4-38.通訳の人(2)
この通訳の人、どうしよう・・・。
ステラに会話を誘導して貰って、様子みようかな。
<通訳の人>と、私とステラとニーニャの4人で村へ行くことにした。
ニーニャは丸太を取りに、ステラは<通訳の人>と歓談するため。
私はステラの付き人扱いにして貰った。
<<ステラ、私は付き人だから、適当に話を進めて良いからね。
シルフが居れば、思考を読んで貰うことも出来たけど、
話の流れからシルフが同行するのは不自然だからしょうがないね。>>
<<分かりました。特に探りたい情報はありますか?
無理のない誘導で、相手の出方を探りたいと思いますが。>>
<<<科学>または<科学教>への思い入れ、<科学教>又はアジャニアでの地位を知りたい。そこから、<妖精>とか<魔術>への思い入れなんかもあれば。>>
<<了解しましたわ>>
ぶらぶらと村への道すがらステラが話を進める。
「あ、あの・・・。今更なのですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか。
私はステラと申します。」
と、ステラが切り出す。
もし、相手に身分を隠す気が無ければ、苗字とか貴族の称号を持ってるだろうからね。
「ああ。ええと、私はムサシと申します。」
<<何か、こう、騎士の雰囲気があるお名前ですねって、言って見て>>
「ムサシ様ですか。何か、騎士様に似合いそうなお名前ですね。」
「そんな、とんでもないです。私の家系は文官でして、士官することなど、とんでもないです。」
「ムサシ様のご家庭は、王に仕えることが出来る貴族の家系でいらっしゃるのですね。素晴らしいです。」
「いえいえ、そんな、とんでもございません。私の身分なんて、たかが知れてます。
それに比べて、ステラ様は妖精の召喚魔術が使えるとのことですから、さぞかし、帝国での身分や待遇も良い事でしょう。」
「ムサシ様、私はエルフ族の出身なのです。
なので、人族の王宮で使えることは滅多にありませんわ。」
といって、ステラがが髪をかき分けて、尖った耳を出して見せる。
「それは大変失礼しました。
私どもの国ではそのような民族による差別がありませぬ故、
文化の違いを理解せず、すみませんでした。」
「ムサシ様の国では、私のような魔術師も登用されてるのでしょうか?」
「私どもの国では人種や種族に関係なく、有能であると認められた人が次々と登用されております。何か職をお探しでしょうか?」
「世の中に、どのような魔術師が居て、どのような魔術があるのか興味がありますわ。
ムサシ様のご出身のアジャニアでは、魔術の研究は盛んなのでしょうか。」
「え、ええと・・・。そうですね。
ストレイア帝国で拝見した軍事用途に限定された魔術や魔道具の研究よりは、
多くの人々を幸せにするための方法を日々研究していると言えますね。」
「それはとても素晴らしい事のように伺えますわ。
もし、トレモロ・メディチ卿の許しが出れば、
この子と一緒に見学することは可能でしょうか。」
「そ、そうですね。基本的には進歩的な研究は極秘情報が含まれますので、
研究の成果物としての豊かな暮らしを見学して頂くことは可能でしょう。」
「ムサシ様のお知り合いにお願いすると、そういった見学ができるのでしょうか?」
「ああ・・・。うん・・・。
私も彼此10年以上も国に帰っておりませぬ故、
果たして私の人脈が生きているのかどうか。
もう既に官職も剥奪されているかもしれません。」
「ムサシ様はこれだけ流暢に、他国の言葉を使えます。
もし、アジャニアに席が無ければ、私が何処かの王国へ推薦して差し上げますわ。」
「それはそれは。その様な折りには是非ともお願いしたいです。」
「ムサシ様は、ストレイア帝国やその周辺の暮らしにもご興味がおありでしょうか?」
「うん・・・。正直、なところ迷っています。
今回、この島で罹った病から救って頂けたのは魔術の力と考えています。
しかし、先ほど申しました通り、各種技術を戦争の道具だけでなく、
民の生活向上に活用しているアジャニアも1つの統治方法では無いかと思っています。」
<<ステラ、『統治に興味がおありですか?』って聞いて。>>
「ムサシ様はいろいろな事をお考えなのですね。
政治や国家運営にも興味がおありですもの。」
「あ、ああ。いや、その・・・。
あくまで、文官として仕えている中で、そのような会話を耳にしただけです。
ぜ、全然、その、国を統治するなんて、とんでもないです。」
「民の暮らしを良くする方法は、<魔術の研究>以外にも何かされてるのでしょうか。」「はい。アジャニアでは、<科学の普及>を行っています。
よく、<科学>のことを知らない地域に、その利便性を広めようとすると、
『科学教だ!』などと、反感を買うことも多いのですけどね。ハハハ。」
「ムサシ様、科学を教えることが、反感を買うのですか?
私は魔術を教わったり、教えたりすることで、逆に人との繋がりが深くなると思います。」
「ステラ様、科学は誰でもが使える道具です。特殊な才能が無くても良いのです。
ですから、これまで魔術などの特殊な才能によって優遇されていた人からすると、
科学の普及はその人たちの立場を危ういものにします。
つまり、一部の権力者にとって、科学は自分の立場を弱めるため、
普及すると困ると考える人達がいるようですね。」
<<ステラ、アジャニアでの科学と魔術の優遇、平等の関係を探って。あと、<科学>はエネルギーが必要なの。この火山島では、火山のエネルギーを使ったはずだけど、どこでも火山があるわけでないし、取り出せるエネルギーは有限なはず。この辺りを話題に繋げてみて>>
<<承知>>
<<フウマ! アルバートさんとトレモロさんと一緒に早く上陸して、酋長との会話を試みて。で、できれ通訳のムサシさんが漂着した時の様子や身の回りの品や漂着物について、情報を集めておいて。歩いて移動しているから2時間くらいはとれると思う。>>
<<姉さん、了解だよ>>
「ムサシ様、お話を伺っていると、アジャニアでは、科学が優遇されて、魔術師は肩身が狭い気がしますわ」
「いえいえ、そんなことはないですよ。科学の基礎をなす部分での研究に注力して貰っています。」
「なんだか、とても難しそうな話に聞こえますわ。」
「ステラ様、貴方のような召喚魔術が使える人が研究に参加してくれれば、科学の発展のための魔術の研究が進むかもしれません。」
「魔術が科学の役に立つというのが、どうも私には想像出来ませんわ。
多くの妖精さんたちは、科学と無縁な森や山にいらっしゃいますから。」
「ちょうど、その『森や山のエネルギーが科学の役に立つのではないか?』ということが研究されています。あ、失礼。私が居た頃は、そういった研究が盛んでした。
たとえば、風の力を借りて風車を回したり、水の流れの力を借りて水車を回すのです。」
「ムサシ様、妖精を召喚しないでも、普段から風は吹いていますし、水も流れていますわ。」
「ステラさん、その通りなのです。自然にある力でも動かすことが出来るのです。ところが、風は朝と晩とで向きが変わったり、強さが変わります。また、水の流れも毎日同じ量が流れている訳では無いので、動きに変動がでてしまいます。
そうしますと、いざ使いたいときに、道具や器具が使えなくなってしまうのです。
そういったことが無いように、魔術の元を結晶化させたり、常に妖精を召喚したままに出来ないかを研究します。」
「ムサシ様のお話はとても難しいですわ。魔術が結晶化するとは、どういうことでしょう?」
「ええとですね。多分ストレイア帝国でも魔道具は使われていると思います。その魔道具には<魔石>がはめ込まれていて、それが魔術を使うエネルギーの元と言えます。
そのような<魔石>を魔術師の力で生成できないか、研究しています。」
「ムサシ様もおかしなことを仰るのですね。
魔石は魔物から採れますわ。魔物を育成したら如何かしら?
それか、迷宮を探して、その迷宮にいる魔物を討伐するんです。」
「ステラ様、その通りなのです。安定したエネルギーを魔石から得ることを考えたのですが、魔石の供給が足りないのです。ストレイア帝国においても、魔石は高価なものでして、一部の宮廷魔術師が魔道具に使用しているだけで、一般の人達に自由に行き渡る量がありません。これでは科学を多くの民に普及させることはできません。
そこで、我々も魔石を求めて、迷宮を探索しました。
また、その迷宮に魔物を放して成長させることで、大きな魔石を回収できないか、いろいろな実験を行いました。」
「結果はどうなったのでしょう?」
「残念ながら、なかなか効率の良い物ではありませんでした。
迷宮内で魔物の討伐を行うためには、たくさんの兵士と食料と治療薬などが必要です。
大きな魔石を得るためには、強い敵と戦わなくてはなりませんでしたので。
そこまでして、手に入れた魔石から得られるエネルギーを考えると、
そこの魔物を倒すまでに費やした人や資源が見合わなかったのです。
また、魔物の育成ですが、迷宮の外では食料などを与えて世話する必要がありますし、
その成長はとてもゆっくりとしたものでした。
魔物の食欲を増進させて、太らせたりしましたが、肝心な魔石は大きくならなかったのです。」
「それは大変な苦労だったのでしょう。」
「はい。ある科学の発展を指導した方の頃から100年近く各種研究がされていると聞いておりました。そろそろ成果が出てくれると良いのですが・・・。」
「魔術師は魔石を作れていないということでしょうか。」
「人間には出来ていなかったですね。妖精にもお願いしたらしいのですが、うまくいかなかったようです。どういったお願いの仕方か私には判りませんが、その魔術師は出来なかったそうです。
そこで、このような大航海を乗り切ることができるステラ様なら、
大きな妖精を召喚して、協力依頼を取り付けることが出来るかもしれません。」
「そんな、それは過度な期待ですわ。
そもそも、妖精さんたちと人間は会話をしませんわ。」
「ステラ様、どうも、それが違うのです。
<妖精の長>といわれる存在になりますと、会話をすることができるそうなのです。
この島にも昔は<火の神様>が居たそうで、それはひょっとすると<火の妖精の長>のことかもしれません。
そうであれば、我々が火の妖精の長とお話をするチャンスがあるかもしれません。」
「でも、その洞窟にはヤマタノオロチが出るようになってしまったのですよね?」
「ええ、ですから!ステラ様達がヤマタノオロチを討伐できれば、
その先にいる<火の妖精の長>に会うことが出来るかもしれません!」
「ムサシ様、私たちの任務が重要ですね。
早く丸太を村に取りに行った方が良いかもしれませんわ。」
「ええ!ステラ様、急ぎましょう!」
<<ヒカリさん、聞いてましたか?>>
<<ステラ、ありがとうね。迷宮が在るんだって。行って見たいね。>>
<<ヒカリさん、そこではありませんわ。>>
<<あ、うん。わかってる。
この人は単純な通訳だけしてる人じゃないよ。
いま、フウマに身元が判る物がないか調べて貰ってる。
最悪、死んでもらうし、置き去りにしても良い。
あとは、水銀飲んで貰って、元の状態に戻すとかね。>>
<<ヒカリさん!>>
<<ステラ、奴隷の印って、どれぐらい有効に作用するの?
生かしたまま元の国に戻すと、私たちの秘密が漏れるよ。
それは、すなわち科学教と私たちの戦争になるってことね。>>
<<ヒカリさん、奴隷の印は基本は契約であり、躾の意味でしかありません。
『主の言うことに従わないと罰を受けるぞ』ということです。
相手が、命がけで逃亡した場合、奴隷の印を元にその所在を追跡して捕まえても、
また逃亡してしまいます。そのような場合は奴隷の印は意味が無いので、
物理的に拘束したり、手足の腱を切ってしまいます。>>
<<ステラ、それって・・・。>>
<<はい。腱を切られて生かされていても、何一つ自分で出来ません。
そういった見せしめとして生かされるのです。
それを見ている奴隷は、奴隷の印よりも、その状態を見ることで
逃亡する意欲が無くなります。
ヒカリさんが期待されるような、特殊な封印などの効果はありません>>
<<ステラ、どうしよう?>>
<<フウマさんの調査結果と、トレモロさんの侯爵権限でどこまで交渉が出来るかになるでしょうか。>>
<<私はさ、どうでもいい人と勝手に解釈して、結構いろいろ見せちゃってるんだよね。
昨日の夜の飛竜の移動のときとかさ。みんなで飛んだでしょ?
あと、クロ先生とユッカちゃんの治療技術や、ステラ達の水銀浄化の話とか。>>
<<きっと、<ヤマタノオロチの洞窟>の中もある程度調査したはずですわ。
『あの科学の罠を潜り抜けたか、潜り抜ける自信がある』と思われていますわ。>>
<<ステラ、相当不味いことになってない?>>
<<私やフウマさんだって、片言の言葉しか喋れないボロボロの人が、実は科学教に関する重要な権限を持っていそうだったとか判りませんでしたわ。>>
「ステラ様、どうかされましたか?」
「あ、いいえ。すみません。付き人の子が歩き慣れてないので、足が痛いとかいうものですから。」
「それは大変ですね。
クロさんやユッカさんでしたら、たちどころに治療してくれるのでしょうね。」
「そうれはどうでしょうか?私は医療のことは良く判りませんので。
ヒカリ、ムサシさんが急いでるから迷惑をかけないで!」
「ステラ様、大変申し訳ございません。直ぐに歩きます!」
いつも読んで頂きありがとうございます。
時間の許す範囲で継続していきたいと思います。
暫くは、週に1-2回の不定期更新で続けさせて頂きます。




