い~!
科学が発達してる土地なら、そんなこと言わないでしょ。
熱の種類がいろいろあるし、溶解液だってたくさんあるでしょ。
なんでもかんでも無効にするって、どうなのよ?
「おねえちゃん、どうしよう。」
「ヒカリさん、どうしましょう。」
「困ったね。服も無いし、武器も無いからあまり戦いたくなかったんだよね。」
「おねえちゃん、船に戻ればニーニャさんが作ったのがあるよ。
ステラおねえちゃんから、ルシャナ様の杖も借りられるし。」
「じゃ、そうしよっか・・・。」
審判の受付嬢が、『3番目のペンダントによる弱者救済措置は無し』と、ルール変更を皆に通達しに来た。
確かに、弱者救済措置だと思うんだけど、
私達は<向こうのパーティーのダメージ救済措置>って考えているんだけど、
他の全員が<私達3人が勝てる可能性のある道>として考えているんだよね。
なんてこったい。
「ルシャナ様、その措置が無くなるのは構いませんが、装備を取りに行く時間が欲しいと伝えてください。
そして皆様にお待ち頂く間、うちのパーティーがお金を支払うので、お茶屋のお兄さんに好きな物注文して休憩して貰ってて良いか、お願いして貰えますか?」
「ヒカリさん、分かりましたわ。私はここに残りますので、ユッカちゃんと二人でいってらっしゃいな。」
「ハイ(2人)」
ってことで、何が何やら判らないけど、
先ずは船まで3人分の装備を取りに戻ることしたよ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
時間の許す範囲で継続していきたいと思います。
暫くは、週に1回の更新で続けさせて頂きます。




